セレナ(アスカ)の1日はマリアに起こされる事からはじまる。
「ねえさん、私自分で起きれるよ」
「そうは言ってもあなた身支度が遅いじゃない、この間なんて寝癖つけたまま出てきて……」
過保護なマリアに世話をされながら、研究所の食堂へ、道中で出会う職員にかるく挨拶をしながら、朝食を摂り、次に各種データの測定。
「血圧、脈拍、正常ね!さあ……次は勉強の時間ね」
そこそこの付き合いでセレナの英語が下手な事に気づいたマリアはセレナに授業を行う。
「イッツタイムナウ」
「いっつたーいむなーう」
「ほらもっとしっかり」
「イッツタァイムナァウ」
割とスパルタ式なマリアの授業は英語が苦手なセレナにとって苦行である、約二時間その地獄を味わった後は歌の練習だ。
だが翼からの指導をうけ、イカロスで歌い続けたセレナにとってこれは苦ではない、むしろマリアに対抗できる程度だ。
「セレナはやっぱり歌が上手ね」
「これだけは……私が私と証明してくれるから」
翼達との絆の証として、ここは譲れないとばかりに歌うセレナ。
そして午後からは自由時間だ。
「疲れた……」
日が暮れて月が出始める、この時間だけはマリアは他の仕事があったりギアを纏った訓練をしていたりで居ない、セレナではなくアスカで居られる貴重な時間。
屋上で一人、周りに誰も居ないことを確認すると胸に手をあて、歌い出すそれは『proof』
こうしてアスカは一人、ストレス解消として大好きなファフナーソングを歌うのだ。
だがそれを聞いている者が二人、調と切歌だ。
屋上へと続く階段、ドアを少し開けて聞き入る二人、アスカの歌声はかなり遠くまで響く為、まる聞こえだったりするのだ。
「セレナ……また一人で歌ってる」
「綺麗だけど寂しい歌デース……」
そして一曲歌い終えるとアスカは再び自分の胸に触れてみる。
その内側にあるのは『天羽々斬の欠片』と再生の際に取り込まれ、取り出せなくなった『イカロスのギア』。
「やっぱり私、人間じゃないなぁ……」
どんなに鈍くても下半身を吹き飛ばされた挙げ句、消し炭になっても再生したとなると自分が人間離れしている事に気づくだろう。
「でもまあ、皆が幸せなら……今はそれでいいかな」
だがまあその辺はケイ素系男子とかが居るので深くは悩んでなかった。
それよりも問題はマリア達、しばらく共にいれば不本意でも情は移る、マリアが何か自分に依存している事にも気づく、でもチョロいアスカはそれを良しとしてしまう。
「……居なくなりたくないな……でも行かなくちゃ……」
今は世話になってるとはいえ自分は二課所属の装者、皆の無事も気になるし、自分の無事を知らせたいしで、いつかここを去り日本に帰らねばならない。
空に浮かぶ欠けた月を見上げ、悲しそうな顔をするアスカ。
「セレナはもしかして……」
「切ちゃん……まだ決まったわけじゃない……でもセレナは本当に月をなんとかする方法を知ってるのかも」
「自分を犠牲にして、デスか……?」
壁に耳あり障子にメアリー、誰かに聞かれてるとも思わずに呟いたそれは切歌と調に思わぬ勘違いを与える事となり、これが更なる騒動の種となる、が今のアスカがそれを知るよしもない。
――――――
「アニメじゃないんだよ、マッキー……何もそんなドラマチックに死ぬなんて……ただ残された私達が悲しいだけじゃない」
一人、板場弓美は中身の無い墓に向かって語りかける。
始めにアスカの死を聞かされた時、弓美は信じられなかった、死んだ証拠を見せてみなさいと喚いた。
次に見せられたのは保管用ケースにいれられた『ぐちゃぐちゃのギアの残骸』だった。
一応は『機密』故にアスカの家族には見せていないが、アスカの『残った部分』は回収されている。
ついでに言えば精神的に不安定な翼にも内密にされているこれが弓美に開示されてしまったのはちょっとした連絡の行き違いというか事故であり、それに気づいて慌てて駆け付けてきた緒川と弦十郎だが、時既に遅し、そこには泣き崩れる少女が居た。
いくら連絡網が回復しきらず混乱の中にあったとはいえトンデモなミスをやらかしたエージェントは謹慎処分となった。
「どうして『あれだけ』しか残らない死に方をするのよ……いくら好きだから……そんな所までリスペクトしなくていいじゃない……」
友に残した絆と傷は深く、まだ痛々しく残っていた。
二課の大人達の間では完全にアスカは死亡扱いです、というか吹き飛んだ下半身とギアの残骸が残っていて保管されたりしてます。
あんまりにもエグいので翼さんとかクリスちゃんとかビッキーには見せられないよ!してましたが事故で弓美ちゃんにだけは見てもらいました(愉悦)