ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第61話「宴会とお茶会」

 蟲には感情というものがあるとは証明されていない。

 しかしながら、仲間の死骸から発されるフェロモンからか。

 

 まるで怒り狂ったかのように周囲をブンブンと大きな口の鋏で薙ぎ払う相手は正しく怒れる蟲そのものであった。

 

 しかし、その脚が斬れ、首が落ちる。

 

 今や死山血河の様相を呈した蟲達の進軍は死体、ワサワサもがく残骸の山と成り果てていた。

 

 壁まで残り2.2km。

 

 蟲達は数だけで1200を超えていたが、その半数が行動不能で討ち取られ。

 

 ギシャァアッと蟻酸を出す時の音と共にまだ動く口であちこちに溶解液に等しいソレを振りまいたりはしていたが、教官達に直接当たる事はなく。

 

 精々が僅かにスーツの表面を飛沫で溶かすに留まっている。

 

 彼らはチャンネル間での通信によって連携を保ちながら、終わりも見えない連撃を弛まずに舞う。

 

 一瞬いた場所が無造作な蟻の脚によって薙ぎ払われ、狂乱する鋏はいつ当たるかも分からない。

 

 それでも彼らに今すぐその場から離れるという選択肢は無かった。

 

『魔力残量は?』

『魔力電池がまだ持ちます』

『後、2時間は何とか』

『不可視化と消臭でイケるな』

『相手の知能は蟲並みなようで助かりました』

 

『銃弾を補填して壁まで戻ってくるのに最低50分以上』

 

『壁際まで辿り着く方が速そうね』

 

 しかし、彼らの期待を裏切って、再度出撃したトラックが彼らの目にも見えた。

 

 そのトラックの屋上には其々5人程が載っており。

 

『弾薬の補給完了!! 半径5m内から離脱して下さい!!』

 

 チャンネルでの一斉誘導。

 管制に従って教官達が次々に離れる。

 

 すると、目に見える標的を見付けたまだ無事な蟻の群れが突撃を開始した。

 

 その距離は見る間に縮まり、残り800mを切った。

 瞬間、三隊にトラックが分かれ、銃撃が開始される。

 躊躇の無い連射。

 

 本来、1人では辛いはずの視線誘導だが、まったく3点バーストは使われていない。

 

 理由は彼らにも分かった。

 

 処理がチャンネル越しに並列化されているのだ。

 

 5人に10人の魔術による工程処理が加わり、一人前が5人の計算である。

 

『喰らいやがれぇえええええええええ!!!!』

『処理はこっちに任せろ!! 撃ちまくれぇ!!』

 

『イケるぞ!! マガジンありったけだ!! 持ってけぇえええ!!』

 

『相手を攪乱する!! 30秒後に時速50kmで側面に回り込む!!』

 

『了解!!!』

 

 銃弾の嵐が次々に正確なピンポイントでの頭部の射撃を可能にする。

 

 蟻達が酸を吹きながら倒れていく。

 マガジンの排出、装填後発射までの流れるような動き。

 

 ようやく撃つ事に慣れてきた銃の得意な者達による作業機械のような手捌きは決して土壇場でのものではない。

 

 本来、彼らにはそれくらいの力量があったのだ。

 それをようやく使えるようになった。

 トラックという安定した足場。

 

 更に仲間達がトラック内で精神集中し、一人が数発の弾丸をトラック運転中の見習いの視線を通して誘導。

 

 正しく全員がいなければ未熟な彼らには確立し得ない戦い方だった。

 

 車両が動き出し、正面は後退、左右に展開した者達は側面から相手の側頭部や振り向いた顔面の真正面を捉えて打ち倒していく。

 

 急激に膨れ上がる戦域。

 しかし、膨張するという事は密度が低くなるという事だ。

 相手がバラけるならば、突撃など怖くない。

 

『良し!! 密度が下がった!!』

『この数ならぁあああああ!!!』

 

 群れの利点を殺されながら、蟻達が彼らのトラックに引き寄せられて辿り着く頃にはその数を半数以下まで減らされていた。

 

