ストライクザブラッド~ソードダンサーと第四真祖〜 作:ソードダンサー
古城と雪菜に持って来た無線機を渡した後、火乃香は森の奥へと歩いていた。
「………せやっ!」
そろそろと気配を押し殺しながら、順調に今夜の夕食となる蛇を捕獲していた。
「結構捕まえたが…念のためにもう少し取っておくか」
今、火乃香の手元には毒を持たない蛇が5匹いる。
だが念のために、もう5匹程度捕まえておきたいところだ。
ナイフを再び装備し直し、再び匍匐前進で慎重に蛇を捕獲していくのだった。
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さて、火乃香にいらない子扱いを受けた噂の第四真祖本人である暁古城は、砂浜で体育座りをしながらのの字を書いている。
「火乃香にあそこまで言われるとは…」
とは言うものの火乃香の言うことは一理ある。
テレビなどでよく見るサバイバル番組と現実のサバイバルには雲泥の差がある。
あちらはキャンプ感覚の危険な目に決して合わない人工的に造られたサバイバルだ。
しかし、彼らが直面しているのは本物の、一歩間違えれば死に直結するような状況下に置かれたサバイバル生活だ。
吸血鬼である暁古城ならば死なないが、火乃香や雪菜は人間だ。
彼1人犠牲になるならばどうと言うことはないが、暁古城という
そう言った点で見ると、火乃香の判断は正解だ。
頭では分かっているが、2人だけに任せ、のうのうとただ飯を喰らうのは性に合わない暁古城は無い知恵を必死に絞り、1つの考えに至った。
「疾く在れ!5番目の眷獣!
古城はレグルスアウルムを召喚し海へと導く。
「そっとだぞ。そっと」
古城の言うことを聞きながらゆっくりと前足を水面に触ろうとする電気の塊。
そう、彼がやろうとしているのは水中に高圧電流を流し、気絶した魚が浮上したところを採ると言う電気ショック漁をやろうとしていた。
だが無い知恵を絞っただけあって、そうそううまく行くはずもなくー
「あばばばばばばば!?」
電圧が強すぎたためにあたりの海水が吹き上げ、水中にいた魚もろとも消し炭になってしまった。
「先輩?何をやっているんですか?」
後ろから聞こえてくる怒りに満ち溢れた声にビクつきながらゆっくりと後ろを向く。
そこに立っていたのは先ほどの海水をもろに浴び、全身ずぶ濡れの姫柊雪菜が立っていた。
「いや…それはその…電気を海水に流して魚を捕る方法があった気がしてそれで…その…」
イタズラを仕掛けているところを見つかり、シドロモドロに答える子供のような雰囲気で語る古城に雪菜は呆れ「もういいです。南宮先輩も戻ってきましたし夕食にしましょう」と言われ、項垂れながら火乃香の元へ戻ってきた。
「え…っと…これ…は?」
戻ってきた古城が目にしたのはサバイバルナイフで頭を斬り、蛇の皮を剥いでいる火乃香の姿だ。
「あ?蛇を捌いてる最中だよ?見ればわかるでしょ?」
「いや…まだ…生きて無いか?それ」
「そんなことを気にしてたら餓死するぞ」
そう言いながら着々と蛇を手慣れた様子で捌いていく。
そして木の枝に串刺しにし、焚き火の近くで炙る。10匹近くいた蛇を全て焼くと3人はそれぞれ蛇と雪菜が採ってきたヤシの実の水分で喉と胃袋を満たす。
「…意外とベビって美味いんだな」
「鶏肉みたいですね」
古城と雪菜が遠い目で海を見ながら呟いた。
不意に雪菜が火乃香に質問を投げかける。
「南宮先輩はその…夏音ちゃんがあんな状態になって、辛くないんですか?」
「辛いさ…凄くね…。でも俺のせいで夏音の方がもっと辛い思いをしているし、多分無事に救ったあと彼女の性格なら罪悪感に苛まれると思う…。だから夏音が辛くなっても俺にいつでも頼れるように表情には絶対に出さない…」
「…あんな事が起きたのに…南宮先輩は全く表情に出さないのは夏音ちゃんの為…だったんですね。南宮先輩、夏音ちゃんとの出会いって聞かせてもらってもいいですか?」
「いいよ。あれは2年前ちょうど中2の夏だったな。俺はアルディギアで王女の護衛の任期が終了して絃神島に帰って来た時に夏音が高校生にナンパされていて、その高校生を刀でちょっと脅して助けたんだ。彼女と初めて出会ったのはその時だよ」
雪菜と古城は状況が若干違うが自分達と似たような出会い方をしたことに驚いていた。何故なら、同じナンパを通して出会ったのにも関わらず、火乃香と夏音みたいに関係が発展せずに、雪菜の気持ちが宙にぶらぶらと揺れている状態だからだ。
