投は
稿つ
正規の装者でないアリーのガングニールを動かすのはLinkerと試作型の補助システム。
硝煙と鉄にまみれたその歌に、血は流れていなかった。
「やはり戦いは白兵戦に限るね!」
「うぐっ……!」
無双の一振り、ガングニールの一撃を剣で防ぐもその威力は軽々しく翼の体を浮かす。
そこに飛び込んで来るのは複数のノイズ、翼は慌てずに逆羅刹で対応するが更に飛び込んで来るのは複数の浮遊する刃。
それは脳波コントロール可能な小型誘導刺突兵器「ファング」
「……ッ!!」
技を出すにも姿勢は安定せず、切り払うにも威力が出せない為に新たに生成した刃を射出してぶつける事でなんとか軌道を反らし防ぐ。
「すごいね、君は!」
そして長くも一瞬の攻防の末にようやく着地できるという所で再びアリーが踏み込んでくる。
「さあ血を撒き散らして吹き飛びなよ!」
誘導兵器ファングとソロモンの杖によって無限に呼び出されるノイズ、そしてその合間を縫って踏み込むアリー自身。
繰り返される攻撃に、圧倒的な手数の不利で風鳴翼は追い詰められていた。
「シンフォギアシステム……こいつはとんでもない兵器だね!そう思うよね君もさ!」
「黙っれぇッッ!」
ただやられるばかりではなく、隙を見ては繰り出す千ノ落涙でノイズの数を減らし、同時にファングを迎撃するが消耗が、その威力を段々と削いでいく。
「右側が留守だね!」
「しまっ……うあっ!?」
爆煙の中から飛び出して来たファングを弾くが、これまでガングニールの重い一撃を受け続けて来た為に右腕に掛かる負荷がついに限界を越え、剣が弾き飛ばされる。
「これで……さよならだよ!」
そしてそこにトドメの一撃が突き出されんとしたその時。
「はあああッッ!!」
乱入してきた響の蹴りがアリーを吹き飛ばした。
新たに発現したバンカーによって何とか間に合った事に響は安堵した。
「翼さん、大丈夫ですか!?」
だが翼のダメージは大きかった。
それは自分が圧倒されていた事、それがよりにもよってガングニールだった事。
「わ……私は……何をしているんだッッ……!剣と在ってきたというのにこの体たらく……!奏の誇りも守れずにッッ!」
その目には悔し涙が滲んでいた。
「翼さん……」
掛けるべき言葉も分からないまま響は涙を流す翼を見守るしかなかった。
「やるじゃないか」
だがまるでダメージを受けた様子の無いアリーが瓦礫の中から現れた事で響は向き直る。
「なんでこんな事をするんですか……!」
「仕事だからね」
「仕事……仕事ってだけで……!?」
「ああ、そうそう……僕の趣味でもあるね」
「趣味……人を傷付ける事が趣味……?」
「そうさ立花響、君が人助けを趣味とするようにね」
加虐的な笑みを浮かべーアリーは再び踏み込む。
「そっちのはもう戦う気力すらなさそうだからね!君が相手をしてよ、なに仕事だから殺しまではしないからさ!」
「うっ…!?」
初めての対人戦闘、真っ正面から向けられる敵意。
思い出させるのは幸せを壊されて苦しんだ日々と見えない悪意。
『守り、守られろ!』
――平気、へっちゃら!
それでも響は怯みながらも、ありったけの勇気で踏み出して突き出された一撃に拳をぶつける。
「良い覚悟だ!」
渾身の一撃によって反らされた槍を手放し、アリーが放つのは左の拳、それを響は腕で受ける。
「う……おあああ!」
「けどそれだけだ!」
そしてそのまま力任せにタックル、しかしアリーはその勢いを利用して巴投げ、響の体が宙に浮く。
アリーの基本戦術は相手を宙に浮かせて反撃しにくくするモノ、だが投げられたと判断した響は腕と脚のバンカーを同時に解放し、空を蹴って再び体当たりをかます。
不測の事態に驚愕の表情を浮かべるアリー。
「ばっ……バカな!?……とでも言うと思ったかな!」
驚愕が不敵な笑みに変わる、飛行型シンフォギアがあると知っていたアリーは既にその対策を打っていた。
「行け、ノイズ」
二人の間に割り込むのはノイズ、アリーはあらかじめ呼んでおいたノイズを盾にして響の捨て身の一撃を防ぎ、勢いが弱まった所で響の腕を掴んで一気に組伏せる。
「……あッ!?ぐぅうう……」
「無理に動いたら折れるよ」
だが響との勝負がついた瞬間であった。
「もう何も奪わせる……ものかあああ!!」
響の戦いを見て気を持ち直した翼が剣も手にせず、力任せにアリーを殴り飛ばした。
「私は……私はッッ……!」
息を荒げながらも翼は右手首に力の入らない為に右腕に直に固定した大剣を切り払い、アリーはそれを受ける。
「ぐっ!?なるほど……少しは元気になったようだね……だけどどうやら時間切れの様だね」
予想以上の反撃を受けながらも体勢を立て直したアリーはそのまま高く跳躍する。
「また会おう」
「待てッッ!」
アリーが撤退した理由、それはLinkerの効果が切れた為であり、作戦時間を大幅にオーバーした為。
そして通信でクリスが敗走した為に三人目が向かっていると知った為。
「……ぐッッ……!」
もはや追撃する余力もなく翼は膝を着き、響は地面に倒れたまま天を仰ぐ。
「こんな……こんな事で私はッッ……」
二人の中ではこれは完全な敗北だった。
「翼さんっ……!」
「無事か!?」
そこへ遅れて来たのは風鳴司令と彼に担がれたアスカ。
「アスカ……すまない……私は……私は……」
「生きてたならそれでいいんです、それだけで十分なんです……!」
こうして最初の衝突は敗北寄りの痛み分けに終わった。
――夜明けはまだ少し遠かった。
アリーのモデルはサーシェスなので当然の如くファングを使います