【更新停止】今を生きて、明日を歌う為に   作:ゆめうつろ

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再会

 板場弓美は不安だった、立花響がガングニールを纏えず、代わりに自分がオートスコアラーに立ち向かおうとしたが、神獣鏡は反応せず、結局友人達やマリアに助けられ、何の役にも立てなかった事。

 

 それによって神獣鏡を、装者としての資格を失う事、今はもう居ない「彼女」との繋がりを無くす事が不安だった。

 

 このS.O.N.Gの呼び出しが、神獣鏡の回収ではない事を祈りながら、部屋へと入る。

 

「来てくれたか、板場くん」

 

 そこに居たのは司令である風鳴弦十郎と装者である翼、そしてマリアだった。

 

「あの、用って……なんですか?」

 

「君が使うギアについて……といいたい所だが先にだな、挨拶するべきじゃないか?「アスカ」くん」

 

「……久しぶり、ユミ…そしてごめんなさい、私のせいで危険な目に遭わせて」

 

 アスカと呼ばれ、翼が弓美へ向かって頭を下げた。

 

「えっなに、これは、どういう…いやまさか、ホントにマッキー!?」

 

「気付いた?今、私は翼さんの体を借りて、あなたと話してる」

 

 翼達が絶対にそういう悪ふざけをしないであろう事は十分に知っている、というかそんな事をしようものなら解体される。

 弓美は目の前にいる翼が翼であり、アスカであると気付いた。

 

「いや、アンタもしかして……幽霊になって…?」

 

「指輪という本体があるけど、まあ幽霊みたいなものだよ……まあそれは置いておくとして、司令」

 

「うむ、板場くん。君のギアである神獣鏡は回収となる、だが代わりにアスカくんの意識が入ったニーベルングの指環とイカロス二号機を君の新たなギアとする」

 

 緒川と弦十郎以外、4人の装者達およびエルフナインの体を使っているアスカはイカロスの起動に成功した。

 

 相性の都合上イグナイトモジュールをロックしているが、強化バリアコーティングが施されたイカロス。

 

 ニーベルングの指環に適合係数上昇効果があり「偶然」イカロスと組み合わさり、板場弓美がイカロスの装者となった。

 という形で事後承認となるが、弓美を装者にしつつ、未だに残るオートスコアラーやキャロルの何らかの思惑から守る事が決定した。

 

「それって、つまり…!あたしもマッキーと…皆と一緒にまた戦えるって訳⁉」

 

「ユミには悪いけど、今みたいに体を乗っ取る形になるから緊急時だけ、ユミを守る時だけ、このニーベルングの指環を使う事になる形になるよ」

 

「そ…っかあ……」

 

「私はもう死んでるから、基本的には表に出ない。必要のない限りは私なんかに体を貸したりしないで、ユミはユミとして生きて欲しい。それが私の願いだから」

 

 それだけ伝えるとアスカは翼の指から、ニーベルングの指環を抜き、翼に体と意識を返す。

 

「…やはり、体を貸している間は意識を保てないか……板場、くれぐれもアスカを、頼むぞ」

 

 すぐさま意識を取り戻した翼が手にした指輪を名残惜しげに見ながら、イカロスと共に弓美の手へと握らせる。

 

「翼さん…マリアさん…風鳴司令……わかりました…あたし、しっかりとアスカさんを預かります」

 

 首からかけていた神獣鏡を机の上へと置き、弓美は確固たる意思で宣言する。

 

 もう会えないと思っていた友が形を変えて帰ってきた、そして自分を守る為に戦う力と共にこの手に。

 

 まるでアニメの様だ、けれどこれは現実、嬉しさはあるけれど、もっと悲壮なものだと理解しなければならない。

 

 だから覚悟を持って板場弓美は親友を握りしめた。

 

 

 

 目、毒の針を飲ませ、駒として送り込んだエルフナインからの視覚と意識から得た「真琴明日歌」というイレギュラーの情報。

 

 それ故に錬金術師キャロル・マールス・ディーンハイムは予定より早く新しい「躯体」を動かす。

 

「そうか、お前が立ちはだかるか」

 

 最初に彼女と出会ったのは、錬金術師であった彼女の両親がまだ生きていた頃。

 

 あの無垢な少女との交流は、少しばかりの安らぎだった。

 

 しかし、「真琴」の血の呪いによってその両親を彼女の伯母である「明日葉」が討ってからは、会っていない。

 会う理由も無ければ、合わせる顔もない。

 

 自身が彼女の両親の死の理由の一端となっているのだから。

 

 真琴の家が代々守ってきた「ダウルダブラ」を始めとした多くの聖遺物をキャロルは取引で手に入れた。

 代わりに与えた技術で、真琴明日歌の母である真琴「明日菜」は娘を「神」にしようとした。

 

「お前には、俺に復讐する理由も、権利もある、がそれをお前は知らない」

 

 最初は純粋に娘を想う母であった明日菜を狂わせ、姉である明日葉に討つ為の力を貸したのもキャロルだ。

 

 しかし、それを真琴明日歌は知らないし、真琴明日葉もそれを語ってない、だが。

 

「けれどお前は俺を止めに来るだろうな……それが運命、因果か」

 

 罪悪感が無いわけではない、けれど己の目的の為、ただ一つの安らぎを壊される訳にはいかない。

 

「お前は、大事な者のいる世界を守る為に、俺に立ち向かう事になるぞ。アスカ」

 

 

 

 再び、相見えるのは親友と幼き日の、思い出。


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