ストライクザブラッド~ソードダンサーと第四真祖〜 作:ソードダンサー
「なんなんだそのみっともない腕立ては!テメェそれでも○玉ついてるのか!?」
「一々悲鳴をあげるんじゃねぇ!黙ってやれや!」
「顔あげろよ!サボるんじゃねぇ!」
歴戦の勇士達が訓練生に対し怒鳴り散らしながら暴言を吐いている。
ピッ!
笛が一回なったので伏せていた腕を上げ顔を上げバディを見る。
「なんだ?貴様ら?腕が震えているぞ。寒いのか?」
「「「「SIR!YES!SIR」」」」
「そうかなら暖めてやる感謝しろ」
クールな声の持ち主はこの場には似つかわしくない可愛らしい顔をしている。そして首にぶら下げた笛を口にくわえ笛を一回鳴らした。
(クッソ…如何してこうなった)
炎天下の中必死に腕を下げ地面に着きそうなほど体を下げている古城は目の前で候補生達を見下し罵倒している助教達と冷たい視線を浴びせる
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事の発端はアメリカで開かれた祝勝会から火乃香と夏音が帰ってきた時まで遡る。
南宮邸へ帰還した2人の目に飛び込んだ風景は涼しい顔で紅茶を飲む那月と土下座を決め込んでいる古城そして、それを冷たい目で見るアスタルテというなんともカオスな空間が広がっていた。
「姉さん。この状況は?」
「さぁな本人がいるんだから本人に聞けばいいだろう?」
随分と疲れ切った声色をしている。相当前から土下座を決め込んでいたのだろう。
「古城さんや、どうしたんだ?」
「大切な人を守れるだけの力が欲しい」
なにやら切迫した状態のようだ。
「なぜ力を欲する?お前には第四真祖の力がある。なのに何故」
「俺は…この一年で思い知った!自分の弱さを!その弱さのせいで凪沙を守ることができなかった…!結果的に無事だったから良かった。だけど今のままじゃダメだって思ったんだ!うまく言葉に表せないけど…だけど!」
「…わかった、で、俺はお前になにをすればいいんだ?」
「火乃香と同じように戦えるだけの技術が欲しい」
「あー…まじか…困ったな…」
「ダメか?」
涙目で見つめる古城を見て若干キモいと思いながらも火乃香は古城の言わんとすることを正確に捉えていた。
しかし、ほのかと同じポテンシャルを持つということは少なくとも世界屈指の特殊部隊CFFに余裕で入隊できるだけの行動力とリーダーシップそして体力が必要なのだが今の古城にはそれのどれもが圧倒的に不足している。絶対についていけない。そもそもCFFはアメリカ海兵隊特殊部隊NAVY SEALsの理念を色濃く引き継ぎつつ、
故に、火乃香は悩んだ。
約2ヶ月後にCFFへ新たに入隊しようとする候補生に対し行われる養成訓練学校通称BUDsがある。
火乃香は今回は訓練教官として呼ばれているのだが。
「古城…あと2ヶ月でBUDsとヘルウィークに耐えれるだけの体力と精神力そして忍耐をつけるぞ…。一応大佐には話してみる…ただ…1ヶ月後に選抜試験があるから、まずそれに合格するために今からみっちり色々教え込むから覚悟してくれ…それと並行して予備訓練も受けてもらうからそのつもりで」
「え、ちょちょちょ急すぎないか?」
「俺と同じだけ戦えるようになりたいんだったら2ヶ月後にあるBZZの訓練に参加するしかないよ」
「ま、まじか…」
「ちなみに期間は約8ヶ月あって最初の3ヶ月は徹底的に体力と精神を追い詰める訓練が主に行われて古城が学びたがっている戦闘訓練はその後の5ヶ月間だ」
「は!?学校はどうするんだよ!?」
「休学だ」
「な、那月ちゃん…そんなシステム彩海学園にあるのか!?」
「ない、が、BUDsの訓練期間の中で何回か帰省休暇が与えられる。但し一週間程だ」
「古城戦闘訓練ならなんとかなるLCOの特別捜査隊も前半の訓練に参加するから阿夜姐ぇを経由することになるが」
「もしLCOの方から入ると三ヶ月で済むのか?」
「うん」
「なら頼む!三ヶ月なら学業にも支障をきたさない…と思うし…」
「わかった、那月姉さん古城も追加でお願い」
「仕方ないな義弟の頼みだ受けてやろう」
こうして古城は約1ヶ月後に迫った選抜試験に付け焼き刃で挑みギリギリで合格したのだった。
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そして冒頭へと戻る。
「暁古城とか言ったな。貴様は俺の推薦で入れたようなものだ。たかが腕立て750回そこそこだぞ?やる気がないなら帰れ」
「Sir!No!Sir!自分はまだやれます!!」
「そうか。お前らに聞こう!BUDsの教訓はなんだ!?」
「「「「勝者のみが報われる!!!!!」」」」
先ほどまでクールだった火乃香が腹の底から張り上げた声に反射的に答える訓練生達は満身創痍とといったところだろう。
「貴様ら個人がいくら脱落しようとクラス234だけはチームとして生き残っていく!戦場はもっと過酷だぞ!」
こうして地獄のように思える腕立て伏せは合計1000回を超えたあたりでやめになった。後に残ったのは砂浜に手をつけ肩で息をしてびしょ濡れになった訓練生達のみだった。彼らは腕立て伏せをしている間ホースで水温10度の水を定期的かけられていたからだ。
「何を休んでる!?貴様らに休みなどない!」
火乃香がそういった瞬間訓練生達は点呼をしながら整列していく。疲労と寒さで震えているがそれでも容赦なく冷徹なことを吐き出した。
「いいか!次はIBS訓練だ!急いで準備し、スタートラインにつけ!このレースで1着になったチームは2着以降のチームの腕立てが終わるまで休んでいていいぞ!」
こうして足場の悪い砂浜で約1キロを6人1チームがボートを担ぎ競争させる。レースに勝てば休憩。負ければ腕立てと海水に塗れる。
そうすることで勝つこととチームの重要性を訓練生達に無意識のうちに植え付ける。
BUDsが始まった時は100人近くいた訓練生が今では30人程度となってしまった。それだけ訓練がきついが火乃香達にとっては随分と甘くなったと感じている。
初期の頃はヘルウィークが終了した後に輸送機に詰め込まれCFF所有の演習島から約50キロ離れた太平洋のど真ん中の地点に放り出され約二週間サバイバル生活を行うという鬼畜仕様だった。サバイバルだけならばまだしも|自動歩兵〈オートマタ〉の上陸作戦から演習島の防衛任務が与えられたりととにかくそれはもう凄まじかった。そう思いにふけっているとEチームがゴールした。
「ようやく戻ってきたか。貴様らはボートを頭に乗せ立ったまま休憩することを許可してやる」
チームEに続き続々と他のチームが戻ってきた。古城がいるCチームは4番目に到着した。だが2着以降は腕立てをやらなければならない。
これはヘルウィークまで残り10日前の話だった