馬鹿。
非常に甘美な響きである。
どれくらい甘美な響きかというと、プッチンプリンのカラメル並みだ。
俺は小さい頃から馬鹿だった。
学習面でもさることながら、全裸で川を渡ったりしたもので、懐かしい。
だが、腹が減っては馬鹿も流石に疲労する。
薄目を横に向けると、黒い刀身のレイピアを手入れする銀髪の美少女が座っていた。
「ふわぁーわ」
顔と見かけによらず、可愛らしいあくびをし、んっーと腕を伸ばすアヴェンジャー。
「死なれたら困るし、まだ寝ててください」
ツンデレなのか、よく分からないネ!
木って感じの場所だ、少しかび臭い。
ふと、右手に目をやる。
赤い令呪が手に刻まれ、結構ヒリヒリしてむず痒い。
「その程度で痛がらないでください、だらしないですね」
辛辣だねぇ、だがそこがいい!
とまぁ、後々から落としていけばよいのだ!
「さて……と」
スッとアベンジャーが立ち上がり、蔵の扉を少し開けて、外の様子を伺う。
熱気が一気に入ってきた、熱い。
「そろそろ火の手が伸びてきます、行きますよ」
えー、立ち上がれなぁい。
足痛いんだもぉん!
「チッ」
舌打ちした、今マスターに舌打ちしたよ、この子!
お母さんはそんな娘に育てた覚えはありません!
「ほら、手を貸してあげますから?」
顔が引き攣り、目に怒りが篭っている。
あれぇ?怒らせるようなことしたっけ?
黒いガントレットを着けた手を貸してもらい、なんとか立ち上がり、蔵から歩いて出る。
「よーし、ッ!」
のしかかった様な、この足の違和感は……。
「マスター、どうしました?早く行きましょう?」
不敵な笑みを浮かべ、俺の足をグリグリと踏んでいるアヴェンジャー。
くそぅ!なんで俺がぁ!
「るーんるーんるるーん」
アヴェンジャーが蔵から取ってきた日本刀をぶんぶん振り回しながら歩く。
重いけど、懐かしいなぁ。
そう、あれは幼稚園の時……。
ホワワワン
「うぇーい!」
俺は、昼休みの遊び時間に、木にあるものが付いているのを見つけた。
「おお?こりぇは!」
ゴキブリである。
ゴキブリは全世界の人類最終危機的生物と知っていたので、足元に落ちていた虫食いされた木の棒で戦闘を挑むこととした。
奴は、あらゆる手を使い、縦横無尽に飛び回り、バシバシと攻撃してきた。
しかし、俺も負ける訳にはいかない!
「
「ブゥーン!?ブブブブブゥーン!!」
ゴキブリに対して放った俺の宝具。
ゴキブリは木の幹に打ち付けられてなお、力を見せつけてくる。
「そうか、おまえはそうなのだな」
「ぶぅん!」
ゴキブリは地面に足を付け、目をこちらに向けてくる。
「
カサカサカサカサとこちらに向かってくる。
成る程な。
「こい!ライダァァ!」
「
黄昏時。
「■■ちゃん、帰るわよー」
「はーい、ママーン!」
俺は、母の元に駆け寄る前にふと手を見つめた。
一人の英雄を殺してしまったこの手。
俺は……変れたんだろうか……と。
「ねぇ、マスター。気持ち悪い話はしないでくれない?」
な、なんだと!?
「気持ち悪くなんかない!あいつは、ゴキブリは、本当の英雄だったんだ!」
「いや、あんたにとってはそうなのでしょうけど、余程の馬鹿じゃない限り、気持ち悪いと思うのが普通でしょ?」
クッ、分からない野郎だ!
「マスター」
アヴェンジャーが声色を低くする。
なんだ、この差別主義者。
「……はぁ、あれを見てください」
アヴェンジャーが指を指した先には
なんか黒いのと戦っている白い奴らがいた。
ゴキブリ
かつて幼稚園の床下に生まれ、百足をも制した幼稚園の虫王。
その戦闘力は、普通のクロゴキブリの比ではない。