ファンタジーな子守り   作:グランド・オブ・ミル

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1.時空乱流

 

 

 

 

やぁ、私の名前は「ルル」。しがない子守り用ロボットだ。

 

日本で生活していれば、誰しも一度は「ドラえもん」という漫画を聞いたことがあるだろう。何をやってもダメな野比のび太という少年を救うため、未来からはるばるやって来た子守り用ネコ型ロボットのドラえもんが奮闘し、のび太と友情を育んでいく日本が世界に誇れる傑作作品の一つである。

 

かくいう私もドラえもんに魅了された者の一人だ。3歳の頃にドラえもんに出会って以来、一時もドラえもんを忘れたことはない。

 

さて、あなたはなぜ私が急にこんな話をしたのか気になっていることだろう。信じられないかもしれないが、私はそんな"ドラえもんの世界"に転生してしまった。それも人間にではない。"子守り用ロボット"としてだ。

 

私は何の変哲もない普通の男子高校生だった。ある日、課外で遅くなってしまい、走って駅へ向かっていた私は、居眠り運転のバスにひかれてしまった。どうやら運転手は長時間の運転で疲労が溜まっていたらしい。バスにひかれた私はそのままあっけなく昇天した。

 

はぁ、俺も死ぬのか…。逝くのは天国かはたまた地獄か……。

 

そう覚悟した私だが、不思議と次の瞬間に体の感覚が戻っていた。恐る恐る目を開けると、白衣を着た男性女性含む研究者らしき大人達が皆を手を大きく挙げてガッツポーズをして喜んだ。あの時、私は何がなんだか分からなくて頭に?マークを浮かべた。

 

今世での私の姿は、髪は輝く白色で、目は赤、肌は病的な程に白く、黒いレインコートのような服を羽織り、頭には服のフードを被った"女の子"だった。俗に言う「TS転生」というものをしてしまったらしい。ロボットだから転生というのは少しひっかかるが。転生当時は昔のままの男言葉でしゃべっていたが、ロボット学校で先生に「君の個性も大事だが、ある程度は直したほうがいい」と注意され、努力の末になんとか直った。染み付いたしゃべり方を直すのは中々に骨だった。

 

私は自分の姿を姿見で見た時、真っ先にこう思った。

 

「戦艦レ級だ。」

 

私の姿は艦これの戦艦レ級そのままだった。もちろん先端が戦艦のようになっている太い尻尾もある。この尻尾はちゃんと戦闘に使えるみたいだが、艦これにあまり詳しくない私では今のところ強力な力で振り回す程度だ。

 

戦艦レ級なのだから戦闘用ロボットなのかと聞かれれば実はそうではない。私、なんとドラえもんと同じく子守り用ロボットなのだ。しかも最新型の記念すべき初号機である。子守り用ロボットなのに何で戦闘用の尻尾があるのか工場長に聞いてみた所、「子供を守るため」と言われた。いや、過剰戦力だろ。何があるんだよ22世紀。

 

こうして"子守り用少女型ロボット"として産まれた私はドラえもんと同じロボット学校へ通った。ネジが外れたことで皆についていけないドラえもんを慰めるのは毎回私かクラスメイトのノラミャー子の役割だった。超エリートロボットのパワえもんは余裕綽々といった様子で学校を首席で卒業した。私は普通より少し下といった所。むむむ、悔しい。私、最新型なのに。

 

まあ、そんなこんなあってようやくこの世界に慣れてきた今日この頃、私は久々にドラえもんに会いに行こうとタイムマシンに乗っていた。セワシ君を訪ねたらドラえもんは21世紀ののび太君の所にいると言われ、少し見ない内にもう原作に入ったのかとしみじみ感じた。ちなみに私のタイムマシンはドラえもんの物と同型の"空飛ぶ絨毯型"、一番安い機体だ。タイムマシンなんて高級品のように色んな機能がなくたって時間移動さえできればそれでいい。べっ、別に高い機体が買えないからってひがんでるわけじゃないんだからねっ!ぐすん…。

 

『ドウカシマシタカ?』

 

「…何でもないよ。それより21世紀まで後どれくらい?」

 

『21世紀ノ東京、ノビ太君ノ部屋マデ残リ14分程デス。』

 

私の質問をタイムマシンのコンピューターが機械らしいカタコトで返す。最近のタイムマシンは時間旅行をより快適にするためにこのようなコンピューターが取り付けてあるのが主流だ。私のタイムマシンは時空間の中をゆったりと進む。

 

ドラえもん、元気かなぁ。あいつは昔から妙に人間ぽいっていうか、純粋というか、子供っぽかったからな。ちゃんとのび太君の世話ができているか心配だ。久しぶりに飴と鞭でびしばし鍛えてやらないと。

 

私がドラえもんに渡そうと思って買ったドラ焼きをギュッと握りしめたその時だった。

 

ビシャアッ!!!ゴゴゴゴゴ……!!!

 

『緊急事態!緊急事態!"時空乱流"発生!!』

 

突然、辺りに雷鳴が轟き、タイムマシンが激しく揺れる。時空間はさっきまでの穏やかさを失い、まるで雷雲の中のように乱れている。時空間の乱れ、時空乱流に遭遇したらしい。これに引き込まれれば一溜まりもない。最悪二度と戻ってこれなくなる。私は慌ててターボレバーを下げた。するとタイムマシンの燃料タンクも兼ねる両脇の部位からターボエンジンが飛び出し、ゴウッとタイムマシンが加速した。ドラミちゃんのチューリップ号のような高級品のタイムマシンならもっと安全な対処法があるのだが、私の物のような安物はこうやってスピードを上げて一か八かゴリ押しするしかない。私のタイムマシンは乱れる時空間の中を全速力で突っ切っていく。

 

その時だった……

 

ビシャアッ!!!

 

「なっ!?しまった!!」

 

『たーぼしすてむガ故障シマシタ。加速デキマセン。』

 

時空間の雷が不運にも私のタイムマシンを直撃した。雷によってターボシステムを破壊された私のタイムマシンは失速してしまう。

 

「わあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ターボシステムを失った私は為す術がなく、時空乱流へ吸い込まれていった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チョン……パタパタ……

 

「んっ……んん……ん?」

 

倒れていた私は一匹の蝶々に起こされて目が覚めた。起き上がってみるとそこは森の中だった。どうやら時空乱流に引き込まれた私は時空間を放り出されたらしい。

 

『ビビ……ヒビビ………』

 

後ろから機械音が聞こえたので振り返ってみるとそこには見るも無惨な変わり果てたタイムマシンの姿があった。時空間から放り出された衝撃で壊れてしまったらしい。タイムマシンに近寄り、今どの年代にいるのかを調べるためにタイムカウンターを覗くと、年号などは表示されておらず、ただ『UNKNOWN WORLD』とのみ表示されていた。まあ、うすうす気づいていたことだがこれで確信した。

 

私は誰も知らない異世界へ来てしまったようだ。

 

 

 

 

 





設定は新ドラえもんのほうから引っ張ってきています。ドラえもんの声優が変わって10年以上。そろそろ旧のドラえもんを知らない人がいるのではないかと思っての配慮です。

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