ストライクザブラッド~ソードダンサーと第四真祖〜   作:ソードダンサー

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孤島の武装蜂起篇5

3つあるチャフグレネードの1つのチャフを手に取りピンを抜き、投げる。小さな爆発音とともにアルミ箔が大量に空中散布された。

この隙に近くにある岩陰まで移動した。

戦車が目標を見失い、ウロウロと車体を走らせながら、地雷原へ突っ込み、1つの対戦車地雷を踏みつけた。

大きな爆発音とともに、車内でマイクが入ったのか乗組員の慌てふためく声が外にダダ漏れだった。

火乃香はこの隙をつき、もう1つのチャフを投げ、戦車の電子系統を完全に破壊した。

一気に戦車の近くにより砲塔の真下まで来る。戦車内の混乱が若干治ったらしい。戦車の履帯は地雷によって破壊され、動ける状況ではなかった。砲塔の自動照準機能が使い物にならなくなったため、直接目標を視認するため、1人の兵士がハッチを開け中から顔を出した。

その隙に火乃香はグレネードのピンを抜き、戦車のエンジン部分に登りハッチの中にグレネードを投げ入れた。グレネードは信管抜いてから約5秒で爆発する。投げ入れた時にはすでに1秒半経っていた。

残りの3秒半で、戦車から大きく飛び降りなるべく遠くへ走り体を伏せる。

やがて戦車が大爆発を起こし、戦車は完全に沈黙した。

「哀れだな」

『アルマース1よくやった!』

ディスカバリーからの通信だ。

今頃司令部はこのハリウッド映画顔負けの対戦車戦闘に興奮を隠しきれていないのだろう。こっちはつい先ほど死にかけたというのに不謹慎にもほどがある!遺憾の意を表明しそうになった火乃香だが、何とか飲み込み淡々と事後報告を済ませる。

「敵戦車完全に沈黙…これより核弾頭保存棟に侵入し、囚われているであろうエメリッヒ博士の救出に向かう」

『わかった。それと核弾頭保存棟一階ではすべての武器にロックをかける』

「死なせたいのか?」

『違うわ。忘れたの?廃棄とはいえそこには核弾頭が陳列されているのよ。もし穴でも開けたらどうなるかわかってるの?被曝するどころの話じゃないわよ?』

「…確かに管理がずさんすぎる」

通信しながら、核弾頭保存塔の若干空いているシャッターの下から中の様子を伺う。

そこには乱雑に並べられ、ただ布を上から被せているだけの剥き身の核弾頭が大量に鎮座していた。

普通廃棄核物質などはコンクリートで固めてからうん百メートルもの地下に特殊な施設を建造しそこで厳重に保管するのがセオリーだ。

しかしこの島の実態は締め上げられた国防費によって大量の廃棄核弾頭を処理できずに持て余している状態だ。つまりこの島はそう言った大人の事情(・・・・・)でおおっぴらに捨てることのできない核弾頭を密かに廃棄するためのところらしい。

そしてこの島は地球温暖化の影響であと十数年間で海の底に沈むと言われている。秘密裏に処理するにはもってこいの場所だ。

『そこで戦闘になれば勝ち目はない。決して見つかるな』

「さっきちょうどいい段ボール箱見つけたからそれをうまく使って抜けるさ」

通信を切り、とりあえず的の様子を伺う。

銃はやはりM4だ。それにMBC防護服を着用している。おそらく侵入者との戦闘状態に突入した時流れ弾が廃棄核弾頭に当たった場合の放射線への対策だろうと目星をつけつつ倉庫内を確認する。

シャッター正面の向こう側つまり北側には輸送トラックが停車している。その上を監視カメラが常に警戒している。フロアには3人の歩哨が決まったルートを巡回している。西側には二階へ上るための階段とその二階には地下へ行くためのエレベータが稼働していた。

