艦これ海上護衛戦   作:INtention

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新生活がスタートしました。社会人って時間無いですね。


第五話 南方へ

 

呉で折衝をした日の午後、俺は飛行機に乗っていた。

海上自衛隊時代からある機体としては新しいP-1哨戒機だ。

窓から外を眺めると大編隊が目に入る。

 

深海棲艦が現れてから海だけでなく空も失った人類は簡単に航空機を飛ばす事が出来ない状態になった。

空軍の体を張った活躍で日本の国内線は復帰したが国際線は未だに不安定だ。

少しでも被害を減らすため船が船団を組んだように航空機も編隊を組む。

 

今回のフライトは海軍のP-1哨戒機3機を先頭に空軍のC-1輸送機3機、民間の旅客機9機の編隊だ。

東は成田、西は岩国まで出発地がバラバラなら行き先もグアムからブリスベンまで様々。航空会社も鶴マークやらカンガルーやらでとてもにぎやかだ。

それらの周りを3機のF15が頼もしげにエスコートしている。

日本の領空を出るまではこの百里基地所属の戦闘機のお世話になる。

 

だがそれもつかの間、今度は前から10機のプロペラ機がやって来た。

深い緑色の機体に赤い日の丸が目立つ。

零戦52型という零戦の後期型だそうだ。

胴体に白い帯があるが、1本のと3本のがある。

ファイルを見ると五航戦の大鳳と瑞鶴の搭載機らしい。

眼下には青い海しか見えないがそのどこかに艦娘の機動部隊がいるはずだ。

 

誘導役らしい胴体の細長い3人乗りの偵察機を先頭とした零戦9機が護衛に付くとF15はバンクして反転して行った。

一般の乗客からすればジェット機から時代おくれのプロペラ機になって不安だろうが、生存率は確実にこちらの方が高い。

相変わらずよく分からない技術だ。

 

 

 

もうすぐトラックというところで機内に緊急無線が鳴り響いた。

何事かと辺りを見渡すと、操縦士が振り返って大声を上げた。

 

「敵機が向かって来ています。シートベルトをきちんと締めて下さい!」

 

副操縦士の呼びかけに頷き、シートベルトを確かめる。外を見ると直衛の零戦の内6機が増速して行き、彼方へ消えた。

 

「"ヤツら"ですか」

「ええ。強硬偵察隊だと思いますので、まだ大丈夫だと思いますが」

「という事は戦闘機を差し向けて来るという事ですか」

「でしょうね。しかしこちらも護衛を増やすと機動部隊から通信が来ています」

「そうですか」

 

それを聞いて俺はホッとした。今死ぬ訳にはいかない。ほとんど無抵抗の哨戒機で撃墜されるなどもってのほかだ。

 

「着きました!チューク諸島です」

 

再び窓から見下ろすとサンゴ礁に囲まれた環礁が見えてきた。ミクロネシア連邦のチューク諸島だ。

どうやら襲撃より早く降りられそうで安心した。

この環礁は深海棲艦の攻撃で被害を受けてから米軍から譲り受けて、海軍の拠点となっている。漁村程度の島だったが、今は再び東洋のジブラルタルと言える規模になっている。

 

俺を載せたP-1は一番大きな島にある旧チューク国際空港に向けて降下を始めた。

着陸して空港に降り立つと熱気が体を包んだ。ここが南国だと思い知らされる。

空港には士官が数人迎えに来ていた。

 

「ようこそ春島第一飛行場へ!」

「出迎えありがとうございます」

「私は南洋地域を担当しております、第四艦隊司令長官の井上重芳(いのうえしげよし)少将です」

「はじめまして」

 

敬礼と挨拶を済ます。

 

「敵機遭遇の連絡を受けた時は心配しましたが全機が無事でなによりです」

 

後ろでは残りのP-1やC-1が次々降りて来ていた。

 

「ここでは騒がしいので司令部へ行きませんか」

「そうですね」

 

そう言いながら向かったのは桟橋だった。

そこには旧軍時代なら長官艇と呼べそうな小型ながらも立派な船が待っていた。ポールには日の丸や少将旗が上がっている。

室内も立派な物で、これだけのためにいくら国税を使ったのか気になってしまった。

 

「司令部は春島では無いのですか?」

「ええ、隣の夏島にあります。旧軍の時代からそうなんです」

「へえ」

「本当は春島は現地住民が多いので避けているだけですが」

「ああなるほど」

 

一機のC-1が春島では無く夏島に降下していた。

 

