ただ一つの夢に生きました
―マリ・キュリー―
冨樫との不幸な再会から一週間。
あれ以来、冨樫と会うことは無かった。……まだ一週間しか経っていないが。
意図的にずらしているのか、本当にタイミングが合わないのか、まるで前回の再会が奇跡であるかのように感じた。
警戒している理由はただ一つ。フラグは回収されるからだ。
今日も今日とて駅に向かう。
もちろん警戒は解かない。
部活を終えたあとの帰宅で、ふと時計を見ると、六時を回っていた。
早く帰宅したい気持ちもあって、自然と歩くペースは上がっていた。
いつものように、改札を抜け、エスカレーターに乗る。
ホームに出ると、人が一人もいなくて、気味の悪さを感じたが冨樫たちがいない事に安心した。
次の電車まで三分ほどしかないが、ベンチに座る。
ホームとホームの間に差し込む月明かりにもまた不気味さを感じて、思わず目を閉じた。
そうするとすぐに、こちらに向かう足音が聞こえて、安堵する。
「はぁ、はぁ、間に合った……」
ふいに耳に入った女子っぽい声は、どこかで聞いたことのある声だった。
「ったく、冨樫くんには明日絶対仕返ししてやるんだから」
「富樫くん……」
聞き覚えのある名前に、つい口を滑らせた。俺とその女子との距離は約一メートル。十分に聞こえる距離だ。
俺は聞こえてないことを願いつつ、なぜか見覚えのある彼女を必死に思い出そうとした。
「え?」
こちらを凝視する女子。
実は俺モテるんじゃ! なんて余裕は今の俺にはない。
「すみません、富樫って名前のヤツが知り合いにいて……、ちょうどあなたと同じ制服の――」
弁解していると、突然、目の前の女子が動揺し始めた。
「あ、そうですか! 気にしないでください! それでは!」
急に元気に、というよりなにか焦りを感じ始めたようだ。
彼女は話を挟む間もなく、ホームを今いる位置とは逆に歩きはじめた。
――何かを落として。
癖というか、小町の教育の賜物というか、俺はすぐに拾った。まあ、色々言いましたけど、常識でしたね。
落し物が何なのか、自分の影でうまく見えなくて、光に照らす。
だが、つい手を滑らしてしまった。ちょうど明るいところに落ちて、開いたそれを見る。いや、見てしまった。不可抗力だ。
由比ヶ浜が隣にいたのなら、ふかこーりょ? と聞かれているところだが、そんなことよりもその落し物は俺の目を引き付けた。
落し物を渡す為に彼女に視線を送る。
彼女は、ここより少し進んだところに立ち止まっていた。
確か、あそこは六両目の停止位置。
同時にアナウンスが流れる。
『ただ今、快速列車待ち合わせのため、三分ほど遅れて運転しております。お急ぎのところ、ご迷惑をおかけ致しますことをお詫び申し上げます』
『なお、次の列車は普通列車、三両編成となっております』
ほら、戻ってこい。……丹生谷森夏。
クロスオーバーのSSって書くのが楽しいんですよ。書いてみると分かりますけど、自分の好きな、表現したい世界が作れるんですね。
それが、自分の作ったというより、本当に存在するって思えるんですよ。
文章に違和感なくするのって大変です(笑)