あなたにみかんを届けたい   作:技巧ナイフ。

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ゴールデンウィーク中にもう1話あげると言ったな。あれは嘘だ。
嘘ついてごめんなさい。

今回からアニメの4話ですね。ルビまる回じゃーーー!!




第11話 妹と仲のいい人には大体嫉妬しちゃうよね

今俺は、学校が終わった後愛しの信夏と沼津で制服デートと洒落込んでいる。

 

昨日は大変だった……。

浦の星女学院に新しくできたスクールアイドル部の部室は俺の予想以上でえらいことになってたよ。

場所は体育館に隣接してある一室。正直、物置きとしか表現のしようがないほど物で溢れかえっていた。

そこの掃除を不本意ながら例の如くと言えてしまうほど馴染んだ浦女の制服を着用して手伝ったよ。うん、泣いてしまいそうだ。

 

と、まぁそんな苦労も今俺の腕に抱き着いてひまわりのように輝かしく咲き誇りまくっている信夏の笑顔を見れば簡単に吹き飛んじゃうよ。

 

本日の予定は本屋、からの馴染みの喫茶店でおしゃべりという流れだ。

 

「お兄ちゃんは本屋さんで何買うの?」

 

「とりあえずはラノベの新刊かな。あとはスクールアイドルものの雑誌」

 

「スクールアイドルの雑誌?」

 

「うん。俺も最近のスクールアイドルはよくわからないから勉強しようと思ってね」

 

「そっかぁ。……私も一緒に勉強していい?」

 

「もちろん」

 

信夏と一緒にスクールアイドルの勉強。

言うまでもなく有意義で幸福感溢れる時間が期待できる。

 

「信夏は何か買う予定ある?」

 

「う〜ん……わたしは漫画。何冊か新刊が出てたと思うから」

 

「じゃあ一緒に回れるね」

 

「うん!」

 

抱いていた俺の腕にさらに強く抱き着き、にっこりと天使の笑顔を見せてくれる。

声を大にして言いたい———

 

幸せなんじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 

と、言うわけで俺たちは沼津の本屋に入店した。

 

 

 

 

入店から30分。新しいラノベを開拓しようと思ってちょっと立ち読みしたり、なんとなく面白そうなものタイトルがあるかな〜と眺めながらも目当ての本を見つけた。

信夏も目当ての新刊を見つけ、次に俺たちは並んで雑誌のコーナーに向かう。

 

「ん?」

 

「どうしたの、お兄ちゃん?」

 

そこで、不意にも見慣れた後ろ姿を発見した。

浦女の制服に黄色いカーディガン、栗色の髪は間違いないね。

 

花丸だ。

 

意外にも花丸はスクール雑誌を開いていた。

 

とりあえず無視する理由もないので、後頭部をコンコンとノックする。

 

「ずら?」

 

「おいっす。奇遇だね」

 

「うひゃあっ!?信一くんっ!?」

 

何がそんなに衝撃なのか、花丸は慌てて読んでいた雑誌を閉じながら静かな本屋の中で大声を出して驚愕の声を上げた。

 

静かな本屋で大声が上がれば、自然とそちらが気になるのは人間の心理的に普通であり……案の定、店員さんも含め本屋にいた人達が一斉にこちらを振り向いた。

 

しかしここで俺と信夏は素早く手近にあった雑誌を開き、周囲の人達と同じように目を見開いて花丸を見るという行動に移る。

瞬時に俺と信夏は花丸とまったく関係ない他人へと変身したわけだ。

 

「あ、あの……ごめんなさい…ずらぁ……」

 

本屋中の視線を一気に集めた花丸は萎縮して小さく謝罪。俺は他人のフリを続けるために、興味を失った体で雑誌に視線を戻す。

助けを求めるように花丸が俺を見ているが、俺は他人俺は他人と心で唱えながら信夏と一緒に切り捨てる。

 

本屋で大声を出したこいつが悪いので、助ける義理はないしね。ちなみに助ける人情は持ち合わせてございません。

 

たっぷり1分使って他人のフリを貫き通した俺と信夏は、改めて花丸に向き直る。なんか恨めしそうに睨んでるんですけど……なんで?

 

「うぅ……恥ずかしかったずらぁ」

 

「あっそ。それはそうと珍しいね、花丸が雑誌読むなんて」

 

しかもスクールアイドルの雑誌。この間のライブで興味でも持ったのかな?

