あなたにみかんを届けたい   作:技巧ナイフ。

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こんな駄文の塊が羅列するような拙作にお付き合いいただきありがとうございます。

もう2月も終盤ですね。バレンタインデーにもらったチョコレートが未だに食べ切れてないというリア充の方々には是非とも虫歯になっていただきたいと思う時期なのは自分だけでしょうか?

今回はマリー登場です。小原家のヘリって派手ですよね。


第5話 格闘技やってれば大体の運動はできるんだよ

早朝。

 

俺は『十千万』の配達を終え、帰ろうとした時に早起きしていた千歌に呼び止められた。

珍しく起きていた千歌の格好は動きやすそうな服装だ。大きく“チ”と書いてある、どこのバカが売れると勘違いしてデザインしたのかわからない不思議なTシャツに身を包んでいる。

 

「これから朝練やるからシンちゃんも来てよ」

 

「朝練ってどこで?」

 

「そこ」

 

千歌が指差したのは『十千万』の前にある砂浜。今日も今日とて、飽きもせずに波は寄せては返すを繰り返している。

 

ザザァと、波が砂に当たる度に爽やかと名高い磯の香りがこちらにまで漂ってくる。

吐きそう……。

 

正直、さっさと帰って信夏とおしゃべりしたい。しかも磯の香りが強い場所で朝練とか辛すぎる。

 

「俺はやめとくよ。今デジカメ持ってきてないし」

 

俺としては信夏との時間が最優先だからね。でもそれを理由に断ると拗ねて大変面倒なので、無難な理由で断っておく。

 

「記録なんてスマホでもできるから大丈夫だよ。ほら、早く行こ?」

 

「うわ!ちょっと……」

 

疑問形のわりに千歌は俺の手を引いて走り出してしまう。

 

「マジか……」

 

だんだん強くなっていく磯の香りに、俺は心から絶望した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワンツースリーフォー、ごーろくななはち」

 

「ちゃんと数えて!」

 

砂浜で千歌と2人きり。今は俺が手拍子に合わせてリズムを取っているんだけど、なんか怒られた。

 

どうやらこれから曜と桜内さんも来るらしい。

 

桜内さんは作曲だけと聞いていたけど作詞した日になにやら心変わりする出来事があったらしく、結局スクールアイドルも一緒にやってくれるらしい。

 

それを話す千歌の顔がとっても嬉しそうだったのが印象的だったよ。

 

「おーい!お待たせ〜」

 

「2人とも早いのね?」

 

千歌のお説教を聞き流しつつ別のことを考えていると、声がかけられた。曜と桜内さんが到着したみたいだね。

 

「俺は配達の後呼び止められただけだよ」

 

「配達?」

 

「話してなかったっけ?ウチ(イーストサン)は年間契約でみかんの配達もやってるんだよ。良かったら桜内さんもどう?」

 

どんな時でも宣伝を忘れない。これが営業成績を伸ばすコツだと俺は考えている。

 

「……考えておくわ」

 

これは契約しないパターンだな。目が泳いでるし、たぶん親御さんにも伝えないだろう。

 

「三人揃ったし、朝練頑張ろ〜!シンちゃんも無駄な宣伝してないで、早く位置に着いて?」

 

「無駄な宣伝言うな」

 

「はいはい」

 

話をまったく聞かずに、千歌は俺の背中を押して横に並んだ3人の後ろに設置する。

 

「俺は何するの?」

 

「私たち3人が踊るから、後ろから見て遅れてたり早かったりする人を言ってほしいの」

 

「撮影は?」

 

「撮影は正面からするから大丈夫」

 

「ふぅん。ちなみに誰を基準にすればいいの?」

 

基準。いわゆる踊っているペースの目安にする人のことだ。これを聞いておかないと、誰が早くて誰が遅いのかよくわからないからね。

 

「う〜ん……曜ちゃんかな」

 

「了解」

 

つまりリズムの修正か。人によってリズム感は違うから、ズレてくるのは当たり前。それを指摘して、修正するのが俺の役目ってことね。

 

