ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第18話「華やかな時間」

 

 四人となったハンター一行が初めての実践の後。

 

 街に戦闘音を聞きつけてやってきた敵をクローディオの射撃能力と巡行能力に任せて撃退しつつ、家々の中に残った最後のゾンビを切った張ったで倒しつつ、物資(おたから)を回収し終えたのは夜半過ぎの出来事だった。

 

 殆どの敵は先行偵察に出したゴーレムを発見次第、相手を壁やドア越しに銃撃したり、魔導で頭部を爆砕した為、無傷で突破。

 

 金庫類はバスター・グレート・ソードやら魔導による金属の融解や疲労で脆くして衝撃で破壊すれば、すぐに中身が取り出せた。

 

 大量だったのは基本的にガンセーフの類だ。

 

 南部では当時から重火器が民間にも大量に出回っており、ゾンビ対策がされていたそうなのだが、それも今や人無き今、無用の長物として放置されている。

 

 ソレを開ければ、様々な火器がザックザク。

 

 かなりダメになっているものもあったが、そこは錬金術師(初級)の出番である。

 

 弾薬すらも旧くなったものをそのまま魔力と魔導による再構成、再変質などを用いて完全に復元。

 

 拳銃、小銃、自動小銃、様々な火器類がすぐに使えるようにとテーブルには並べられ、食後はそう言った銃器から弾を抜いたり、クローディオに軽く講習したりする時間となった。

 

 だが、そんな中で一つの重火器がフィクシーの目に留まる。

 

「これは……この長い砲身、ライフルなのか?」

 

「ああ、こいつは対物ライフルだな。軍でも使ってたぞ。まぁ、あっちは弾に魔術だの魔導だの込めて一発がかなりの威力になってたが」

 

「対物ライフル?」

「家とか壁とかぶち抜いて対象を破壊する為の代物だよ」

 

 クローディオがソレを取って狭い室内で構える。

 

「オレは脚が命だから使った事は無いが、遠距離で防衛用に使うなら、一発の威力はかなりのもんだ。相手の何処に当てても吹き飛ぶ。反動は大きさからもお察しだがな」

 

「……ふむ。ベル。このライフルを最優先にしてくれ。私が使おう」

 

「フィー隊長が?」

 

「ああ、ヒューリとも話していたが、私は威力特化の戦力として運用するのが良いと思っていてな。小口径だとどうしても大剣を振り回していた方がゾンビの撃破時間も短いのだ」

 

「た、確かに……フィー隊長の剣は凄い威力ですから」

 

「先日の難敵との戦いもそうだが、特殊な個体に対しては殲滅火力が優先だと判断した。制圧火力は全てヒューリや君の投擲に任せる気だったが、彼が加わった以上は完全な威力特化が最適解だと思ってな」

 

「分かりました。魔導による重量軽減と部品単位の強化とか色々試してみますね。他は後で整備しても十分でしょうし」

 

「ああ、頼む」

 

 そうして銃器類から弾を抜いて別々に懐に仕舞い込んでいくベルを見てクローディオが何でも入りそうだなと思わず目を見張り、フィクシーが何故か得意げになり、ヒューリはベルさんですからとウンウン頷いたところで夜のお休みは終了する事となった。

 

 彼らの街の周囲には戦闘音に釣られたゾンビ達が今もゾロゾロと群れで近付いてきている。

 

 昼間から夕方に掛けては排除したが、今は車両を結界に隠して沈黙中。

 

 しかし、あまりにも多過ぎる数になっては危険という事で今夜はまた別の街か。あるいは荒野での野宿の為、車両を夜間ある程度走らせる事がもう決まっていた。

 

「ヒューリ。クローディオ殿。屋根の穴から周辺監視を頼む」

 

「はい」

 

「心得た。だが、一つ。殿は要らない。こんな状況だ。オレの事はディオとでも呼んでくれ」

 

「……分かった。ディオ。狙撃手でもある貴殿の目を借りるぞ」

 

「了解だ。我らが大隊長殿」

 

 茶目っ気たっぷりに男が敬礼する。

 

「ベル。前方の監視と運転は頼む」

「はい!!」

「では、総員持ち場に付け。行軍開始だ!!」

 

 ベルがキーを捻ってアクセルを踏み込み。

 

 ヒューリとクローディオが左右の監視に少し狭い屋根裏で背中合わせに双眼鏡を使い始める。

 

 戦闘を熟す魔術師ならば、ある程度は軍事用の術式は必須だ。

 

 暗視装置など無くてもその目に走らせた魔術は二人の目を昼間と同じように機能させ、更に狙撃手としても戦ってきたクローディオには夜目もあった為、ほぼ2km近い監視網が構築された。

 

 それから一時間。

 

 道路には大きなゴミこそ落ちているが、石のようなものは無く。

 

 ほぼ迂回せずに順調に進む事が出来ていた。

 

 夜間にゾンビから逃げる為の逃走もこの遠征では訓練として含まれていたが、更に新しい仲間の加入でスムーズに事は運んでいる。

 

 後方のテーブルのあるスペースで地図を広げ、現在位置を上の二人の報告とベルの使うカーナビからも情報を得たフィクシーはそろそろ都市に戻る為に東に近付くルートに入る事を確認し、自分達がやってきた道や途中で見ていた街を防弾ガラス越しに眺めていた。

