【更新停止】今を生きて、明日を歌う為に   作:ゆめうつろ

69 / 87
愛の為に、終わりへ

 

 それが望まれない結末であろうと、進み続ける、それは深き愛故に。

 

 そう、イカロス-あなた-は行くのね、ならば最後まで見届けさせて貰うわ。

 

 貴女の愛の死に様を。

 

 

◆◆◆

 

 計画の実行は2日後となりました、ウェル博士には苦労を掛ける事となりますが……。

 

 所長の持ち物からかろうじて判明した『パヴァリア光明結社』なる謎の組織についても……考えねばなりません、マリア達にも会わず、所長室に閉じ籠り待てども奴らが再び来る気配はありません。

 

 来ないなら来ない、それでもいいのですが。

 

 しかし欠けた月が昇る頃、暗い部屋に突然赤い光が走りました。

 

 これは、聖遺物……?異端技術でしょうか、よくわかりませんが人の影が現れました。

 

「……?何故あなたが所長の椅子に座っているのかしら」

 

 突然現れた白髪の女性が銃を私に向ける、が私は怯まない、撃たれたくらいで今更死なない。

 

◆◆◆

 

「前の所長なら、不注意で死にましたよ『パヴァリア光明結社』さん、率直に聞きたいのですがあなた達の目的は?」

 

「…………銃を向けられて随分と余裕ね」

 

「生憎、頑丈なモノで……私としては月が落ちなくて……今この施設にいる人達がテロリストの謗りを受けなければ……何でも良いんです、例え私自身が死ぬ事となっても」

 

「……サンジェルマン、よ」

 

「そうですか、私は…セレナ……あるいは真琴明日歌と申します……話し合いの場に乗ってくれた事に感謝します」

 

「……私達も月の落下の阻止を望んでいるわ、そして可能ならば月遺跡の掌握、そしてその為にもアメリカの権威を削ぎ落とす事もまた計画の一部よ」

 

 用意されていた椅子に座り向かい合うアスカとサンジェルマン、その表情は真剣で。

 

「月遺跡の掌握って例のバラルの呪詛という奴でしょうか、統一言語を壊したという」

 

「……そう、バラルの呪詛から人類を解放し、今の争いと支配に満ちた世界を変える、それが私達の目的よ」

 

「なるほど、その辺りは別に私の目的とぶつかりません、むしろ協力しますが

 

 

……時に……フィーネが米国に裏切られたのってあなた達が原因だったりします?」

 

「何故そんな事を」

 

 アスカの雰囲気がふと変わる、冷たくも「何か」を感じさせるモノから、まるで巨大な大樹の様な雰囲気に。

 

「――久しいな、錬金術師よ」

 

「フィ……フィーネだとッ!?」

 

 かつて野望を挫かれたモノだからこそ分かる、それは紛れもなく、永遠の巫女たるフィーネだった。

 

「まあ、慌てるな……私も何も邪魔立てをするつもりはない」

 

「……どの口が……」

 

「今の私にそんな力はない、とでもいうか……そうだな予期せぬ事故で宿った故か、この体ではうまく動けないのだ……故に観客に徹している」

 

 アスカのイカロスの特性の繋がりか、アスカ自体がレセプターチルドレンの素質があったのか、しかし全身が聖遺物で再構築されたが故かフィーネが体の主導権を奪えど動かせず、また魂を塗りつぶす事もできない。

 

「何……」

 

「さて、前回の失敗はお前達が原因だと知れたので十分だ、よかったな、私に黒星を一つ付けられたのだぞ」

 

 それだけ言うと満足したのか巨大な雰囲気は引っ込みまた冷たくも「何か」を隠した少女となる。

 

――櫻井先生……じゃなくてフィーネ……私に取り憑いてたんだ……知らなかった……。

 

 取り憑かれていた本人が一番ビックリしていたが気を取り直し。

 

「と、まあ……同居人は気にしてないそうなので……話の続きをしましょう」

 

――絶対根に持ってる……この少女が器でなければ絶対仕返しされてた……

 

 サンジェルマンは内心安堵の溜め息を吐いた。

 

「私達は協力して月の落下から地球を救う、その後アメリカが信用を失おうが月遺跡をどうこうしようが私は構いません、私は二課とFISの装者(とも)達を守りたい、それだけです」

 

「……わかった、下手に敵対されてフィーネを敵に回すよりはそちらの方がいい」

 

 いずれ、装者達とは敵対するかもしれない、しかし今は目の前の少女の形振り構わない様な必死さに、手を貸してやらなくはないと、サンジェルマンは決めた。

 

「ありがとうございます、これで少し、安らかな眠りに近づけそうです」

 

◆◆◆

「作戦の決行は明後日、フロンティアの封印を解放し、月遺跡の掌握を行う……それがセレナ『新所長』の決定です」

 

「ドクター、どうしてセレナが所長に……前所長が裏切ったって……どういう事?」

 

 淡々と説明するウェル博士に困惑するマリアが問い掛ける。

 

「僕も詳しくは知りません、ただ……僕ら全員を騙していた……とだけ言っていましたよ、新所長は」

 

――英雄とは真逆の存在、自らを人類の敵にしてまで皆を守ろうとする、それは深い愛だ、いいだろう、君の言う『英雄』に興味が出てきたよ、どこまで愛に殉じられるか、見届けてやろうじゃないか!

 

 ウェル博士はセレナの協力者であり反逆者となる事に賛同していた、故に演じる。

 

「そこからは私が直接説明しますよ、ウェル博士……」

 

 マントの様なモノを肩から掛けて、スーツを纏ったセレナが現れる。

 

 

「セレナ、一体どういう事なの!?……あなた最近変よ……!」

 

「セレナ……」

「……」

 

不安げに見つめる装者達。

 

「大丈夫ですよ、何……少しホントの世界征服をやれる事に気づいてしまっただけですよ……さて……ひれ伏せ、我が名を騙る者共が!……我はフィーネ……真の終わりの名を持つ者だ!」

 

「う……うそ……よね、セレナ……?」

 

 マリアが信じられないという表情で後退る。

 

「これ迄の全て嘘だとも、お前との姉妹ごっこは楽しかったぞ、マリア・カデンツァヴナ・イヴ」

 

「そんなっ……」

 

 力無く座り込むマリア、調は悲しげな表情で俯き、切歌は信じられないと表情を固まらせた。

 

 FISに『真にして偽り』なるフィーネが舞い戻った。

 

 それは奇しくも、『愛』の為に。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。