ストライクザブラッド~ソードダンサーと第四真祖〜   作:ソードダンサー

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とある刀使いの追憶2

火乃香が日本にやってきてから約3ヶ月、無事小学校への編入を終え、元気よく学校へ通っている………………はずだった。

無事編入手続きが終わりはした。ただ登校初日から約1ヶ月で不登校になってしまったのだ。

最初のうちは転校生しかも海外からの帰国子女という立場に大いに助けられ、うまく打ち解けられそうだった。その点について、那月や担任教師も安心したのだ。しかし世の中、出る杭は打たれるという言葉がある。それは組織の中で目立ち過ぎれば、周りから集中的に攻撃を受けるということだ。よく日本の社会で起きる現象として知られている。

小学校とはいえ学校という組織に所属するのだ。少なからずそういった現象が起きるのは火を見るより明らかだ。

火乃香という名前やその見た目、イタリアで暮らして居たといった話題性が良くも悪くも児童たち特に女子からの注目を集めた。

ここまで言えばわかると思うが、女子の人気を一手に集めた火乃香は今までいた男子児童にとって面白くないのだ。次第に男子児童達が結束をしだし、発動する。いじめという名の洗礼が。

家族を失い、多くの友人達を失った火乃香にとって、このいじめは大きく心を抉られた。

こうしてひと月ほどで不登校になってしまったのだ。

那月も火乃香を引き取ったとは言え、まだ16歳。現役女子高生なわけで、昼間は学校に行かなければならず、最初のうちは、心配で授業は上の空だった。

しかし、火乃香は元々頭が良いらしく、那月が帰ってくるまでおとなしく本を読んだり、那月の部屋に置いてある教科書を読み漁ったりと時間を潰していた。

そのこともあってか、6歳にして、高一年程度の頭脳を持つことになる。

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「意外でした」

夏音が驚く。それはそうだろう。ラ・フォリアと那月を除けば一番親しい人物なのにそんな事情を知らなかったのだから。そんな夏音を横目に那月はワインの入ったグラスで遊ぶ。

「何がだ?」

「火乃香さんが不登校だったことでした」

「ふふっ…。そうか?まぁ確かに今の火乃香からは考えられないかもな」

750mlのワインボトルが残り約半分になっている。しかし、グラスに残ったワインを煽り、また注ぐ。

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とある日のことだ。那月と一緒にとある男性が家に上がってきた。

男は深緑の制服とベレー帽を着用し、左胸には豪華絢爛な勲章が縫われている。彼こそが、火乃香の人生において大きく左右させる人物、稲垣隼人との邂逅だった。

「散らかっているが気にするなそこに掛けてくれ」

「あ、あぁ…」

「稲垣隼人…どういった要件だ?」

「いや…欧州の連続喪失事件について重要参考人になりうる人物を日本に帰国させたという話を聞いて…訪ねたわけだが…彼が?」

「そうだ。言っておくがきちんと書類も提出して、審査も通っている何1つ問題ないはずだ」

「確かにそうだが…」

「どうした?」

「この子の名前は…天童火乃香で良いのか?」

「こいつをしっているのか?」

「正確にはこの子の親だ…」

話の流れが一気に変わった。この話を聞かせるのはまずい。そう判断した那月は火乃香を別室で待機してもらうことにした。

よって火乃香は未だ知らない。なぜ村が家族が焼き払われ、兄がそれを引き起こしたのかを。そして知ることになる。この戦争の先で。

しばらくしてから那月に呼ばれ、リビングへとやってきた。

「初めまして、天童火乃香くん」

「はじめまして…あの…何ですか?」

「強くなりたいとは思わないか?」

「強く?どうして?」

「いいから答えるんだ…今の生活を守れるぐらい強く…辛い思いをしないように…」

「…………わからない……」

「そうか…もし強くなりたいんだったら南宮さんに行ってくれ」

「…?わかった」

男がそう言いながらマンションを後にした。

「あの人…何で強くなりたいなんて言い出したんだろう」

「さぁな…まぁゆっくり考えればいいさ…危険にさらされるかもしれないがそれでも強くなりたいと思って…家族の仇を討ちたいと強く思っているならば止めはしない…。夕飯を食べて早く寝よう」

この夜火乃香はずっと考えていた。昼間訪問してきた軍人がなぜ強くなりたいか聞いてきたのかを。

故郷で誓った想いを果たすために、火乃香なりに考えていた道筋はあった。

自衛隊や欧州連合軍外人部隊それからアメリカ軍日系部隊などなど、那月が留守にしている間ずっと調べまわっていた。

しかし、どこも国から命令されてからでないと動けないことは知っていた。

だけど稲垣とか言う男についていけば何かあるかも。自由に動くことができるかもしれない。この頃から超直感の片鱗が現れていた火乃香の内心には付いていけと囁くもう1人の自分がいたのだった。

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深夜12時を回る頃、那月は勉強をを終え、眠りにつこうとした瞬間のことだ。

