艦これ海上護衛戦   作:INtention

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夏イベと夏コミの季節ですね。
夏コミでは神威が鹿島のポジションを受け継ぐかと思っていましたが、
サークル応募後に実装されたようで、女王にはなれませんでしたね。
今後も引き続き鹿島(と浜風)の時代が続くんですかねぇ…。

夏イベは社会人+規模がデカすぎるという2点がのしかかっております。


第八話 大規模攻勢作戦

 

横須賀鎮守府を出ると、待っていたのは黒塗りの高級車だった。

 

「長官、どうぞ」

「あぁ…、ありがとう」

 

慣れない車に戸惑うが、座り心地は最高だった。

こんな車が付くのなら長官になるのも悪くないが、この前艦隊を巡った時には公共交通機関を使った気がする。もしかしたら今日が特別なのかも知れない。

横須賀鎮守府がある半島と船越の自衛艦隊司令部までは電車で一駅くらいの距離だ。

どうせならもっと長く乗っていたかった。

 

船越に付くと、応接室に通される。

席に座り、書類を確認していると、垂れ目の士官から声を掛けられた。

 

「あなたが第七艦隊の長官ですか」

「はい、そうです」

「私は磐村と言います」

 

渡された名刺には、

 

防衛省 防衛装備庁

艦娘装備研究所 所長

海上自衛軍少将 磐村清一

 

とある。

服装から武官かと思っていたが、所属は文官らしい。いや、技官と言うべきか。

 

「私は艦娘の建造、装備の開発生産を担当しております」

 

さらりと言ったが、艦娘を建造だと?

 

「まあ、私が好き勝手作れる訳ではないがね」

 

俺の表情を見て磐村は笑いながら言った。

 

「艦娘艤装の生産技術は極秘扱いなんだが、取る当然作るのには当然資源がいる」

「それは、そうかも知れません」

 

艦娘と言えど、どこかから湧いてくる訳ではあるまい。いや?現代の技術水準とかけ離れた艦娘を見ると、本当に湧いてくるのかも知れない。どうなのだろうか…

俺の内心を知ってか知らずでか、磐村は構わず話を続ける。

 

「最近、資源還送率が下がっている。連合艦隊にはシーレーン第一と伝えてるのだが、どうもね」

「磐村さん、ここで批判はあまり…」

 

隣にいた参謀飾緒を付けた士官が注意する。磐村は辺りを見渡した後、声を小さくして言った。

 

「すまない。まあとにかく、資源輸送の重要性が分かる君が護衛部隊を総括してくれるのはありがたい。今後ともよろしく頼む」

「精進致します」

 

磐村はそれだけ言うと、大会議室へ向かった。

 

「ああそうだ。今度工廠に来たまえ。案内するよ」

「ありがとうございます」

 

思わぬ所で偉い人と知り合ったな。

組織で働くに当たってツテは大切だ。別に出世に使うためではなくても思わぬ役に立つ事がある。

艦娘の工廠。

連合艦隊に配属されたからには一度は行っておきたい。

今度アポを取ってみるか。

 

 

 

大会議室へ向かうと、重役がずらりと並んでいた。

会議は軍令部や自衛艦隊司令部を中心に各艦隊の上席が出席している。

自衛艦隊とは、旧軍で言う連合艦隊のような存在である。しかし、現代では艦隊を集合させる機会は少ないため、水上艦隊、潜水艦隊、海軍航空隊、掃海艇群などの大まかなくくりでまとめている。

ちなみに連合艦隊は自衛艦隊の下部組織だ。これは侵略軍では無いというアピールと、反対勢力に現代艦を不要と言わせないためと言われている。

 

会議は定例報告から始まった。

間もなく始まる大規模攻勢についての話が多い。

今回はインド洋掃討作戦だ。敵はスリランカの一部を占領して拠点としているらしく、航行する船舶を脅かしている。当初は小規模な勢力だったが日に日に戦力を増し、今はスリランカ全土が危ないレベルらしい。

ベンガル湾を航行出来なくて一番困るのは、国力が周辺国と一線を画しているインドだ。

スリランカの港を軍港として利用していた中国の人民解放海軍と協同して定期的に敵を掃討しているらしいが、被害も大きく、インド海軍の空母ヴィラートとヴィグラントが沈んでからは消極的になってしまっている。

