「この胸に宿った信念の火はッ!」
「――――!」
これが最後だからと、セレナとマリアは出し惜しみ無しで歌をぶつけ合う。
しかし、圧倒しているのはセレナだった。
セレナは烈槍の一撃を避けずに受け、出来た隙をついてルガーランスによる力任せの一撃を叩き込み、マリアを弾き飛ばす。
「『どうしたその程度か』…ッ…マリア姉さん」
とはいえセレナも無傷ではない、心臓に近い部分からは血を噴き出し、白いイカロスのギアを赤く染めている。
「セレナ……私は……私はッ!」
「私は皆を救『支配』滅ボシテ……『制御が出来な』助けたい……」
ガクッガクッとセレナは『人形めいて揺れる体を抱えて正気を保つ』演技をする。
「セレナ……あなたは……!!」
「姉さん……私を終わらせて……私を助けて」
そしてルガーランスを捨てて両の手を広げる――演技をする。
――そろそろ翼さん達が来ますね、第二幕の準備です。
フロンティアの制御をしているセレナには誰が何処にいるか、把握できている。
故に『正気と狂気に揺れる妹と、それを救う為に戦う姉』という演目を終わらせて次へとシフトする。
――フォニックゲインは……随分と集まりましたがまだ……まだまだ届かない……
「私にあなたを殺せというの!?」
「止めてくれるって……言ったよね……」
穏やかな笑みを浮かべながらも『涙を流す』。
「これが、最後のお願いです……どうか皆に笑顔を」
そして目を閉じる。
「セレナ……セレナアアアアア!!」
精神の揺れから適合率が下がり、血の涙を流しながらマリアはガングニールを握りしめて駆けた。
「ありがとう……姉さ」
振り抜かれた神殺しの槍は、セレナを貫いた。
その光景は変わらず世界に中継されていて、「アーティストとして活動していたセレナとマリア」を知っていた者の多くはあまりもの悲劇に目を反らした。
そして、光と共に二人のギアは解除され、マリアは血塗れのセレナの体を抱き止めた。
「私……私は何も……何も出来なかった……何も救えなかった……」
両の目から血と涙を流し、マリアの慟哭が響く。
流れ、床を濡らす血潮。
どろりと、セレナの体から灰色のヘドロの様なものが流れ出した。
それにマリアは気づいた。
「――何……?」
それは赤い結晶を核として盛り上がり、ヒトの形となる。
『器は死したか、仕方ない、確かに3つの魂はヒトには多過ぎた――』
それは色付き、少女の姿となる。
それは紛れもなく真琴明日歌のかつての姿で。
『我はイカロス、裁定者イカロス――ヒトの世を裁く者だ』
人形の様な無表情のまま、イカロスは告げた。
――第二段階スタートです。
ちなみにイカロスの中のヒトは変わらず明日歌とフィーネである。
そう、セレナとしての体とは別にイカロスとしての肉体を新たに生成したのだ、本格的に人間をやめていた。
「お前が……お前が……セレナを……セレナを操っていたのかッッ!」
激情に表情を歪ませるマリア。
『そうだ、フィーネの魂が覚醒した際、私もまた覚醒し、観測を続け、裁定を下すに至った、最もフィーネとそのセレナは最後まで、私を倒し、裁定を覆そうとしたが無駄な足掻きであった』
迫真の演技力、黙々と怒りを煽る様にイカロスという「黒幕」を演じるアスカ。
そこへ、一台のバイクと鋸が飛来し……。
「どういうことだ、マリア!何故アスカが二人居る!!」
終末は加速する、止まらない。