 それとほぼ同時にトラック内から残りの10人が飛び出し、数十m先のバラけながらも丁度良い的になった敵へ冷静に銃弾を撃ち込んでいく。

 

 内部に入り、マガジンを更に補給した屋根上で撃っていた者達もその列に加わる。

 

 四十数名の乱れぬ一斉射。

 

『観測手!! もうちょいレイヤーを西に!!』

『了解しましたわ!!』

『東端の撃滅を確認!!!』

 

 其々の分担する領域を魔術のチャンネルで共有しつつ、視界を色分けし、移動する毎にトラックの運転を買って出ていた者達が蟻の何処に何発当たったかを瞬時に観測して彼らの脳裏に送り込んでいるのだ。

 

 まだ、高度な訓練無しには不可能だと思われていた事も全員ならば出来る。

 

 その秘密の一端は観測手達の横に共に立つ複数体のゴーレムだ。

 

『ゴーレム展開!! 西部に走らせて!! 視界が切れる!!』

『魔力が足りねぇ!! 供給誰か!!』

『魔力電池だッ!! ウェーイからの贈り物だぜ!!』

『あの人、時々良い仕事するよ。ホント』

『はははははは』

 

 人間の目のみならず。

 

 全てのゴーレムからの視線を受け入れても酔わない、処理に強い見習い達は少数だがいた。

 

 その彼らが作業工程を互いに並列化。

 見事に視線誘導処理の手助けをしていたのである。

 ゴーレムの目も使えと指示したのはアフィスだ。

 

 魔術大学卒の彼にしてみれば、術師の視界は常に多機能的であるべき、という教授達の御小言みたいな言葉を聞いていた為、実戦したに過ぎない。

 

 だが、それが今は確実に彼らを救っていた。

 

 しかし、そんな彼らの奮戦も大量の弾薬を消費させられる敵相手には長く持たなかった。

 

 個体数が50を切った辺りでほぼ一斉に弾薬が途切れる。

 

『後退!! ただちに壁まで後退!!』

『急げぇえええ!!!』

『車両もう出すぞ!!』

『いや、その必要は無い』

 

 その声に彼らは地面から僅か土煙が上がるのを確認する。

 

 そして、次の瞬間には大量の首や脚が飛ぶのを見ていた。

 

 駆け抜けていく背中が見えるようにも思える。

 

 そんな敵で敷かれた道が出来上がり、終には数十秒もせず蟻が全滅していた。

 

 後に残るのは脚だけを落されて蟻酸を垂れ流すモノばかり。

 

 ようやく姿を顕した五人はもう蟻から離れ、彼らの下へと戻って来ている。

 

「良くやった。体力、技量、まだ一人前とは言えない部分もあるが、心構えだけはお前達も一人前だ。冷静な判断と咄嗟の機転、全員の能力を使った戦い方。確かに見届けさせてもらった」

 

 全員が乗車した車両が三台。

 そのまま壁の内部へと帰還する。

 それとほぼ同時に壁内部には口笛と歓声が上がった。

 

『新たな敵を退けた誇り高き騎士達に敬意を表して、この街を代表してお礼を言わせて頂くわ。ありがとう。善導騎士団!!』

 

 守備隊の男達が囃し立てる。

 

『ああ、でも恰好付けて出てきたのに出番が無かったから、その分は何かで埋め合わせしてもらおうかしら? この歳になると恥ずかしいものなのよ。ふふ』

 

 お茶目なバージニアのウィンクと守備隊の大笑いに照れた様子となった見習い達の顔は明るかった。

 

 まだまだだなという優し気な顔をした隊員達がフィクシー達も片付いたという事を聞いて、ようやく安堵を覚える。

 

 しかし、彼らにはまだやる事が残っていた。

 残敵の掃討。

 

 そして、新たな敵の死体を持ち帰り、解析せねばならない。

 

 それを分かっているかのように壁より後方にはもう米軍と自衛隊の車両と兵員達が集合していた。

 

 *

 

 善導騎士団大勝利、希望の未来にレディ・ゴー的な事件はその日の内に都市内部を駆け巡り、何処も彼処もその話題で持ち切りとなった。

 

