時系列としてはガリィ撃破後からスタートです。
魂の在り処、それはどこにあるのだろう?
終わった筈の物語が続いている。
――未練こそありましたが
ネフィリムの爆発と共に消えうせた筈の真琴明日歌の意識が覚醒する。
目の前には夏の夕暮れの海。
海の風が頬を撫でる感覚、亡霊にも感覚はあるのだろうか?とアスカは自分の頬を撫でる。
しっかりと指にも頬にも感覚はある、けれど何か違和感を感じる。
主に肩と胸が重いような気がする。
「こんな所にいたのか、あまりに遅いから皆心配していたぞ」
聞き覚えのある声、この声は。
「翼さ……ん……?」
自分の声に感じた違和感、聞き覚えのある声。
アスカは水面に映る自分の姿を見て。
固まった。
「なんだ、マリア何処か具合でも……」
その姿はまぎれもなく、マリア・カデンツァヴナ・イヴだった。
◆戦姫絶唱シンフォギアGX あなたはそこにいますか◆
フロンティア事変よりしばらくして、特異災害対策機動部二課あらためS.O.N.Gは新たに3人の装者を加え、錬金術師キャロルが操るオートスコアラーとアルカノイズという新たな脅威と戦っていた。
一時はシンフォギアを破壊され、窮地に陥った装者達、しかしエルフナインという協力者のおかげで得た「イグナイト」という新しい力によってキャロルを退けた。
そしてマリアがオートスコアラー・ガリィを倒した日。
皆が帰り仕度をしている間、マリアは一人、砂浜で回想に浸っていた。
イグナイトが増幅させた心の闇、それはセレナとアスカ。
決して押しつぶす訳ではなく、受け入れる事で力へと変えた心の傷。
「ニーベルングの指輪」破損していたアガートラームを再生させ、さらにマリアの適合係数まで上昇させたそれを優しく撫でる。
まだ心の痛みはなくならない、けれど、一歩進めた気がした。
そろそろ皆の所へ戻ろう、としたその時、ニーベルングの指輪が光を放ち……。
今に至る。
「翼さん、慌てずに聞いてください」
「ど……どうした?マリア……その余所余所しい話し方は……」
「私は真琴明日歌です」
翼はそれを聞くと、無言で携帯端末を手にし、凄まじい速度で電話をかける。
「………………大変です、緒川さん。マリアがおかしくなりました、至急検査の手配を……」
翼はマリアが壊れたと即座に断定した。
「違いますよ!!本当にアスカですよ!!なんなら私達しか知らないような事で証明しましょう!!」
「マリア、つらいのは私も同じだ。だけどアスカはもう……いない」
イグナイトの闇を乗り越えたのはマリアだけではない、翼も乗り越えたのだ。
アスカの死を受け入れるという事で、成長を果たしたのだ。
「いや、本当に聞いてくださいって!というか今はそれは重要じゃありません!マリア姉さんの意識が何処に行ったのかもっと重要な問題です!ちょっと!無言で拘束しようとしないでください!あ……あー!!」
無言でマリアを拘束する為に「影縫い」をする翼、それをジャンプで回避するアスカ。
その応酬は医療チームが到着するまで行われた。
◆◆だから私はマリア姉さんじゃなくてアスカです!!◆◆
「えーっと、イグナイトの影響ではないと思うんですけど、僕の予測ではこの「ニーベルングの指輪」に多くのフォニックゲインが集まった事によって「真琴明日歌」さんの意識が覚醒した、のではないかと……」
検査の結果、脳に特に異常はなかった。
「本当にアスカだというのか……!?」
「マジかよアスカ!?」
「本当ですか!?」
「だから最初からアスカだっていってますよね!!」
検査台に固定されたままアスカが抗議する、それはともかく脳の状態からしてマリアの意識は「眠っている」状態と判明し、アスカは少し安心した。
「本当に、本当にアスカ……なのか?」
「そうですよ、翼さん。遅くなりましたが……ただいまです」
アスカは割りと早く自分の状態を受け入れた、ニーベルングの指輪に自分の意識が入っているなら恐らく、指輪をはずせばマリアの意識は戻る。
それだけ知れれば安心だ。
「……もう離さない」
マリアの体に入ったアスカを抱きしめ、翼が顔をうずめる。
「おっと抜け駆けはよくねーじゃねぇかなぁ……先輩よぉ」
それにクリスもむすっとした顔で抱きついてくる。
「ちょっと響チャーン?助けてー?」
「自業自得じゃないですかね」
「塩対応!?」
再会を喜ぶ装者達、それに思わず笑顔になるエルフナインは悪いなと思いながら口を挟む。
「とにかく、あまりマリアさんにも説明が必要なはずです、一度「指輪を外して」マリアさんの意識を戻してみましょう」
「そうですね、もう二度ほど死んでいる私と違ってマリア姉さんは生きてますからね、そっちを優先した方がいいでしょう」
「いいのか、アスカ……せっかく生き返ったのにまた……」
「翼さん、心配しないでください。信じて」
右手の薬指に通されたニーベルングの指輪に手をかけ、アスカはマリアの姿で笑う。
そして指輪を引き抜くと、マリアの体がふらりと倒れ……検査台に頭をぶつけた。
「いったぁあああああい!?」
そしてその痛みで目を覚ましたのは。
「いたたた……あれ?私……どうして検査台に?それに翼に、エルフナイン……もしかして私、どうかしてたの?」
「マリア、だよな?」
「ええそうよ、私はマリア・カデンツァヴナ・イヴよ」
エルフナインが少し様子を見て、数秒考えた後、答えを出す。
「よかったです、ちゃんと意識は元に戻りましたね」
きちんとマリアの意識が元に戻った事に皆、安堵の溜息をついた。
「まって、私どうなっていたの…?それにニーベルングの指輪を何故翼が持っているの?」
「落ち着いて聞いてくださいねマリアさん、さっきまで指輪の中に入ったアスカさんの意識があなたの体を動かしていました」
エルフナインの説明を聞いてマリアの表情が固まる。
「それ本当?」
「本当だ」
「本当だな」
「本当です」
三人の装者にも確認を取るマリア、全員がうなづいた事で、少し考え込み。
「ずるいじゃない!!私にも話させなさいよ!!」
突然興奮しだした。
「翼さん、僕に指輪を貸してもらえますか?」
「わかった」
エルフナインが翼からニーベルングの指輪を受け取り、それを指にはめる。
すると。
「あれ、今度はなんか、視界が低い気が……」
「アスカ!」
「翼さん?あれ?これ誰の体ですか?」
「エルフナインちゃんのだよ」
響の説明ではっとするエルフナイン、改めアスカ。
「他の人の体でも動ける……んですね、なんか変な感じです」
「どうだ?マリア」
ドヤ顔をする翼、マリアはプルプルと震える。
「ねぇ、これ私をバカにしているんじゃないわよね?そんな事しないわよね?信じていいのよね?」
「大丈夫です、マリア姉さん、私です。セレナで、アスカですよ」
「せれ……あすかあああああ!!」
「ぐへぇっ!?」
凄まじい勢いで飛びつくマリア、体格差によりダメージを受けるエルフナインボディ。
こうして再会は叶った、しかし。
本当の戦いは、ここから始まる事を、まだ知らない。