ストライクザブラッド~ソードダンサーと第四真祖〜   作:ソードダンサー

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まぁぼちぼちと火乃香の過去を語りましょうかね…


天使炎上篇
天使炎上1


朝のモノレールの中で古城は久々に雪菜と2人っきりで登校していた。

いつもならば、火乃香や凪沙が一緒にいるのだが、凪沙は朝練、火乃香は那月と共に朝早くに登校するらしい。

理由を聞いたが上手くはぐらかされた。しかし、電話口からは彼の動揺した声が聞こえだのだ。何か事件でも起きたのか…。古城はそう考える事にし、次に思考を別な方向へ向ける。

つい数日前、黒死皇派の事件を解決した後の病室で起きた浅葱との情事の一端を思い出していた。

「ーぱい!先輩!」

「おぉどうした?」

「どうしたじゃありませんよ。考え事ですか?」

雪菜が上目遣いで古城を見てくる。しかし古城は目を合わせない。

「あ、あぁまぁな」

「?なんでこちらを向かないんですか?」

彼女は天然だ。自分の状態をよく分かっていない。

「いやだって…そっち向いたらその…」

古城がしどろもどろに呟くとようやく雪菜は気づいた。

「ーっ!見たんですか!?」

「いや!今のは完全に俺は悪くないだろ!」

「はぁもういいです。それで先輩何を悩んでいたんですか?」

「あ、あぁ。最近煌坂の奴が夜電話寄越してくるんだよ。本当姫柊の事を心配してるんだな」

「先輩それって…もういいです。私はこっちですので」

雪菜は古城の鈍感ぷりに呆れながら校門前で別れた。

「ふぁ〜あおはようさん」

「お、古城眠そうだな?どうしたんだ?」

「別にどうもしねーよ…火乃香、学校でパソコンなんて開いてどうしたんだ?」

「ん?あぁ…まぁちょっとね…別に大したことではないんだけどさ…これ見てくれよ」

「「ん?」」

火乃香が古城と基樹に見せたのは、炎上している装甲飛行船だ。しかも真上からの写真だ。所謂、衛星写真という奴だろう。

「これがどうしたんだよ」

「この写真はCFF(ウチ)の諜報用軍事衛星が撮った奴なんだよ。今はまだニュースになっていないが、こいつはアルディギアの装甲飛行船ランヴァルトなんだよ…」

「ほーアルディギアっつーと火乃香がずっと前に護衛していたところ…だったか?」

「あぁ…そうなんだ。あいつがこれに乗って日本に来る予定だったんだが…」

古城と基樹はあいつの後がよく聞こえなかった。そんな辛気臭い雰囲気を放っている男子3人…主に古城をからかう為に築島倫がやってくる。

「3人とも何辛気臭い顔しているの?それと暁君、その眉間の角度から見て人間関係に悩んでるわね?しかも女性関係」

重たすぎる場を少しでも軽くしようと倫は古城を茶化す。

「なっ!なんで分かったんだよ!」

「古城お前霊感商法とかに引っかかるタイプだな」

基樹が古城のチョロさというのか素直というのかよく分からない反応に呆れた風に言う。

「多分こいつは将来何かしらの詐欺に引っかかるんじゃないか?」

「かもな」

火乃香の何気ないフラグとも取れる一言を放ち基樹と倫はくすくすと笑い始める。

そんな時、浅葱が欠伸をしながら教室に入ってきた。

「おやおや?浅葱も寝不足?」

「あー、うん、ちょっとね」

「ふーん。。2人して寝不足とは…怪しい」

「?なんの話?」

「いや、なんでもない」

倫と基樹が浅葱にカマをかけたが華麗にスルーする浅葱を見てつまらないとでも言うかの如く席を離れていく。

そして火乃香もまた、ディスプレイに向き合うのだった。

何やら後ろで放課後美術室に来いと浅葱が誘っている声が聞こえたので、面白くなりそうだから那月に報告することを心に決めたのだった。

 

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放課後、火乃香が学校の廊下を歩いていると2人の生徒が、何やら窓の外を見ている。

何事かと思い、窓の外を見ると凪沙が運動部のジャージを着た男子生徒から手紙を受け取っているではないか。

(まぁ、あの手紙の内容は知っているんだがな)

