ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第68話「ダーク・ウォーター」

 

 四肢爆発による欠損。

 

 少年が意識不明の重体であるという話はすぐに艦内に広がったが、その治療は医療を心得た者達の手を借りる事無く。

 

 ハルティーナが厳重に警備する一室でヒューリによって行われていた。

 

「………」

 

 血肉と骨の1つ1つを零さぬよう、丁寧に四肢事にスーツの“無い部分”を手で確かめ切り取る作業は相当な覚悟が無ければ出来なかっただろう。

 

 蒼褪めた少年の顔を見つめながら、無菌状態にして持ったスーツの欠片。

 

 血肉と骨の詰まったソレはボチャボチャと生暖かく。

 

 涙と吐き気を彼女は真にただ少年への想いだけで全て呑み込んだ。

 

 方陣の上で処置していく間、両手両足の断面と傷口が見えた。

 

 内側から赤く膨れ上がっている。

 

 それが恐らくは魔力の使い過ぎによる肉体への影響。

 

(魔力過多による細胞の破裂? でも、ベルさんの細胞そのものは停止していた……なら、これは恐らく純粋に魔力を受け切れなくなったせい? 考えても仕方無い。今はとにかく処置を優先し、原因究明と治療方法は後から……)

 

 スーツを脱がせた時、その内部には血肉と骨が溜まっており、さすがにこのままでの再生は不可能だと少女はそれらを全て魔術で冷凍し魔力電池からの電力で動かせる食料用の冷蔵庫に保存するよう部屋の外のハルティーナに頼んだ。

 

 残っていた断面を治癒の術式で止血し、再生。

 

 己の超常の力を掛け続ける事で治癒するいつもの方式で集中治療を敢行する。

 

 しかし、事態は彼女が思っていたよりも深刻な方へと向かっていた。

 

「どうして、ですか?! いつもなら、ベルさんの身体は再生し始めるはずなのに……ッ」

 

 少女が呟く。

 白い魔術の光球の下。

 

 金属の壁と樹脂製の寝台が置かれた場所で少女は喉を干上がらせる。

 

 治癒によって弾けた四肢は肩と膝のところまではもう再生させていた。

 

 しかし、そこからベルの自然治癒とも言うべき再生が始まらなかった。

 

 四肢の欠落の治療には専門の治癒術式を持つ術師が必要だ。

 

 フィクシーが未だに腕を1対に戻さないのは四肢再生級の術式が彼女には無いからでもある。

 

 そして、同時に隻腕のエルフは魔術を用いるのに便利だからと片腕の再生はしていなかったし、それに詳しいという事も無いだろう。

 

 つまり、パーティー内に少年の四肢を再生出来る者は当人の能力だけという事になる。

 

(私じゃダメだ……フィーに助言を仰がないと……本当ならすぐ転移で……でも、そうしたら……この艦の人達は―――)

 

 己の力では限界があるとすぐに認めた彼女は現実的な対処法として大魔術師であるフィクシーを頼るべきだと判断。

 

 魔力電池と治癒術式の魔術具。

 二つの金属棒のネックレスを少年に掛けた後。

 

 ハルティーナに看病を任せて八木のいるCICへと向かった。

 

(ベルさんの症状をフィーに相談して、それから……それから……ッ)

 

 思考が纏まらないまま。

 少女が速足に急ぐ。

 あの戦いから数時間。

 未だ少年が倒れても艦の航行は続いている。

 

 八木は自分に操艦を教えた米兵にその任を一旦譲り、休んでいるようだった。

 

 艦は現在、時速4kmで進んでいるが海底に再び敵と不意遭遇する可能性がある為、海底と海上の中間を進み続けている。

 

『八木一佐!! お話があります!!』

 

 操舵する者に見えるよう現在地を伝え続ける魔導の地図は顕在。

 

 それが少年の生きている証なのだと少女はまだ少年も戦っている事を胸に刻み、シートに腰を下ろして汗を拭っている八木に話し掛けた。

 

『騎士ヒューリか? 騎士ベルディクトの容態は?』

 

『四肢の傷は塞ぎました。ですが、意識も落ちたままです』

 

『そうか……』

 

