ストライクザブラッド~ソードダンサーと第四真祖〜 作:ソードダンサー
「火乃香とは愛し合っている中です」
ラ・フォリアがイタズラ心満載の笑みを浮かべ古城達に言い放った。
「ほ、火乃香の言っていたこと本当だったんだな」
「南宮先輩………」
「あら?思っていた反応と少し違いますね」
古城と雪菜の反応が想像と違ったらしく、首を傾げながら呑気に考えるラ・フォリア。
「取り敢えず移動しましょう。私が乗ってきた救命ポットに案内します」
そう言い森を突っ切って反対側の海岸に出た。
そこにあったのは王族専用の救命ポットだった。
5日分くらいはあるだろうと思われる飲料水や非常食が入っているのは勿論、簡易ながらベッドもあり更には温水洗浄便座まで備え付けられているというなかなかに豪華だ。
外装は防弾製で周りには金箔が塗られ、避雷針なんかも備えられている。
火乃香は暫く救命ポットの中を物色しているとアンテナを見つけた。
「あった!これで外部と通信ができる!」
「本当ですか?火乃香?」
「多分ね!でもこれだとギリギリ絃神島には電波が届かない…ラ・フォリア、航空地図とかある?」
「確かこの辺にあった気が…ありました!」
そう言いながらラ・フォリアは航空地図を火乃香に手渡した。
「古城…お前、ここに来た最初の時に言っていたよな?数字をメモして意味あるのかって…見せてやるよこの島の位置さえわかればこっちのものだからな」
そう言いながら火乃香はスマホを取り出し絃神島からの飛行経路を書き出して行く。そしてこの島の位置がようやくわかった。
絃神島からおよそ100キロ程離れた小さな無人島だった。
「場所がわかったし、運がいいな…約7時間後にこの島の上空を雪風が通過する予定だから、無線機から救難信号を発信していれば助かるはず!」
「やりましたね先輩!」
「よっしゃ!これで戻れる!」
「ラ・フォリア、取り敢えずこれで助かる可能性が出たから現状の確認と君がこの島に流れ着いた理由を聞かせてほしい」
「分かりました」
手放しで喜ぶ2人に呆れながら取り敢えず現状の整理をしようと火乃香はラ・フォリアに提案するとラ・フォリアの顔に若干影が差したが快諾してくれた。
「古城、姫柊さん?喜ぶのは良いけど、状況を整理をするからこっちに来てくれない?」
そして、4人は夜明けの陽の光を浴びながら、確認に移る。
「で、あんたが絃神島に来る途中、メイガスクラフトに襲われたってのは本当なのか?ラ・フォリア」
古城はまず、現状の敵を確認することにした。
「はい。彼らはアルディギア王家の血筋である私の体が狙いです」
「血筋?」
古城は何故アルディギアの血筋が狙われるのかがわかっていなかった。
確かに王家ということだけあり、身代金目的などで誘拐すると言うのはわからない話ではない。しかし、身代金目的で聖環騎士団の船に突っ込み、ラ・フォリアをさらうと言うハイリスクローリターンの賭けに出るかと思うと普通はそんな事はしない。
「ラ・フォリア…話辛かったら、俺が代わりに話そうか?」
「いいえ…これは私が話さなければならないことです。火乃香」
「わかったよ」
彼女の目には確固たる意志が宿っていた。
「メイガスクラフトに雇われている叶瀬賢生は元はアルディギアの宮廷に仕える宮廷魔導技師だったのです。ですが彼の知る魔導奥義の殆どは霊媒としての王族の力を必要としています。だから危険を犯して私を拐おうとしたのでしょう」
「あんたと叶瀬の関係はなんなんだ?どうしてあんたたちはそんなに似ているんだ?」
古城の質問にラ・フォリアと火乃香は俯く。
「叶瀬夏音の本当の父親は私の祖父です…。15年前アルディギアに住んでいた日本人女性と道ならぬ関係になり、彼女との間にできた娘が叶瀬夏音なのです」
大きく目を見開く古城と雪菜に背を向け、海を見続けている火乃香と2人から目を背けるラ・フォリア。
あって数時間程度だがラ・フォリアは火乃香と同じく芯の強い人だというのを見抜いていた古城だが、この2人がこうまで暗い表情を浮かべているのに対し、ただ動揺を隠しきれないでいた。
「ちょっと待て…じゃぁ叶瀬とは…!」
「私の伯母ということになります。王位継承権は有りませんが王族の一員であることには間違いありません」
「お、王族…」
「最近彼女の存在が発覚し、王宮は混乱の最中にありますが、彼女は放っては置けない存在です」
ラ・フォリアは先程までの暗い表情から一転し、苦笑いを古城たちに浮かべる。
「混乱…と言うよりも、お祖母様がただ荒れてるだけ…じゃなくて?」
「火乃香?それは言わないお約束ですよ?」
悪戯っぽく火乃香にウィンクをするラ・フォリアを見てこの腹黒お姫様は何一つ変わっていないと言う事を改めて痛感したのだった。
「兎も角、夏音が叶瀬賢生の娘になっていると言うことは非常にまずい状態です」
そう言うと古城たちは俯く。それに察しがついたラ・フォリアは取り敢えず、夏音がどういう状態にされたのかを確認する。
「その様子では…もう…」
「あぁ…叶瀬は改造されて羽みたいなのを生やしていた…」
古城の一言でその場の空気が鉛のように重く感じた。
彼女が何故こんな事になってしまったのか?誰よりも優しさを持つ彼女が被験体に選ばれたのか?
