ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第33話「善きを導きし者達」

 最初に少年が見たのはどうやら報道番組。

 

 この世界で初めてゾンビが確認された当初のものらしい映像には『おいおい。○○ニュースは今日エイプリルフールだってよwww』などの何処か馬鹿にしたような文字が幾らか補完する資料として張り付けられていた。

 

 しかし、その夏に始まったらしいゾンビの出現という報道が日増しに深刻化していく過程が少年にも分かった。

 

 たった一週間で最初の出現地点より数km圏内の人々が襲われて殺され、ゾンビ化して拡散。

 

 州軍と国軍が合同で展開し、封じ込めの為に大量の航空機からの空爆と砲爆撃の嵐が徹底的にゾンビを叩いた。

 

 ゾンビに人類は勝ったという報道がなされ、人々は大いに安心を買ったようだったが、それから更に日が立つと今度は米軍が夜間にゾンビとなった者を出して数人の死傷者を出し、それもまたゾンビになりという繰り返しの結果。

 

 無事な部隊は半数以下にまで激減。

 

 封じ込め失敗という報道と共に【BFP(ビッグ・ファイア・パンデミック)】もしくはBFの文字が躍るようになる。

 

 この時、既に軍の包囲網を抜けた数体のゾンビがいた事が地図には描き出され、各州で次々にゾンビの勢力が拡大。

 

 米国陸軍は総力を結集して駆逐作戦と避難作戦を開始したが、避難民にゾンビが発生し、軍も巻き込んで被害が拡大。

 

 撃ち殺しても撃ち殺してもという状況になった後。

 

 最悪な事にそのゾンビを確保して売り捌こうとした犯罪組織が多数有り、軍の検問を突破して、被害が更に拡大したらしい。

 

 特に国境地帯があった南部から難民や移民が押し寄せて来る世界的情勢だった事も重なって、被害が他国にも拡大。

 

 封じ込めの失敗と同時に大規模なゾンビの他国への流入が起こってしまう。

 

 特にゾンビを用い敵国や他国を破壊しようとするスパイが大量にいて、ゾンビを確保して本国に研究用やテロ用に輸出する事件が多発。

 

 アフリカ、ユーラシア、中東の各地でたった5か月で国家が30から50程浸食され、小国の多くが消えた。

 

 各国が水際阻止を徹底していたが、最終的に残ったのは島国ばかりとなり、汚染された島はゾンビを完全に駆逐した後に再度奪還というような事が繰り返された。

 

 この合間にゾンビ発祥の地である米国は戦線を構築。

 

 南部の工業地帯、ハイテク産業地帯を北部に移転させ、ドローンなどを用いて都市機能を大きく機械に代替させ、社会管理を徹底するシステムが導入された。

 

 これらの都市機能を持った領域はゾンビ達を北部の主要都市以南に封じ込める為の切り札だった。

 

 このハイテクと管理の徹底による浸食拡大の防止装置たるプログラム。

 

 そして、そのものである小規模都市群を人々は【戦線都市(バトル・フロンティア)】と呼んだ。

 

 ゾンビの脅威から人類を護るという大義名分の下。

 

 対ゾンビ用の先端兵器やシステムの開発が主要先進国からの投資で実現し、戦線都市は確実に南部の大部分から来るゾンビの大規模集団を撃破し、駆逐。

 

 一時は南部の国境域付近まで勢力を拡大していたが、まるで米国のゾンビの危機を知ったかのようにほぼ完全に勢力圏に入っていた南米のゾンビ達の大移動と共に都市はその勢力を後退させ、最後には都市を壁として大規模な消耗戦に入った。

 

 それがゾンビ発生から2年後の春。

 こうして、戦況不利のまま終にその時が訪れる。

 

 南部から渡って来た1億人以上のゾンビ集団の超規模密集による戦線都市の突破が発生。

 

 それに呼応して呑み込まれていく各戦線都市へ米国は最終手段であった飽和核による自国領土攻撃を決断。

 

 都市は数千万単位のゾンビを道連れに総数500万人以上の軍民の人員と共に消滅。

 

 以降、米国は各国への米国人の移民計画を実行し、まだ比較的安全な国への移住を推進した。

 

