ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第14話「再始動」

 

「ベルさん。ハンター用に今年までに変化した部分も含めた都市部の地図が配給されているそうです。フィーと一緒に取りに行きましょう!!」

 

「そ、そうですね。ヒューリさん」

 

 眠って、起きて、食事を済ませて、また眠って。

 

 いや……少しだけ身を寄せ合って下着姿で毛布を被って一夜明けて。

 

 朝食を取って出立した二人はさっそく病院へと向かっていた。

 

 昨日よりも何処か晴れ晴れとした少女と少し熱っぽいかもしれない少年。

 

 傍目には何かありました。

 ええ、ありましたね奥さん。

 

 と、噂されそうな初々しさが漂っているが、別段何も無かった。

 

 とにかくまずはお迎えだと病院一室までやってくれば、何やら隊長の入院中の室内から揉め事らしき声がしており、二人が突入すると。

 

 そこではナースと激戦を繰り広げたような様子でゼエゼエしているフィクシーの姿があった。

 

『やめるんにょあぁ!? それはいけないニョア!? 針ダメZetiaい』

 

 看護師は4人掛かりで注射器を持った医者が困った顔をしていた。

 

 ベルが何事かと訊ねると。

 検診用の血が欲しいとの事。

 

 しかし、異世界人だとザックリとバレる可能性があるのは医療技術がそれなりに高い事が分かっている現在はあまり好ましくない。

 

 なので、医者に宗教上、血を取るのはご法度なので、という趣旨の説明をして、また今日もう退院すると伝えると医者は絶対止めとけと断言。

 

 しかし、昨日の夜からどうやら自己治癒力を魔術でこっそり上げていたらしいフィクシーの腕はもうかなり回復してはいるようでソレをもう一度検査で見た医者は馬鹿なと言いつつも退院を許可せざるを得なくなった。

 

 こうして何とか騒動を修めて退院したのが昼も迫る時間帯。

 

「助かった。本当に感謝する……まさか、検診用に血を取られる事になるとは……」

 

「と、取り敢えず、血は取られませんでしたし、しばらくはバレたりもしないと思いますし、腕を治しましょう。あ、新しい寝台を昨日二人で買ってきたんですよ」

 

 ベルが説明書だけは持って来たのでそれを見せる。

 

「ふむ。大きいな」

 

「ぁ、はい。寝室が半分以上埋まりました。新しいのを買うのはまたお金を貯めてからでないと厳しいと思います」

 

「別に構わない。今までも三人で寝ていただろう? さて、それで聴取の方はどうなった?」

 

 ベルとヒューリがハンター達の動向を預かる部門のトップとの話を出来る限り詳細に行う。

 

「つまり、後丸々二週間近い時間が空いた、という事か?」

 

「は、はい。僕もヒューリさんも昨日は周辺地域のマッピングをしていたんですけど、どうやらハンターには都市の詳細な地図が渡されるそうで……」

 

「無駄になったと?」

 

「は、はぃ。なので今日からは外に出掛けずに出来る準備をと思ってたんですが、何かフィー隊長は考えがありますか?」

 

 三人が取り敢えずダウンタウンの方角に歩きながら訪ねる。

 

「ふむ。この腕では実質一週間は都市内部か……ならば、経済に噛んでみるか」

 

「経済?」

 

「ああ、この都市は慢性的なモノ不足だ。教会の孤児院の子供達が腹を空かせているのが良い証拠だ。だが、我々にはベル……君がいる」

 

「え、え?」

 

「魔導はあらゆる局面に対応する為に七聖女ハティア・ウェスティアリアが産み出した。あの魔術師には悪名高き聖女が、だ。その意味でなれば、生活に対して魔術は魔導の足元にも及ばない。それを身を以て教えてくれたのは外ならぬベル。君だ」

 

「そ、そんな、大そうなものじゃ……」

 

「いいや、この滅び掛けた世界でならば、魔導は完全無欠に都市に貢献する魔術体系だろう。錬金術、各種の生産物に必要な工程を君は永続的に行える。死がありふれ過ぎたこの世界でならばな」

 

「―――た、確かに魔導は永続的に殆ど発動状態を維持出来るかと思いますけど、僕だって寝ますし、ご飯も食べますよ?」

 

「その効率だけ考えても魔導はかなりのものだという話だ。実際、自立して魔術を超長期間に渡って永続させるのは術師の本懐の1つで嗜みだろう。君の魔力形質ならば、それはこの世界において自立させてすら年単位で動くのではないか?」

 