 

「あっそって……。ハァ……まぁいいず……ん?」

 

持っていた雑誌を置いて、ため息を1つ。その後に俺の顔をじぃと見つめて首を傾げた。

 

顔に何か付いてるのかな?信夏との放課後デートだから身だしなみは整えてきたはずなんだけど。

 

「信一くん、この後時間ある?」

 

「ない」

 

「ずらっ!?」

 

「だから、ない」

 

「えぇ………」

 

花丸の目は見えているのかな?よもや俺の隣にいる可憐な天使が自分だけに見える妖精さんとでも思っているわけではあるまい。気持ちは分かるけど。

 

「お兄ちゃん、わたしなら大丈夫だよ」

 

「信夏……でも……」

 

「わたしなら大丈夫だから……お兄ちゃんはその子について行ってあげて?」

 

自分のことより他人を優先する信夏の優しさに目頭が熱くなる。やばい、信夏の可愛らしいご尊顔が涙で……滲む……。

 

「信夏あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「お兄ちゃあぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」

 

ガシッ!と銀河最強の兄妹愛を叫びながら俺たちは強く熱い抱擁を交わす。

 

「あのう、他のお客様の迷惑になるのでお静かにお願いします」

 

まぁ怒られるよね、普通。お騒がせしてすみません。

 

 

 

 

 

沼津駅周辺の路地裏。人気のない一見あまり近付きたくような場所に俺たちの馴染みの喫茶店がある。

 

「こんにちは〜」

 

「おっちゃん!こんにちは!」

 

「お、いらっしゃい信一くん、信夏ちゃん。あとは……おや、花丸さん?」

 

「こんにちは、オーナーさん。お久しぶりです」

 

「あぁ、久しぶりだね」

 

ここの喫茶店はみかんを使ったお菓子が自慢の、小さな喫茶店だ。使われているみかんはウチ(イーストサン)で収穫したもので、その繋がりから俺や信夏はここのオーナーさんによくお世話になった。

 

2ヶ月くらい前の花丸の誕生日に連れてきたんだけど、それ以降は来てなかったのか。結構仲良くなってたと思ったんだけどなぁ。

 

「俺と信夏はいつもので。花丸は何にする?」

 

「マルは……この間食べたシフォンケーキがいいずら」

 

「かしこまりました」

 

適当なテーブル席に着き、注文を済ませた俺たちは向かい合うように座る。

 

「それで?相談ってなに?」

 

「うん……」

 

ここに花丸を連れて来たのは、本屋で相談があると言われたからだ。正直断っても良かったが、信夏の手前、俺は自分を優しくてかっこいいお兄ちゃんと思われなきゃ気が済まない。

それに、信夏には俺みたいに疎まれるようになってほしくないしね。

 

「マルがルビィちゃんって言う親友がいるって話したの覚えてる?」

 

「もちろん。チラシ配りの時に会ったし、なによりウチ(イーストサン)のお客さんだからね」

 

「あ、そっか……。それでね、ルビィちゃんって昔からスクールアイドルが好きで、この前のライブもとっても楽しそうに見てたずら」

 

「そう。千歌たちに伝えたら喜びそうだよ」

 

どうやら相談事っていうのはそのルビィちゃん関係のことみたいだ。喧嘩でもしたのかな?

 

「それでルビィちゃん、スクールアイドル部ができたことすごく喜んでて……『もしかして入りたいんじゃないの?』って聞いてみたの。そしたら『お姉ちゃんが嫌いなものを好きになれない』って」

 

「それはまた随分とお姉ちゃん大好きっ子だね」

 

「ずら……」

 

姉が嫌いだから妹の自分も嫌いになるってことか……面倒な案件だなぁ。

 

でも、信夏から聞く限り2人は仲良しな姉妹だったはず。お互いを尊重してるだろうし、ダイヤさんがルビィちゃんを抑えつけているという話は聞かない。まぁ、もちろん信夏の話であり、信夏の前だけそうしているという可能性もあるが。

 

だけど、俺から見てもダイヤさんはかなりの人格者だと思う。少し上から目線の言い方になるけど、“いい女”と言われても納得できちゃうくらいだ。そんな人が、わざわざ自分の嫌いなものを妹に押し付けるだろうか?

 

「マルね、ルビィちゃんがスクールアイドルやってみたいんじゃないかって思うずら」

 

「その心は?」

 

「やっぱり……スクールアイドルが好きって気持ちは本物だと思うから。全部マルの推測だけど……でも、ルビィちゃんの親友やってるとなんとなくわかるずら」

 

以心伝心というやつだね。微笑ましい。

 

俺も信夏とは以心伝心の自信がある。ほら、現に今俺の肩に頭を預けてきた。これは、俺が花丸とばかり話してて構ってくれないから甘えてきているのだ。

まったく……甘えん坊将軍だなぁ、信夏は。それがまた信夏の星の数ほど———いや、そんなちんけな数じゃ足りないが———ある魅力の1つなんだけどね。

 

「つまり花丸は、ルビィちゃんをスクールアイドル部に入れてあげたいわけかな?」

 

「うん」

 

「そっかぁ……」

 

「信一くんなら何かいい案があるかなって思って……ダメ元だけど」

 

なんかちゃっかり失礼なことを小声で言われたけど、一応は頼られてることだしなぁ。

 

よし!