ドアが二回鳴った後、ゆっくりと開いた。

そこにいたのは自分よりもいくらか背の小さい火乃香がいた。

「どうした?寝付けないのか?」

首を横に振る。違うみたいだ。

「夕方のことか?」

「うん…お姉ちゃんはどうしたらいいと思う?」

「そうだな…私からは何も言えないな…決めるのは火乃香だから。ただ私としては…もう少し時が経ってからでも遅くはないと思う…が、火乃香はどうしたい?」

ベッドに座る那月の横に火乃香を座らせ、頭を撫でる。那月としては、少年兵に自ら進んでなることはないと考えている。が火乃香は違うようだった。早く力が欲しい。仇を討ちたい。心のどこかでそう考えているのだろう。ようやく火乃香が口を開いた。

「僕は…稲垣さんのところに行って…強くなりたい…」

「…………それが火乃香の選んだ答えなら何も言わない。但し、一月に一回でもいいから声だけは聞かせろ。いいな?お前には帰りを待っている()がいるんだ…辛くなったら帰ってこい…だから無茶だけはするな」

那月に拾われてから約3ヶ月…短い時間だったが、家族の絆はできている。と思っている。だから笑顔で送り出そう。火乃香が自ら決断した道へ、そして私は火乃香の帰る家になってやればいい。那月はそう考えたのだった。

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「那月ちゃん…あんた意外と酷いんだな」

「私をちゃん付けで呼ぶな暁古城」

「たった6歳の子供を訓練に参加させるって…」

「本人が望み、自分で決めたことだ。私はな教育者の前に1人の親でもある。親として、どんなに茨の道を行こうとしていても子供がそうしたいと願うなら背中を押して送ってやるのが勤めだと思っている。

ただな…私は1秒たりとも火乃香の事を忘れたこともなければ、心配しなかった時なんて無い…今だってそうだ…」

暗く沈んでいく表情に古城達は何も声をかけることができなかった

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それから2年後、火乃香は再び那月の元へ帰ってきた。

あの時の稲垣と同じ制服を着ていた。左胸には、万物で最も硬く、不撓不屈の象徴とされるダイアモンドを中心に、その中心のダイアモンドを一本の劔が突き刺さっている。その周りを勝利と栄光を表す月桂冠が周りを囲い、空挺を意味する落下傘に吊された金色に輝く1つの徽章が縫い付けられていた。

国連軍の特務隊にのみ持つことの許された英雄の証だ。

「随分とたくましくなって帰ってきたじゃないか」

体は2年前より成長し、那月と同じくら位の身長だ。見かけ上筋肉は全くついていないが、それでも十分鍛え上げられているとわかるほどだ。

「ただいま…姉さん…守れるだけの力をつけたよ…」

「あぁ…無事で何よりだ…電話しかしていなかったから…な見違えたな本当に」

見違えた…2年前の心身ともに弱かった彼ではなく、姿は似ているが、精神が強くなった。これからは危険なことも付きまとうようになる。ボロボロになって帰ってくるかもしれない。だけど火乃香の帰る場所になると決意したからには、火乃香が安心して暮らせる場所を那月なりに守る事をもう一度認識したのだった。

そして3年後、彼は_____________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____________________壊れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ここまで語り終えた那月は最後のワインをグラスに入れ、一気に煽る。結果的に那月1人で750mlのワインボトルを開けたことになる。引っ越し作業から今の今までずっと語っていたおかげで、最初の頃のような重い空気が少しはマシになったのではと考える。

そんな中、那月のスマホが突然鳴り出した。

相手を見ると仙都木阿夜の妹の優麻からだった。

「もしもし、どうした阿夜の妹」

『南宮先生!大変だ!妖精部隊から通達が来たんだけど…』

「何があったんだ?」

電話の後ろが随分と騒がしくまた優麻も焦っている。普段那月に電話をかけてくるのは火乃香か稲垣、あとは阿夜ぐらいだから、優麻からかけてくるのは珍しい。

若干イライラしつつも優麻からの返答を待つ

『落ち着いて聞いてほしい…火乃香が…』

パリン!

持っていたグラスが落ち、割れた。

「那月ちゃん?どうした?」

「おいおい那月ちゃんどうしちまったんだ?」

「先生?」

「お義姉様?どうかしましたか?」

「南宮先生?」

ご主人(マスター)どうかしたのでしょうか」

「南宮先生!何があったんですか?」

「南宮先生…」

急に固まった那月に対し困惑を隠せないでいた。

古城が那月の手からスマホを半ば強引に奪い取ったのだが、その時の那月は脱力しきっていたため、簡単にスマホを奪えた。

暁兄弟と優麻は小さい頃から面識があったため、すぐに事情が聞き出せる。そしてスピーカーに設定し、古城がもう一度何が起きたのか聞くことにした。

「優麻か!何があったんだ?!」

『古城!なんで君が!』

「いいから!答えろ!」

『そういえば同じクラスだったね…。君のクラスにいる南宮火乃香の事なんだが』

連れ去られてから約10時間半が経ち、どうなっているのかすら見当がついていない彼らにとって、まさに、喉から手が出るほど欲しい情報だろう。そして次に伝えられる言葉が、この空間を凍りつかせることになるとは誰も想像していなかった。

『南宮火乃香が…捕虜として拘束された…。情報によると…今拷問を受けている』

沈黙が空間を支配した

 




もうなんか思い付きませんねさて残りの過去話はタイミングを見て入れていきます

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