『でも、この艦が動いているという事はベルさんの魔導が生きているという事です。でも、明らかにベルさんを休ませられる場所が必要です。日本まではまだ掛かりますか?』

 

『それに付いて話がある。自衛官と米兵の一部は士官でな。あのタイミングでの襲撃に付いて幾つかの意見と予測が立てられた』

 

 ヒューリが嫌な予感に背筋に汗を浮かべる。

 

『予測?』

『先回りされている可能性がある』

 

『ッ、それってまさか……日本国の近海が見張られていると?』

 

『そうだ。このまま、日本に近付けば、恐らく自衛隊の哨戒ラインへ辿り着く前に捕捉されて、再び襲われる可能性が大きい。残念ながら、日本と米国はZ化した海獣の被害を勘案して日本本土から40km以上外の海洋には極力出ない方針だ。一般の船も今は外国との大規模な貿易以外ではそれから先へは出ていない。護衛船団を付けなければ、危険過ぎるからだ』

 

『何て事……一刻を争うかもしれないのにッ?!』

 

 少女の拳が握り締められる。

 

『次に襲撃が起きたとしても我々には対処しようがない。殆どの武器弾薬はあの戦闘で半数を切っている。騎士ベルディクトによる弾薬の補給が無ければ、次に海獣類とは戦えないだろう』

 

 ヒューリもそれには同意するしかなかった。

 ハルティーナの装備は基本装甲が破損。

 

 彼女が回収した対物ライフルとて弾がもう10発程度しか残っていない。

 

『そもそも相手の力は数だ。そして、奴らにはソレを生かすだけの制海権がある。艦隊があってようやく突破出来るかどうか。それすら君達が倒した超大型【リヴァイアサン】……あの化け物の前には……恐らく敗れる』

 

『では、どうしますか?』

 

『今、この船はハワイから南西に動いている。この先には丁度、島がある』

 

『島?』

 

『ああ、そうだ。日本は広い海域を持つ国家だ。あの島には米海兵隊と自衛隊の秘密港湾施設がこの10年で整備されている。島民は疎開したが、島には騎士達には分からぬよう自衛隊と米軍が駐留し、今も太平洋全域の監視を行うUAVやドローンの発信基地になっていてね』

 

 八木が立ち上がり、魔導で表示された海域の地図にある島を指差す。

 

『……そこに行けば、もしかして通信設備がありますか?』

 

『ああ、本土と連絡する為に海底に新規のケーブルが引かれている。日本国内からならば、この世界に残る何処の国家や艦隊にも連絡可能だ』

 

『解りました。このままではベルさんが危ない可能性もあります。この艦をその島に寄港させて下さい。都市側とこの世界の機械で通信し、必ずベルさんの治療方法を見付けます!!』

 

『そんなに悪いのか? いや、四肢が破裂したとは聞いているが……あの魔術具の治癒でもダメという事だろうか?』

 

『……ベルさんの身体は特別な種族で本来四肢くらいなら再生出来るんです。でも、その機能が失われているようで……原因を探って治療しない限り、目覚めないかもしれません』

 

『是非も無しだな。彼が死ねば、我々はこの艦を動かせず、死ぬしかない。次の寄港地は決まった……これより本艦は八丈島に向かう』

 

『ハチジョウジマ?』

 

『ああ、今は潜水艦隊の根拠地にもなっている……あそこならば、このクラスの艦も受け入れ可能……行くしかない』

 

『分かりました。道中はお任せします』

『ああ、必ず辿り着いてみせる』

 

 八木に頷いた少女は再び艦内を歩いて少年のいる部屋へと戻っていく。

 

 その途中、声を掛けようとしていた者達もいたが、その険しいヒューリの表情を前にして声を掛けらずに沈黙を余儀無くされた。

 

(ずっと、私……ベルさんに頼ってばかり……いえ、私だけじゃない……騎士団だってそう……もしかしたら前から何か不調は出てたのかもしれない……なのに、気付きもしないで……凄い凄いってただそれだけで……ッ、私……あの頃から何も変わってない……)

 

 少女は目元の傷に触れて唇を噛み締める。

 痕を消さなかったソレ。

 