 

「とりあえず甘い物食べながら考えよう?俺と花丸、それに信夏もいれば大丈夫だからさ。花丸の門限ギリギリまで付き合うよ」

 

「……………………………………」

 

「なんでそんな心配そうな顔で俺のおでこに手当ててるの?」

 

「いや……信一くん、季節外れのインフルエンザなのかなって」

 

どういう意味だろう。ボクワカンナイ。

 

いや、悲しいことにわかる。花丸は俺が二言返事で相談に乗ってくれることに驚いているのだ。普段の俺なら、

 

『自分のやりたいことくらい自分で考えなよ。甘えんな』

 

ぐらいは言ってるだろうし。

実際、信夏が隣にいなかったら言ったと思う。

 

だとしても季節外れのインフルエンザはひどくないですか?

 

「もしかして……信一くんの偽物っ!?だったら納得ずら……」

 

どうやら俺が人の為に何かするより、今の俺が偽者であることのほうが花丸にとっては現実的らしい。信夏がいなかったら泣かしてたところだ。

 

「えっとぉ……花丸ちゃんでいいんだよね?こんなに優しいお兄ちゃんが偽者なわけないじゃん。わたし、怒るよ」

 

わたし怒ってます、と表現するように信夏がぷっくりと柔らかいほっぺたを膨らまして花丸に抗議。

俺の為に怒ってくれる銀河の宝である妹に感涙の涙がはらりはらりと溢れてきちゃったよ。

 

庇ってくれる信夏の頭を優しく撫で、目を見て諭すように言ってあげよう。

 

「信夏、これは俺と花丸のいつもの冗談だから。ね、花丸?」

 

「………………………あ、うん…そうずら」

 

おい、なんだ今の微妙な間は……。まぁとりあえずそれは置いておくとして。

 

「冗談が言い合えるってことは俺と花丸は仲良しなんだよ。だから怒っちゃダメ。でも、庇ってくれてありがとう」

 

「そっか……。ごめんね、花丸ちゃん。わたしまだ花丸ちゃんのことよく知らなかったから」

 

自分に非があればちゃんとごめんなさいが言える中学3年生なんてそうそういない。

本当に申し訳なさそうにする信夏を見て、何か溢れ出る罪悪感を感じたんだろうね。もぞもぞと身じろぎする花丸は、俺に助けを求めるよつな視線を向けてくる。

 

別に助けてあげる義理も義務も人情もないので、じぃと花丸の目を見ていると……あれ?なんか赤くなって顔逸らしたぞ。季節外れのインフルエンザかな?

 

「お待たせしました」

 

そこでオーナーさんがお菓子を運んできてくれた。

俺と信夏の前にはみかんタルトとコーヒー。花丸の前にはみかんシフォンケーキと……あれは紅茶か。なるほど、花丸がコーヒー飲めなかったの覚えてたんだね。さすがオーナーさんだ。

 

「あとこれ、試作品だから良かったら食べてみてくれるかな?」

 

追加で置かれたのは三切れの……ケーキ?いや、でもさすがに花丸がシフォンケーキを頼んだのにコレを持ってきたってことは何か別の特別な味なのかな?でも上にみかんも載ってるし……。

 

「おっちゃん、これなんのケーキ?」

 

「それは食べてからのお楽しみ。信夏ちゃんが当てられたら飲み物のおかわりくらいはサービスしちゃおうかな」

 

「むぅ……プレッシャーだよ〜」

 

「はは、頑張れ」

 

この光景だけ見れば孫とちょっと若作りなお爺ちゃんって感じなんだよなぁ。すごく和む。

 

信夏を渡す気はないけど。

 

「んむ……あ、なんかサッパリしてる。なんだろう…食べたことあるんだけどなぁ」

 

真剣な表情でしっかり吟味してる信夏。それを見て花丸も試作品を一口かじる。もぐもぐと小動物のように咀嚼する姿は……うん、からかいたい衝動を生むね。

 

「これ……ヨーグルトずら。ヨーグルトのみかんケーキ?」

 

「おや、花丸さんが正解しちゃったね」

 

「花丸は雑食だと思ってたけど、味がわかる人だったのか……」

 

「むぅ……信一くん、さすがに今のは失礼ずら」

 

「ちなみにタヌキって雑食らしいよ」

 

「それどういう意味!?」

 

むぎゃー!と憤慨する花丸は見てて本当に楽しい。いつも言われ放題だから、こんな時くらいは仕返ししとかないとね。

 

あんまり言い過ぎると拗ねて面倒なことになるので、この辺りでやめておこうかな。

 

「さて、それで本題に戻るけどいいかな?」

 

「むぅ……いいけど……」

 

なんだその不満そうな顔は。そんなにその柔らかそうなほっぺたを引っ張ってほしいのかな?