「じゃあ始めるよ〜」

 

そう言って曜がスマホを操作し、メトロノームのアプリを起動。

そんなのあるんだ……。

 

カチカチカチカチカチカチカチカチカチ

 

メトロノームのリズムに合わせて、3人が同じ動きを行う。

最初は揃っていたけど、15秒ほど経つとズレが生まれてきた。

 

「千歌、ちょっと早い。桜内さんはもう少し動きを大きくして」

 

曜を挟んで動く2人のズレはわかりやすい。

このくらいなら単純作業と言ってもいいくらい楽な仕事だね。

 

これをスマホの動画の撮影可能時間である30秒ごとに区切って、休憩を入れつつ続けていく。俺も少し経験があるけど、ダンスというのは体全体を使う運動だけあってスタミナの消費が激しい。

 

そして、体全体を使う運動だけあって女性特有の膨らみやらがバルンバルン揺れる。

単純作業に飽きた俺は、どんどんそちらに目が行ってしまう。

 

「曜は言うまでもなく、千歌も意外とあるな……」

 

ターンの度に揺れるソレの大きさは、案外動きやすい練習着だけあってわかりやすい。女の子の薄着って最高だと思う。

 

「桜内さんは……まぁ、2人ほどでないにしろ大きい。むしろウエストからヒップのラインが素晴らしいかな……」

 

ふむ、あえて言うまでもないかな。この光景を表現できる言葉は1つしかない。

 

そう!絶景である!!

 

「……シンちゃん、今何考えてる?」

 

「千歌ってアホっぽい顔してるのに意外とおっぱいあるよね」

 

「せいや!」

 

なにやら気合いと共に、俺の視界にオレンジ色の何かが映る。

次の瞬間、右目に激痛が走った。

 

「ノオォォォォォォっ!?」

 

痛い!?なにこの馴染み深い痛み!?

間を置いて漂ってくる強い柑橘類の香り。なるほど、みかんの皮か!

 

何度か瞬きをし、視界の回復を待つ。よし、見えてきた。

 

「えい!」

 

「アホかぁぁぁぁぁぁ!?」

 

今度は曜の声と共に左目にかけられた。なにこの波状攻撃!?いじめ?

 

比較的良識のある桜内さんは攻撃しないでくれている。いや、良識あるなら普通止めるけどね、この蛮行を。

 

「なんで俺攻撃されてるの?」

 

「シンちゃんがエッチだから」

 

「シンくんが変態だから」

 

「朝比奈くんがゴミだから」

 

「桜内さんはゴミに対して攻撃するんですか?」

 

「しないわよ。ゴミなんて触りたくないじゃない?」

 

コイツ……攻撃せずに攻撃してきたぞ。俺の心を的確に力強く。

 

「ていうか、なんで2人はみかんの皮なんて持ってるのかな?」

 

「休憩中に食べてたの。そしたらシンくんがブツブツ何か言ってて、それを聞いたら目に入れてあげたくなっちゃった☆」

 

“なっちゃった☆”じゃねぇよ!ちくしょー可愛いな俺の幼馴染。

たぶん今のを俺のクラスの男子にやったら蓮以外の全員落とせたよ。

 

「まぁ、頼んでたことはやってくれたから許してあげる」

 

「両目に時間差でみかんの果汁を叩き込むのを許した内に入れる曜にビックリだよ」

 

「もう一発、入れとく?」

 

「俺は心の広い幼馴染を持って幸せだな。あはは」

 

「わかればよろしい」

 

目に見える不利益が提示された時、潔く引くことができる人間は商売で成功する。

花丸もそうだけど、俺の周りの女の子って『許す』の範囲が若干おかしい気がするよ。

 

「さてと……じゃあ曜、みかん食べ終わってからでいいから一緒に踊ってもらえる?」

 

「うん?いいけど……」

 

「千歌は前でも後ろでもいいから踊りながら俺のこと見てて?」

 

「シンちゃんを?」

 

「そう。俺のこと()()を見るの」

 

「わ、わかった」

 

曜を基準にした場合の千歌の動きは大体わかった。悪いところもある程度は理解した。

あとはそれを千歌が自覚するばいい。

 

「朝比奈くんのアレって、わざとやってるの?」

 

「たぶん無自覚だと思うよ。シンくんにそんな甲斐性ないし」

 

何やら紅くなった千歌をチラチラ見ながら、桜内さんと曜が内緒話をしている。そして、曜に悪口を言われた気がする。

何故だ?