「あれ、夏島にも飛行場があるのですか」

「はい。小さいのが一つあります。滑走路しか無いですし、司令長官は国際空港でお迎えすべきと思ったのですが、こちらの方がよろしかったですか」

「いえいえ、良いのです。初めて来たものですから勝手が分からなくて…」

「良い所ですよ。攻撃が無ければ平和で過ごしやすい地域です」

「……」

 

一見平和そうだが、先ほどの偵察機騒ぎがあったようにここは前線から程近い。

しかし海軍以外の戦力、例えば空軍の高射隊などが進出しているとは聞いていない。

 

「ここの防空体制はどうなているのですか」

「対空レーダーに艦娘達の艦載機となっています」

「前時代的ですね」

「そうですね。でも下手にイージスやらSM-6を飛ばすより確実なんですよ」

「そんな物ですか」

 

井上は笑いながら長官室へ入る。

広くはないが綺麗に整頓されている。

 

「鹿島、帰ったぞ」

「あらおかえりなさい提督」

 

鹿島…、確か第四艦隊旗艦だったか。

ウエーブのかかった銀髪に旧軍時代の礼服のように豪華な制服が目立つ艦娘だった。

大和、高雄と来て鹿島を見ると豊かな体つきじゃないと秘書艦にはなれないのだろうか、と思ってしまう。

 

「あなたはどちら様?」

「私は第七艦隊の司令長官をしている…」

「ああ。新しい艦隊の」

 

最後まで言う前に思い当たったようだ。俺も上層部では名が知れてるのかも知れない。

 

「そうです。以後お見知りおきを」

「よろしくお願いします」

「それで、今日はどんな御用向きで?」

 

井上が早々に本題に入ってくれたので、俺も目的を話した。

 

「なるほど、駆逐隊をね」

「以前は出されていなかったかと思われますが…」

「私は出そうと言ったのよ」

「しかし出す訳には…」

「どうして」

 

問い詰めるつもりは無かったが鹿島と井上が言い争いを始めてしまった。

逆に何か出せない理由でもあるのだろうかと気になってしまう。

 

「だってあんなのおかしいじゃない!」

「いいや。君のためを思ってさ!」

 

鹿島のためとは?

一体どういう事なのか。

 

「それにこの海域だって敵は攻めて来るんだよ?」

「そうだけど、いつもじゃないわ」

「駆逐隊を出したら誰がトラックを守るんだ」

「天龍達がいるでしょう?」

「たったの軽巡2隻だぞ」

「その前に第二機動部隊が守ってくれるわよ。今だってエアカバーは大鳳さん達に任せっきりじゃない!」

 

長くなりそうだな。この間俺は完全に蚊帳の外だ。

別に常に話題の中心にありたいなどとは思っていないが何の話かもついてゆけない状態は好きじゃない。

 

「あのー…」

「あ、すみません」

「失礼…」

 

やっと俺が目の前にいた事を思い出したようだ。良かった良かった。

 

「なぜ駆逐隊を出さなかったのかという理由をお聞かせ頂くことは可能ですか?」

「そうよ。一回彼に話してみましょうよ」

「そうだな。彼なら分かってもらえるはずだ」

 

何を分かるのだろうか。

鹿島はそのあらましを話してくれた。

 

「まだソロモン海域まで進出していなかった頃はこの第四艦隊が最前線だったのです」

「そう聞いています」

「その時はかなりの戦力を持っていたらしいのだけど、範囲が広がってからは第八艦隊に分かれて、重巡の主力はそちらに行ってしまったのよ」

「なるほど」

「以前は余裕があったし、第二艦隊がよく来ていたから水雷戦隊を遠征に出していたのだけれど」

「今は戦力的に厳しいと」

「まあそうね。でも最前線じゃなくなったからむしろ暇な日が多いわ。だから遠征くらいになら出してもいいんだけど」

「第五水雷戦隊を出したら鹿島をどう守るんだい?」

 

井上は鹿島を大切に想っているのだろう。その主張も分からなくはない。

 

「でも提督は私を中心とした輪形陣で戦わせようとするのよ!」

 

輪形陣…

輪形陣は護衛の対象を守るには最適だ。対空・対潜共に優れるが…

 

「…もしかして輪形陣で砲雷撃戦を?」

「そうなのよ」

「はえ~…」

 

鹿島は確か練習巡洋艦。燃費は良いが火力は軽巡以下だ。

それを駆逐艦が囲む。味方が邪魔で砲撃の狙いは付け辛いし、雷撃などに至っては撃てもしないだろう。

一体どういう事なのか。

 

一体どういう事なのか。(三回目)

 

「ちょっとよく分からないですね…」

 