「その日以降夏休みの間は彼女と出会いはしなかったんだけど、夏休み明け初日の下校の時にさ、夏音が大量のキャットフードを袋に入れて歩いていたから声を掛けて手伝ってあげたんだ。そこから暫くの間話したりしているうちに、自分の事をすべて話したんだ。夏音はそれでも俺を受け入れてくれた。1人じゃないって…。俺の罪を全て受け入れてそして赦し罰してくれたのはアルディギアの王女と夏音だけだったんだよ。彼女達に俺は救われた。だから俺にできる事は、彼女達に傷を1つもつけさせないこと」
最後の方は火乃香の覚悟だった。
「なんか…負けた気がします…」
「あれ?でもそのアルディギアの王女様の護衛とかについていたなら、なんつーかこう、そう!求婚とかされなかったのか?」
修学旅行で消灯時間後の暴露大会に似た独特の雰囲気になりかけている。
そういう雰囲気ではどんな堅物でもそういった話をしてしまう。
古城もその例に漏れなかったようだ。
「されたよ。でも、いくら吹っ切れた後とは言え流石にそこまで気持ちの整理ができるかっていうとそうでもなくてね…。とりあえず保留にしたままこっちに帰って来たんだ」
「え、まてそれって浮気じゃ…」
「夏音と王女同士はまだ会っていないけど俺が間接的に話しはしたんだ。だけど、2人とも別に構わないって言ってたよ。今回王女が日本に来るのは夏音に会いに来るためだから」
嘘は言っていない。
ラ・フォリアが来日する理由は失踪したアルディギア前国王の隠し子であり火乃香の恋人である夏音に会いに来る事だから。
因みに、ラ・フォリアとの関係性などについて、彼女は2人目でもいい事や、夏音が嫌だったら手を引くと言っていた事を、夏音が火乃香の見舞いに来ていた時に話して見た。すると、夏音は意外とあっさり2人目を許してくれた。
彼女にとっては友達ができるみたいな感覚だろう。無理をしていないか不安だった火乃香に、何処からこの話題を聞きつけたのか分からないが、阿夜が魔導書を使い本心を見たが、本当に気にしている様子はなかったと言っていた。
火乃香が意外と垂らしであった事と夏音と王女がお互いハーレムを容認している事を聞いた古城と雪菜は両手を地面につき項垂れている。
「お前…チャラくね?」
「まぁ…両者一応公認だから…まだお互い合っていないけど…。それに、私達以外に作らないでって言われてるし作る気もないし」
「南宮先輩…まぁ自覚がある分、何処かの無自覚な先輩よりはマシでしょう」
そう言いながら冷たい視線を古城に投げかける。さらに火乃香はお返しと言わんばかりに古城に問いを投げかける。
「そう言えば今日は金曜日だったな」
不意に火乃香が古城に向けて話題を振る
「そうだな…ってあぁぁぁあ!週末の浅葱との約束があぁぁぁあ!?」
「古城、財布の中身チェックしとけよ?」
より一層顔色が悪くなる古城の姿がそこにはあった
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夕食が終わり、焚き火を消した後、今後の為に交代で眠る事にした火乃香達。最初の見張りは雪菜。次は火乃香、最後に古城という順番だ。
そして火乃香が交代のために雪菜に起こされ、トーチカの横に荷物を全て持って座り込む。
「あの南宮先輩…水浴びしてきますね」
「無線機はきちんと手元に置いておけよ」
「はい。行ってきます」
そう言いながら森の中に入っていく雪菜。
火乃香は蛇を捕まえている時に、何箇所か池があったのを思い出す。
水は透明で綺麗だったように思える。少なくともジャングルの水よりはマシだろう。
しばらく海を眺めているとトーチカから古城が出てきた。
「姫柊は?」
「水浴びだ」
「そうか…やっぱりあいつも女の子だから水浴びはしたくなるのか」
「いや…たぶんどっかの誰かさんのせいで海水被って体がベタついてるんじゃないか?それとお前はどうした?」
「トイレだよ」
そう言いながら古城も雪菜と同じ方向へ歩いていく。
まさかとは思うが古城のラッキースケベに遭遇する確率は一般人のそれを遥かに上回っている。
火乃香は荷物を纏め古城の後をついていく事にした。
古城が宣言通り手近なところでトイレを済ませ、戻ろうとした時、水音が聞こえた。
「?誰かいるのか?」
そう言いながら水音がする方へ歩いき、草を掻き分けた古城の動きが止まった。
「?どうしたんだ?ここからじゃよく見えない」