 

「ほら、始めるよ」

 

「はーい」

 

野戦服の上衣を脱いで、バックパックの上に乗せる。

異性の前で上がタンクトップ1枚っていうのは少し恥ずかしいな。

 

曜がメトロノームを起動させて、一通り3人が踊っていたのを2人で踊る。

今の俺の役割は千歌のポジション。

つまり、千歌が自分の悪かったところを客観的に見ることで直すように促すこと。

 

「ここで千歌は早くなっちゃうから、少し踏み込みを強くする」

 

リズム感というのは生まれ持った才能でもあるので、簡単に直すのは難しい。だったらリズムではなく、別の場所に修正を加えていけばいい。

 

「それでここのターンで足がもつれそうになってるから、右足はもう少し外に出す」

 

そう指摘しながら俺はお手本である曜と同じ動きにアレンジを加えていき、千歌がより動きやすいように修正してあげる。

そんなに難しいことじゃないね。

 

「よし、こんな感じかな」

 

30秒経ち、メトロノームも止まる。これで少しは上達するといいんだけどなぁ。見てるだけで上達するなら苦労はしないし、今度はやらせてみましょう。

 

『やって見せ、言って聞かせて、させてみせ』

教練の基本はこの3つだからね。手本、指導、実施の手順をどれだけわかりやすく伝えるかが人を伸ばすコツだと何かの本で読んだ気がする。

 

「朝比奈くん……すごいわね」

 

「すごい?」

 

「うん。ダンスとかやってたの?」

 

「う〜ん……ちょっと違うかな。キックのジムでジュニアクラスの準備体操がダンスだったんだよ」

 

俺のジムでは、小学生までをジュニアクラスとして指導する。

小学生は準備体操などの面倒なものを嫌うけど、あれは怪我の予防になるから大切なんだよね。だから楽しいダンスにして、怪我の予防をさせたわけだ。

 

「ダンスはバランス感覚や体幹が鍛えられるから運動する体を作るのにピッタシなんだよね」

 

「体幹ってダンスに重要なの?結構腰とか反らしたりするからあまり必要には思えないのだけど……」

 

「う〜ん……例えばさ、さっき俺って曜とは少し違う動きしたよね?」

 

「そうね。千歌ちゃんが動きやすいようにアレンジを加えてたわ」

 

「でもさ、曜と比べても見栄え自体はほとんど変わらなかったんじゃない?」

 

「……あ、ホントだ」

 

強く踏み込むということは、それだけその部分に体重をかけるということ。でも、曜と比べて見栄えが変わらないということは体幹で体を支えたからだ。しかも無意識に。

 

「まぁ、そもそも体幹はどんな運動にも必要だから鍛えておいて損はないよ」

 

こんな華奢な体をしていても、一応は10年近く格闘技をやってる身だ。体力や身体能力には自信がある。今のダンスだってそれの副産物に過ぎないけど、役に立つ。

 

「あ、じゃあじゃあ私からも質問!」

 

「はい、なんでしょう?」

 

ピョンピョンと跳ねながらアホ毛と意外に豊満な胸を揺らしつつ手を上げる千歌。やべ、視線で胸見てたのバレたかも。

 

「シンちゃんはどうして私と同じように踊れたの?」

 

「千歌と同じよう?」

 

「シンちゃんの後ろで踊ってたけど、全くズレなかったもん」

 

「あぁ、そういうことね」

 

つまり、千歌は俺が自分と全く同じリズムで動いたことを疑問に思ってるんだね。

別にそれが分かったからどうということもないけど、逆に教えなかったらどうってこともないので問題ないかな。

 

