こんな前振りをしておいてなんですが、自分は元気です。
Apoursのライブもあと1日に迫って着ました。アニメの二期が発表されることを祈って、今日も1日頑張りましょう。
ps.最近前書きに書くことがなくて困っています。なにかネタください。ついでに感想もください。
TPOという言葉は誰もが耳にしたことがあるはずだ。
確かに時と場合に応じた服装は大切だろう。
例えば葬式には白いネクタイを着けてきてはいけない。
例えば公共の場では清潔感のある服を着る。
例えば学校などでは、指定された制服を着用する。
一見面倒に感じるが、このTPOを守ることでその場の空気はその場にあった空気になる。
異常がなければトラブルは起こらないし、誰もが気持ち良く時間を過ごすことができること間違いなしだ。
でもさ……
「これは違うと思う……」
俺、朝比奈信一は、浦の星女学院の制服に身を包み、幼馴染2人と東京から来た転校生を伴って浦の星女学院の理事長室に向かっていた。
早朝に急遽幼馴染の朝練に付き合い、その時に俺はイーストサンの大手取引先の娘さんと2年ぶりの再会を果たした。
その娘さん……小原鞠莉さんは学校が終わったら浦の星女学院の理事長室に来てほしいと言った。
大手取引先の娘さんの頼みなら俺に断る理由はない。彼女の家が払うお金が俺の給料の一部になっているのだから、感謝の気持ちを行動で表すことはなんらおかしいことじゃないはずだ。
いつもと変わらない1日に突然入った予定。俺は通っている学校のこともあるので、少し時間の調節が必要だった。
なので、そのことを伝える為に友達でもあった彼女にメールを打とうと思い、スマホを開いた。
すると、既に鞠莉さんからメールが来ていた。きっと時間のことを彼女も考えてくれたのだろう。そう考え、メールを見ると不思議な文章が綴られていた。
『シンイチの学校の終業から
とのことだ。
男子制服のままではいけないということは、私服に着替えたほうがいいのかな?
そう思って家に帰ると、玄関では母さんが浦の星女学院の制服を持って笑顔で待っていた。
「
TPOなんてクソくらえだ。みかん農園で野戦服を着ている俺は心からそう思った。
「ねぇ、さっきからすれ違う生徒が俺を見て顔を紅くしてるんだけどさ……バレてない?」
「たぶん美人過ぎるからだよ。シンくん、今すっごく可愛いもん」
「バレてない安心感とバレてない悲しさが俺の中で同時発生したんだけど……」
「俺とか言っちゃダメよ。女子校に男が女装して侵入してるなんてわかったら最悪捕まると思うし」
「そうだよ。シンちゃんミックスボイス?ていうのできるんだから、それで女の子っぽい声出さないと」
ミックスボイスとは、違和感なく高音域の声を出す技術。プロの男性歌手は大体できる。
俺がこれをできるのは、中学時代ほぼ毎日千歌にカラオケに付き合わされたからだ。
アニソンは女性歌手が歌っていることが多いので、ついでに習得した。
まさかこんなことに使うなんて思ってなかったよ……。
「朝比奈くんって無駄に器用ね」
「無駄は余計だよ」
「えっ!?」
ミックスボイスを使って答えると、桜内さんはめっちゃ驚いてる。
ここまでやればもう完璧に俺は女の子と変わらない。
髪型もいつもみたいに乱雑にまとめたものやポニーテールではなく、降ろして曜に梳かしてもらった。
ついでに千歌がいつも付けてるクローバーのヘアピンの予備を借りている。
「心折れそう……」
廊下の窓から学校の外を眺めて心の補強工事を行う。
海が近いということで、小高い丘に建てられている浦の星女学院の窓からは綺麗なオーシャンビューが臨める。
バス停から校門まで坂になってるけど、登っている途中で振り向くと見える海の景色は最高と幼馴染2人は1年生の時に自慢してたな。
まさかこんな形で俺も見ることになるなんて……人生ってわからないもんだね。
たった16年とちょっとを生きただけの俺は既に人生の全てを悟った気分になる。
「失礼します」
軽くトリップしていたが桜内さんの凜とした声で現実に引き戻される。
どうやらこの立派な扉が理事長室みたいだね。
「どうぞ」
扉の向こうからは俺たちを呼び出した鞠莉さんの声。
返事を聞いて中に入ると、案の定鞠莉さんが待っていた。
「チャオ!」
「はい、こんにちは」
挨拶を返す俺を、鞠莉さんは訝しむように見ている。
なんか変なことしたかな?