まぁ、これから言うことが言うことだからできないけど。

 

「ごめん!俺にはルビィちゃんをスクールアイドル部に入れる方法は思いつかない」

 

「えぇ……」

 

「こればっかりはね……いや、本当にごめんって。そんな粗大ゴミを見るような目で見ないでよ」

 

最近やっと梨子からは生物(ゴキブリ)として見てもらえるようになったのに……女の子って厳しいものだね。特に俺には。

 

そんな人類の半数に悲しい感慨を抱いていると、意外なところから妙案が飛んできた。

 

「そのスクールアイドル部…というのは部活なんだろう?体験入部とか仮入部みたいな制度はないのかい?」

 

オーナーさんだ。

 

「体験入部……ですか?」

 

「あぁ。どうやら花丸さんの親友は大好きなものを我慢してるようだからね。一度お試しで踏み込んで、我慢できなくさせてしまえばいいんじゃないかな?」

 

なるほど、部活をやってこなかった俺には盲点だった。大抵の部活動にはそういう制度があるんだったね。

 

「体験入部、かぁ。でもルビィちゃんだけだと入らないと思うずら……」

 

「花丸ちゃんも一緒にやってみたら?」

 

またも名案が出た。今度は信夏からだ。

 

「マルには無理だよ。運動苦手だもん」

 

「別に体験入部ならいいと思うよ?この間ライブやったばかりですぐにまたライブの練習なんてしないだろうし。ね、お兄ちゃん?」

 

「そう……だね。信夏の言う通りだよ。いきなりまた次のライブなんてないし、体験入部くらいならいいんじゃない?」

 

「そうなのかなぁ……」

 

あと一歩といったところで花丸は踏ん切りがつかないでいる。こう言う時は……

 

「はい決まり!じゃあ明日花丸とルビィちゃんは体験入部ね」

 

「「 イェーイ!! 」」

 

「ずらっ!?」

 

強引に引き込む。うん、素晴らしい。信夏とオーナーさんの合いの手もあって断れない状況を作り出してやったぜ。

 

「あ、でも信一くん?」

 

「ん?」

 

「マル、動きやすい服とか持ってないずら」

 

「じゃあこれから買いに行こうよ!花丸ちゃん、お金はまだある?」

 

「あるけど……。でもどんなの買えばいいかわからないずら」

 

「だったら一緒にお勉強だね」

 

俺はさっき本屋で買ったスクールアイドルの雑誌を開く。花丸が眺めてたやつだ。

 

「花丸さんならこれとか似合うんじゃないかな?」

 

オーナーさんも雑誌を眺め、ある1人のスクールアイドルを指差した。

 

μ'sの星空凛さん、だね。ストリートダンサーみたいな服は……お、意外と似合うんじゃないか。

 

花丸の顔を伺うと、案外気に入ったようにその部分を凝視している。

 

「可愛いずらぁ……マルに似合うかな?」

 

「着てみればわかるよ」

 

想像では似合っていても実際着てみたら微妙だったってのはよくあるからね。一部の例外が俺の腕に抱きついてるけど。

 

信夏は何を着ても似合う。世間の常識だ。

 

そんなこんなである程度イメージの固まった俺たちは、注文した料理を食べ終わった後にショッピングモールへ向かう。

なんかオーナーさんに花丸の分も払えとか言われたんだけど?カツアゲ?

 

なので、俺は今まで開いていた雑誌を花丸に押し付けておく。雑誌って本棚の場所取るんだよなぁ。快くもらってくれて良かったけどさ。

 

「明日が楽しみだな」

 

女の子同士というのは仲良くなるのが早いみたいで、いつの間に花丸に抱きつくほど信夏は懐いている。

それに嫉妬してる本心を隠すために、俺はそう呟いた。




はい、どうでしたか?

ここからお買い物の下りも書こうと思ったのですが、流石に長くなりそうだったのでやめました。

ロクアカの二次創作も書き始めたので、興味のある方は読んでみてください。主人公は魔法を使う世界で、キャラクターはみんなカタカナでも朝比奈信一です!

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