「簡単だよ。千歌のリズムを読んだだけ」

 

「リズムを読む?中二病?」

 

「シバくよ?」

 

とりあえず拳骨を一発。

 

「うへぇ〜痛い……」

 

「ドンマイ」

 

「殴ったのシンちゃんじゃん!」

 

「お黙り」

 

話がどんどん逸れていくな。数秒前の質問がなんだったのか忘れちゃったよ。

 

「で、なんだっけ?」

 

「うぅ……リズムを読むってなに?」

 

あぁ、それだ。

 

「リズムを読むっていうのは、相手のタイミングを見極めるってこと」

 

「う、うん?」

 

「わからない?」

 

「うん!」

 

元気がよくて大変よろしい。

う〜ん……どう説明したもんかな……。

 

「例えば千歌の得意な卓球あるじゃん?」

 

「うん。確かシンちゃんとの戦績は……」

 

「今はどうでもいいから。その卓球で相手から上手く点を取るコツって知ってる?前に信夏が教えてくれたよね」

 

「確か……なんだっけ?」

 

「ハァ……」

 

「うっ……ごめん」

 

渾身のため息をつき、千歌を睨みつける。信夏の言葉を忘れるなんて、俺からしたら万死に値するんだけど。

 

「ラリーに緩急をつける、だよ。ゆったりとしたリズムのラリー中にいきなり速いの打たれたら対応できないでしょ?」

 

「あぁ!それだ!」

 

「それと同じ。1対1で試合をする競技の場合、ほとんどが相手のリズムをどれだけ上手く崩して自分のペースに持ち込むかが重要なんだよ。その点で言えば格闘技をやってる俺は?」

 

「そっか!シンくんはそうやって千歌ちゃんのリズムを読んで、合わせたんだ!」

 

「正解。さすが曜だね」

 

顎に手を当てながら傍らで聞いていた曜のほうが先に理解しちゃったよ。

まぁ、千歌もなんとなく理解してくれたのかな?ちょっと頭が傾いてるけど頷いてるし。

 

「格闘技はどれだけ相手から攻撃をもらわずに自分のを当てるかが肝だからね。相手のリズムを掴めればカウンターだって狙えるし」

 

ちなみに俺はカウンターをよく狙う。かっこいいじゃん、カウンターで倒すの。

 

「へぇ、ただ千歌ちゃんを視姦してたやけじゃなかったのね」

 

「視姦って言うのやめてくれない?」

 

「千歌ちゃんのバストっていくつくらいだった?」

 

「目測で82㎝」

 

「最悪ね」

 

しまった……つい答えてしまった。

 

なんか冷たい視線を感じるのでそちらに目をやると、発信源は曜だった。隣の千歌は両手で胸を庇い、身をよじって涙目で俺を睨んでる。

 

あれ?当たっちゃった?

 

「ちょっと見直した私がバカだったわ……」

 

「桜内さん、見直してくれたの?」

 

「生ゴミから粗大ゴミくらいには」

 

「それって見直した内に入る?」

 

「粗大ゴミのほうが生ゴミに比べて臭いが少ないわ」

 

だから見直した内に入れろと?

 

「もういいや……。じゃあ、次は桜内さんのを直していくよ?」

 

俺がそう言うと、桜内さんも千歌と同じように胸を庇う。

 

「いやいや。桜内さんは胸よりヒップとかのほうが魅力的だったよ?」

 

「シンくん……バカなの?」

 

性欲とは生物に備わる生存本能の一種。

つまり俺の口から出る発言の数々は本能的な発言であり、俺は悪くない。これをわかってもらえないだろうか?

