Fate/the fool【完結済】   作:処炉崙霸β

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馬鹿と獅子心王

 「疑問に思わないか?」

 

「何が?」

 焚き火が燃え盛り、薪を喰い、火を強める。

さながら、飢えた獣のように。

 

「マスターだ。恐らく、マスターは……前世がある」

 アルトリアの澄んだハープの様な声は、静かに言葉を紡いだ。

 

「当たり前じゃない?聖杯で転生したんでしょ?」

 疑問を投げかける美しい声のジャンヌ。

 

「いや、そうじゃない。マスターは、彼は。魂が常人ではない程に歳を取っている」

 

「そんなこと言ったって。ねぇ?マスターが何か言わないと」

 

「そのとぉーり!よくぞ見抜いたアルトリア!」 

 ガバッという擬音がそのまま似合う音でハンモックからグリコの某アスリートの様な姿で立った。

 

「何を隠そう、俺は……傍観者なのだ!」

 

「「傍観者?」」

 

「そのとぉーり!現代日本でトラックに引かれて何かは知らんがどっかの1市民!そこから、エジプト、ブリテン、帝政ロシア、バビロニアなど!古今東西幾千年もの時代、時の王や英雄を見てきたんだ!」

 その言葉は、軽く言っているようで、彼女たちには酷く辛く聞こえた。

 

「で、では!マスターは、死んでは新しい生を繰り返したというのですか!」

 

「おう、カッコいいだろ?」

 この男は軽く言うが、それは並大抵のことではない。

自殺したとしても新しい生というのならば、それは地獄とも言えるのだ。

 

「時には円卓の騎士、時には1市民、時には盗賊!いろんな生を生きてきたなぁ」

 その言葉に、アルトリアは耳を疑った。

 

「えんたくの…きし?」

 

「13人目いただろ?覚えてない?寂しいなぁ!寂しいなぁ!」

 その言葉を聞いた瞬間、アルトリアの脳裏には様々な情景が浮かび上がった。

 

 

「ランスロット!モードレッド!ガウェイン!何故何故!皆が!」

 ガムランの丘、エクスカリバーを支えにして、ひたすらに泣き叫ぶ王だった少女。

 

 そこに、ある者が立ち寄った。

特別強くもなく、ただ、特別弱いわけでも、魔術もロクに使えないわけではない、ただの少し強いだけの騎士。

 

 鉄バケツのような顔を覆い隠す兜に、地上戦も出来るように鎖帷子と鎧を合わせた物を着ている。

 

 手には血塗れのサビの浮き出た、名も無きロングソードを携え、ひび割れた盾をもう片方の腕に取り付けていた。

 

「ひぐっ!ひぐっ!え?貴方は!」

 他の騎士たちには見向きもされなかったこの騎士は、ただ一人。

 

 アーサ王には覚えてもらえていた。

異例の13人目の円卓の騎士。

 

 ローザ卿である。

 

「何故、貴公が!こうしてはいられない!早く!ここから抜け出そう!」

 微かな希望を見出し、涙を拭った騎士王。

だが、この男はこう言った。

 

My King, I can not do it(我が王よ、私はそれをすることは出来ません)

 騎士王は、目を見開き、驚いた顔をした。

 

「Sorry」

 そう言いながら、騎士は自らの胸にロングソードを思い切り突き刺した。

 

 慌てて剣を抜こうとする騎士王だったが、騎士は優しく騎士王の手にガントレットを付けた手を乗せ、首をゆっくりと振った。

 

 

 

 

 死んだ。

最後の騎士までも。

 

 私のせいで。

私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで私のせいで!

 

「あああああああああああああああああ!!!」

 横たわる騎士は、静かに騎士王の手の甲に鉄兜のまま口づけをして、そのまま眠っていた。

 

 手の甲のキスは敬愛。

奇しくも、忠誠は死の最後まで存在していた。

 

 

 

「何故!あそこで!自殺を!」

 急に声を荒げたアルトリアに対し、この男はこう答えた。

 

「シナリオ通りだよ、シナリオ」

 そう、彼は何度も転生するたびにシナリオを与えられた。

 

 それに反すれば体中が焼け爛れるような激痛に襲われながら、勝手に体が動き、そのシナリオを遂行しようとする。

 

 だが、彼には唯一シナリオが存在しなかった転生先があったという。

 

「リチャード1世。ご存知?」

 

「知らぬも何も、12世紀のイングランドの王でしょ?知ってるわよ」

 ジャンヌは何気なく言葉を返す。 

 

「あれ俺」

 全員、こいつ以外呆けた顔になる。 

 

「え、はえ?ま、ますたー!じょ、じょうだんが」

 流石のアルトリアも焦る。

そう、なんと目の前の男が王だったというのだ。

 

「何を隠そう、我こそが獅子心王リチャード一世!戦争大好き!今の俺の人格を作った大事な転生先ぞよ!」

 

「いやぁ、俺のエクスカリバーどこ行ったかなぁ。マジで」

 因みに、リチャード一世は自らの懐剣をエクスカリバーと呼んでいたという、さすがの厨二病である。

 

 しかし、カリスママシマシのイケメンだと思ってたら話を聞いていくに連れ、真実が見えてくる。

 

 まず、サラディンに対して滅茶苦茶汚い手使いながらこちらから一方的に争った。

でも、あいつは俺のこと讃えてくれた、マジ感謝。

 

 弓矢撃たれた伝承あるけど、あれは単に兵士が射撃訓練してるところに勝手に的の前に走って行ったら刺さった。

 

 という感じなのだ。

 

「マスター、ちなみに小さい頃のあだ名は?」

 

「馬鹿王子(笑)」

 夜は明けていく。

 

 

 

 

 




セイバー

 真名 リチャード一世(774)

宝具 約束された勝利の栄光剣(エクスカリバー・ジーク)

宝具レベル A
 エクスカリバーの名前を冠する別の剣でありながらも恐ろしい力を誇る宝具。

 ありとあらゆる戦場を勝利へと導いたリチャード一世の力を受け継ぎ、その斬撃は勝利と栄光へと導く。

 後述の宝具を使うと、更にその力を上乗せする。

宝具 我が誇り高き十字軍よ(マイ・プロウド・クルセイド)

宝具レベル B
 第三次十字軍遠征を元に作り出された宝具。
約百人の騎士達が召喚され、敵へと剣を向ける。
 だが、その騎士たちが死ねば死ぬほど、約束された勝利の栄光剣の威力が上乗せされ、百人全員死ねばEX並みの威力となり、その威力はイギリスの栄光と同じ。
 英雄王や魔術王すらも死に至らしめるであろう。

 

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