そもそも練習巡洋艦が砲撃戦に出る時点で終わっているのだが、彼女の吊り目気味の視線に射抜かれるとそうは言えなかった。

情けないとは思うが、駆逐艦を借りねばならないという目的を思い出し、鹿島側に付くことにした。

鹿島の輪形陣はありえないし、理論的に間違ってはいないだろう。

 

「鹿島さんが中心の輪形陣はちょっと…」

「ほら言った通りじゃない!」

 

鹿島が得意げに胸を張る。

 

「君には失望したよ。だから一人も艦娘がいないんだ」

「と言われましても…。この前配属されたばかりなので…」

 

なぜか俺へ飛び火した。完全に八つ当たりだ。気にしてはいるがこの件とは関係ないじゃないか。

不本意だが井上提督からの評価が下がってしまった。でも我慢するしかない。少なくとも鹿島の後ろ盾は得られそうだ。

それを踏まえてお互いに良い条件を考える。

 

「えっと、現状は第二機動部隊が守ってくれてるのですよね?」

「そうだな」

「では、第二機動部隊の長官にそれを確約して頂ければ、水雷戦隊を出してもよいのでは」

「まあそうなるな」

「分かりました。ではそちらの長官に会ってきます」

 

上手くまとめたつもりだが、内心は早くここから出たいだけだったりする。

俺は逃げるように司令長官室を出た。

 

 

 

 

第二機動部隊は同じ建物に司令部を構えているらしい。

保科にアポをお願いすると、幸運な事に少しならば今日中に会える事になった。

時間になり、司令長官室に入ると二人の士官が地図を広げて長官に話していた。

 

「午前の敵機はこの地域から出撃した模様」

「偵察は出したか」

「ええ。ヌ級が数隻でした」

「その程度か。潰しておけ」

「承知しました。四航戦を出します」

 

連絡が終わったのか、こちらに会釈をして足早に部屋を出て行った。

 

「慌ただしくてすまない。今コーヒーを持ってこさせよう」

「お構いなく」

「私は第二機動部隊を指揮している大澤だ、よろしく」

 

しかめっ面で厳ついが真面目そうな人だった。

互いに自己紹介が終わった頃、女性がコーヒーを運んで来た。

銀髪の背が高い女性だった。巫女さんのような赤い袴の和服を着ている。

日の丸の鉢巻きなど気になる点はあるが、一番目をひくのが眼帯をしている事だった。

よく見るとあざだらけで痛々しい。

 

「大丈夫ですか」

「少し怪我をしてしまって…」

「翔鶴はよく怪我をするんだ。気にしないでくれ」

 

そう言われても気になるものは気になる。

 

「妹の瑞鶴はいつも元気なのだけど…」

 

瑞鶴と言えば幸運の空母として有名だ。翔鶴はその姉らしい。

正規空母だからか当然のように豊かな体つきをしている。やっぱりこうじゃないと秘書艦になれないに違いない。

 

「今五航戦が出ているが、怪我している翔鶴は秘書艦をしてもらっている」

「いつもは大鳳が秘書艦をやっているのだけれど」

 

大鳳。見た事がないが昔の横綱で同じ名前の力士がいた気がする。さぞかし強そうで…

 

「それで、何の用かね」

 

忘れかけていたが別に空母を見に来た訳じゃない。トラック地域のエアカバーと海上制圧を確約してもらわないければならない。

俺はそれを切り出すと大澤と翔鶴は顔を見合わせた。

 

「井上君に交渉しているのか。君も大変だなぁ」

「と言いますと」

「彼は有能なのだが鹿島の事になると周りが見えなくなるのだよ」

 

それは提督としてどうなのだろうか…。

 

「そのせいで彼が指揮したMO作戦は失敗しかけたし」

「祥鳳さんが大破した時はどうなるかと思いました」

 

MO作戦はパプアニューギニアの首都ポートモレスビーを救出する作戦だったはずだ。正規空母2隻を派遣していたと聞いているが翔鶴達の事らしい。

 

「そのせいで一航艦長官の東雲(しののめ)さんなんて何度も"殺すぞ"と迫ったらしい」

「瑞鶴と止めるのが大変でした」

「まあそんなやつだ。でも長い期間第四艦隊(4F)を任されてるんだから仕事は出来るはずだ」

 

あの雰囲気で仕事は出来る、表と裏がある性格なのかも知れない。と言う事は自分から貰いに行くのが億劫な確約を俺に取りに行かせるよう仕向けたのはわざとなのか。考え過ぎだろうか。

 

「それで、何をすればいいのかな?」

「第二機動部隊に南洋地域の制空権、制海権を獲って欲しいそうです」

第四艦隊(4F)の仕事を丸投げかい?」

「いえ、迎撃はするそうですが戦力が心もとないので積極的に出られないそうです」

「なるほどな。艦娘じゃなければ年は婆さんレベルばかりだからな」

 