 

「死ねばいいのに」

 

どうやらわかってもらえないようだ。

 

さて、今俺は窮地に立たされている。

バカを見る目が一対。

粗大ゴミから結局生ゴミを見る目が一対。

涙目が一対。

 

「えっと……ごめんなさい?」

 

女性陣の視線に耐えられなくなった俺は素直に謝っておく。

曜と桜内さんはどうでもいいけど、千歌はイーストサンのお客さんでもあるからね。担当が俺の時点で千歌は俺にとって丁重に扱うべき大切な人だ。

このことが父さんの耳に入れば、今月の給料が消える。

 

最近セクハラ関連で俺の給料がピンチになることが多いのは気のせいなのかな?

 

そんな考えは頭上を飛ぶ一機のヘリコプターが発するプロペラの風切り音にかき消された。ちょうどいいや。話題の転換に利用させてもらおう。

 

「小原家かな?珍しい」

 

珍しいというよりは懐かしいという気持ちが先立つ。あのピンク色のヘリ、2年前のある日からめっきり見なくなったからね。

 

「ねぇ……なんかこっちに向かってきてない?」

 

「あはは、そんなことないでしょ……」

 

ヘリは海上を旋回して、俺たち4人を真正面に捉えた。

 

「「「「 うわぁ!? 」」」」

 

アホみたいな速度で砂浜ギリギリを通り、それを俺たちは伏せるように身を守る。立っていても当たらない高さだったけど、そんなことはこの状況じゃ冷静に判断できないよ。

 

ピンク色のヘリはそのまま砂浜に着陸。扉が開くと、中から浦の星女学院の制服を着た金髪の女の子が笑顔でこう言い放った。

 

「チャオ!!」

 

うわぁ……随分と大物が出てきたな。

 

小原鞠莉さん。ここにいる俺たち4人よりも1つ年上で、淡島にある淡島ホテルのオーナーの娘さんだ。

そしてなにより、小原家はイーストサンの大手取引先でもある。

 

その娘さんだ。相応の態度を俺はとらなければならない。

 

「お久し振りです、鞠莉さん。このような格好で申し訳ありません」

 

「ノー!そんなかしこまった態度はノーだよ、シンイチ!」

 

ヘリから飛び出し、俺に抱きついてくる。

 

この人、イタリア系アメリカ人と日本人のハーフで、スタイルがとんでもなく良い。

最後にあったのが2年前。留学の為海外に出発する時で既に当時からスタイルが高校生離れしていたけど、今はそれに拍車がかかってる。

 

しかし、だからといって鼻の下を伸ばしてはいられない。大手取引先の娘さんを不快な気分にさせたなど、笑い話にもならないよ。

 

「また一段と美しくなられましたね。以前お会いした時は薔薇のような活発さが前面に出ておりましたが、今ではそこに白百合のような可憐さが加えられて、鞠莉さんの魅力がより一層引き立っていますよ」

 

「ねぇ、あれ誰?」

 

曜が俺のことを指差して随分と失礼なことを言う。

いや、自覚はあるよ?俺だって自分で言ってて鳥肌が立つ思いだもん。

 

「もう、そんなおべっかはいらないわ!昔みたいに“マリー”って呼んで?」

 

「自分も世間を知らない子供ではいられなくなりましたので。それで、今日はどのようなご用件で?」

 

正直、朝っぱらからヘリで砂浜に到来なんてはた迷惑なことしたんだ。それ相応の理由があるのだろう。

 

「むぅ……そうそう!浦の星にスクールアイドルが誕生したときいてね?マリーも応援しにきたというわけでーす」

 

「それでここに?」

 

「イェース!」

 

大げさに身振り手振りしたり、その場でくるりとターンしたり。一々動きが大きい人だな。

その辺り、少し2年前と変わった気がする。

 

「そっちの3人がスクールアイドル?それともシンイチも入れて4人?」

 

「自分は浦の星女学院の生徒ではありませんから。この3人が浦の星女学院でスクールアイドルをやりたいと希望しています」

 

「オーケー!じゃあ、今日の放課後に理事長室に来てください!」

 

「理事長室に……ですか?」

 

桜内さんが戸惑ったようにオウム返し。そりゃあ、戸惑うよね。理事長室なんて普通に学校生活を送っていたら入ることなんてないわけだし。

 