 食糧事情が落ち付いた次は新たな脅威の出現とそれを打ち破る勇士達の登場。

 

 超技術カルト教団はいつの間にか見習い達の活躍や教会への寄付が同時に噂された事も相まって評判となり、いつの間にかカルトではなくナイツと呼ばれるようになっている。

 

「お帰りなさい。ベル様。皆さん」

 

「ハルティーナさん。お留守番ありがとうございました。フィー隊長が言っていたように途中で何かありましたか?」

 

 色々と後片付けして戻って来たベル達は徒歩だ。

 

 キャンピングカーは近頃使い潰すようにして乗り回していた為、市庁舎の技術部へとオーバーホールに出されていた。

 

「いえ、ちょっとネズミが辺りをウロチョロしていただけです」

 

「そ、そうなんですか? それは怖いですね。ネズミは伝染病も運んで来ますし、倉庫の作物も食い荒らしますし、後でネズミ捕りを……」

 

 本部の門で彼らを出迎えたハルティーナにベルが真面目な顔となる。

 

 それに初めて。

 

 恐らく初めてだろう笑みでハルティーナが噴き出していた。

 

「ふ、ふふ……そうですね。後で街の人達に売り出してみたらいがかでしょうか?」

 

 ちょっとだけ羨ましそうな顔になったヒューリがベルの後ろから顔を出していたが、その雰囲気を壊すのも悪いと思ってか。

 

 苦笑してから、農作業の為に体をまずは洗いにシャワー室へと向かった。

 

 フィクシーは少年の頭をポンポンしてから、また後でとクローディオと共に今は休んでいるはずの隊員達のいる宿舎へ。

 

「お部屋までお供します」

「はい。よろしくお願いします。ハルティーナさん」

 

 こうして夜を前にして善導騎士団の全員が今日は疲れたと本部に帰り付き。

 

 夕暮れの収穫の後にはお礼としてバージニアから届けられた秘蔵の缶詰が全員に振る舞われ、彼らはこの世界に来て初めて高級な海産物を口にする事となる。

 

 カニ缶。

 

 その日の夕食は野菜とカニ缶をココナッツミルクで煮込んだ南国風の鍋となった。

 

 一騒動後の宴会は盛大で。

 

 アフィスなどは酒場から頂いて来た秘蔵……もといこっそり飲もうとしていた洋酒を開けて、隊員達に振る舞い。

 

 また、その株を微妙に上げつつ、飲めや歌えやの音頭を取る。

 

 見習い達もまた今日実戦で得た教訓と勝利に笑い合い。

 

 しかし、次の事をどうしようとかと真剣な瞳で語り合っている。

 

 そんな中、一足先に疲れたからと部屋に戻ると言い置いた少年は基地の最下層。

 

 自身の研究室に引かれた回線から都市側のデータを大型のPCで受け取っていた。

 

 狭くは無いが、色々なものが壁際の棚に入れられた少しだけ博識者の部屋を思わせる一角で情報を食い入るように見て、僅かにその瞳が細められる。

 

 そんな時、扉が叩かれた。

 

「どちらさまですか?」

 

 ギィッと開いた扉の先。

 いたのは……フィクシー、ヒューリ、ハルティーナであった。

 

「皆さん?」

「お前が少し難しい顔をしていたのでな」

「ベルさんのお顔がちょっと気になって」

「ベル様の顔色が悪くなっていたように見えましたから」

「あ、はい。今度から顔色が良くなるように心掛けます」

 

 そんなに自分の顔色は読まれ易いのだろうかと頬を掻いて困ったように笑った少年が全員を通す。

 

 ソファーとテーブルこそあるが、殆ど使われいないのは一目瞭然だろう。

 

 部屋の奥にはマンションから持ち込んだものが全てあるが、その奥には巨大なディミスリル合金製の作業台が有り、複数の重火器が載っていた。

 

 灯りは電灯を用いているらしく。

 しっかりと明るい。

 

「で、顔色がおかしかったのは……今日の敵の件、違うか?」

 

「はい。一応は現地で解析しましたし、詳しい解剖所見を都市の検死医さんの方に頼んだんですけど」

 