「もしかして……シンイチ?」
「そうですよ」
「Oh!ベリーキュート!やっぱりマリーの目に狂いはなかったわ!」
「狂いはなかった……というのは?」
「シンイチはセーラー服が似合うってこと!」
ふむ、男にセーラー服が似合うと思った時点で鞠莉さんの目はトチ狂ってるとしか思えないんだけどなぁ。
もしイーストサンのお客さんじゃなかったらぶん殴っていたところだよ。
「はは、ありがとうございます。それはそうと、ここは理事長室ですよね?男が堂々とここにいるのは女子校として好ましくないと思われるので、あまり俺の名前を言わないでもらえますか?」
「Don't worry!理事長はこのマリーだから安心してちょうだい」
「はい?」
「だ・か・ら、マリーがこの学校の理事長なの」
「Reary?」
「イェース」
マジか……。いや、これは鞠莉さんのジョークの可能性があるな。この人、結構冗談とか言うし。昔はそんな冗談を交えた会話をコーヒーのお供に一緒に楽しんでたけど……でも、この状況で冗談なんて言うかな?いやいや、そもそも冷静に考えれば制服を着ている鞠莉さんが理事長であるはずがない。ということは、今この部屋に本当の理事長が隠れていて俺が男というこはバレている可能性が……。その場合俺は警察に捕まって牢屋行き。別にそれは構わないが、そうなった時俺の可愛い信夏は俺のことをどう思うだろう?嫌われる?軽蔑される?縁を切られる?やばいやバイヤバいやバいヤバイヤバイヤバイ……
「でも生徒ですよね?」
思考停止に陥った俺が完全に使い物にならなくなったと判断したらしい曜は、素朴な疑問をぶつける。
「はい!この学校の3年生でもあります。生徒兼理事長!カレー牛丼みたいなものね!」
「例えがよくわからないんですけど……」
「わからないの!?」
「わからないに決まってますわ」
うお!?いきなり鞠莉さんの後ろから浦女の制服を着たでかい日本人形みたいのが現れた。
てか、ダイヤさんじゃん。久しぶりに見たな。
「Oh!ダイヤ久しぶり〜。大きくなってる?」
そう言いつつ鞠莉さんは左手をダイヤさんの頭に、右手はダイヤさんの胸に添えている。どっちだ!どっちの意味なんだ!おっぱいか?身長か?
「触らないでくださいます?」
対するダイヤさんは青筋を額に浮かべ、大変ブチギレてるご様子だ。
一応は網元の娘ということで優雅なお嬢様口調だけど、引き攣った目元がそれを台無しにしている。
「まったく……2年前にいきなりいなくなったと思ったら……」
「シャイニー!!」
バサァ!と、閉まっていたカーテンを鞠莉さんが勢いよく開けた。
「人の話を聞かない癖は相変わらずですわね」
ガシッ!と、鞠莉さんのタイをダイヤさんが勢いよく掴んだ。
「イッツジョーク」
どうやら鞠莉さんに反省の色はないようだ。お見事。
「ハァ……あら?」
疲れたようにため息を吐くダイヤさんの目が俺と合う。すると、この人にも訝しむような顔をされた。
「あなた……どこかでお会いしたことありません?」
「えっ!?」
いきなりバレた!?いや、でも考えるように顎に手を当てながら言ってるということはまだ明確にはバレてないはずだよね。
確かに一度は会ってるけどあの時の服装は配達用の野戦服だったし、髪型だってポニーテールだった。
つまり、どちらかと言うと今の俺は髪を降ろしてることから信夏と瓜二つな状態になっている。そこからダイヤさんはインスピレーションを感じたのかもしれない。
だったらまだ誤魔化せる。
「生徒の少ない学校ですから、どこかですれ違ったとかじゃありませんか?」
「いえ。もっと頻繁に会っているような……そう!あなた、お名前はなんと?」
背中に冷たい汗が滝のように流れているのがわかる。まずいな……。
そもそも俺はこの理事長室に鞠莉さんに会いに来たわけだから偽名なんて考えてなかった。
ここで正直に朝比奈信一です、なんて答えたら色々終わる。男の尊厳とか社会的立場とか。
「えっと……朝比奈………………………」
顔に関してはもう言い逃れできないレベルで信夏とそっくりなので、苗字はそのままにして親戚ということにしよう。
問題は名前だ。信一だから……
女だから……
信一だから
そう!
ここまでの思考、わずか1.23秒。
「一女です。2年生の朝比奈一女」
「朝比奈さん……ですか。もしかして朝比奈信夏さんの血縁者とか?」
「信夏とは再従姉妹の関係になります。信夏と知り合いなんですか?」
「えぇ。毎週みかんの配達に来てくださいますの」
「そうなんですか。世間って狭いですね」
「言われてみればそうですわね」
はっはっは、とお互いに笑い合う。なんか、わずか数秒で俺にもう1つの人生が生まれちゃったんだけど……まぁいいか。
今後女装することなんてないし。ないはずだし。ないはずだよね?