 頭部を貫くはずだった弾丸はしかし、少女の母の胸を貫いて軌道が逸れた。

 

 最後に母が見せた顔は笑顔だった。

 

 それが少年の笑みに重なって……彼女は、ヒューリは、ただこのままにはしておけないと、まだ己には出来る事があるのだと、決意を固めた。

 

 少年の為に出来る全ての事を。

 母がそうしてくれたように。

 少年がそうしてくれたように。

 

「必ず助けます……」

 

 また一つ大人になった彼女の横顔は確かに騎士のものだった。

 

 *

 

『ほぉ~良い顔になったなぁ。小娘』

 

 少年の病室に入った時。

 

 一番に声を掛けてきたのは虚空に浮かぶ半透明なスケスケ全裸美女。

 

 ヒューリも己に似ていると認めざるを得ない彼女、リスティアだった。

 

「む、無駄おっぱい!?」

 

 ハルティーナが微妙に困った顔でヒューリと美女を見ていた。

 

 いや、確かに全裸の幽霊美女がいきなり現れてウロウロしていたら、誰だって困惑するだろう。

 

 それで喜ぶのは男性陣やウェーイくらいである。

 

『む―――随分な言われようじゃ。こうして末達の様子をちょっと見に来てみれば……ぁあ、もう年寄りは帰ろうかのう』

 

 部屋を出て行こうとする彼女の腕がガシッと掴まれた。

 

「リスティア様、でしたか。貴女、少なくとも大魔術師ですよね?」

 

『そうじゃが?』

 

「ベルさんの治療に手を貸して下さい!!」

 

『ぁ~~今は魔力充填中じゃ。そして、何よりそのおのこに普通の治癒は意味があるのか?』

 

「それは……とにかく、そこに座って下さい。状況を説明します!!」

 

『押しが強いのう。そういうとこは似とるのか……』

 

 ボソッと呟いたリスティアが少年の横にある椅子の上に浮かぶ。

 

 局部がアップになって思わずハルティーナが朱くなって視線を逸らした。

 

 それからヒューリが少年に付いて知っている事をとにかく話し始め、それをしばらくリスティアは無言で聞き入り……。

 

『……概念域の先から魔力だけではなく死そのものを引き出すじゃと? 面白い事を考えた人間もいるものじゃのう……それを魔力で固定化しておるのか。枯渇不能の概念魔力……魔力の制御量が小さく絞られて創られておるのは調整のし易さを考えてだとすれば……』

 

 ブツブツ言いながら、その指が少年の額に触れる。

 

『魔力の制御が許容量を超えて一部暴走。莫大な魔力が死を動かし過ぎたという状態なのか? ならば、解決方法は簡単じゃな』

 

「方法があるんですか?!」

 

『うむ。要は魔力を抜いてやればいい』

 

「ほ、方法はッッ!?」

 

『まぁ、待て。話を最後まで聞け』

 

「ッ……はい」

 

『このおのこの魔力は死じゃ。従来は恐らく、己の肉体を動かす為に励起せずともそのまま肉体が使えるようになっておる。しかし、今回はどうじゃった?』

 

「そ、そう言えば、あの攻撃の時、大規模な術式を使ってる気配はありませんでした。フィーが前にベルさんは術式を用いてたって言ってたはず……」

 

『それじゃな。大規模な励起に必要な術式を殆ど省いて、己の力のみで魔力を励起、制御した結果として、制御不能となった一部の励起済みの大魔力が肉体に流入、爆発……時間さえあれば、問題無かったんじゃろうが……』

 

「それじゃ、私達が……もっと、時間を稼げていれば……」

 

「私の力不足でベル様は……」

 

 ヒューリの言葉にハルティーナもまた顔を俯け歪める。

 

『今、このおのこの中には励起済みの魔力が渦巻いておるんじゃろう。だが、それを無理やりに非励起状態に戻しているから、肉体の他の機能が停止しておると考えてよい』

 

「魔力を抜く方法は?」

 

『そりゃ、一番良いのは大規模な儀式術で魔力を抜くのが良いだろうが、無理じゃな。魔力が特殊である以上、当人の協力無しには十中八九失敗して術師とこの子が吹き飛ぶ』

 

