――いなくなっても、そこに「いた」証が残るのだから。
未練が無い、といえば嘘になります。
しかし、やり遂げた、終わりを確信して目を閉ざした筈なのに。
感じた風と「歌声」に目を覚ませば私は、夜空の中に居ました。
もしかして:凄まじい速度で落下している。
下へと視線を向ければ街が、ライブスタジアムがどんどんと近づいてきます、さすがに激突はまずいです。
-Fly Ikarus Fall tron
急ぎ聖詠を唱え、イカロスを展開、減速の為にウィングユニットを展開しブースターを最大出力で点火。
しかしイカロスの制御が思うようにいきません、それが、私が間違いなく「一度吹き飛んでいる」事を証明しています。
そして今、気づきましたがこの会場を私は知っています。
前にマリア姉さんと、翼さんと共に歌い戦ったあの会場です。
そしてセンサーが捉えたその姿は見間違い様も無く。
観客と舞台を分かつ様に展開されたノイズ達。
まるであの日を再現したか様に。
舞台へと私は落ちた。
◆◆◆◆
マリアのフィーネとしての宣戦布告を遮る轟音。
「何だ!?」
「何ッ!?」
マリアと翼、相対する二人の歌姫の間に割り込むかの様に落ちてきたのは白。
「シンフォ……」
「ギア……だと!?」
着地の衝撃を結晶を生やす事で掻き消して着地したのは明日歌だ。
動揺を隠せない二人を見る事なく、いや、どちらを見ればいいのかわからず、ゆっくりと立ち上がり、明日歌は――
「動くな、動くと撃つ」
ルガーランスとガンドレイクをそれぞれマリアと翼に向ける。
「貴様は」「あなたは」
『何者だ!』
二人の反応に、明日歌は、戸惑った。
どちらも自分を知らない。
「……難しい質問をしますね、私は誰?知りたいですか?」
過去に戻った、しかも自分の居ない世界、もったいぶる事で稼いだ時間でそう結論付けた明日歌は、答えを選ぶ。
「虚無の申し子、明日歌とでも名乗っておきましょうか」
「虚無の申し子…?」
「……だと?」
二人が反応するより早く両手の武器を会場に散らばるノイズに向け、連続射撃で的確にノイズ達を消し去る。
「なっ!?やられた!?」
「そう、全てを無に還す!憎しみの化身です!!!」
そのどさくさに紛れステージの床や中継カメラを撃ち破壊しつつ。
「これ以上あなたの好きにはさせない!」
どこまでも冷徹な目で、飛び掛ってきたマリアを迎撃する。
ノイズ達が消えた事でステージ上の混乱に紛れながら、スタッフや警備員達が観客達が避難させ始める。
「明日歌……一体何者なんだ……!?」
白と黒に激突に巻き込まれない様に下がり、観客達の避難に安堵しながらも翼は機をうかがう。
「やりますね、でもそれだけです」
マリアの攻撃を射撃と格闘を交える事で封じながら明日歌はとにかく観客を無事に逃がす事が出来た事を確認すると、撤退の算段を考え始める。
何故なら長引かせればここに更に4人、ギアを纏っていない翼を含めれば5人の装者が参加する事になる、さすがに現状で敵を増やすのは無理というものだ。
「くっ……あなたの目的は!」
「……全てのシンフォギアシステムの破壊です」
嘘である、目的などない。
「何の為!」
「私の為です!」
レージングカッターを射出しマリアの動きを牽制し、ルガーランスを投擲。
マントで二つの攻撃を防ぐ動作をした事でマリアに隙が出来たその瞬間。
空から降り注ぐ無数の丸鋸、ガンドレイクを盾にする事で防ぎながら、明日歌はようやくまともに動く様になったフライトユニットで飛翔。
「飛んだ!?」
「3対1……いえ4対1になりますね……」
降り立つ切歌と調、後ろから響いて来た翼の歌声。
「お前達が何処でシンフォギアを得たのか!話は纏めてベッドで聞かせてもらう!」
「ごちゃごちゃした戦いは嫌いです、今日の所は、この辺りにしておきます」
シンフォギアに飛行機能は殆ど無い。
故にイカロスは逃げに徹すればシンフォギアに追いつかれる事はない。
「逃げるの!?」
「逃げるか!?」
「ええ、帰ります、では」
聞こえてくる新たな二つの聖詠、明日歌はそれを聞き届けると夜の闇へと飛び去る。
「はて、私は何処へ帰ればいいんでしょうね……」
――フロンティア事変、本来辿るべき歴史に降り立った少女は混沌を撒き散らしながら
誰の為に歌う?