強くなりたい♂(クオリティアップしたい)
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信じていた、もう居ないと頭ではわかっているのに、アスカが生きていると心は信じていた。
『セレナ』を見てからその気持ちは段々と強くなり、その『歌声』で歯止めが効かなくなった。
だが彼女にはマリアという姉が居る、アスカとはまた別の人生があって……それでも記憶喪失だったり、何か理由があって演じてるだけだと……私は割り切れずに。
いくつもの夜を数え切れない程に迷った、悩んだ、考えた。
そして今日、その仮面の下を見て、全ての想いに決着をつけるつもりだった、もし違って『彼女』に嫌われてしまったとしても構わないつもりだった。
だが彼女が本当にアスカであったなら、私は彼女に想いを告げたかった。
『大好きだ』と。
なのにそれが、何故こんな事になった……ああ……そうか、これは私への罰か。
奏に次いで彼女まで死なせた私への……だが……やめろ、アスカと同じ声で……そんな事を宣うなッッ!
アスカを汚すなッッ!!
◆◆◆
「私を消すと言ったか?面白い冗談だ、ならばその仮面を叩き割りその首を晒しモノにして、顔の皮を剥いでやるッッ!」
翼はキレた、フィーネを名乗る『セレナ』とついでに『マリア』を叩き斬るしかないと決断した。
既に観客は避難済み、中継は止まっているがそんな事は関係無く、翼の心は燃え盛るコールタールのごとし。
もはや抹殺せねば止まらぬと遂に聖詠を口にした。
あまりもの気迫にマリアはガングニールを纏うも完全に気圧され、既に勝負開始前から負けていた。
――やべえです!?なんで翼さんキレて……あ……そっか……ライブを邪魔されたらそらキレますよね……でも何か私の名前も呼んでましたし……ああっそっか私がアスカだと証明すればいいんですよ!
当然ながらセレナ、アスカも気圧されパニックに陥っていた、もうなりふりは構っていられないと仮面に手を掛ける。
「その必要はありません翼さん、今……仮面を外しますから」
「セレナ……何を!?」
そこで慌てるのはマリア、このままではセレナの素顔まで世界に晒してしまうと止めようとするが。
「いいんです、私が決めたのですから……ありがとう」
ついに明かされるその素顔、それは。
「貴様あああああああ!!」
何故か翼を更に激怒させた。
「何故怒るんですか!?私です、真琴アスカですよ!!」
「黙れ、黙れ黙れ黙れ!!」
ついには血涙を流しながら獣の叫びをあげて、手にした天羽々斬を漆黒に染めて翼が飛びかかる。
黒き闇を纏ったその姿は誰がどうみても暴走していた。
「セレナ!」
とっさにマリアが間に割って入り、翼の獣めいた攻撃を防ぐが、アスカは混乱の中にあった。
――なんで、どうして?
仮面に覆われていないその顔は悲しみに満ちていて、今にも涙が流れそうだ。
「セレナ!何をやってるんデスか!?危ないから下がるデス!」
「……セレナ、あなたの覚悟は伝わったから……もう下がって、あなたは戦えないでしょう」
「……そう……だね」
切歌と調が声を掛けるが、ショックのあまりうまく返事ができないセレナ、もう一度だけ翼に視線をやり、背を向ける。
「ごめん……ごめんなさい……」
吐き出した謝罪の言葉は、不理解への謝罪。
「わからなくて……ごめん……なさい……」
何故翼がこうまで怒り狂っていたのか、今の彼女には理解できなかった。
「私の妹に手を出すなッッ!!」
理性を失って暴走している翼を相手取るのは難しくも容易い、力任せなのだから受け流してやればいい。
マリアはマントでまるで闘牛士の様に翼の攻撃をいなしながら、ガングニールで確実にダメージを与えていく。
「何を怒ってるデスか!?あの人は?」
「きっと……ツヴァイウィングの時の惨劇のトラウマだと思う……」
翼が暴走した真の理由を知らない切歌と調は、若干距離を保ちつつもマリアを援護し、やってくるであろう二人の『装者』を待ち構える。
そして幾度目かの衝突、弾き飛ばされた翼は壁に激突して気絶、ギアが解除された。
「冷静さを失った剣の相手など容易いわね」
さすがに最初の気迫でやりあっていれば、マリアは負けていた、だがアスカが翼を暴走させたおかげでマリアは勝利する事ができた。
「にしても……相手が失った友に似ていたからといって……そこまで冷静さを失うなんて……未熟もいい所ね」
――マリアが言えた事じゃないデスけど……
そういいながらも記憶喪失(という設定)だった少女にセレナ(亡くした妹の名)と名付けていたマリアを若干残念なモノを見る切歌であった。
そしてバラバラバラとヘリのローター音が鳴り響き、三人が一様に空を見上げれば舞い降りる装者二人。
「来たわね……」
響とクリスだ、ちなみにこの視線が上を向いた隙に気絶した翼は緒川によって回収された。
「てめぇらには……聞かなきゃならねえ事が無数にある、少しばかりベッド送りになってもらうぜ」
「今日の私は、ちょっと怖いよ」
二人も翼ほどに冷静さを失ってはいなかったが、またキレていた。
第二ラウンドの開始だ。