「でも、貴女は―――」

 

『ワシが吸った魔力の10倍以上をほぼ1分で生み出すとか馬鹿じゃろ。それをワシが更に吸い出したらソレこそ一瞬でこの子の肉体が破裂する……安全に魔力を抜くには結局時間が掛かる。それまでこの子の肉体が持つまい』

 

「なら!?」

 

 どうすればいいのか、そう続けようとした少女の頭をベシッと美女が叩く。

 

『だから、話は最後まで聞け。人類種には魔力を抜くなら、それこそ男女和合の秘術だの、性魔術とか呼ばれてるのが幾らでもある』

 

「ッ……そうすれば、ベルさんは助かるんですか!?」

 

『はぁ、人の話を聞かぬ小娘……お前、普通の人間に莫大な量の特殊な魔力をそのままブチ込めば、どうなると思う』

 

「どうなるって……それは……」

 

 ヒューリがさすがにすぐ理解して唇を噛む。

 

『当人の魔力転換式が必要じゃ。そして、術師の転換式は秘密の塊。意識が無い時に抜かれぬよう術師はそれなりの防壁を施す。意識の無いこの子を無理やりに叩き起こす事にもなりかねん」

 

「……なら……どうすれば……ッ」

 

「お主が口籠るようにロクな事にならん。ワシが吸った時は共に変換してくれていたしのう。が、今は主体となるおのこの意識も無い。そこでだが……お主、この子の爆発した血肉はどうした?』

 

「あ、集めて冷凍して保存してます!!」

 

『ならば、それを使おう。この子の魔力をそのまま移せる器を造るのじゃ。使い魔というやつじゃな』

 

「自分の血肉を用いた使い魔に魔力を保存する術師は沢山いますから、それなら確かにッ!!」

 

『ここで問題になるのがこのおのこの魔力の性質じゃ。普通に造れん可能性が大きい。そもそも死の魔力とやらはワシらがすぐに思い付きで制御出来るものではなかろう』

 

「じゃ、じゃあ、どうするんですか?」

 

『……お主、将来子供は欲しいか?』

 

「え……」

 

『外道に属する術式故、結社などでも部外秘であった使い魔の作り方がある』

 

「……それって」

 

()()()()()を用いるモノじゃ……言っている意味は術師にして王家の血筋たるお主ならば、分かるな?』

 

 その言葉に彼女は躊躇いはせず、ただ頷いた。

 

「―――はい」

 

『ワシの時代にはその方式で多くの結社が使い魔を造っておった。若くして子を産ませられ、その後に使い魔を産んで子が産めなくなる女子が大勢いたのう』

 

「ッッ?!」

 

 そこまで聞いてようやくハルティーナもリスティアの言っている事を理解した。

 

『だが、母体が生きていれば、絶対に使い魔の創造で失敗する事が無い。元来が失敗のリスクを術師のリスクと引き換えに安定させる手法だからじゃ』

 

「母体のリスクと引き換え、という事なんですね……」

 

『ああ、そして……女の胎を用いて生み出す使い魔は通常と比べて数倍する力を持つ事もあった』

 

 女が透き通った指でヒューリを指差した。

 

『小娘。このおのこの為に女の人生を捨てられるか?」

 

「……言うまでもありません。私は此処に騎士として立ち、女として立ち、そして……ただ、目の前の人を助けたくて、この場所にいます」

 

 きっと、普通の女とは違うだろう。

 

 彼女の意識は決して一般的ではないだろう。

 

 王家の女として養育された彼女にはそんなの今更だ。

 

 しかし、遥か時代の先にいる血縁の末を見つめて、古の女は微笑む。

 

『……良かろう。では―――』

 

「待って下さい……」

 

『何?』

 

 碧い少女の言葉にヒューリが思わず肩を掴んだ。

 

「これは私の問題で……」

 

「いいえ、また、護れなかった……これは私の問題でもあります。ヒューリさん……」

 

 ハルティーナが壊れた鎧のまま。

 拳を白く白く握り締める。

 

『……お主、安易ではないにしても、その場の決意は時に身を亡ぼすぞ?』

 