「どうなっていた?」

「今、資料を出しますね。座っていて下さい」

 

 少年がプリンターで印刷した情報をテーブルの前に置いて座る。

 

 すると、フィクシーとヒューリが左右。

 ハルティーナが対面に座る。

 

「あの……」

「何だ?」

「い、いえ、説明を……」

「頼む」

 

 ベルが十枚近くの資料にある高精度なカラープリントの画像を指差して、解説し始める。

 

「まず、新種の培養ゾンビと同じと思われる2種類なんですが、やっぱり培養ゾンビと中身は同じでした」

 

「中身が同じ? 外見は別々のように見えるが……」

 

 フィクシーの言葉にベルが頷く。

 

「前にシスコで言っていた事、覚えていますか?」

「ッ、そういう意味で中身が同じ、なのか?」

「はい」

 

 ヒューリとハルティーナが首を傾げる。

 

「どういう事ですか? ベルさん」

「お伺いしてもいいでしょうか?」

 

 2人に少年が嘗てシスコでエヴァ・ヒュークの研究していた培養ゾンビに関する話を聞かせる。

 

「“静寂の王”……」

 

「はい。僕の身体を形作っている死そのもの。これをお爺ちゃんは【源型《アーキタイプ・モールド》】と呼ばれるモノだと言っていました。ソレが培養ゾンビを形作っているものなんです」

 

 少年が死体である事を知っていたヒューリはともかく。

 ハルティーナは驚きに固まっている。

 

「え、えっと、ハルティーナさん。だ、大丈夫ですか? 話に付いてこれてますか?」

 

「だ、大丈夫です!! つまり、ベル様は大陸中央で言うところの“恰好を付けたい年頃”なんですね?」

 

「ぁ、はい。そ、そういう事でお願いします」

 

 物凄く微妙な顔になりながらも、やっぱり難しいらしいと少年は受け取り方は人其々……そうスルーする事とした。

 

「それでこの赤黒い四足歩行の触手ゾンビと海藻みたいな髪型の召喚ゾンビもソレの類だと?」

 

 ヒューリの言葉にベルが頷く。

 

「恐らく、あの黄色い金属生命体が身体を加工する役割なんだと思います。そして、あの召喚ゾンビの魔力波動……アレは僕が使っているのと同じように死から魔力を抽出する概念魔力形質を導いていました」

 

「ベルの魔力と同じ。つまり、黙示録の四騎士と同じか?」

 

「はい。あの空間歪曲先には恐らく高密度の死が存在していて、それを引っ張り出す時に自分と同じ形に形成する……それがあのゾンビの能力。あの叫び声は解析したんですけど、大陸標準の幾つかの魔術言語を用いた超高密度の圧縮言語でした」

 

「つまり、一瞬で大魔術を用い、自分を複製しているのか?」

 

「はい。検死結果では喉が裂けていたそうで、召喚ゾンビそのものの機能が損傷する為、基本自分と赤黒い触手ゾンビ一組分しか叫べないんだと思います。ですが、それを繰り返していけば……」

 

「最終的には一組から無限に相手が増殖すると?」

 

「……はい。手に負えなくなるレベルで増えたら対処は不可能になります」

 

「た、大変じゃないですか!?」

 

「この事はもうバージニアさんに伝えたんですけど、今のところは初期対応で必ず召喚ゾンビを狙う以外の方法は無いと」

 

 ヒューリの言葉にベルが頷いて続ける。

 

「分かった。四つ足は四つ足で走るのが速いだけだから省いてもいいな。それよりもUWSA側のゾンビとあの大きな蟻に関しては?」

 

「UWSA側からは外回りに出ていた部隊が一つ戻っていないとしか回答されなかったそうです。恐らく、方向からして南部の方に向かってたんじゃないかと」

 

「……亡命政権側は南部の重要性に気付いているようだな」

 

 フィクシーが目を細めた。

 

「そうですね。それから蟻に付いてなんですけど……本当に蟻でした」

 

「アレって蟻さんだったんですか? 本当に?」

 