あれを使って下に降りよう。火乃香は歩哨の巡回ルートを見極め、音を立てずにエレベータ前まで移動する。

奇跡的にエレベータはこのフロアに止まっていたらしく、すぐに地下へ移動することができた。

エレベーターの扉がゆっくりと開き火乃香はソーコムを腰の高さに構え、入り口の脇に体を寄せ外の様子を伺った。

暗くほとんど何も見えない空間が伸びきっている。唯一の光源は遠くで壊れかけた照明の明滅のみだ。

何かがおかしいーーーと察する前に異臭が鼻腔を刺激した。5年前に嫌という程嗅ぎ、そして嫌という程慣れ親しんだ血の匂いが。

ゆっくりと道なりに進んで行くと、転々と鋭い刃物で斬り刻まれた兵士が5、6人横たわっている。

中には内臓が飛び出ているものもある。

火乃香は吐き気をこらえながら、一番奥にある壊れたセキュリティのかかった扉を開けた。

彼方此方にべっとりと付着した血や散乱したファイル、破壊された液晶画面が設置された部屋だ。

「ひ、ひぃぃぃ!こ、こここっち来るな!」

火乃香は姿勢を低くし様子を伺った。

ロッカーの扉に背中を預け、腰を抜かしたような姿勢の男がいた。血にまみれた白衣を着ている。だらしなく投げ出された脚の間に、小さな水たまりが見えた。薄いグレイのズボンの股間が濡れていた。男は何もない空間を見上げ、震えている。灰色の髪は乱れ、汗で額に張り付いている。丸い銀色の眼鏡は半ばずれ落ち、もともと痩せていたであろう顔は恐怖のせいかさらに頬がこけ髑髏のように見える。

こいつが今回CFFにタレコミをした主ハルエメリッヒだ。そう確信した。

すると何もない空間が徐々に歪み、正体が現れる。

白の強化骨格を纏い、鋭く研ぎ澄まされた銀色の刀身を携えた忍者が。

「雷電!」

「アルマース1俺は雷電ではない…雷電は死んだ。古き盟友よ私は飢えている…痛みに飢えている」

機械によって合成された音声だが確かに雷電だ。火乃香は確信した。

刀をゆっくりと鞘に納め両手で拳を作り構えた。まるでボクシングでステップを踏むように淡々と火乃香を挑発する。

「っーー!」

ハルエメリッヒは勢いよくロッカーへ閉じこもった。

「いいだろう!特等席で見ているがいい!震えながらな!行くぞ!」

「目を覚ませ雷電!」

雷電の右ストレートが火乃香を襲うが難なくかわし、お返しと言わんばかりに火乃香は左フックを鳩尾めがけ食らわす。

互いに襲いかかるパンチをいなしながら少しずつダメージを加えていく。火乃香は忍者がガードしたら強烈なストレートで相手のガードを力で崩し顔面に拳を叩き込み、忍者は火乃香の顳顬めがけトーンキックをお見舞いする。

脳が揺れ、力が抜けると忍者は火乃香に猛攻を繰り広げた。

全身が痙攣し始め、本格的にヤバくなってきたことを感じつつ、最後の力(笑)を振り絞りボディーブローをお見舞いしたところで、途中までいい感じの殴り合いをしていたために蓄積されたダメージによってサイボーグから火花が散り始めた。

「ぬぉぉおぉおぉぉぉぉぉ!」

突然忍者が震え出し、刀を抜いたと思うとめちゃくちゃに振り回してきた。

ただでさえ部屋中がボロボロになっているのにどんどん壁に切り傷が増えていく。

しかも途中でバギッ!という音がしたと思ったら無残に砕け散ったガンプラが落ちていた。ロッカーの中から情けない鳴き声が聞こえている。恐らくハルエメリッヒ博士が丹精込めて作ったものなのだろう。今まで暴れていてよく壊れなかったと感心しつつもこのカオスな空間に頬をひきつらせるしかない。