そんな疑問が次々と湧いて出てくる古城を他所に、火乃香はただじっと水平線の彼方を見続けていた。
水平線からはそんな重たい空気を無視するかのように太陽が顔を見せる。
どの様な思いで彼が暁の水平線をただじっと見続けているのかは、古城や雪菜は愚かラ・フォリアですらわからなかった。
どれくらい経ったのだろうか。
次に状況が動いたのはそれから数分後だ。この数分間はかなり濃い時間だった。
水平線から一隻のホバーボートがやってきた。
「あいつら!しつこいにもほどがあるぞ!」
「待った!」
そう言いながら古城は再び眷獣を召喚しようとしたがここに待ったの声がかけられた
「なんだよ火乃香!早くあれを沈めなきゃまたやられるぞ!」
「よく見ろ古城!確かなあの船はメイガスクラフトのものだが白旗が上がってる!」
「対話を要求してるようですね…先輩…」
「クソッ!」
警戒心を剥き出しにした火乃香と古城を前に雪菜とラ・ファリアが後ろから続く。
ホバーボートは浜辺へ乗り上げゴムから空気が抜ける。
そして出てきたのは男女3名の集団とメイガスクラフトが開発したオートマタとは違う自動歩兵を引き連れながら目の前に現れた。
「あぁ!てめぇ!オッさん!よくも俺たちをこんな様に置き去りにしてくれたな!」
「おっさんじゃねぇよ!まだ29だっつーの!」
古城がいきなり絡んだ男性は古城達3人を置き去りにしたパイロットであるロウ・キリシマ。
もう1人は赤いジャケット着た女性…メイガスクラフトで受付フロントで対応した女。
そして最後の1人は白衣を着た以下にも研究者というような風貌の初老の男性だ。
「ラ・フォリア殿下ごきげん麗しゅうございます。またお美しくなられましたね」
初老の男性はラ・フォリアにそう挨拶する。まるで世間話のように…。
「ありがとうございます。こんな状況でなければお茶をしながら話したいものですね」
勤めて笑顔を崩さないようにしている。
「それは大変光栄だ。」
「けっ!あんたら何のんきに話したんだい!さっさとテストするんだろ!」
「まぁまてよ…殺し合いする前に1つはっきりさせないといけないことがあるんじゃねぇか?」
「あぁ?なんだあんたは…ってあの被験体の彼氏かよ…」
「火乃香君…君がここにいたことは想定外だ…」
「賢生さん…俺は別に、夏音になんて事したんだ!とか、何故こんなことをする!なんて事は言わない。貴方が何故このような事をしたかが問題ではないからだ…」
「火乃香!お前にとって大切な
「彼女を救う方法は十分にあるからだ!それよりもメイガスクラフトには
「それは言えない」
「まぁ何と無くは予想つく…」
「ほう…」
「なんの話だ?」
先ほどまで啀み合いをしていた古城が話に割り込む。古城にとっては賢生と火乃香が穏やかに会話しているように見えたのだろう。
はたから見れば穏やかに話を進めているようには見えるがそれは怒りが臨界点を突破し、逆に冷静になっている状態だ。
「あんたらメイガスクラフトはアメリカの兵器会社であるアームズテック社とつるんでいる事はそこの自動歩兵を見ればすぐにわかった」
自動歩兵…それはアームズテック社が開発した兵器。コンセプトは戦場で人員を失わないようにするため敵地への強行偵察用AI搭載型の二足歩行兵器。
「アームズテック社は軍事産業グループの1部門にすぎない。そのグループを束ねているのはプレイズマンティスグループであるのはもう調べがついている」
「それで?」
「このプレイズマンティスグループの傘下に
「アームズテック社からは確かに資金の援助は受けた…」
