【更新停止】今を生きて、明日を歌う為に   作:ゆめうつろ

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クリスと逃避行ルートです

今期見てるアニメの影響受けてます


if番外編:白雪の旅路

 

 月の欠片が墜ちた世界では、今日も白い雪が降る。

 

「ねえ、クリス……今日はどこまで行こうか」

 

「そうだな、久しぶりに街にでも出ようか」

 

 完全なる破滅ほどではないが、再び地球に訪れた氷河期によって人類は大きく衰退した。

 

 けれど二人には関係ない話。

 

 地上は等しく極寒、ならば人々は地下へと住居を移す、しかし地下都市にも住める者の限度がある。

 

 クリスとアスカはそんな地下都市に住めなかった者だった、もっとも二人には「ギア」があるので凍死の心配はないのだが。

 

 地上の廃墟で手にした貴金属などを売って得た地下通貨で、二人は幾つかの缶詰めと衣服を買う。

 

「まるで映画の中みたいな景色だね、クリス」

 

「そうだなアスカ、サイバーパンクって奴だな」

 

 空のない空を見上げ、街中に張り巡らされた暖房パイプと換気扇、蒸気をあげる発電所、食品工場、海へと繋がる地下港。

 

 買い出しを終えると二人は地上へと出る、珍しく空は晴れていた、瞳に映るのは欠けた月。

 

「月が綺麗だねクリス」

 

「そうだな、死んでもいいくらいに」

 

 二人が遠く逃げ出して十数年、世界は幾度となく混迷に包まれた、しかし今ではその混迷すらも活気があったように思える衰退ぶり。

 

「なあアスカ」

 

「なあにクリス」

 

「一緒に死のう」

 

「その時が来たらね、でもそれまでは一緒に生きよう」

 

「「愛してる」」

 

 静かな白い世界で二人は口づけを交わす。

 

 

 アスカとクリスは旅人だ、ゆっくりと死へと向かう旅人だ。

 

 ユーラシアを中国からヨーロッパ方面へとシルクロードを逆行する様に進んでいく。

 

 道中様々な出会いがあった、うさんくさい武術家に薬売り、やたら世話焼きな錬金術師に自動人形、あと温泉に入るヒトデナシのアダム。

 

 意外な事に世界はこんなでも、わりかし皆元気に生きている。

 

「~~♪」

 

「随分また懐かしい歌だな」

 

「生きてるから歌うんだよクリス」

 

 たとえ辿り着くのが死だとしても、その道程くらいは自由に選びたい。

 

 それが生きる事なのだから。

 

「クリス、もう一日生きよ」

 

「いつもそれだなアスカは……わかってるよ、もう一日だ」

 

 もう一日、もう一日、絶望していた少女を生かす言い訳は、それでいい。

 

 

「そうそう私達の旅はまだまだ続く、終わる時は終わらせる時だよ」

 

 命の温もり、アスカの高い体温がクリスに伝わる。

 

 これがあるから、クリスはこの過酷な白い世界で生きてこられた。

 

「そう、だな……じゃあもう一日……生きてみる」

 

 いつやってくるかもわからない終わり、けれどそれまでは、それまでは。

 

 二人ぼっちで旅を続けよう、人生という旅を。


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