 しかし、世界終焉級の核攻撃で核の冬が来ると蒼褪めた各国では非難轟々。

 

 アメリカ国民全員を移民させるには何処の国も受け入れ人数が物理的に制約を受けてもいた為、国外へと向かう為の移民用の権利を入手出来る人数は限られ、それを求めて暴動が多発。

 

 最後にはゾンビとの戦線でゾンビを一定数倒したならば、権利をやると言い出した政府に国民の怒りは爆発。

 

 無政府状態に近い事となる。

 

 実際もう逃げられないと腹を括った民間人や軍が結託して南部から大移動を続けるゾンビ達に対し、遅滞戦闘を主軸とした防衛戦を展開。

 

 次々に部隊は磨り潰されていったが、そのおかげで多くの民間人が脱出する事が出来た。

 

 また、時間稼ぎと数を減らす戦闘のおかげで北米大陸には3つの都市がゾンビの侵入を阻止した聖域として成立。

 

 数千万の人命を用いて狩られたゾンビ達との最後の大規模防衛戦に辛くも勝利した3都市は現在も小康状態を保ちながら、未だ米国内で存在し続けている。

 

「………」

 

 それは正しくゾンビとその世界の人類の戦いの歴史だった。

 

「解ってくれた? あ、分からないところがあったら、あたしが教えてあげるからね。あ、でもまだ、難しいよね……とにかく、こういう事があったよっていうのを覚えておいて」

 

 コクコク少年が頷くとよろしいとジェシカがお姉さんぶった様子で満足そうな顔をした。

 

「それでここからが本題。このシスコはね。難民化した人達がお船に乗る街だったんだ。本当は此処も最後のセンダンが出ていく時にホウキされるはずだったんだって」

 

「……放棄」

 

「そうそう。パパが言ってたわ。私達は本当なら最安全国に行けるはずだった、って」

 

 そこでジェシカがデスクの横から数枚の資料を出してくる。

 

「でも、そうはならなかった。それがコイツのせいなの」

 

 資料の中に挟まれていた写真は四十代くらいの白人の男だった。

 

 スーツを着て、青い瞳の優男。

 如何にも狡猾そうな顔、といのが少年の第一印象だろうか。

 

「エヴァ・ヒューク……こいつはね。最後に出るはずだった船を破壊して、エンゼツをしたんだって。難民になっても苦しい生活が待ってるだけだって。だから、ボウメイセイケンから沢山ブッシを貰って此処でゾンビ達を迎え撃とうって……それに一部の人が乘っちゃったんだって」

 

「……それで」

 

 少年の言葉に肩が竦められる。

 

「それでね。その海の向こうに行った人達は確かに凄くご飯も銃も薬も送ってくれたんだって。戦いたい人達はそれで満足した。でも、戦うのを拒否した人達は……」

 

 資料の1つが差し出された。

 それには手錠を掛けられた男女が何人も映っている。

 そして、それを泣いて見送る子供達も……。

 

「その子達はエヴァが預かって、このタワーの中にずっと捕まえられてる」

 

 それは少年にもキャンピングカーで移動中に見た覚えがある高層建築だった。

 

「それで捕まった人達を助ける為にあたし達、ゲリラが戦ってるの。正義の味方なのよ」

 

 胸を張る少女がコンコンと後ろの扉が叩かれたのを見て、そろそろ出なきゃと少年の手を牽いて外へと向かう。

 

(これだけのシステム……一体、何に使ってるんだろう? 電力もこの世界じゃ貴重なはずなのに……)

 

 少年は疑問に思いながらも外に出る。

 

 すると、先程のシャンクと呼ばれた男が少女に親指で通路の先をクイクイと指していた。

 

「パパ!!」

 

 少女が顔を輝かせて、その無精髭の中年男性へと掛けていくと抱き上げられた。

 

 浅黒い肌の白人の40代。

 

 ジャケットにジーンズという姿は他と変わらなかったが、その瞳には深い娘への慈愛の色と理知の光が少年にも見て取れた。

 

 その穏やかな物腰は見ているだけで外見とは裏腹に彼がインテリ層である事を示しており、少年にしても戦う者を率いるのがそういった冷静な人物である事は未だにゲリラが存在している事の証に見えた。