 

「中国政府から、正式に本作戦への要望が来ております」

 

軍令部の参謀が外務省からの連絡を伝える。

日本の軍拡に苦情を言う中国にしては珍しい気がする。

 

「後方は中国に任せ、敵の撃滅に専念して欲しいとの事です」

「危険な前線を日本に任せ、自分らは悠悠と船団を守る、の間違いだろう?」

 

自衛艦隊の参謀が皮肉った。

 

「民間船に精強さをアピールする目的もあるかと…」

 

軍令部も乗じる。

 

「奴らまた南支那海の制海権を握るつもりかも知れん」

 

自衛隊高官による中国への陰謀論が加速する中、連合艦隊司令長官の高野は護衛艦隊と俺を指して強気の発言をした。

 

「くれてやれ。第三艦隊を抜ければの話だがな。連合艦隊としては、大戦果を上げて国際社会にアピールするだけだ。シーレーンについては護衛艦隊や彼に任せれば良いだろうし。」

 

かなり強引な発言だが、護衛艦隊側は反論しなかった。現代艦しか無い中国軍が艦娘に勝てるとは思っていないからだ。特に今の中国軍は空軍の核ミサイルくらいしか対抗手段はない。もちろん、この時期に中国が攻めて来る訳ないという前提の上での想像だ。

 

中国の真意はともかく、高野の一言で中国の件は好意的に受け止めるという判断で合意した。

連合艦隊司令長官の高野が指示を出し、参謀の一人が退席した。それと同時に須垣が立ち上がり、声を張り上げる。

 

「次に、今月の大規模攻勢についてです」

 

中国と日本の前線の押し付け合いに興味は無いが、大規模作戦は艦隊業務に関わる事だ。俺は背筋を伸ばして説明を聞いた。

 

「まず、本作戦は第十一号作戦と名付けます」

 

もっと格好いい名前を想像していた俺は肩透かしを食らった。何と事務的な名前であろうか。

俺と同じ感想を持った士官は多いようで、会議室がざわめいた。

 

「本作戦名に不満をお持ちの方もいらっしゃるかと思いますが、本作戦の主目的は、敵根拠地を叩くだけでなく、陸自と協力して根拠地の治安維持も含まれます」

 

作戦名が地味なのは、あまり大きく宣伝したくない事情があるからだろう。主目的の一つは陸軍との根拠地の治安維持と言った。つまり占領するという事か。

また国会が荒れそうだ。

 

「作戦は四段階に分かれております」

 

須垣の説明は続く。

 

「まず第一段としまして、巡洋艦戦隊や水雷戦隊による威力偵察を行います」

 

まずは敵を知るという事か。

衛星が使えない今、航空偵察か直接見にいくのが一番効果的だ。

 

「次に、機動部隊を投入し、ベンガル湾の制海権を取ります。これが第二段階です」

「どれくらいの艦隊を投入するんだ」

「一個機動部隊の予定です」

 

投入するのはシンガポールにいる東雲艦隊だろうか。

 

「ベンガル湾を海上封鎖した後、スリランカの港湾を偵察、敵根拠地を叩きます。以上、三段階となっております」

 

掃海艇群の司令長官が立ち上がり、須垣の言葉を引き継ぐ。

 

「連合艦隊の作戦後、輸送艦による上陸作戦を行います」

「空自のオスプレイは投入しないのか?」

 

自衛艦隊の参謀の問いに、掃海艇群長官は淀みなく答える

 

「今回は日本の根拠地が近くにないため、オスプレイでは飛べません」

「空自の力など無くても一航戦が制空権を取るだろう」

「やはり護衛艦隊にも強襲揚陸艦が必要になって来るな」

 

掃海艇群だけでなく連合艦隊や護衛艦隊も揃って空自のエアカバーを一蹴した。

自衛艦隊側も満足そうに見える。

 

艦娘のエアカバーは疑っていないが、疑い一つ持たないのはどうなのだろうか。

敵地に放り込まれる陸軍に同情する。

 

 

 

作戦の是非はともかく、大規模攻勢の全容が分かった。これだけでも今日来た価値がある。

第一段階では多くの駆逐艦が動員されるだろう。その時に何隻動かせるかが問題となりそうだ。

 

 

 