「あれは…手紙か?」

「恐らくラブレターでしょう」

「確かにラブレターかもなー」

「ははっ凪沙にラブレター渡す男なんて…ってうわぁ!」

「南宮先輩いたんですか?」

「モチのローン」

「なぁ火乃香!凪沙のこと好きなやつなんているわけないよな!?」

「先輩…何言っているんですか!凪沙ちゃん以外と人気あるんですよ!」

「まぁ確かに人気あるって話は聞いたことあるな。可愛いし、話しやすいし。男にモテない理由がないな」

「そ…そんな」

へなへなと崩れ落ちる古城はいかにも世界の終わりだ見たいな顔をしている。

暁古城は世間一般で言うところのシスコンだ。本人は全力で否定しているが、妹に彼氏ができそうだと言うことがわかった時点でこうして力なくうなだれていてはその言葉にも説得力がない。

「俺はもう帰るわ。じゃぁな」

「おーう」

「お気をつけて」

燃え尽きた古城と苦笑している雪菜に別れを告げ、火乃香は普段なら絶対に使わない転移魔術で帰宅した。

「火乃香さんが魔術使うなんて珍しいですね先輩は何か知りませんか?」

「ん?あー、なんかアルディギアの装甲飛行船が墜落したとか言ってたな」

「乗組員の捜索でしょうか?」

「さぁ」

2人は火乃香に対し頭を悩ませるのであった。

 

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『YUKIKAZE,Vector050,climb angels25』

管制官からの聴こえにくい無線が火乃香の耳に入る。

「YUKIKAZE roger」

火乃香は管制官からの指示に従い、機体を50度、進路を変更をした。

『target lost Point 230/68』

現在火乃香はB-503でアルディギアの聖環騎士団に所属する装甲飛行船ランヴァルトの捜索を行っていた。

「…こちら雪風…多数の浮遊物を確認…しかし新たな生存者は確認できない」

「こちら管制…了解した。帰投せよ」

「YUKIKAZE roger」

(ラ・フォリア…無事でいてくれ…)

火乃香の儚い願いは無事に届いたのか…それすら今の火乃香には知るよしもない。無力な自分に対し、怒りが込み上げてくる。

自然と操縦桿を握る握力も強くなり、表情が険しくなる。それを感じ取ったのか、雪風は火乃香からコントロールを奪いさらに、ディスプレイには「 cool down Honoka」の文字が出てくる。

無機質な機械だとしても雪風は雪風なりに火乃香の心配をしている。

そんな雪風に対し火乃香は「悪い…落ち着いた」と一言発すると雪風は「YOU HAVE CONTROL」と映し出され火乃香に機体のコントロールを渡し、絃神島にある特区警備隊(アイランドガード)の保有する滑走路へ向かったのだった。

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「………」

「………」

2人の影が見える。

中等部の屋上の扉に耳を当て、吸血鬼の能力をフルに活用し扉越しの音を拾うのはシスコンで有名な暁古城とその姿を呆れた目で見続ける監視役の雪菜。

「大人しくしろって…」

「キャッ…!乱暴にしないで…」

「慣れてないんだよ…」

「もう…くすぐったいよ」

古城の妹である凪沙と男子生徒の声が聞こえる。

古城はいてもたってもいられなくなり、扉をけ破る。

「コラァァァァ!お前ら!離れろォォォォォォォォォォォォォ!」

「「うわっ!」」

突然開かれた扉と古城に驚く凪沙と男子生徒。そしてそんな状況を作った本人である暁古城の後ろから目頭を押さえながら出てくる雪菜。

「おいお前!誰に手を出そうとしてるのか分かってんのかぁぁぁぁあ!」

古城はもはや暴走状態だ。そんな古城を後ろから思いっきり殴りつける人物が現れた。

「ちょっとは静かにしろ!」

「ぐはっ!」

火乃香が古城の背中を思いっきり蹴り付け古城はそのまま前方に吹っ飛んだ。

「せ、先輩!?」

「ほ、火乃香…もう少し手加減しろよ…」

「悪いな」

「てかなんで古城くんがかここにいるわけ!?」

「あ、いや…その…なんと言うか昨日ラブレターもらったの見ちゃってさ…その…気になったんだよ」

「ラブレター…?あぁこれのこと?」

そう言いながら凪沙は手紙をヒラヒラと古城に見せていた。

「あぁ!それだ!」

「なんでラブレターっていう発想になるのよ!これはただ猫の里親リストだよ!高清水君驚いちゃってるじゃないどうしてくれるのよ!それに私がラブレターもらったからってどうして古城くんが出てくるわけ?」

