ファンタジーな子守り   作:グランド・オブ・ミル

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2.異世界

 

 

 

 

 

 

 

時空乱流に引き込まれた者が二度と戻ってこれなくなる理由、それがこれである。時空間の歪みに引き込まれることで元いた空間から外れ、私のように別の世界へ飛ばされることがほとんどだからだ。いくらタイムマシンでも、別次元からの移動は容易ではない。私のタイムマシンは安物だからなおさらだ。劇場版の「日本誕生」でククルという原始時代の少年は時空乱流に引き込まれたものの、時間だけを越えて現代ののび太の町にやって来たが、こんな例はごく稀で、大概は私のように帰らぬ人となる。

 

「……おーい、大丈夫?」

 

『大丈夫二……見エマスカ…?ビビ……ワタシ……モウ…動ケナイ……ガピー……』

 

「だよね。どこ損傷したか分かる?」

 

『たーぼしすてむ及び…ビビ………時空間移動装置ヲ深ク損傷。…ビビビ……めいんえんじんモ作動ガ難シイ状況デス。』

 

とりあえずタイムマシンの損傷が軽いものならまだ希望があったが、現実はそう甘くなかった。タイムマシンはもはや修理工場に出すかスクラップにしなきゃならない程のガラクタと化していた。

 

まいった。直してやりたいがタイムマシンは非常にややこしくデリケートなマシンで専門のメカニックじゃないと手に負えない。一子守り用ロボットの私にはとても無理だ。

 

「とりあえず、ポケットに入れとくね。」

 

私はタイムマシンを両手で部品がこぼれないように持ち上げ、お腹の真っ白な"四次元ポケット"にしまった。四次元ポケットはドラえもんの代名詞とも言えるひみつ道具で、ドラえもんのお腹についている。このポケットの中は四次元空間になっているのでどんな大きなものでもしまえるし、いくらでも物を入れられる。

 

「さて、当面は、下手したら一生ここでくらさなきゃならないわけだけど……まずはここらを探索しなきゃ。」

 

どうでもいいが、転生してから私は妙に精神的に強くなったと思う。別次元に来てしまったなんて状況、普通は泣きじゃくるか混乱するかしてもおかしくないが、私はいたって平常運転のままだ。もしかしてロボットになったことで多少非常事態に対する耐性がついたのだろうか。

 

まあ、やたらオロオロしないのはこの際好都合だ。私はタイムマシンをしまった後、ポケットから"タケコプター"を出して頭に装着し、フワッと空へ舞い上がる。タケコプターは……ってもはや説明しなくても分かるだろう。プロペラを回して空を自由に飛べる道具で、最高時速は80㎞/h出すことができる。ただし連続8時間以上運転すると電池が上がってしまうので注意が必要だ。

 

私はタケコプターでとりあえず高度100メートルくらいまで上昇してみた。周りにあるのは森や草原といった自然ばかりで人が住んでいる気配はない。

 

「あれ?ひょっとしてこの世界って何にもいなかったりする?」

 

怖くなった私は急いで降りてポケットに手を入れて別の道具を探す。いくらなんでも何にもいない世界なんかで生きていけるわけがない。早急に確認しなければ!

 

「あった!"◯×占い"!」

 

ドラえもん風に出した丸とバツを象っただけの道具を右手で天高く掲げて叫ぶ。えへへ、ちょっとやってみたかったのだ。誰も聞いてないけどね。

 

この◯×占いという道具は、どんな質問にも◯か×かはっきり答えてくれる的中率100%の占い道具だ。あくまで質問の合否のみを答えるので勘違いを起こしやすいが、まあそこは使いようだ。

 

「えーと、まずは……この世界に生き物は存在する?」

 

ピンポーンッ!

 

◯×占いを地面に置き、私が質問すると正解音と共に勢いよく◯が飛び上がった。良かった。この世界には少なくとも生命体はいるみたいだ。

 

「…虫だけとかじゃなくて?」

 

ピンポーンッ!

 

一応聞いてみるとまたもや◯が飛び上がる。いくら生き物がいても、それが全部虫とかだったら嫌だからね。じゃあ、次は希望は薄いけど……

 

「この世界に人間はいる?」

 

ピンポーンッ!

 

おっ!これは嬉しい誤算。望み薄で聞いてみたが、どうやらこの世界にも人間はいるみたいだ。良かった。本当に良かった。なら何とか暮らしていけそうだ。じゃあ、最後に……

 

「この世界は科学が発達している?」

 

ブッブーッ!

 

ああ、やっぱりこれは違うんだ。やっぱり別次元だから人間がいるといってもそっくりそのまま私達の世界のように科学が発達するとは限らないか。とすると、この世界の人間は科学とは違う文明を持っているか、もしくはまだ石器時代辺りなのかもしれない。ま、人がいただけラッキーと思おう。

 

私は◯×占いをポケットにしまい、続けて違う道具を取り出す。

 

「"たずね人ステッキ"!」

 

またドラえもん風に出してしまった。一度やるとクセになるのだ。この出し方は。

 

次に私が出したたずね人ステッキは、紳士な方が持っているような杖状の道具で、探したい人の名前を言って地面に立て、倒れた方向にその人がいるという道具だ。ちなみに的中率は70%。まあ、ないよりマシだ。

 

「人間はどこ?」

 

私はステッキを立ててそう尋ねてステッキから手を放す。しかし、ステッキはぐわんぐわんと揺れるだけで一向に倒れる気配がない。どうやら人間がいっぱいいるせいで迷ってるようだ。こりゃ失敗。

 

「それじゃあ…え~と……あった!"探シマリス"!」

 

たずね人ステッキをしまい、今度はまぬけな顔をしたリスのロボットを取り出す。この探シマリスはたずね人ステッキと効果は似ていてたずね人、もしくは探し物を探すのだが、このリスはあまり頭がよくなく、特定の人物では機能しない。「人間を探して」といった感じの抽象的なたずね人しか受け付けないちょっと役立たずな道具だが、この状況ではこいつが役に立つ。

 

「ここから一番近い所にいる人間を探して。」

 

私がそう言うとリスはこくんと頷き、すんすんと鼻を動かすと森の中へ颯爽と消えていった。私もリスを追いかけて移動を始めた。

 

 

 


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