「く、薬を…!」

忍者は光の速さで部屋から姿を消しどこかへ行ってしまった。

「出てきていいぞ博士」

「き、君は誰だ?!も、もしかしてぼ、僕をころしに…!」

「違う!落ち着け!あんたが流してくれたタレコミでこんな僻地に放り出された憐れな犬だ」

「そ、それじゃぁき、君はCFFの…でもこんな可愛らしい女の子g…」

「あぁ?!いまなんて言おうとした?!女の子じゃねぇ!男だ!」

思いっきりロッカーのドアをパンチしたおかげで拳の形でへっこんだ。

「ご、ごめん!で、でも驚いた…」

「何が」

「ぼ、僕は同じ趣味を持つ人以外とはうまく喋られないんだけど…君もヲタクかい?」

「ヲタク?全く違うけど」

「おかしいな…」

「で、俺がオタクだったらなんなの」

「いや…僕は日本のアニメーションが大好きなんだ」

なんか唐突に語り出したぞ…。

ボケーっと聞くこと五分くらい。そろそろ肝心の核発射システムなんかの情報を聞き出さなければならない。

「博士悪いんだけど俺たちには時間が残されていないんだ。奴らの核発射能力について教えてほしい」

「いいよ…彼らの核発射能力についてだけど3枚の解除キーをそれぞれ入力することさえできればいつでも発射できる。なんならいますぐポチることだって」

「なるほど…つまり奴らを殺すか、機械を破壊する若しくわPALによる緊急解除しか手がないんだな?」

「七割五分正解。緊急用のPALは核発射シークエンスに突入した状態で解除することができる。けどもし、座標を指定しただけで発射待機状態ならばPALキーによって核を緊急的に発射することも可能だよ」

「なぜその必要性が?」

「核を発射する権限があるのは基本的には大統領なんだけど、もし相手が発射した核がホワイトハウス直撃した場合現場の判断で発射しなければならなくなる。その時に使うのがPALキーだよ。ただPALキーで一度入力してしまうと解除できないんだ」

「つまり奴らが発射シークエンスに突入するまでPALキーは使ってはいけないんだな」

「そう」

「賭けになるな…それで博士…もう1つ興味深い情報をタレコミしてくれたな?移動式だのなんだのって」

「博士はやめてくれオタコンって呼んでもらいたい」

「わかった」

「でだ、今回の発射台はどんな悪路でもそうは可能な二足歩行兵器なんだよ」

「なるほど、てことは通常の攻撃で壊せなさそうだな…」

「まぁね…破壊するには核を使わない限り不可能だけどこれを見て」

オタコンは火乃香に今回奴らが使おうとしている二足歩行兵器の3Dモデルを見せてきた。その形はまるで白亜紀に生息していた肉食恐竜のティラノサウルスを彷彿させる形だった

右肩には核兵器を打ち出すためのレールガンと思しき装置と左肩には円盤の盾のようなものが装着されていた。

「こいつはREXって言うんだ。こいつは基本的には有人操作できるように設計されている。コックピットは一種のVRのようなものでできていてそれぞれの装置は左肩にあるレドームによって集められるんだ。

そしてこのレドームは個人携帯型地対空ミサイル数発打てば壊れるように設計されていてこれが壊れたらコックピットが自動的に開くようになって肉眼で目標を捕捉できるようになっているんだ」

「つまりレドームを破壊して開いたコックピット内にミサイルを叩き込めばいいんだな?」

「その通り!」

「で、肝心のREXはどこに?」

「ここの施設にある地下一階から所長室に向かってその奥にある扉から洞窟に入るんだ。そしたら連絡通路に出られるからそこをまっすぐ進んで第1ヘリポート一階につながっているからエレベーターを使って9階まで登って連絡通路を通ると第2ヘリポートに入ることができる。そしたらまた一階まで降りてセキュリティドアを開けて平原に出るんだ!そこから東に真っ直ぐ700メートルくらい歩くと地下整備基地に繋がる倉庫があるよ」

「長々とありがとう。オタコンはこのあとどうする?言っておくが非戦闘員を守りながら行動する余裕はない」

「この基地には詳しいからね、僕は君のサポートをするよ。周波数は141.12。通信してくれれば武器弾薬を持って来てあげるよ。勿論見つかったりはしないさ!何故なら僕が開発したステレス迷彩があるからね」

「ステレス迷彩…光学迷彩の一種か…そう言えば雷電のサイボーグにも実験的だけどステレス迷彩が搭載されてたな…」

ステレス迷彩(これ)がある限り僕はこの世にいないものと同然だよ」

「そうか…困ったらとよりにさせてもらう」

こうして無事生きていた内部告発者を味方につけると同時に多数の情報を入手することができた。

ほのかにとって当分の目標はREXが居るとされる地下整備基地へ向かうことになる…。

 

 

タイムリミットまで残り15時間45分


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