火乃香が今いふ位置的に古城がどうなっているのかよく見えない。
古城は何かを呟いているようだがそれも聞こえない。すると後ろから全裸の雪菜が雪霞狼を持って近づいていく。
「先輩!?覗きにきたんですか!?」
「!?いや!別に覗きにきたわけじゃねーよ!」
そう言いながら振り向こうとする古城の肩に雪菜は雪霞狼を突きつけこちらを向くなと行っている。
そしてパーカーを着た雪菜は何処か恥ずかしそうにしている。
「古城はただ用を足すために来ただけだ。それは俺が保障しよう。それと古城そこに誰がいたんだ?」
「あ、あぁ叶瀬に似た人がいたんだ。けど叶瀬より身長は大きかったと思う」
「!そ、そうか」
その事を聞いた火乃香は安心したような表情を見せた。だが平和はそんなに長くは続かない。2人がトーチカのもとに帰ろうとしているが火乃香の第六感が危険を探知する。
「お前ら、トーチカには戻らない。イヤな予感がするこっちについてこい」
そう言いながら茂みの方を歩いていく。すると一隻のホバーボートが島に揚陸して来た。
ボートの横にはメイガスクフトのロゴが入っていた。
「メイガスクフト…!あいつら俺たちを!?」
「いいえ恐らく先輩が見たという夏音ちゃんが成長した人を狙いに来たのでは?」
「お前ら伏せろ!」
サーチライトがこちらを当たりを照らしている。
恐らく見つかってはいないだろう。
「見つかったか?」
「いや見つかっていないはずだ…ん?何か下船しているな」
船から降りて来たのは肩幅や背丈が同一の特殊部隊用の戦闘服を来たメイガスクフトの私兵部隊だ。
「げっ銃を持ってんじゃん」
「先輩達はここにいてください」
「バカかドンパチは俺の専門分野だ素人は引っ込んでろ。それにこういう事があろうかと対物ライフルを持って来ている。しかし…敵の装備は5.56ミリトランペットだけか…?」
敵は5.56ミリのアサルトライフルを装備しているだけだった。
手際よくライフルを組み立てマガジンをセットしスコープを覗き引き金に指をかける
「お前ら耳を押さえておけよ。音でかすぎて鼓膜が破れかねん」
「お、おぉ!」
2人は耳を押さえる。そして火乃香は引き金を引いた。
あたりには爆音が鳴り響き、音が大きすぎるが故に何処から狙撃されたのか逆に分からない。
一体のオートマタが倒れこみ火花を散らしている。次々とコッキングし引き金を引いていく。
マガジンには10発入っておりそれが3つ30発の弾を火乃香は今回の為に用意した。
敵部隊はおよそ40機。着々と火乃香はオートマタをスクラップにしていく。一方的な攻撃は約5分続いた。
「弾切れか!古城!姫柊さん!俺が飛び出したら岩陰に隠れろ!流れ弾に当たるなよ!」
そう言いながらコンバットナイフを装備しながら敵部隊に突っ込んでいく。
壊れたオートマタから銃を奪い走りながら銃を撃ち続ける。コンバットナイフで敵の首元を切り裂いていく火乃香。一時は勝てるかと思ったが、それも束の間、残り4体となったところで弾切れを起こしさらにナイフが折れた。
「チッ…まずいな…」
ジリジリとにじりやってくるオートマタに腰を低くし後退っていく姿を雪菜は見た。
その瞬間雪菜は手に持っていた雪霞狼を構え走り出そうとする。
その時、4体のオートマタが倒れた。
「皆さん!無事ですか!」
若い女性の声が聞こえ、その方向を3人は向くとそこには、紺色の軍の制服のようなものをスカートにしブレザーのように改造した服とブーツを履いた夏音によく似た少女が立っていた。火乃香は彼女を見て安堵した表情をし、雪菜と古城は鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情で見つめる。
「先程も会いましたね?第四真祖…いや暁古城さん?」
「え、あぁえっと貴方は?」
「私はアルディギア王国国王ルーカス・リハヴァインが長女ラ・フォリア・リハヴァインです」
そしてと言いながら火乃香の左腕に抱きつく。
「火乃香とは愛し合っている仲です」
その表情はイタズラ心満載の表情だった。
はい、今回は以前から話にちょくちょく出ていたラ・フォリアが満を辞して登場しました。
そして火乃香がタラシである事を決定付けさせました。安心して下さい古城のように無自覚に作って行くのではありませんから!
それに火乃香のヒロインは2人だけですから!
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