早口で捲したてる妹に兄はうなだれている。どこの世界も兄は妹に勝てないのだ。

「あの、すみません。こうなったのは私のせいでした。」

唐突に鈴を鳴らしたような澄んだ声が聞こえる。火乃香にとっては聞きなれ、古城にとっては初めて聞く声だ。

「あ!夏音ちゃん!」

「夏音、古城に謝らなくていいぞ。自業自得だからな」

「え?え?」

1人状況に取り残される古城。仕方ないので順を追って説明することにした。

________________________

「つまり、拾ってきた猫の里親探しを火乃香と2人でやっていたけど、それでも日に日に増える猫に対処するため、凪沙を頼ったと。

そして高清水くんからは猫の里親候補の名簿を貰ったと。成る程」

「そうだよ!古城くん!もう!」

凪沙と火乃香は古城の状況整理を手伝っている最中、仲良くなった夏音と雪菜は猫と遊んでいた。

「で、あの子が叶瀬夏音と」

「あぁ。そうだよ…。それとお前手を出すなよ」

「夏音ちゃんはほのちゃんと付き合ってるからねぇ」

「?呼びました?」

「いや読んでないよ」

凪沙が火乃香を茶化してきたのに対し夏音は反応したが、すぐに火乃香がこの話題から夏音を触れさせまいと答えた。

「まぁ何にせよお前の勘違いだ」

「それは分かったんだが何で凪沙なんだ?」

「凪沙ちゃんとは去年同じクラスで、仲良くしてくれました。だから凪沙ちゃんに頼ったんです。凪沙ちゃんはクラスの人と仲がいいから」

「そういうこと!」

「へー、でもそんなに可愛いんだったら友達とか他にいるんじゃないのか?」

「なぜか私が話しかけると逃げてしまうんです」

「あー、多分それは夏音ちゃんに話しかけるのが畏れ多いと思ってるんだよ」

「何で?」

古城はそう言った学校の裏事情にあまり詳しくない。よって裏事情をよく知る凪沙の話についていけなくなる。

「夏音ちゃんは中等部の聖女なんて呼ばれているからね〜。男子達が夏音ちゃんとの接触に応じて独自のルールを設定してるんだよ」

凪沙が誇らしげに語っていく。

まぁそれもそのはず。この中等部の聖女こと叶瀬夏音は、あまりの可愛さに中等部男子が平等に触れ合う機会を作ろうということで、接近距離に対してそれぞれ時間を設け、その時間を超えての接近はペナルティを課すことになっている。

更に自分たちから話しかけてはいけない事など細かなルールが設定されている。

「中等部の男子ってアホなのか?」

「ホントですね」

「それは雪菜ちゃんにも言えた事なんだよ!」

中等部の聖女と並んで人気の高い雪菜にも同じルールが設けられている。雪菜自身は天然なので避けられているといった感覚はないのだろう。

因みに凪沙も影ではすごい人気が高い。可愛くて明るく元気があり、話しかけやすいといった理由だ。

「あ、それと古城くんは気をつけた方がいいよ」

「何でだよ」

「暁古城を呪う会なんてのが有るから。それとほのちゃんも気をつけてね」

「ん?俺にもそんなおかしな会があるの?」

「夏音ちゃんが指輪してくるようになってから男子の間で荒れに荒れたんだよ?しかも南宮火乃香を呪う会が不可能だってことで却下されたほのちゃんの暗殺計画をまた持ち出して来ようとしてるし」

