学園ものパラレル 光秀×信長   作:とましの

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第5話

秋が深まり中間試験を終えると文化祭の準備が始まる。そうなれば生徒会執行部もいつもより多忙な日々を強いられることになる。

授業を終えた生徒たちが忙しなく準備を進める中、光秀は廊下でストラップを拾った。うさぎのぬいぐるみのようなものがつけられたそれには当然だが名前は書かれていない。遺失物として届けるかと再び歩き始めた光秀は次にひよこのぬいぐるみを拾った。

ふたつの落とし物を手に歩いていると二階から降りてくる緋田と遭遇する。しかし緋田は光秀を一目見るだけですぐに顔を背けてしまった。

生意気な言葉を向けることもせず、緋田は急いでいるのかその場を立ち去ってしまう。その背中を眺めた光秀は小さな違和感に我知らず目を細めた。

窓から差し込む夕日に当たる緋田の背中は華奢で弱々しく見える。それでも彼は今まで一度も休むことなく通い続けている優等生だ。手を差し伸べて助けてやらなければならない問題児とは違う。

そうして廊下の向こうを歩く緋田を眺めていた光秀はそばに立つ教師に気付かなかった。

「緋田君って、絵になりますよね」

唐突に声をかけられた光秀は驚きの目で振り向く。すると階段からやってきたらしい美術教師が笑顔を見せていた。

「だけど最近痩せた気がするんですよねぇ…あ」

おっとりと話す新任教師は語尾とともに光秀の手元に目を向ける。それにつられる形で視線を落とした光秀は持っていたぬいぐるみを見せた。

「それぼくのです。どっかで落としちゃって探してたんですよー」

嬉しそうに微笑む美術教師を眺めていた光秀はふと驚いたように目を見張った。拾ったぬいぐるみふたつを教師に押し付けると緋田が立ち去った方向へ駆け出す。

 

緋田に追い付いた光秀はその腕をつかむと引きずるように生徒指導室へ連れ込んだ。驚きの顔で部屋に入った緋田は扉が閉められたことでその顔に緊張を乗せる。

「何の用で……」

「おまえ最近飯食ってるか」

肩に手を乗せ問いかけた光秀の目の前で緋田は一瞬驚いたような顔を見せる。しかしすぐにその顔をしかめると肩に乗った光秀の手を払った。

「そんなこと君には関係ないじゃないか。それに僕よりもっと目を向けるべき生徒は」

「俺のことを邪魔に思ってんのはわかってる。けどおまえ最近痩せてきてるだろ」

緋田の背中を眺めて得た違和感はこのことだと思い込んだまま言葉を向ける。そんな光秀の目の前で緋田が強く顔をしかめた。

おもむろに光秀のネクタイをつかむと引き寄せた上で床に引き倒す。その衝撃で近くのパイプ椅子が倒れたが緋田は気にも止めなかった。

ネクタイをつかんだまま馬乗りになると光秀の顔を見下ろす。

「君を見下ろすのも楽しいものだね」

「俺は楽しくねぇよ。さっさとどけ」

「嫌だよ」

不機嫌に顔をしかめた光秀の目の前で緋田はさらに不機嫌な顔を見せる。しかし体調が悪いのか機嫌が悪いのか、光秀にはわからなかった。

窓から差し込む夕日に照らされた緋田の顔色は赤く見えなくもない。しかしそれは夕日のせいだろう。

「明紫波は同性愛者だろう。恋人とはもう別れたの?」

馬乗りにされてネクタイをつかまれたまま、光秀は生徒の質問に絶句した。なぜこの生徒がその事を知っているのかと疑念が頭の中を回り続ける。

「僕が知らないとでも思ったのかい? だとしたら君は自分の愚かさを恨みなよ」

子供扱いしているから悪いんだと、緋田は以前と同じ生意気な表情を見せた。女王然として相手を見下すような態度で口許を横に引き伸ばす。

「口外はしないから安心しなよ。その代わり明紫波に頼みがあるんだけど」

「あ?」

口外しないと言いながら頼みを向ける緋田に光秀は初めて嫌悪感を抱いた。子供は無邪気と言うが、今の緋田には邪気しか感じられない。

「のんきに一年の担任をしている君と違って僕は受験で大変なんだ。だけど生徒会長の役目も卒業まで続けたい。後任も見つかってないからね」

「キツいんなら受験に専念しろよ」

「きつくはないよ。ただ雑務が多過ぎてストレスが溜まって仕方ないんだ。だから君が僕のストレス発散の相手になってよ。君なら、男を抱くくらい簡単だよね」

同性愛者なんだからと、偏見と差別に歪んだ言葉を光秀は呆然と聞く。目の前にいる生徒が何を考えているかなど、前からわからなかった。しかし今はもうわかりたいとも思えなくなっていた。

 

 


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