賢生は驚くのではなく、まるでこのことが予想できていたかのように冷静に火乃香の話を肯定した。
「あんたが犯した罪はテロリストとつるんだ事じゃない。自分の守るべき娘を改造したことにある。夏音はどこにいる」
「なーに、くっちゃべってるんだい!?早く
赤いレザースーツを着たベアトリスが醜く顔を歪めながら賢生と火乃香達を睨む。
「待て!商品とはどういうことだ!?」
いきなり賢生が声を荒げた。彼のあずかり知らぬところで別のプロジェクトが進行していたのだろう。
「あぁそうさ。あいつは商品だよ!うちの
歪んだ倫理観と言うのはこう言うことを言うのだろうか…。現代社会で生命についての倫理観で非常に揉めている。体外受精がどうとかクローンがどうとか脳死は死と判定するべきかとか、生きている人を改造するのは悪であるとか…。しかし、どちらにしろ、夏音は望んであの姿になったわけではないと言うことが確実に言える。
夏音があの祭りの夜、タワーの上に現れ、火乃香達に姿を見せた時に流した涙が全てを物語っていた。
火乃香の脳裏にその涙がフラッシュバックした。
「やっちまいな叶瀬夏音!愛する男をぶち殺して、ついでに第四真祖も殺っちまいな!」
そう言いながら懐からコントローラーパネルを取り出しそれを操作する。
ホバーボートから白い影が飛び出し空に羽を広げた。
「夏音さん…」
「ひ、ひでぇ」
「叶瀬さん…」
「…………」
次元を超越した夏音の姿に言葉を失う3人と漆黒の刀を鞘からゆっくりと抜き、その刀身にうっすらと血を流し込む火乃香。
「アッハハハハハ!
バカみたいに高笑いをするベアトリス。その顔は勝ち誇った顔をしてはいるものの、醜く歪んでいる。
この女は不幸だ。火乃香はソクラテスやプラトンが見ればきっとそう思うだろう。彼らは善悪と幸不幸をイコールで結びつけている。
正しい善意の行動を示せばハッピーな気分になるし、逆に悪いことをしたらアンハッピーになる。そして幸不幸の差を決定付けるのはやはり『知』の存在だろう。己がどれだけ善悪についての正しい知識を持っているかがそのまま幸不幸につながっていく。善悪が分からなければ自分は今幸福なのか不幸なのか全く分からない。犯罪者や今目の前にいるベアトリスみたいな奴は自分は今ハッピーな感覚に陥っているが、それは違う。悪に手を染めればその時点で不幸になるのに彼女は全くそういう気配がない。無知というのは時に残酷な結果を生み出すこともある。それがいつかと問われれば今だろう。
ベアトリスとロウ・キリシマの横で絶望に打ちひしがれている叶瀬賢生は火乃香と古城、雪菜、ラ・フォリアに懇願するまで訴えてくる。
【夏音を救ってくれ…!私のバカな研究で苦しめてしまった夏音を救ってくれ…!】
そう訴えてきていた。
火乃香の中にある一つのスイッチが押された。
「おい。
いきなり口汚くなった火乃香に古城と雪菜は唖然としたがラ・フォリアだけはクスクスと笑っている。
海兵隊仕込みとは程遠いがそれでも十分口汚いだろう。
火乃香が受けた訓練で浴びせられた数々の罵倒の一つを引用しある程度丁寧な言葉に言い換えたつもりだ。
「kryyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyy!!!!」
夏音が人が出す声だとは思えないような声をだし戦闘態勢へと移った。
次の投稿がいつになるかはまだ決まっていませんが早くこの章を終わらせなければと考えてます。
予定としてはあと2話、うまくいけば1話で完結するかもしれませんがその辺はわかりませ
ではまた次回!