「え、まじで?」

「うん。ついに南宮先輩の婚約者になったのか!闇討ちだ!ってね」

「俺に闇討ちを挑もうとは…中等部の奴ら…俺を舐めすぎてないか?」

たかだか男子中学生が現役の軍人に…しかも国連のCFF所属の人間に敵うはずがないのだが…それほど悔しいのだろう。

「え!?お前婚約者いるの!?」

古城は凪沙と火乃香の会話に首を突っ込み驚き、火乃香の左手の薬指にはめられた指輪と夏音の左手薬指にはめられた指輪を交互に見返し、絶句する。

「鈍すぎるなお前」

「南宮先輩は、10日ほど前から指に嵌めてますよ」

「まじか…」

「因みにほのちゃんと夏音ちゃんを応援する会もあるんだよ」

「なぜ?」

「く、悔しいけどほのちゃんは可愛いから…その夏音ちゃんと百合百合しているように見えるから…そう言うのが大好物な女子とか男子にね…」

段々凪沙の表情が暗くなっていく。男子に負けた方がよほど悔しいらしい。そんな気持ちなど一切知らない火乃香は別の意味で凹んでいくのだった。

歩く事10分。焦げた教会が見えた。

「え…教会…?」

「私が小さい頃お世話になっていた修道院でした」

「え、てことは叶瀬さんはシスター…?」

「憧れでした」

門を潜るとそこには20匹くらいの猫がいた。

「先輩!猫ですよ猫」

雪菜が猫の元に近寄り抱き寄せる。すると他の猫達もソロソロと雪菜の元にやってきた。

「ふぁ〜柔らかくてあったかくて…癒されます〜」

獅子王機関の剣巫といってもやはり15歳の少女だ。顔を綻ばせ、頬ずりする姿はなんだかんだ言っても年相応の少女である。夏音と火乃香は猫達にエサを与えたりしている。凪沙は途中で高清水くんにお礼と謝罪しに行くといいこの場にはいない。

「きっと叶瀬さんはいいシスターになれると思うよ」

猫に囲まれた夏音を見た古城は素直に感想を述べる。

「今は…その言葉だけでも嬉しいでした」

そう微笑みながら古城に返すがどこか寂しさがあるように感じたのだった。

その時、火乃香の携帯の電話がなった。

「もしもし…うん…うん分かった今から行くよ」

「誰からなんだ?」

「姉さんから。ちょっと呼び出されちゃった…夏音…ごめん急用ができたから帰るね…」

「はいわかりました、気をつけて」

火乃香は教会を後にした。

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「おぉ那月ちゃんと火乃香こっちこっち」

「管理公社直々に呼び出しとはな」

「基樹お前…何で俺まで巻き込もうとするんだよ…こっちは別件で動いてんのに」

「悪いな火乃香」

全く悪びれていない様子の基樹を無視し、目の前にある強化ガラスの向こう側に眠っている少女を見る。

「こいつが昨夜確保された5人目か…もう一体こいつと戦っていた魔族がいたと聞いたが」

「そっちの子は不明なんですけど、一つ訂正っす。この子はどうやら魔族じゃないってのが公社の見解なんすわ」

「ふーん見るからに内蔵の欠損もありそうだな」

「あぁ、調べたところ横隔膜と腎臓のあたりマニプーラチャクラの欠損が見られる。それに魔術的回路しか仕組まれていない」

「…なーんかどっかでこういうこと聞いた気がすr…!!!!」

「ふーんボクから見れば霊的中枢が食われているように見えるネ」

「突然姿をあらわすなコウモリの分際で何の用だ?」

「外交特権でいえないね」

「あんたらがらみか?」

火乃香は殺気をチラつかせながら問い詰める。

「いやそれは答えられない。それより聖環騎士団所属のランヴァルトが一昨日から行方不明なんだ」

「それは知っている。ランヴァルトの最後に出した信号とCFF(ウチ)の保有する軍事衛星が撮影した写真の座標から割り出し予測されたロストポジションを昨日からずっと飛び回っていたからな…」

「そうか…それで?生存者ハ?」

「いねーよ。海に浮いていたのは墜落した機体の残骸だけだ」

「まさかアルディギア王室がこの件に関わっているのか?」

那月はひどく冷静な口調でヴァトラーに詰め寄る。

「いや、分からないナ…ダケド、ボクから一つお願いがある。古城をこの件から遠ざけて欲しい。モチロン火乃香、君もね」

「…断る。つかどのみち首突っ込むことになる…多分」

「マァ死なないようにネ、君は簡単に死ぬんだから」

「五月蝿ぇ。まだ死なねーし死ぬ気もねーよ…奴を殺すまでは…な」

ヴァトラーは火乃香の言葉を聞き満足したのか何処かへと消えてしまった。この事件の解決に誰よりも早くリーチをかけた火乃香は、確証を得るために、那月と管理公社を利用することにした。

 

 


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