 

「おお、ジェシカ。我が最愛の娘よ。お姫様なのにクリーンルームに入ってしまうとは悪戯が過ぎる。今日の晩御飯にはピーマンだ」

 

 大仰な言葉の後、サラッと罰が下された。

 

「え、え~~!? 酷くない!? あたしはあの子に教えてあげただけなのよ!? あ、後、またおヒゲ剃ってない!? 不潔よ!! 不潔!!」

 

「ははは、悪い悪い。実は髭剃りが切れなくなっちゃってなぁ。3日も薄暗い地下に籠ってたから、誰も教えてくれないし、すっかり忘れてたんだ」

 

「もぉ~~しょうがないなぁ。パパは……」

 

 降ろされた少女は父親らしい男の耳元に何かをコショコショと囁いて、少年を見てから微笑んだ。

 

「分かった。せっかくコミックかアニメの世界からやってきたお客様だ。ちゃんと持て成そう。勿論、尋問したりしないから安心して欲しい」

 

 少年がペコリと頭を下げる。

 

「おお、礼儀正しいな。日本の人みたいだ……さ、お前はサマンサの手伝いに行っておいで。此処から先は大人の領分だ」

 

「は~い。あ、後でまたお話しようね」

 

 バイバイと手を振った少女が見えなくなると。

 

 シャンクと呼ばれていた男もそのパパとやらに頭を下げてから、その脚で活発な少女を追っていった。

 

 残された少年が男を見つめていると。

 苦笑が返される。

 

「そう警戒しないでくれ。僕らは本来、利害が一致しているはずなんだ。異世界からの来訪者よ」

 

「それを何処で?」

 

「ふふ、君達の本当の文明レベルはまだそう予測出来るわけではないが、こちらも割りと魔法の域には片足を突っ込んでいるよ。一般人には作り方も分からない箱が“世界の終末”を予測してくれるくらいには、ね?」

 

 その軽快な語り口とウィンクに少年は男のゲリラのリーダーとしての顔を見る。

 

 少なくともソレは油断していい類のものではなかった。

 

「さ、案内しよう。我らがアジトを……その後、私のオフィスで少し話そうか。ええと、名前は?」

 

「ベルディクト・バーン、です」

「では、バーン()。連れ立って行こうか」

 

 男が手を差し出し、少年は傍まで寄ってから、その手を取ったのだった。

 

 *

 

 アジトと呼ばれた場所には十人程度の人員が働いていた。

 

 若者から老人まで人種も年齢も多種多様。

 

 ただ、その誰からも男は敬われているようで軽く頭を下げられ、色々と報告される様子は正しくリーダーの風格だった。

 

 元々はどうやら大きなレストランのような場所だったらしく。

 

 広い厨房とテーブルと椅子のある大きなラウンジが印象的だろうか。

 

 埃こそ掃き清められているが、窓は完全に内側から木の板で閉ざされており、常に空気清浄機らしきものが稼働していた。

 

 二階の一室に通されれば、そこだけは窓が寝台のある場所と同じようにあり、隣の建物との間の空き地が見えていた。

 

 窓が暗幕によって遮られた後。

 小さなLED製の豆電球がカチリと灯される。

 

 腰掛けるように言われたソファーに座って、ベルは相手の内心はどのようなものなのだろうと泰然と構えている男を静かに見つめる。

 

「まずは自己紹介から。オレの名はアンドレ。アンドレ・マッケンジー。このゲリラ組織スイートホームのリーダーだ」

 

「スイートホーム……」

 

「娘が世話になったな。あの子も君くらいの子と久しぶりに話せて楽しかっただろう。それには礼を言わせてもらいたい」

 

 男が実直に頭を僅かに下げる。

 

「いえ……」

 

「あの子から色々と聞いていると思うが、オレ達はあのタワー内に捕らえられた子供達や壁の付近にある収容所から仲間や本来逃げられたはずの人々を助ける為に当局に対して反抗活動を継続している」

 

「ジェシカが教えてくれました」

 

