心の中で分かっています
人生の目標を教えてくれるのは直感だけ
ただ、それに
耳を傾けない人が多すぎるのです
―バーバラ・ブラハム―
私は部屋でふうとため息をつく。
あれから一ヶ月。
私はすっかりあの男のことを忘れ、普通の学校生活を送っていた。
とはいえ、ため息をつくくらいだから、勿論問題があるのだ。
遡ること一ヶ月。
私は比企谷に救われた。
惚れているか、惚れていないか、という時にあんなことをされたら惚れないわけがない。
いや、かっこよくはなかったけど……。
つまるところ、認めたくはないが、私は恋をしてしまったのだ。
私はただひたすらに、このモヤモヤとした感じを味わっていた。
× × ×
五月に入ると、初夏の心地よい風が吹くようになった。
草花も芽吹き始め、日中は陽が控えめに照らしている。
俺は静かに空気を吸い込む。
――なんか、とても気分がいい。
そう思って、気分良く歩いていると、見知った顔が見えた。
――なんか、とても運が悪い。
物陰に隠れると、そいつが居なくなるのを待った。
だが、奴はセンサーでもついているのか俺の方へ向かってくる。
そして、一言呟く。
「あれー? いたと思ったんだけどな」
……まぢ、ゃばぃ。
× × ×
「行ったか……」
そう確信して、物陰から出る。
俺は今日、千葉まで来ていた。
勿論、千葉県民御用達、千葉駅だ。
理由は当然、小町に頼まれた買い物と本屋に寄ることだ。
新刊も出たらしいしな。
前後編の長編、比企谷団長生殺しだっけ? 単行本だから高そうだけど……。
少し時間喰っちまったかな、と思ってスマホを取り出す。
時間を確認しようと、電源をつけようとした。
だがそれは躊躇われた。
まだ電源をつける前の黒い画面に、横から覗き込むように、さっきのやつが写ったからだ。
くそっ。まだいたのか、と逃げ出す体勢に移る。
だがそれはかなわなかった。
肩を掴まれたのだ。
瞬間的に振り返ると、やつはニコッとして立っていた。
俺は死期を悟った
「よ、よう。丹生谷……」
「よう? それよりさっき気づいてないふりしてたよね?」
「は、はい? 何のことか……」
恐る恐る尋ねる。
だが丹生谷は意に介さない様子で、またにっこりと笑みを浮かべた。
「まあいいわ。代わりに今日の残りは私の買い物に付き合ってもらうから」
「…………はい」
ダサいって? 断れるわけないだろ。
× × ×
「ねえこれどっちがいいと思う?」
丹生谷がウィンドウショッピングを始めて、漸く一時間。
今は二店目のバッグ専門店に来ていた。
ふと値段のカードに視線を送った時、想像していた程度と桁が違った。
そこから俺は静かにしていた。
それでも丹生谷が頻りに俺に尋ね、店員さんが俺を不審な目で見て、実際静かにしていることはできなかった。
おかげで俺は挙動不審に突っ立っていた。
もう四時だよ? 早く終わんねーかな、とか、何で女ってこういうの好きなんだとか考えて、さらに一時間。
「比企谷、次行くよ」
次って……、と思いながら丹生谷の持ち物を見る。
何も持っていない。
「お前、あんなに見てたのにまじでウィンドウショッピングなの?」
「当たり前でしょ。あんなの買えるわけないじゃない」
「さいですか……」
俺が短く返事をすると、丹生谷が突然俺の手を取った。
「さ、さあ。早く行きましょ!」
……顔真っ赤にするくらいならやるなよ。
× × ×
買い物を終えて外に出ると、すっかり陽が落ちて、街灯が路を照らしていた。
だいたい今は八時。
鞄屋を出たのは五時くらいだから、トータルだとかなり長い間付き合わされたな。
あの後は大変だった。
まずはプリクラ。
ゲームセンターに行かされて、ガチオタの本気を見せてやると意気込んだのも束の間。
腐った目が浄化されました。
丹生谷さんも浄化されました。
次はまたウィンドウショッピングに戻り、丹生谷が一人でファッションショー。
こっちは冷めた目で見てるのに、丹生谷は心底楽しそうだった。
ついでに周りからの突き刺さるような視線が痛かった。
そして最後は、晩飯。
まあこれは満足だ。
丹生谷がまさか、なりたけを知っているとは思わなかったしな。
あの時はなんか、好きなものを共有できた感じで、初めて味わった感覚だった。
友達いたら味わえたのか……。
――ここまで考えて、気づく。
危ねえ。騙されるところだった。
最後以外は満足してないな。
俺の休日を潰しやがって……。
恨みがましく丹生谷を見るが、気づいた様子はない。
「今日はありがとね、比企谷」
「おう」
「どう? 楽しかった?」
「…………まあ、楽しくなくもなかったかもな」
「うわっ。出た捻デレ」
何が出たの? と聞くまでもなく、解を出される。
どうやら小町の知り合いはここまで来ているようだ。
「なに、お前まで小町の知り合いなの?」
「小町? お米?」
「米じゃねえよ」
「まあいいわ。駅に急ぎましょ」
「ああ、そうだな」
お互いそう言うと、駅へ急ぐ。
この時間帯は不規則な間隔で電車が来るために、時間を合わせないと面倒なのだ。
「丹生谷も同じ駅で降りるんだよな?」
少し早めに歩きながら問う。
「うん、そう」
丹生谷は短く首肯する。
それに特に返す言葉もなく、俺たちは帰りを急いだ。
× × ×
比企谷と別れてから、だいたい三十分。
私は今お風呂に入っている。
帰ってきた時、時計は九時を回っていて、お母さんには詰問された。
「はぁぁ」
思わず声を漏らす。
今日は偶然、比企谷に会った。
それから無理矢理、ウィンドウショッピングに連れ回したり、……手を繋いだり。
よくあんなことが出来たなと今更ながら思う。
ただ必死だったからかもしれない。
自分の運を繋ぎ止めることに。
なんてかっこよく考えるが、そんなことはない。
恐らく、ただ気持ちが舞い上がっていただけなのだ。
隠すようで隠せない。
今まで馬鹿らしいと思っていたことも今になって分かる。
散々、恋愛ドラマを馬鹿にしてきたが、あながち間違っていないのかもしれない。
――私の空回り恋愛劇場は、これから始まるのだ。
なんか、上手くかけなくて、色んな人が書いたみたいな文章(笑)
少し、時間をあけて投稿しました。
ランキングも、どの作品か忘れましたが、自分の書いてるものが何個か、5位から20位ほどに入りました。
この作品、意外と高評価で嬉しいです。
他に投稿している、俺ガイルとラブライブのクロスオーバーものは、あと一週間もせずに消します。