「それで、あなたもスクールアイドルに?先日まではいませんでしたが」
「いえ、自分は幼馴染に記録係をやってほしいと頼まれたので」
「幼馴染?」
「はい。千歌と曜に」
後ろの3人は俺のピンチを知ってか知らずか、こちらを見守っている。
あと、偽名を考えている時から桜内さんがちょっと楽しそうにしていた。人が困っているのがそんなに面白いのだろうか?
「そうですか。でも、スクールアイドル部は認めませんわ。必要ないですもの」
「と、硬度10のダイヤが言うと思ったので!マリーが理事長となってカムバックしてきたわけ!」
「誰が硬度10ですの!あと、高校3年生が理事長なんて言う冗談はいい加減やめてくださいません?」
「What?冗談じゃないよ。ほら!」
そう言って鞠莉さんがスカートのポケットから出したのは……任命状。
そこには、小原鞠莉を正式に浦の星女学院の理事長に任命すると記されている。
マジか……。
「私のホーム、小原家の浦女に対する寄付は相当な額なの」
やはり金はいつの時代も偉大だな。もう結婚したいよ、鞠莉さん。
「そんな……なんで?」
「さっきも言ったでしょ?」
任命状をしまい、俺たちのほうに近付いてくる。その顔はさっきまでと違い、かなり真剣だ。
「この浦の星女学院に誕生したスクールアイドルを応援するためだよ。たぶんダイヤは邪魔すると思ったからね」
「その為だけに?バカげていますわ」
鞠莉さんとダイヤさんが睨み合う。仲悪いのかな?
でも、鞠莉さんの態度を見るにそんな風には見えないし……。
単純に生徒会長という立場から、学生の領分を超えた鞠莉さんが気に入らないだけかもしれない。
まぁ、そんなことは俺たちには関係ないか。この2人が実はマブダチだろうと殺し合いをしそうな仲だろうとどうでもいいし。
「それで、理事長?」
「ノンノン!マリーだよ」
ちょっと不穏な空気を察した千歌が鞠莉さんに話かける。それを合図にさきほどまでの人生を全力で楽しんでいる鞠莉さんに戻った。
「えっと……マリー?応援してくれるってホントですか!」
「イェース!このマリーが来たからには心配ありません。デビューライブはアキバdomeを用意したわ」
「わぁ!奇跡だよ!!」
金の力って本当にすごいな。鞠莉さんが見せてくれている二つ折りの端末には確かにアキバドームが映っている。
スクールアイドルの憧れであるアキバドームでデビューライブなんて……これ、もうライブの質がどうとか関係なく人気が出るでしょ。
「イッツジョーク」
うん、イーストサンのお客さんじゃなかったら海に沈めてた。
「ジョークの為にそんなものまで用意しないでください」
千歌のテンションも一気に低くなり、それに合わせるかのように声まで低くなっている。
「本当は……」
「体育館を満員ねぇ……」
浦の星女学院の新理事長が用意してくれたデビューライブの場所は、スクールアイドルらしく学校の体育館だった。
そして、そのライブが成功すれば人数に関わらず部として承認してくれるらしい。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「ちょっと考え事。信夏もコーヒー飲む?」
「うん!」
台所でコーヒーを淹れる俺の腰に抱き着きながら、可愛い可愛い妹はグリグリと背中に頭を押し付けてくる。
そんな中3になっても甘えたな信夏の頭を優しく撫でれば、えへへと嬉しそうにはにかむ声が台所に木霊する。
「ねぇ、信夏」
「なに〜?」
お湯が落ち切る前にフィルターを外し、三角コーナーにポイ。
2人分のコーヒーが入ったサーバーを居間まで運び、信夏が用意しておいてくれたコーヒーカップに注ぐ。
「浦の星女学院の体育館を満員にするにはどうしたらいいかな?」
「なにかイベントやるの!」
「うん。そうなんだけどね、体育館を満員にしないと成功って認められないんだ」
「成功って認められないとダメなの?」
「うん」
ぶっちゃけ、成功なんてものは当事者が抱く感想のようなものなので、これといった明確なボーダーラインはない。
それは俺も信夏も共通の認識だ。
でも、今回は
「やっぱり全校生徒を集めるのが1番手取り早いんじゃないかな?」
「俺も考えたんだけどね、あの学校全校生徒集めても体育館が満員にならないらしい」
「えぇ〜……」
信夏の眉が困ったように八の字を描く。両手でカップを持ち、ちびちびと熱いコーヒーを飲む姿は今の悩みをバカらしいと思わせてくれるほど癒し効果がある。
「そのイベントって一般公開されるの?」
「もちろん」
そうでなきゃ無理ゲーもいいところだ。
