『あなたはそこにいますか』
『私、セレナ・フィーネは、ここにいます。この争いと痛みの絶えない世界を終わらせる為に今、ここにいます』
『一万年の観測の結果、人類に失望した私は、この宇宙の他文明の為に人類を滅ぼす事に決めました』
『今宵、欠けた月が再び完全なモノに戻ります、それを合図とし、地表を反物質爆弾で焼き尽くします』
『この決定に抗うも、受け入れるも貴方達に与えられた最後の自由です、では良き終末を……』
世界各地のあらゆる放送をジャックし、告げられたのは世界の破滅宣言。
当然ながら人々は困惑した、欠けた月の復元、反物質爆弾、一万年の観測、人類根絶、とんでもない単語の羅列にパニックを起こす事すらも忘れ、人々は今だモニターに映されたままのセレナの姿を見つめた。
◆◆◆◆
――まずは第一段階、完了ですね
フロンティアの機能を掌握し『月遺跡の修復』と『軌道修正』をネフィリムのエネルギーで行う。
だが。
――足りないわ、エネルギーが全然足りてない、これでは月は落ちるわよ
フィーネの言葉にセレナは表情を曇らせたが、直ぐに気を取り直した。
エネルギー、手近にある最大のエネルギー源、セレナは自身の胸に手を宛てた。
――フォニックゲイン……!
『当然ながら監視者であった私も人類の終焉と共に役目を終えます……ですのでこれは、一万年見続けて来た私から人類史へ送るレクイエムです、どうかお付き合いください』
ガングニール、アメノハバキリ、イチイバル、イガリマ、シュルシャガナ、シェンショウジン、そしてイカロスとこれまで耳にした聖詠と絶唱を繋げて作り出すのは、終末の歌(バベル)
――大したものね、まだまだ足りないけれど少しは足しになっているわ
――なら十分です、私でこれだけやれるなら……皆さんを信じて任せられます
「セレナぁあああ!」
最初に辿り着いたのは、マリアだった。
「来たんだ、姉さん……『ククク……来たのか……哀れな道化』どう?姉さんも一緒に世界が終わるまで歌わない?」
優しげな声色と嘲笑うような声色を使い分け、セレナはマリアに語りかける。
「フィーネ……セレナ……私は貴女を止めるわ、例え刺し違えてでも!」
「……そうこなくちゃね、抗って見せてよ『マリア・カデンツァヴナ・イヴ……お前の可能性を見せてみろ』」
セレナは自身とフィーネの二つの声音を演じる、それは望みのままに。
「私ヲ止めて『抗え、最後まで』マリア姉さん」
これまでで一番の歌を込めて、イカロスは駆け出した。
◆◆◆◆
その頃、ノイズを殲滅した装者達はフロンティアへと上陸し、二課とFISは合流を果たしていた。
「つまりは、あれはアスカであり、セレナであり、フィーネだというのか?ドクターウェル!」
ギアを解除した翼達、しかし油断する事なく情報のやり取りをする。
「ええ、もっとも、その何れでもない……かもしれませんがね……さっきの放送も、まるで意図が理解できませんでしたし」
統一、救済、支配、根絶、次々と主張を変えるセレナにウェル博士は首を傾げる。
「もしかしたら彼女の精神は崩壊しているのかも……」
「それ以上は言うな、アタシらはとにかくアイツを連れ戻す……それだけだ、さっきは助かったが……お前らの手は借りない」
クリスは最悪の可能性を思い浮かべ、それを飲み込む。
「それは聞けない相談デス、こちらもマリアが先行してるんデス!」
「話してる時間も、無いかも」
「それを先に言えよ!どうする風鳴先輩よ?」
切歌と調の言葉に更に嫌な予感を重ねるクリス。
「……無論すぐ向かう……がその前に……板場、お前はどうするんだ」
「私……私は……残る……私は……ダメだから」
弓美は先程アスカが撃たれて落ちた光景にショックを受けてまだ立ち直れないままにいた。
「ならば立花と一緒に本部に残れ」
それだけ告げると翼はバイクに跨がる。
「乗れ雪音、飛ばしていくぞ」
「おう」
「切ちゃん、私もいくよ」
「了解デス」
こうして四人の装者が舞台へと向かっていく。
「私は……」
残された弓美はただ、自分の無力を悔やんだ。