婆さんとは思い切った発言をする。

確かに旧式ばかりであり、一番若いのが鹿島の可能性もある。

俺は翔鶴を盗み見た。顔に笑みを貼り付けたまま固まっている。気付かなかった事にしよう。

 

「いかがですか」

「ふむ。戦力はあるし出来なくはない」

「本当ですか!」

「しかしねぇ。艦娘もタダで動けないのだよ」

「燃料弾薬なら…」

「それよりも」

「鉄ですか?」

「いや、どちらかと言えば飛行機だよ」

 

大澤の言いたい事はよく分かる。

しかしそれは調達しにくいものだ。

 

「ボーキサイトなら…」

「原石やアルミを貰っても仕方ないだろう?」

「ええ。そうですけど」

「原石を精錬し、アルミで飛行機を作るそうしてやっと艦隊で使える代物になるのだよ」

 

井上が欲しいのはボーキサイトではなく航空機。

考えれば当たり前の話だ。ボーキサイトやアルミ板を渡してもそれで戦える訳ではない。

空母の命と言えばボーキと海軍士官は条件反射として出て来るが、空母は戦艦と同じで重油で動くし、艦娘自身の食事も人間と変わらない物を食べると聞く。なぜボーキと結び付けられているのだろう。今度誰かに聞いてみようか。

 

しかし困った。

俺が管理しているのは資源地から本土まで。製鉄所から工場がある街まで運ぶ事もあるので、アルミ板まではなんとか工面出来る。

しかし、空母を持っていない(艦娘すらいないが)ので、航空機は補給申請出来ないのだ。大澤にその事を話す。

 

「なるほど。確かに君に頼むのは無理な話かも知れない」

「すみません」

「本気で言っていないから良い。燃料は多めにくれるのだな?」

「ええ」

「分かった。翔鶴、文書にしてくれ」

「かしこまりました」

 

翔鶴が部屋を出ると二人きりになった。

大澤は俺よりは年上だが若い方だろう。話し合いの際はやり手に見えたが、一人になると元の若さが浮き出してくるようだ。

彼はコーヒーを飲むとポツリと言った

 

「そうだ。君は南洋まで物資を輸送する時はどうしているか知っているか」

「はい。資源を本土に輸送する帰りに資材を輸送しています」

「しかしグアムやフィリピンまでしかいかないだろう」

「護衛艦隊から聞いている情報では」

「やっぱりな」

「え…」

 

聞き返そうとしたが翔鶴が戻って来た。

大澤は翔鶴と頷き合う。

持って来た書類に押印すると俺に差し出した。

交渉成立だ。

 

「貸し一つな」

「分かっています」

 

残っていたコーヒーを飲み干したが冷めていて美味しくなかった。

 

 

 

「素晴らしい!こんな簡単に約束を取り付けるなんて。流石歴戦の提督ですね」

「やりましたわね提督」

 

なんだこの夫婦…。もちろん実際の夫婦ではないが。

 

「それで…駆逐隊の件は」

「いいですよ」

 

あっさりと許可が出た。約束とは言え先程の態度とは打って変わっている。

 

「2個駆逐隊を貸すけれど、六水戦の所属はここだから夕張は置いて行ってもらうよ」

「分かりました」

 

第六水雷戦隊は

夕張

23駆 菊月、卯月

30駆 睦月、如月、弥生、望月

 

で構成されている。2個駆逐隊を引き抜けば水雷戦隊はカラになる。だが書類上の所属は残すようだ。

どうせなら水雷戦隊ごと貸してくれれば良いのにと思うが、今回は貸してくれただけで満足しておこう。

三箇所周ったので後は一箇所だ。簡単にまとまれば良いが…。

 

 

 

トラックを後にした俺は再びP-1に乗り、岩国まで帰って来た。

 

「お疲れ様です。次は佐世保ですね」

「次が最後か」

「第三艦隊は厳しいかも知れませんよ」

 

俺は基地の回線を使って横須賀の保科参謀長と連絡を取っていた。

 

「というと?」

「性格に難ありと言いますか…」

「えぇ…」

 

やっぱり面倒くさそうじゃないか!




横綱の大鵬は空母の大鳳とは漢字が違います。知ってると思いますけど。

大鳳って加賀より全長・全幅・排水量共に大きいのですが貧相な体なのは何でですかね。装甲空母なのに上部装甲が無いのはどうなのかなって。
絵師さんがあの人なので仕方ないなと思ってましたけど、グラーフも同じ人…なんでや。
…という愚痴でした。disりましたけど大鳳は好きですよ?練度は上から3位ですし。

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