――思えば、最後の方は……それなりにいい人生でした……って諦めてる場合じゃないです!
――ネフィリムの背に乗って、さあ行こうぜ。
目からハイライトが消えたマリアに対して媚びる様な仕草と上目遣いでアスカが微笑む。
「マリアねーさん、後でイイコトさせてあげますから……今はちゃんとお仕事しよ?」
「……セレナ……それ私以外に絶対やらないでね」
アスカもチョロければマリアも大概チョロい、なんとか後ろの敵は無力化できた様で一先ずの危機は脱したアスカ、次の相手は目の前だ。
「さて……いきなり出てきた『マリア姉さん』には驚かされましたが……気を取り直して……装者の皆さんにはここで果てていただきます……理由はお分かりですね?」
改めてボスキャラ感を出しながら装者達に向き合うアスカ、その表情は真剣なモノだった。
だが翼が『マリア姉さん』という単語に素早く反応。
「義姉様!妹さんを私にください!」
「やるものか!!」
真顔でアスカを要求する翼、即座に却下するマリア。
「ふざけないでください風鳴翼!!」
流石にこれ以上グダグダやっていると風鳴司令が影から飛び出して来かねないし、マリアのLinkerが切れてしまう。
混乱の元であるアスカは強引に話を進める為にソロモンの杖を振るいノイズ達を進軍させる。
「アスカ……お前は……ホントに……」
あの親友が平気な顔をしてノイズを操る姿を見てクリスは胸が痛んだ。
「残念です……アスカはクリスの事を愛していましたが……私(セレナ)は貴女を倒さねばなりません……わかりますか雪音クリス?戦わねば貴女は親友に愛する人を殺させる事になるのですよ?」
それを見て若干の罪悪感を抱いたアスカ、しかしこれも世界を救う為と心を鬼にして必死に敵対アピールをする。
だが。
「あっ待て………愛してって……えっ?待て……どういう意味での愛してるなんだ」
「……当然伴侶としたい…?添い遂げたい?恋愛感情ですよ……もはや叶う事のない望みですけどね」
顔を真っ赤にするクリスに察したアスカ、とりあえずまあ煽っておくかととりあえず本心半分(命を掛けられる程度には好き)、でっち上げ半分(恋愛的感情)の言葉をぶちまける。
「雪音、貴様よくも抜け駆けを!」
「ちがっアタシも今知ったトコなんだよっ!!」
なおその言葉は風鳴翼に引火した模様、混沌とする現場、空気を読んで停止するノイズ。
「あの、アスカさん……戦いたいならそろそろ黙った方がいいですよ」
そしてぐたぐだな状況に取り残された響が残念なモノを見る顔でアスカに言い放つ。
実の所……いや当然というか、チョロ重いアスカにかつての仲間を傷付ける勇気なんてない。
その証拠にノイズを動かすのもポーズだけで殆ど棒立ちのマトだ。
それを響とモニターで見ている二課の大人達は完全に理解していた。
つまり状況としては『友達の口喧嘩』レベル。
だから響達はただ安心(ゆだん)していた、アスカが『まるで変わっていない』事に。
『適当な事をして事態を悪化させるバカ』である事に安心してしまっていたのだ。
「……ネフィリム、叩き潰せ」
アスカの声に反応したネフィリムが吠え、待ってましたとばかりにぶよぶよの腕を振るう、その先にはクリス。
「さようならだよ、クリス」
あくまで演技、優しげにアスカが微笑む。
「えっ…ぐあえっ!!?」
凄まじい横殴りの衝撃で吹き飛ばされて廃墟に叩きつけられるクリス、呆気に取られる一同。
「クリスちゃ……ん?」
皆が皆、油断していた。
響はまさか本気でアスカが皆を傷付けるとは思っていなかった。
クリスは場の雰囲気に流されて戦場である事を忘れていた。
アスカはまさかここまでネフィリムが強くなってるとは思わなかったし、クリスが普通に避けると思っていた。
マリアはまさか目の前の妹がそんな残酷な事をするとは思っていなかったし、そもそも最近世界を敵に回している事を忘れていた。
翼は。
「競争相手が一人減ったか……アスカは私が貰う!」
これ幸いとアスカを奪還拉致監禁せんと、剣を手に駆け出した。
そして、ようやく戦いが始まったのだ。
そして当のアスカはパニックに陥っていた。
――クリスを、親友を私が?どうして……あれ……うん……そうだよね……私は何を……
固まった笑顔のままボロボロと涙が零れ出す、完全にエラー状態となったアスカからネフィリムのコントロールが離れる。
「ぬう!?」
飛び掛かって来た翼を力技で押し飛ばし、ネフィリムは全身に走る赤い亀裂の様な模様から無差別にレーザーを放つ。
流石に止めねば不味いと気づいた響は直ぐ様駆け出すが既に遅い。
本能のままに暴れるネフィリムが伸縮する丸太の様な腕を振り回しつつ、レーザーを撒き散らして味方であるノイズを巻き込みながら響へと向かってくる。
「……ごめんなさいアスカさん!」
流石にまずいと思った響が拳を握り、ネフィリムの前腕を打ち砕く。
「全く、酷いじゃないか」
そして前線に戻って来た翼がネフィリムの足を断ち切る。
瞬く間に行動不能と化したネフィリムとアスカ。
「……ここからは私達が相手になるわ」
ネフィリムの背に乗っていたマリアが地に降り立ち、ガングニールを構える。
――やはりこの子は……セレナは私が守らなきゃいけないわ
ネフィリムの背で糸が切れた様に眠る『セレナ』をみやる、マリアはセレナの正体が二課の戦死した装者である『真琴明日歌』である可能性にライブでのやりとりで既に気付いていた。
まあ詳しくは彼女自身の口から聞くつもりだが、マリアはセレナの『正体』など今となっては『どうでもよかった』。
積み重ねて来た『モノ』だけは何者にも消せない、ただただ『姉』として。
「風鳴翼、あなたの様なヤバい感じの女にセレナは渡せないわ!」
『妹(セレナ)』を守る、それだけだった。