――夢を見る、そこには私だけで、誰もいない。
――けれど大丈夫、皆は……私が守りますから。
――夢を見る、私が居なくなっても残る世界。
――覚悟はとうに出来ています、この命が果てて人として死んでも、明日に歌う者達を守れるならば、私はもう何も怖くはない。
夜明けよりも早く目を覚まし、浮かぶ欠けた月を見上げ、アスカは静かに歌った。
「ナスターシャ教授、ウェル博士、進捗はどうですか?」
いつもの様にネフィリムに餌を与え、アスカはセレナとして振る舞う。
「ネフィリムは既に動力炉としても制御装置としても万全です、しかしフロンティアの封印を解除する為の鍵である神獣鏡の機能は……」
「言ってしまえば、『装者』が居なくてまともに機能するかが怪しいってトコで、どうにか成らないかなぁ」
天才二人をしてもシンフォギア装者などそう簡単に用意できる訳がない、あのフィーネですら装者の選定には苦労した。
「……その辺りはよくわかりませんが動かせないか試して見ましょうか?」
そんな事は知らないセレナはいつもの様に考えなく思い付きを口にする。
「確かに貴女なら……可能性はありますね」
「……出来ますでしょうかね?相性悪くないですか?」
これまでの実績から賛成するナスターシャ、逆に神獣鏡の『特性』からあまり乗り気ではないウェル。
「まあ、モノは試しです、軽く動かしてダメそうなら別の案を探しましょう」
結果的にこの考え無しな実験は、失敗し、ちょっとした惨事を起こす事となった。
というのも起動と同時に溢れ出たエネルギーでセレナの手が溶けた。
「ええ……」
本人はそこまで気にはしてなかった、がたまたま通りかかったシスコン(マリア)がそれを目撃。
「せ……セレナっ!?貴女何をやってるの!?その右手……溶け……うーん……」
あまりにもショッキングな光景にマリアは気絶、そして騒ぎを聞き付けた切歌と調も絶句。
「いやちょっと失敗しただけだから……そんな心配しないで……」
「心配するデスよ!!セレナは大事な仲間なんデスから!」
「切ちゃんの言う通り、もっと自分を大事にして」
「そうまで言われると……まあうん……ごめんなさい」
流石にいつままでもこのままでは不味いと思ったセレナは溶融した部分から結晶を生やして右手を軽く再生させた、がそれが不味かった。
「え?なんだそれ……僕聞いてないよ!?その力は一体何だよ!?」
「軽率に新しい能力を発現させないでもらいたいものね……」
その光景を見ていたウェル博士もびっくり、ナスターシャ教授も頭を抱える。
「まあ再生能力とかまだ普通じゃないですか?って……かじらないでください!」
気がつけば側に来ていたネフィリムにセレナは左腕を食われていた。
今日も今日とてFISの管理体制は主にセレナのせいでガバガバである。
それはさておき、マリアが復活し、脱走したネフィリムを管理室へ送った後に、再び神獣鏡の起動を審議する。
「僕としてはやっぱり装者が欲しいんですよ」
「セレナが使えればよかったのですが……とはいえ新たな適合者を探すにしても……」
「そうね、候補となる者すらここにはいないという訳ね、マム」
「……その辺に落ちてませんかねー……装者候補」
装者候補と聞いてふとセレナ、いやアスカの頭に浮かんだのは『友』の顔。
『私にも使えないかな?シンフォギア』
板場弓美、そういえば最近会えてない、装者達と違って戦場に立たないのだから当然なのだが。
そこでアスカの頭に浮かんだのは。
友を巻き込む事。
「そういえば人伝てに聞いた事がありますが装者達が通う、かのリディアンは……装者候補を集める為に作ったとか……」
「ドクター、正気?それはつまり」
ウェル博士の言いたい事を理解したマリアは思わず躊躇う、いくら世界の為とは言え見ず知らずの少女を犠牲になど……。
「……いいアイデアかもしれない……」
「セレナっ!?あなた何を!?」
「私が、候補になりそうな子を連れてきます」
だがそこでセレナがウェル博士の案に賛同する。
「大丈夫です、マリア姉さん、私を信じて」
――久しぶりに弓美にも会いたいし、ちょっとくらい……いいよね?
よくない。
こうして、神獣鏡の装者選定計画が密かに動き出した。
その頃。
「ほう、雪音は数日間アスカと同居してデートまでしたのだから有利だと?」
「そうそう、だからあんたは惨めな気持ちになる前に手を引きな」
「バカをいうなよ、こちらとて一年を共に暮らして、痛みでさえ通じあった仲なのだぞ、私の方が有利だ!」
――拝啓マッキー殿、翼さんと雪音さんの雰囲気が最悪です、はよ帰ってきてどうぞ。
自身がとてつもない事に巻き込まれかけている事を一ミリも知らず、アニメ少女は目の前の混沌を嘆いていた。