「ヒューリさん程の決意は無いかもしれません。ですが、ベル様を助けたいという気持ちは本物です。それにヒューリさんだけで母体は足りますか?」

 

『む……』

 

 リスティアが思わず黙る。

 

「足りないんですか!?」

 

 思わずヒューリが悲壮な顔で目の前の美女に訊ねる。

 

『……何分、魔力形質が特殊過ぎる……こういう言い方は無粋じゃが、決意どうこう以前の問題として試行可能な回数が必要じゃ』

 

 誰もやった事のない事をするのだ。

 それくらいの事はヒューリにも理解出来た。

 

『健康な母体として、その子は適任じゃろう。お主とは違った意味でな』

 

「私とは?」

 

 ヒューリにリスティアが頷く。

 

『小娘……お主は“黒きの水”の継承者じゃ』

 

「黒き水?」

 

『魔王の系譜、という事じゃ』

 

「あの話って、本当に?」

 

『まぁな。だから、性質的には母体と為り得る術者の中でもお主はかなり高位じゃろう』

 

「なら、ベルさんをちゃんと助けられる使い魔が私のお(なか)なら造れますか?」

 

『ああ。だが、母体の魔力や性質面では足りるかもしれんが……リスクはある。良い子が産める資質と肉体の頑健さとは別じゃからな』

 

「そんな……」

 

『だが、逆にその子は母体としては優秀でないものの、最後まで儀式を遣り遂げるだけの頑健さを備えておる。どちらがいいとは一概に言えん』

 

「万全を期すなら、という事ですか?」

 

『うむ』

 

 ヒューリがさすがに複雑に過ぎる顔でハルティーナを見やる。

 

「……ハルティーナさんは、ベルさんの事……」

 

 その言葉に緩々と少女は首を横に振る。

 

「純粋に……私はベル様を護りたいと。そう思っています……フィクシー大隊長やヒューリさんとは違います」

 

 その気持ちは少なくとも親愛ではあるかもしれない。

 

 しかし、幼い家族を護るような。

 

 そんなものであるとハルティーナにも理解出来ていた。

 

「でも、命を掛けても護りたいという感情が貴女達に劣っているとは思いません。私の使命と任務と……希望は今、一致しています……」

 

 弟を見やるような優し気な顔。

 

 少年を見つめる姿は今も苦しみ眠る幼子を心配し、必ず護ろうと決意する姉のようにも見えた。

 

「ハルティーナさんがそこまで言うなら、私は何も言いません。いえ、言えません……だから」

 

 片手が差し出される。

 

「ベルさんを絶対に2人で生きて助けましょう!!」

 

「はい!!」

 

『……では、術式を練っておく。数日掛かるじゃろうが、その間は治癒の術式を絶やすな。だが、同時にお前達も万全でなければならん。治癒用の魔術具で治療は継続せよ』

 

「それまでベルさんは持ちますか?」

 

『これ以上、この子が大きな術式を使えば、保証はせん。この船を動かすに留める事じゃ。いいな?』

 

「「分かりましたッ!!」」

 

『最後に決意を見せたお主達にワシからの贈り物を授けよう』

 

 フッと二人の前に小さな魔力電池が浮かんで3つに割れたかと思えば、ディミスリル製の指輪となった。

 

『そのおのことお主達で嵌めると良い。深層意識化に声を届ける程度の代物じゃが、艦を止める時や進める時に使え。ワシはもう一眠りしてくるのじゃ』

 

 2人が頷き、リスティアが虚空へと解けるように消えていく。

 

 指輪が三人の左手の中指に嵌った。

 

「「……あのッ!!」」

 

 被った少女達が互いを見つめて、思わず一緒に苦笑する。

 

「実は私達……ちょっと似てるのかもしれませんね」

 

「はい。でも、やはり違うと思います。しかし、だからこそ、ベル様を助けられるはずです。一人ではないのなら、きっと……」

 

 頷き合う少女達は少年を見やり、未だピクリともしない姿を見つめ、その首筋に左右から触れる。

 

―――必ず。

 

 言わずとも確かに決意は彼女達と少年の手の中にあった。


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