「悲劇だ(テクニカルポエム)」
夕焼けに照らされたカディンギル跡地、無数のノイズがひしめく荒野を装者達が駆ける。
「なんて数ッ!」
「次から次へと!消耗戦ってか!?」
「本丸を叩くにも……この数では!」
FISの装者達は自ら戦わず、ただその光景をカディンギルの残骸から見下ろすだけ。
「セレナの作戦とはいえ、こう見てるだけなのは……もどかしいデース」
「でも私達じゃまともにやってたら勝てないよ、切ちゃん」
「それに肝心のセレナは何処に行ったのデスか?ネフィリムも宝物庫に入れたままで……」
「セレナは……セレナのすべき事を、彼女の役目を果たしに行ってるの、だから私達は私達のやるべき事を成せばいい」
そう、三人は装者達を釘付けにする為の囮。
「今はただ何も言わず、大人しく私に着いてきて欲しいんです、そうすれば何事もなく、無事に帰してあげられます」
セレナは、アスカのすべき事はFISの装者達のリンカー持続時間内に、囮として機能している内にリディアンから『適合者』を見つけ出し拐ってくる事。
シンフォギア関係者なら『適合者』をピンポイントで見つけるなど『何を馬鹿な寝言を』と言いたくなるだろう。
ただでさえ確認されている正規の適合者は『雪音クリス』と『風鳴翼』そして『セレナ』だけ、それ以外は響とアスカの様な融合症例とマリア達の様にLinkerによって適合率をかさまししている第二種、それでも貴重な、本当に選ばれた者である。
だがそれは本当に『適合』するならの話だ。
シンフォギアにはそれぞれ特異な性質がある。
例としてはアガートラームのエネルギーベクトルの操作特性、同じ様にもアスカのイカロスにもまた特異特性はある。
それは『同化』、アスカが装者となれたのも、適合しない天羽々斬の欠片を体内に入れて無事で、加えて共鳴反応によってフォニックゲインを増幅させるのも、ネフィリムをほぼ完全にコントロールできるのも、自滅したとはいえ神獣鏡を起動できたのも全て、イカロスの『蝋で固める様な同化』の力だ。
故に歌う意思と器さえあればそれでいい、シンフォギアと装者の適合の繋ぎはイカロスが為す。
「最悪手足を切り取ってもいいんですよ?私が欲しいのは歌う声と感じる心だけ……」
――だからただ、そこに居るだけでいい……別に二人で無くてもよかった、私の妹でもよかった……なのにどうして私は大事な友達を選んだのだろう……。
――本当はわかっていた、寂しかった、会いたかった、それだけでこんな馬鹿な事を……
いつだって後悔する、間違えたまま進んでしまう、真琴明日歌はそんな愚かな人間だ。
「わかったよ……マッキー、私が行く……ただ、行くのは私一人、もし未来をつれて行くなら私はここで舌を噛みきる」
思わずその言葉にアスカは怯む、脳裏に浮かぶのは『死と喪失』。
――いなくなる?ユミが……?
「ゆ……ユミがそう言うのなら、私はそれに従うよ……だからやめて、傷つけないから……ユミは……みんなは私が守るから……絶対守るからその為にも力を貸して」
アスカの様子が豹変する、先程までの真剣な表情とはまるで変わり、その声はひどく弱々しく、あからさまに狼狽えた表情で、それは怯えだ。
「……そういうわけだからさ、ビッキー達によろしく……私はマッキーを放っておけないよ……ちょっと皆には心配かけそうだけどマッキーだからさ」
「……わかった」
その様子を見ていた未来は流石に仕方ないという表情で、引き下がった。
それぐらいに、見てわかる程に、アスカは取り乱していた。
「ユミ、ごめん……ごめん……あなたを巻き込まないと……皆が救えないから……」
「いいよマッキー、私を頼ってくれたんでしょ?困ってる友達を助けるのは当たり前なんだから」
――アニメじゃない、けどいいじゃない、やってやるわ!友達の一人くらい……私だって助けて見せるわ!
決意、装者でもない普通の少女は世界を救う戦いに自ら巻き込まれる事を選んだ。
――友情、尊い想い、それが救いようの無い悲劇の引き金となるのは、避けられない運命だったのだろうか。
私達は、後悔さえも受け入れて、ただ大人しく流されるまま生きていれば、きっと悲しまずに済んだのだろうか。
あなたは知るだろう、本当の悲劇は――