哲学兵装ならこれくらいやってもいいよね!!
太平洋沖を米軍の艦隊が行く、その任務はFISが浮上させたフロンティアを確保する為。
先行するのはセレナとウェル博士、ナスターシャ教授、FISの装者達、そして板場弓美が乗ったエアキャリア。
「ふん、浅ましくも下劣で自らの保身しか考えぬ俗物どもが……」
それを見下ろし「フィーネ」たるセレナは毒を吐く。
米国の実態も目的もフィーネやサンジェルマンから聞いており、セレナからも既に「敵」と認識されてるとも知らず彼らは付いてくる。
そして、目標地点に到達したのを確認するとセレナは深く息を吸った。
――これが、最後なんだね
日本側からも一隻の大型の潜水艦、特異災害対策機動部二課の仮設本部が向かっている事はセレナも「知っていた」。
それがマリアと弓美の手引きによるモノだという事も。
自身の生死も、勝利も必要ない、ただ目的を達すればいい。
――信じてるよ。
セレナはアスカとしての最後の笑みを浮かべて告げる。
「さあ弓美、ギアを纏って、フロンティアを浮上させて欲しいな」
「……わかったわ」
その儚げな笑顔を浮かべる「彼女」に弓美は「神獣鏡」のペンダントを強く握り、聖詠を唱えた。
紫色の聖なる輝きに焼かれ、痛みさえ感じる中、アスカは、セレナはそっと弓美へと手を伸ばしたが……触れる事はせず、また手を下ろした。
紫と灰の装甲のギアを纏った弓美は歌を紡ぎながらエアキャリアから射出された無数のリフレクターへ向けて閃光を放つ。
そして30秒ほど経ち、弓美は息を荒くしてギアを解除して膝をつく、イカロスによる適合率が低下し負荷が強くなった為だ。
だが放たれた光は確かに届いた、海面を突き破り現れる石造りの遺跡群。
「フロンティアの封印は解かれた……ここまでありがとう……そして……お前達の役目はここで終わりだ」
セレナがソロモンの杖を手にして冷たく笑う、それが合図だった。
「そこまでだ、フィーネ!」
同時にウェル博士が銃を向け、引き金を引く。
これは二人が取り決めた演技、弾丸は真っ直ぐにフィーネたるセレナの胸を撃ち抜き、その体はエアキャリアから投げ出される。
「えっ……そんな……嘘……」
「セレナ…っ……ドクターっ!!あなた何をっ!!」
当然ながら事情を知らない弓美とマリアが凍りついた。
「やらなきゃ、僕らがやられてました……それにまだ終わってません……!」
迫真の演技で重々しくウェル博士が告げと同時、聖詠が響き、艦隊から火の手が上がる。
『よくもまあ、やってくれたモノだ』
拡音スピーカーでエアキャリア内にまで聞こえる様にセレナが話す。
『だが……これまでのお前達の働きと勇気に免じて、……世界が終わる様を見せてやる』
無数の飛行型ノイズを操り米国艦隊を次々壊滅させた後に、セレナはフロンティアに一人降り立つ。
――終わりへ導き、明日を歌う為に。
◆◆◆
「始まったわね」
スパイ衛星を通じて事の次第を見守るのはサンジェルマン、パヴァリア光明結社はこの混乱に乗じて各国に匿名で米国の権威を失墜させる為の情報を流出させながらも状況を見守っていた。
「あらま、派手にやるじゃないのあの子」
「しかしサンジェルマンがこうも入れ込むのは珍しいワケだ」
イカロスで対空砲火を掻い潜り、ノイズによって瞬く間に艦隊を壊滅させてフロンティアへ向かったセレナ。
「……自らの死で愛する者の明日を灯そうとする、その心意気に……少しばかり当てられたのかもね」
◆◆◆
「くそったれ……何やってんだよアイツは!!」
ほぼ壊滅状態となった米国艦隊を救う為にクリスと翼がノイズを切り払う。
「アスカ、お前は一体何をするつもりだ……!」
響は症状がまだ安定せず、出撃は見送り。
とてもではないが、手数は足りてない。
この瞬間にもノイズに奪われる命がある、だが。
降り注ぐのは鋸の雨、ノイズを的確に切り裂いていく。
「お前はッ!?」
まさかの援軍に驚くクリス。
「……手を貸す」
大型ノイズを切り裂く大鎌。
「これは……私達の責任デスから」
調と切歌、FISの装者が戦線に加わった。
「どういう事だ?」
訝しげに二人を見る翼。
「……セレナは本物のフィーネだった、私達は……いい様に使い捨てられた」
「だからその尻拭いデス、咎も罰も受ける……けどその前にマリアを悲しませたアイツの邪魔をしてやるのデス!!」
◆◆◆
ネフィリムを動力炉として繋ぎ、イカロスの「同化能力」でフロンティアの機能を掌握する。
そしてフロンティアを経由してエネルギーを供給されたイカロスの能力を活用し、「電波」を同化し、世界に向けてその『問いかけ』を放つ。
『あなたはそこにいますか?』
――最後のショーを始めましょう。