―Victor Hugo―
『真の恋の兆候は、男においては臆病さに、女は大胆さにある』
だーくふぇありーふぇすてぃばる! ぜんぺん!
夏休みを終えると、ちらほらと文化祭の話が上がり始めた。総武校は伝統的に九月に文化祭が執り行われるため、LHRなんかも文化祭一色となる。
今もまさにそういう状態で。
「じゃあ今年の文化祭実行委員は去年に引き続き、相模さんとヒキタニくんでー」
音頭をとっている海老名さんが声高に言う。言われた相模はガタガタと大きな音を立てながら大げさに立ち上がった。
「え、ちょっと待って私は……」
言い淀んだ相模はしきりに俺の方を確認する。分かってるよ、嫌だよね。
相模が視線を前に戻すと海老名さんはメガネの位置を中指で少し上げながらにこりと微笑んだ。
「協力してるんだけど?」
「やりたいです……」
相模は渋々席に座った。
さすが海老名さん。意味はよくわからないが敵には回せない。
「ひ、比企谷はいいの……?」
相模はモジモジしながら頬を赤く染めこちらを見る。
「お、おう……」
なんだおい、ちょっと可愛いな。
× × ×
『5日は文化祭なんだが来るか?』
ぴろりんと通知音が鳴って、表示されたのは比企谷からのメールだった。
『もちろん行くわよ』
『そうか』
『お洒落していくから楽しみにしててね』
『いやお前、何故か雪ノ下たちに敵視されてるから目立つことはしない方がいいぞ』
『んーじゃあ、制服で行こっかな』
『ほかの奴らも誘うのか?』
『うん、まあ、一応誘っておく』
『了解』
短い返事が来て、一旦途切れた。
総武の文化祭行く? と面倒なので全員一斉に送ると、一分も経たぬうちに返信があった。
『当然。我が盟約の相手、ダークフレイムマスターのオールドフレンドに会うためなら』
誰からかは、名前を見るまでもなく分かる。私はため息をついてスマホをベッドに放り投げた。
「というか、何でもカタカナにすればかっこいいと思ってるのかしら……」
独りごちっていると、再度通知音が私の耳に届いた。私はまたスマホを手に取る。
『行くデス!』
単純に頭悪そう。
× × ×
文化祭マジック。
文化祭の時期になると妙にカップルが増えるというあれだ。
夜遅くなったり、異性といる時間が増えるからなのか、文化祭に向かうほど比例してカップルが増える。
実際、冨樫くんと小鳥遊さんが付き合い始めたのも文化祭の時期だった。
まあ、私たちは違うけど……。
私はいつも学校に行くのと反対方向に自転車を走らせていた。見慣れない景色に妙な気持ちの高ぶりを感じていた。同じような住宅街のはずなのに、同じような道路のはずなのに、私は不思議な気持ちになった。
――そういえば、比企谷とは未だ手さえも繋いでいない。
今の景色みたいにしたらいいのかな。何となく景色にあてられたのか、私は感傷的な気分になっていた。
まあ、でもこれからだし?
しばらく進むと、大きく「総武高校文化祭」と書かれた看板が手前に見えた。
私は自転車を駐輪場に止めると、ゆっくり昇降口に向かう。
比企谷に会えないかな、なんて考えながら。
文化祭に行くという約束さえしたけれど、どこで会うか、とか具体的な約束は何もしていない。比企谷がどこかのクラスの演劇の受付をやっていることは教えてもらった。ちなみに去年盛況だったため、今年も演劇になったそうだけど、内容の濃さと一般の人には向かない嗜好があるからと、出来るだけ見ないように言われている。
ぼーっと歩いていると、校舎の陰になっているところで――自動販売機があって人が来ないわけではなさそうな――男女がいるのが見えた。逢瀬とでもいうのだろうか。
総武の制服を着た女子の方が、同じ制服の男子に詰め寄っている。しかし、陰になっていて顔が良く見えない。
「なんで付き合ってくれないの?!」
陰にいる意味はあるのかというくらいの大きな声だった。私は息を潜めた。
男子の声は低くてよく聞こえない。
もっとハキハキ喋りなさいよ。
私がそう思ったその瞬間だった。
「いいから付き合ってよ比企谷!」
「……はぁ?!」
雷に打たれたような衝撃が走って、私は一人唸った。
お久しぶりです。
前・中・後編かな。
1話目から最後まで中二病感が薄いので色々終わったら、また別の俺ガイル×中二病出すかもしれないです。内容も薄かったと思っているので(笑)
一応、受験生なのでまあ、ペースは落ちてはいます……。
もう少しで静かに二人の後輩は決意する。も終わりそうです。そちらの方はアフター書くか分かりません、それでも楽しみにしてもらえていると嬉しいです。