一人、魔術師の子供がいた。
どうしようもない程子供だったが、愛された。
その名は、山岡正義。
平凡で、当たり障りのない名前だが、彼は気に入っていた。
だが、魔術師であった両親が死んだ。
買い物帰りに、狂った魔術師から攻撃魔術を当てられ、死んだのだ。
古くからある館の机の引き出しに入っていた古ぼけているものの、常人を一撃でノックダウンさせる強化を施された魔術師の護身用ペンナイフ。
彼はそれを、何年も前に、たまたま見つけ、常に持ち運び、そして鋭利な刃を反射的に犯人の腹に突き刺した。
強化により増大された威力は、ヤワな魔術師はあっさりと倒れて絶命した。
まだ幼いということと犯罪者を殺したということで過剰防衛扱いの保護観察及び精神病院送りとなった。
しかし、彼はひとつ思ったのだ。
何故、俺が精神病院送りにされなければいけない。正しい事をしただけなのに。
そして、彼は牢獄のような病院で、あることをした。
ひたすら魔法陣をベッドの裏に書く、ということだ。
持ち込んだ召喚魔法の本に書かれていた魔法陣、生憎、マジックペンは持ち込んでいたので、古今東西ありとあらゆる大陸、国の魔法陣をミニチュアにしながら書きまくった。
結果、あるものが召喚された。
名も無き民族に伝承されしおとぎ話の英雄。
ラ・ガール。
マイナー過ぎて世界でも極僅かしか知らないような英雄が召喚されたのだ。
「マスター、私は何をすればいい?」
真夜中の病室、一振りの装飾されたナイフを携えたアラビア風の服装をした褐色肌の中年男。
彼は答えた。
「この病院を火の海にしてくれ」
火炎が燃え盛り、逃げ惑う人々をその毒煙と高熱で生命機能を停止させる。
これこそが恐ろしき人の作り出した魔だった。
「いい気分だ!フハハ!ハハハハハ!」
彼は笑った、だが。
あるものに突き飛ばされた。
「え?」
落下感が体を襲い、風景をスローにさせる。
そして、彼は地べたに体を打ち付けた。
立てないことはないが激痛である。
ガクガクと体を震わせる彼に、彼を突き飛ばした、"馬鹿"はこう言った。
「よぉ!やってくれちゃってるじゃん!」
その馬鹿は、この状況下でありながらも笑っていたが、目は、怒りに満ちていた。
「俺は、真っ当な善人じゃないけどさ。こういう無差別は大嫌いな訳よ」
馬鹿は足元に落ちていた、煤汚れた注射器を拾う。
近くに落ちていた、少し黒焦げた崩れた段ボール箱には、安 用 薬品と所々汚れながらも書かれている。
「だからさ」
馬鹿は、注射器に段ボール箱から取り出した薬品の瓶の中に入った少し褐色がかった液を注入させていた。
や、やめてくれ。
やめて!やめてくれ!
「償えよ」
そのまま、馬鹿はその注射器を、彼の首筋に突き刺した。
「ん……あ」
黒焦げの中から発見された一人の男の子。
彼はある魔術師の家に引き取られ、こう名付けられる。
藤丸立香と。