「そうか。まず君をこのような方法で招いた事は謝罪させてくれ。我々にはあまり余裕が無い。本来ならば、相応の場を設けるべきだったが、当局の目が君達に向いていない瞬間に君が外にいた。それだけで我々が取るべき行動は限られていたんだ……済まなかった」

 

 再び頭を下げる男に少年が首を横に振る。

 

「……頭を上げて下さい」

 

「ありがとう。君は随分と温和なのだな。普通、こういう事をされたらもっと怒ると思うが……」

 

「慣れてるので」

「そうか。我らが自由の国に失望しているかね?」

「いいえ、色々な人がいて、助けてくれましたから」

「なら、良かった。では、本題に入らせて貰いたい」

 

 男が用意していたのだろう資料をテーブルの下から引き出して提示する。

 

「君達があの化け物共……【黙示録の四騎士(アルマゲスター)】に手傷を負わせる程、強い事は知っている。魔法を使う事もね。人々を開放する為、力を貸してくれないか?」

 

 男が見せたのは監視カメラのものと思われる映像を切り貼りしたような画像だった。

 

 その中には蒼褪めた騎士が半身を失って馬に乗せられている状況が映し出されている。

 

 恐らくはあの地下でのやり取りが記録され、それがオンラインで何処かに見られるようになっていた、という事なのだと少年はすぐに理解する。

 

「……人を、殺せと?」

 

「いいや、異邦人たる君達がこの世界の人間を殺すという事態そのものがマズイのは理解している。具体的な人々の奪還作戦に協力して欲しいんだ」

 

 少年が僅かに瞳を細める。

 

「その後、どうしますか?」

 

「……君の懸念は最もだ。策も無く彼らを開放しても、その後にすぐ捕まるか。捕まらざるを得ない状況になるのは分かってる。こっちは食料も医療品も武器も弾薬も何もかも足りないからな。だが、我々とて場当たり的に助けよう等とは思っていない。これを見てくれ……」

 

 男が街の外にあるらしい放棄されたと思われる埠頭で停泊している大型客船の画像を提示する。

 

「こいつは13年前、最後にこの街を出るはずだった客船だ。パシフィック・ゴッデス号……あの野郎、今市庁舎の一番上等な椅子にふんぞり返ってる男が逃げ出す寸前に破壊した船だよ」

 

「最後の避難船……」

 

「そうだ。この船はまだ動く。スクリューは無事だ。定期的に市庁舎の連中がまだ存在するアラスカの造船所でメンテもしているからな。燃料が入れられている事も確認している」

 

「……でも、何処に?」

 

「君達は知っているかどうか分からないが、今現在ロスの港には日米の合同艦隊が派遣されている。十中八九、君達絡みだな。だが、それは関係なく。前々から日本政府と我々は交渉をしてきた。彼らは我々の状況を理解してくれているよ。そして、此処がアメリカだという事も……」

 

 最後の資料が示された。

 

 その中には亡命という形で日本国内に入国し、難民ではなく。

 

 正規の移民として受け入れが可能である旨が文章で示されていた。

 

「あちらの政府の言い分はこうだ。海を彷徨っていた船を拿捕したら、偶然にも生存者を確認した。このまだ生きている同胞達を受け入れる事は国際社会の道義的、倫理的なロジックにも適合する通常の移民収容の業務範囲だ。分かるかね?」

 

「条件は?」

 

「鋭いな。最低限の条件は我々が船で彼らの国家が有するEEZ……排他的経済水域まで辿り着く事だ。その後は移民として入国管理手続きを経て入国させてくれると言われたよ。その為の護衛も“ついで”で付けてくれると」

 

「時間制限がありますか?」

 

「はは、君は話が分かるようで助かるね。護衛が付けられるのはロスから彼らが引き上げるまで。想定して1週間……10日以内に合流出来なければ、その後は分からんだと」

 

 男が天を仰ぐ。

 

「我々とて無力ではない。だが、どうしても君達の力が無ければ、脱出は不可能だ……その場合、我々も塀の中の人々もこの都市に死ぬまで繋がれる事になるだろう」

 

「我々が君達に対して提示出来るものは二つ。君達の同胞がいる東120km地点の現在地まで案内してやる事。そして、コイツだ」

 

「―――ファイル」

 