午前の会議は終了し、休憩の後に引き続き会議を行うようだ。

昼食を考えていたが、連合艦隊のメンバーに招集がかかった。

 

小会議室へ向かうと、各艦隊の提督達が集まっていた。

大和や鹿島などの艦娘もいるので、秘書艦も来ているようだ。

 

中心には連合艦隊司令長官の高野、第三艦隊の高橋と足柄を中心にスタッフが議論している。

その一人に水着の若い女性がいるが、艦娘だろうか。普段から海にいるの泳ぎに行くとは物好きだ。

 

そんな事を考えていると、連合艦隊参謀長の須垣が私を見つけ、足早に近寄って来た。

 

「君は第七艦隊の提督だったよな?」

「はい、そうです」

「今後一ヶ月に南支那海を通る船舶はあるか」

「シンガポール行の船団のほとんどが通ります」

「何だと」

 

一般的に知られている事だと思うが、それがどうしたのだろうか。

 

「では来週に南シナ海を通過する船舶の数は」

「は。確認致します」

 

仕事用の携帯を取り出し、艦隊司令部へかけた。

須垣は怪訝な顔をした。

 

「秘書艦はどうした」

「秘書艦」

「連れて来ていないのか?」

 

まるで当然のように言うが、艦娘がいない事を知らないのだろうか。

 

第七艦隊(うち)には艦娘がおりませんので…」

「ん?そうだったか」

「出来たばかりですから」

「そうか。実戦を知っている者の意見は参考になる。君も持つべきだ」

「私自身の経験があります」

「君の場合はそうだろうが…、艦娘の戦闘について、彼女らからの視点を取り入れる必要があると思う」

「なるほど」

「就役したばかりの艦娘を持っても仕方が無いだろうし、他の艦隊から引き抜け」

「引き抜きですか」

「うむ」

 

そう話している内に、司令部へ繋がり、来週の船団の予定を聞く。

 

「参謀長、4船団200隻の予定です。韓国や台湾を含めると6船団290隻に増えます。中国は分かりません」

「多いな」

「主要航路ですから」

「それらをフィリピン寄りにずらしてくれ」

「航路をですか」

「うむ。具体的には南沙諸島の周囲100kmに近づけるな」

 

南沙諸島…かつて中国が実行支配して軍事基地を築いた場所だ。

まさか先程の冗談を本気で考えているのだろうか。

 

「まあ杞憂に過ぎないだろうが、念のためだ」

「畏まりました」

「頼む」

 

須垣は返事を確認すると、話の輪の中へ戻って行った。

 

艦隊司令部へ命令を伝達すると、連合艦隊のスタッフが歩み寄り、外へ出ても良いとの許可が出た。

まだ話し合いは続いているが、もう用済みという事か。

一人黙って立っているのもどうかと思うので外へ出る事にした。

こういう時に秘書艦でもいれば退屈しないのかも知れない。

 

 

 

午後の審議はインドネシア船沈没事故についてだった。

 

自衛艦隊側が概要を説明し、連合艦隊と護衛艦隊が弁論する。

疑惑を追求していくのかと思っていたが、意外にも護衛艦隊が非を認めて謝罪した。

俺も含めて、用意された原稿を読むだけの淡々とした議論だ。

 

発言をした後、薄々理由が分かってきた。

集まっているのは全員海上自衛軍の士官であり、この失態を大事にすれば海軍だけでなく自衛軍全体の不信感に繋がる。

戦時中故に便宜は図られているが、国民の理解あってこその軍隊だという当たり前の事に気がついた。

国防省や軍令部も目線を合わせず、黙って成り行きを見守っている。命令を出す側がこの有様であり、もはや茶番の様相を表している。

 

今回クビを切られたのは呉地方隊の長官や第6護衛隊群の司令などで、名前を聞いた事がある程度の関係の士官だった。

幾分ホッとしたが、淡々と決まった通りに幹部士官が閑職に回されるのを見て、改めて中央組織の怖さを感じた。

こんな会議に出て毎回ヒヤヒヤするより海に出て護衛艦を率いている方がよっぽどいい。

 

 

 

処罰と新しい人事が決まった頃、連合艦隊の黒島が手を上げた。嫌な予感がする。

 




大規模攻勢についての説明やらの回でした。
書いてて思ったのですが、艦娘の出番が無さ過ぎです。
改善策を考えます。

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