「ええ、本当に蟻さんらしいです。ただ、明らかに身体構造上、自重を支え切れない部分があるらしくて。動いているとしたら、その部分が何故動くのか分からないそうです。たぶん、死んだら消失する類の魔力で動かしてるんじゃないかと」

 

「そういう事か……」

 

 フィクシーが蟻が妙に機敏だったという話になるほどと頷く。

 

「後、首を落されても最長で4時間活動が続くらしいので頭部も危険ですし、身体も近付かない方がいいと思います」

 

「ベル……魔導や魔術で動物を大きくする事はよくあるが、それならば、あの蟻を作り出せると思うか?」

 

 その言葉にベルが思案顔となる。

 

「可能だと思いますけど、それには膨大な魔力が……いえ、そう、ですね……蟻そのものを巨大化させる術式とそれを養殖する大量の餌と魔力さえあれば可能なんですから……最後の大隊ならば、量産出来るかもしれません」

 

「そうなるか。餌は培養ゾンビ。魔力は黙示録の四騎士と同じように取り込めばいいわけだから……今後は昆虫が大きくなってお出迎え……ぞっとせんな」

 

 その言葉にピシッとヒューリとハルティーナが固まる。

 

「ぁ、その……もしかして?」

 

「あ、蟻さんはいいですけど!! 蛾とか!! 蠅とか!! 飛ぶのはダメです!! わ、私、蝶々が精一杯です!!?」

 

 プルプルし始めるヒューリがどうやら想像してしまったらしい大量の昆虫の大群に気分を悪くした様子で口元を抑えた。

 

「ぅぅ、すみません。ベル様……昆虫は芋虫的なのがちょっと……む、昔、父と野外訓練に言った時、外で寝ていたら口に飛び込んできて―――っぷ!?」

 

 ブルブルし始めたハルティーナはいつもの冷静さは何処へやら。

 

 かなりハードなトラウマらしく。

 完全に顔色がゾンビのソレだった。

 

「ああ、お二人とも済みません!! い、今、紅茶の缶を!!」

 

 少年が外套の中から紅茶の飲料缶を出して二人に差し出す。

 

 一気に飲み干した二人がようやく顔色も落ち着いた様子でフゥフゥと荒い息を吐いていた。

 

「悪いがもしソレが出たとしても『戦えない』では済まないのだから、二人とも覚悟だけはしておいてくれ」

 

 ハァ……(*´Д`)と溜息を吐いたフィクシーが肩を竦める。

 

「フィー隊長は蟲とか大丈夫なんですか?」

 

「ああ、よく魔術触媒の材料で磨り潰していたしな。家が旧くて大きな台所に出る“素早いヤツ”などは良い媒質として使えたから、部屋に“他の”と一緒に干していたりしたな」

 

「「( ゜Д゜)?!!」」

 

 2人の目が点どころか飛び出しそうになっていた。

 

「ああ、ちゃんと酒精で消毒して使っていたから、衛生面は問題ないぞ」

 

「たぶん、そういう事じゃないと思います。フィー隊長」

「?」

 

 よく分からんという顔をした少女とは裏腹に少女二人は魂が抜けたように意識が遠くに旅立ったようだ。

 

「とにかく、話は分かった。今後の対策も立てねばならん。これから要塞線建築で忙しいと思うが、ベル……頼んだぞ?」

 

「ま、任せて下さい!! 要塞の方も色々と改良しなきゃと思ってたので!! 触手や蟻さんや物量相手でも耐えられるようガッチリ造ります!!」

 

「さすが要塞マイスターだな。ベル」

 

「そ、そんなに褒めても何も出ませんよ? あ、フィー隊長もお茶とお菓子をどうぞ。この間、お店からカカオとバナナとバニラとその他諸々のお礼だって届いたのがあって!!」

 

「ほう? それは何とも興味深い……」

 

 ちょっと嬉しそうな少年が紅茶のみならず。

 

 お菓子を出し始めて、その場はちょっとした夜のお茶会と化したのだった。

 

 味が分かりそうに無いくらい放心した二人。

 

 が、残る少年と少女は気にしてはいなかった。

 

 魔術師にとって蟲は基本的に薬や魔術の触媒や魔術具の材料でしかなかったからだ。


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