 少年が僅かに驚く。

 

 それはフィクシーがバージニアから受け取っていたものと同じ表紙のファイルだった。

 

「オレ達には価値が無い代物だ。どうやったってオレ達にはあいつらを倒す方法なんて無いからな。だが、君達は違うだろう?」

 

「………」

 

「こいつの中には詳しくは教えられないが、あいつらの出所らしい事に関する重要な情報が幾つか載ってる。全員の脱出が完了したら、これを君達に進呈しよう」

 

「案内は誰が?」

「オレだ」

「え?」

 

「オレは元々、戦う為に残った人間だった。だが、あいつのやり口が気に入らなかった。捕まった人達を助けたかった……だから、こうして此処にいる」

 

 少年がようやく男の本音を聞いたような気がした。

 

「本来なら君の仲間達を呼び出す方法を取ろうと思っていたが、君はこちらの言語がかなり詳細まで分かるようだし、リスニングもほぼ完璧だろう? 此処まで聞いてちゃんと理解されるとは思っていなかったからな……君を此処で開放してもいい。どうだろうか? 仲間達に伝えてくれないか。我々の現状を……」

 

「期日は?」

 

「明日。明日にまた同じ場所で答えを聞かせて欲しい。本当に時間が無いんだ」

 

 少年はコクリと頷いた。

 

「交渉成立だ。解放しよう……」

 

 男がベルに手を差し出す。

 それをベルも握り返した。

 

『……良いだろう。部隊の隊長としてその話に乗ろう』

 

 男が咄嗟に腰の銃を取り出そうとしたが、即座に無駄だと悟って、銃を地面に落して両手を上げる。

 

 その頭にはピッタリと指先で作られたクローディオの銃身が突き付けられていた。

 

「皆さん」

「ベルさん。助けに来ましたよ」

「相変わらず、拉致られ易いな」

 

 ヒューリが後ろからギュッと少年を抱き締め、クローディオが肩を竦める。

 

 そして、フィクシーが男の前に立った。

 

「お初にお目に掛かる。私はフィクシー・サンクレット。ベルの保護者だ」

 

「はは……何だもう助けに来てたのか。随分と手が早いんだな……それにしても何処から何処まで聞いてたのか教えてくれないかい?」

 

「この部屋に入ってからの会話は全てだ」

「そうか……」

 

 男が諦めたように全身の力を抜いた。

 

「ベルを拉致した事を許すつもりは無いが、事情は分かった。我々はあちらの都市で正式にバウンティーハンターとして登録している。報酬次第では話を引き受けてやらなくもない」

 

「―――この状況で君達は仕事を受けるって言うのか?」

 

「我々が所属する組織は善導騎士団……人を善きに導く為に活動する。困る民衆あらば、その話を聞き、他者を虐げる者あらば、その罪を斬る」

 

 男がそのまったく完全無欠に恥も外聞もなく真顔で言い切るフィクシーに圧倒されていた。

 

「は、はは……どうやら、本当にコミックかアニメの世界の住人なんだな。君達は……解った。では、スイートホームの代表として君達、善導騎士団のバウンティーハンターに依頼しよう。どうか、多くの人々を安全な国に逃がす為、その力を貸して欲しい」

 

「心得た。戦えぬ者を捕らえ、獄に繋ぎおく所業。為政者として適正とは判断出来ん。その依頼、引き受けよう……だが、努々忘れるな。お前達の相手もまた人間である事を……」

 

「知ってるよ。あいつらの中にだって今の体制に不満を持ってる連中はいる。でも、あの男の権威と親衛隊には逆らえない。圧倒的な戦力格差があるからな」

 

「あの男、か。この街のトップだな?」

「ああ、エヴァ・ヒューク。オレの元親友だ」

 

 宵も過ぎた頃。

 少年は外套を返して貰い。

 次なる戦いに向けての準備を始める事にした。

 

 期限は10日。

 

 脱出後、船が亡命する国の艦隊の一部と合流する為に必要な時間も勘案した場合、最低でも5日以内に船へ全員を載せなければならない。

 

 その困難なミッションを前にして四人が頷く。

 彼らの戦いはもう始まっていたのだった。


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