「じゃあ、全校生徒+一般の人たちも集めなきゃいけないんだぁ。まぁ、ここまではお兄ちゃんも考えてることだよね」
「うん。その上で信夏に相談してる」
「そっかぁ……えへへ!もしかしてわたし、頼られてる?」
「俺が重要なことで頼るのは信夏か父さんくらいだよ」
ここで母さんが出てこなかったのは言及しないでいただきたい。別にあの人も解決策を考えてくれるにはくれるが、内容が突飛な可能性が高い。
一口、自分のコーヒーを啜る。
「う〜ん……やっぱり地道な宣伝かな。しかも、興味を持たせるようなやつ」
「そうなっちゃうよねぇ……」
「あ、ごめん……もしかして参考にならなかった?」
「いや、そんなことはないよ」
信夏も俺と同じ考えということは、それだけでその考えが正解という保証が付いたのと同じだ。
だから、そんな不安そうにしないでほしい。罪悪感で100回は死ねる。
「うぅ……ちなみにそのイベントが成功しないとどうなるの?」
「別にどうなるわけでもないよ。生活リズムが戻るだけ」
千歌が言うには、これからライブまで毎日朝練をやるから来てほしいとのことだった。つまり、俺は配達がない日も早起きしないといけない。
でも、ライブが成功しなければ……もうそうなることはない。
体育館を満員にできなけばスクールアイドル部の承認をもらえないだけでなく、強制的に解散させられる。あとあと5人揃ったからといって、もう部として認めてもらえない。
「お兄ちゃんはさ……そのイベント、成功してほしい?」
俺は……どうなんだろう。早起きはあんまり好きじゃないし得意でもない。部が承認されなければ、必要のない早起きをすることもなくなる。
でも、成功しないとダメだ。せっかくやるなら成功してほしい。俺は手伝いしかできないしただの記録係だけど、だからこそ千歌と曜と桜内さんの頑張りも記録してる。
今日の帰り、バスの中で千歌にきいた。どうして学校の違う俺をスクールアイドルの記録係に誘ったのか、と。すると、ちょっと照れくさそうに答えてくれた。
『いつも一緒だったシンちゃんと学校が別々になって……少し物足りなかったんだ。曜ちゃんがいてくれたけど、やっぱり私はシンちゃんも一緒が良いって思ったの。また一緒に何かやりたいって、そう思ったから誘ったんだよ』
ハァ……こんなこと言われたらもう答えなんて決まってる。
「信夏、成功してほしいんじゃない。成功させるんだよ」
「……そうだよね。お兄ちゃんカッコいい!」
「当然。俺は死ぬまで信夏にとってカッコいいお兄ちゃんでいるつもりだからね」
ライブは絶対成功させる。スクールアイドル部は絶対承認させる。
記録係として。発起人の幼馴染として。そして、あの3人のファン第1号として。
だったら、やっぱり最初は地道な宣伝活動からやっていこう。
「やるなら、アレだよね……」
俺はコーヒーを飲み干し、鞄からデジカメを取り出す。3人の写真はあるし、これならなんとかいけそうだ。
さぁ、あの3人に負けないくらい俺も頑張らないとね。
「そういえばお兄ちゃん、1つきいてもいい?」
「なにかな?」
「なんで浦の星女学院の制服着てるの?」
俺は全力疾走で自分の部屋に向かった。目に海水のような塩水を浮かべながら。
オリキャラ紹介
名前: 朝比奈零
趣味: みかんを使った料理の研究
特技: だいたいのことは人並み以上にできる ラテアート 料理
好きなもの: 家族 内浦
概要: 朝比奈信一と信夏の父親。誰にでも紳士的に接し、何事もそつなくこなす完璧な人間。
唯一の欠点は顔が怖いこと。よく阿形と吽形に例えられる。
老若男女に好かれる良識人だが、小さい子どもが苦手。理由としては、初対面だと100%泣かれるから。
逆に女子高生などからの人気はかなり高い。それに毎回嫉妬して模造刀で攻撃してくる妻が最近の悩み。
信一と信夏の給料制度を作ったのは、金というものの本来の価値を学ばせるため。子供とはいえ、中高生に給料を渡すのは労働の対価として当たり前と考え、使い方についても特に口出しはしない。
逆に言えば、浪費癖がつかうと助かるつもりは毛頭ない。
みかん農園“イーストサン”のオーナーとして、日々経営に工夫を凝らしている。
その甲斐あって生活に困らないどころか余るほどの結果を出している。
余ったお金は沼津市に寄付。図書館の蔵書や児童館の玩具代などに使われている。
イーストサンでの仕事着は赤いTシャツに青いオーバーオール、Mの文字が入った赤い帽子という完全にキノコで身長や体質が変わる国際的に有名なおっさんの格好。
実は甘党。喫茶店で妻とのデート中に甘いものを頼んでも自分の前に置かれないことに毎回首を傾げている。原因は言うまでもなく顔面。