 

「ベル。そろそろ東に延びるルートがあるはずだ。大きな幹線道路だからな。覚えているだろう?」

 

「は、はい。来た時に見ましたよね。確か……」

 

「あのルートは更に北に向かう別ルートにも繋がっている。折り返し地点だ。大きな街を通っているから分かり易いはずだ。今日は其処で泊まろう」

 

「分かりました。いつも通り、街の端に留めて不可視結界でいいですか?」

 

「ああ。クローディオは監視を続行。多少の数のゾンビは弓で仕留めておいてくれ」

 

『りょーかい。見張りは?』

 

「魔導でセキュリティーを組んでいる。周辺に複数のエリアを設置して、相手の速度と移動先を予測し、こちらを直撃するコースが出た時のみ知らせてくれる優れものだ。情報はベルの魔導が常時記録している。心配するな」

 

『便利な世の中になったな。軍にいた時も思ってたが……』

 

 そうして大規模な高層ビルなどが見え隠れする街の端。

 

 少し砂に埋もれつつある公園らしい場所の近くに車両が止められ、結界が張られる。

 

 内部に戻って来た二人を見てご苦労さんと告げたクローディオがそのまま屋根裏に戻ろうとして、ガシッと二人に肩を掴まれた。

 

「な、何かな? 大隊長殿。お嬢ちゃん」

「風呂に入れ」

 

「お風呂ならあります。お湯も張りました。あ、お湯は全て流してくれて結構ですので」

 

「ぁ、はい」

 

 2人の女性陣が言わなかった事。

 

 汗の渇いた臭いを漂わせていた男はそんなに臭いかぁ?という顔をしつつも、その迫力にしょうがなく両手を上げて降参し、二人が運転席で何やらしているベルの方に向かったのを見て、湯浴みへとシャワールームへ入っていった。

 

「ベル。どうかしたか?」

 

「い、いえ、あの遠目に見えるビル。前に通った時、破壊されていたかなと思って……」

 

「ふむ……解った。別に急ぐものでもない。予定より早く進んでいるくらいだ。その違和感の報告には私も気になる事がある。明日はそのビルに行ってみようか」

 

「ゾンビが破壊していたとしても、あんなに上まで破壊されているというのも何か不自然な気はしますし。いいと思います」

 

「あ、ありがとうございます。お二人とも」

 

 2人が報告を親身になって受け取ってくれている事を嬉しく思った少年が笑顔になる。

 

「ぁ゛~~~生き返るぅ~~~これでキンキンに冷えた麦酒(エール)でもありゃいいんだがなぁ」

 

 合流後、さすがにずっと軽装を身に纏っていたというので軽装の布地と下着などから垢と汗などの汚れをベルの魔導で分離していた為、再び着込んだクローディオが手をひらひらさせて外に涼みに行った。

 

 その手には弓と矢筒も握られていた為、傍に近寄っているゾンビを音もなく排除する気なのだろうことは想像に難く無く。

 

 あの人は本当に軍人なのだなぁとベルなどは感心していたのだが、クローディオが下着を見に付けているところから目を逸らしていた二人が何か同時に気付いた様子になり、ベルを見やる。

 

「あ、あの、何でしょうか?」

 

「ベル。あのナンパ英雄殿は毎日同じ下着を付けていたそうだ。可哀そうとは思わないか?」

 

「え、ええ、そ、そうですね。帰ったら新しい下着を買いましょう」

 

「ベルさん。あの人の下着もきっと擦り切れているでしょうし、今必要かもしれないとは思いませんか?」

 

「え、え?」

 

 ヒューリがニコニコと続ける。

 

「教会には寄付の心を忘れては行けないって話もあるんですよ」

 

「あ、あの、何の話を……」

 

「ベル。帰ったら、我々が“ちゃんとした下着”を選んでやる。此処は身を切って、あの英雄殿を救うべきではないか?」

 

「え、え、あの」

 

「ベルさん。大丈夫です。私達が“ちゃんとした下着”を後で複数着買っておきますから」

 

「部隊の備品管理は隊長の重要な仕事だ。気にするな。まずはほんの少しの勇気だ」

 

 何をされようとしているのか察した少年はハッと咄嗟に後退ろうとしたが、生憎と其処は運転席だ。

 

「ベル」

「ベルさん」

「ぼ、ぼぼぼ、僕は男ですよ!??」

 

「ええ、知ってます。ベルさんは立派な()()()ですよね」

 

「ああ、そうだとも。私の部隊の立派な()()()だ」

 

 プルプル震えてイヤイヤする少年だったが、その抵抗が実る事は無かった。

 

『ぁ~~~~~~~~ッッッ?!!』

 

 夜が明けて翌日の早朝。

 

 朝から早いクローディオが前日に下着を女性陣から押し付けられたのは何だったのだろうと思いつつ、トイレの扉を上げ……先に入って鍵を掛け忘れていた少年を見付け―――『ぁ~~~うん。人の趣味は其々だと思うぞ。うん』と扉をそっと占めた時、少年の中の重要な何かがプッツリと切れてしまった事は間違いない出来事であった。


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