「シンイチは……どうしてここに?」

 

「幼馴染に頼まれて記録係をやっています」

 

「アイシー!なら、シンイチも放課後にカモンよ?」

 

「浦の星の理事長室にですか?先ほども申し上げましたが、自分は浦の星の生徒ではありませんよ?」

 

「ノープロブレム!マリーがいれば大丈夫デース」

 

「……わかりました」

 

まぁ、この人なら金の力とかで女子校に男1人くらいなら簡単に入れられるのだろう。やっぱりお金ってすごい。俺、お金大好き。

 

「それじゃあ、またアフタースクールにね!」

 

「はい、それではまた後で」

 

抱きついていた俺から離れ、ヘリに向かう鞠莉さん。

しかし、思い出したようにまたこちらへ走ってくる。そして、顔を寄せ、俺の耳元に口を近づけて来た。

 

「また今度、一緒にコーヒーを飲みましょ?久しぶりにシンイチが淹れるコーヒーを飲みたいわ」

 

そう一方的に囁いて、俺の頰にキスを一つ。

 

「「 んなっ!? 」」

 

それを見ていた幼馴染2人は、驚きの声をあげた。俺も驚いているけど、声は上げない。もしかしたらそれが不快に思われちゃうかもしれないからね。

 

「チャオ〜♪」

 

どうやら『チャオ』は挨拶の言葉にあたるみたいだ。次会うときは、俺も使っていこう。

 

俺はヘリに乗った鞠莉さんに笑顔で手を振り、別れる。

まったく……嵐のような人だったな。後ろの3人はまだぼーとしてるよ。

 

「し、シンちゃん!あの人にキスされてたけど、どういう関係なの?」

 

「ただのお客さんだよ」

 

「ただのお客さんは店員さんにキスしないよ!?」

 

「まぁ、友達でもあったからね。あの人海外に留学してたから不思議じゃないと思うけど」

 

「むぅ……」

 

何が不満なのだろうか?これもお客さんとのコミュニケーションなんだから千歌が気にすることはないはずなんだけどなぁ。

 

「ハァ……女子校に入らないといけないのか……」

 

「あら?なんでそんなに憂鬱そうなの?朝比奈くんならむしろ喜ぶと思うんだけど……」

 

「いやいや。絶対に変な目で見られちゃうじゃん」

 

「別に大丈夫よ。朝比奈くん可愛いもの。誰も男なんて思わないわ」

 

「それはそれで微妙に辛い」

 

桜内さんは日々成長しているね。俺を傷つけるのが上手くなってるよ。

 




オリキャラ紹介

名前: 朝比奈信

趣味: 夫に甘える 息子をイジる 娘を可愛いがる

特技: 剣道の型 料理以外の家事全般

好きなもの: 夫と息子が作るお菓子 娘の笑顔

概要: 朝比奈信一と信夏の母親。見た目は長くて艶のある髪が美しい日本美人。顔立ちも凛々しく立ち振る舞いも上品とお客さんに評判。
しかし性格は基本はっちゃけていて、プライベートで付き合いのある人には大体驚かれる。そして呆れられる。

夫大好き、息子大好き、娘大好きという家族大好き人間。良妻賢母といえば聞こえはいいが、年頃の息子である信一はベタベタされることに最近イラっとくることがある。

家事全般はできるが、料理だけは驚くほど才能がなくほとんどできない。なんとかモーニングメニューは作れるほど。
信一が淹れてくれるコーヒーを何より楽しみにしているが、頼んでも淹れてくれないのが最近不満。

あまり配達に出ることはなく、家の農園でみかんの収穫や手入れが主な仕事。服装は飾り気のない袴姿。腰には模造刀を差している。
国内外問わず、イーストサンで1番人気のある従業員。

外国人観光客には模造刀を使って型を披露するなど、サービス精神旺盛。『AKIRAコール(通称AKIRA旋風)』が始まると調子に乗り始める。

浦の星女学院出身。思い出を大切にするタイプで、卒業アルバムや当時の制服も大事にとってある。

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