「ま、まぁ、あんまり試したわけじゃないですけど、恐らく……」

 

「それにそろそろ我々もこの世界の嗜みを習わねばならない」

 

「嗜み?」

 

「重火器類やこの世界の軍隊が使う爆弾や特殊装備を揃えるか買うか。一週間後から私の腕が復調してからの探索にも色々と使えるはずだ。今回の敵には不覚を取ったが、次同様に倒せるかどうか分からない。確度を上げたおきたい」

 

「つまり、戦力強化ですか?」

 

「ついでに活動の基盤作りだ。ヒューリ。帳簿は付けさせていたが、今の我々が拾った重火器の種類と点数は?」

 

「は、はい。確か先日に色々と拾った時のを合わせて全部で8挺。バウンティーハンター用の色々な資料は目を通したのですが、此処で手に入る火器類の種類的には拳銃、ショット・ガン、アサルト・ライフル、スナイパー・ライフル、サブマシンガンと成ってます。最初に打ち合わせていた通り、ベルさんがちゃんと全部重火器のパーツと本体は保持してます。各パーツは治せるそうですから、弾さえあれば、運用可能と思われます」

 

「よろしい。では、ベル。色々と知識を仕入れて買い物をしよう。まずは重火器の店に行く。そこでとにかく色々と聞いて知識を仕入れて来るぞ。ヒューリ。そちらはベル用に私が考えていた副業の必要なもののリストを渡す。大量になるから、仕入れたら直接マンションに運び込ませておいてくれ。発注用の文言などはベルに聞いてくれ」

 

「わ、分かりました」

 

 何やら白紙に大量の大陸標準言語の掛かれたリストが渡され、それを読み込んだヒューリがベルにあれやこれやと訊ね、事細かに取り出した白紙を束ねた小さなメモにビッシリと諸々を書き込んでいく。

 

 そうしてダウンタウンに辿り着いた頃。

 

 三人が互いに頷き合い、ヒューリが店々のある方角へと速足で向かっていく。

 

「さて、ベル。我々は重火器の販売店だ」

「は、はい」

 

 そうして二人で歩いているとやおらフィクシーが突然にベルに語り掛ける。

 

「……それでもう破ってやったのか?」

「え? 破る? あの、何の話ですか?」

「ん? 君はヒューリと恋人になったのではないのか?」

 

 ゲボオッと噴き出しそうになったベルがゴホゴホしながらも、何とか立て直し、前日の事を思い浮かべ、顔を朱くしてプルプルと首を横に振った。

 

「その割には微妙に親しそうだったが」

 

「そ、その、互いの身の上話をした、という事くらいで勘弁して下さい。実際、何もしてません。いえ、してませんよ!?」

 

「ふむ。もしもデキテいたのならば、身重にならないよう気を付けるよう言おうと思っていただけだ。地方出の男は手が早いと聞いていたのだが、どうやら君には当てはまらないようだな」

 

「そ、その……フィー隊長って、そういう知識を何処で?」

 

「ふ、魔術結社の家だ。地方と遣り取りする事は多かったからな。まぁ、今や取引先の8割が七教会に潰されたがな」

 

「ご、御愁傷様です」

 

 そうして雑談をしている間にも完全に鉄格子バリバリなガンショップに到着した。

 

 内部に入ると目を見張る程に大量の銃器が天井近くまで大量に並んでおり、どうやら今現在は弾薬のセールが行われているらしい。

 

 カートン単位で買うと1割オフとの商品がもう半数程売れていた。

 

 しかし、内部にはまだ昼も過ぎていないこともあってか。

 

 人気は無く。

 

 四十代くらいの髭もじゃにグラサンに革ジャンにビール片手のどう見てもバイカーみたいな恰好のオッサンしかいなかった。

 

『へい。らっしゃい!! 今日は弾が安いよ。ン? ヲタクら、見ない顔だなぁ』

 

 何かフレンドリーに話し掛けられた為、その太っちょなオッサンにちょっと引き気味なベルであったが、一番喋れるベルに学ばせなければならないのだからとフィクシーが前に突き出す。

 

『ぼ、ぼくちゃんはジューの事が学びたいのん!? ビッチなくらいにファックなヤツがしょもうなのん!!』

 

『ほーほーほー? お姉ちゃんの前で良いカッコしたいのか坊主?』

 

『ぼ、ぼくちゃん達はバウンテーハンチャーなのじゃよ!!』

 

 サッとハンターに支給されているライセンスが提示される。

 

『お~~~? そりゃ大そうな……つまり、坊主はハンター家業に必要な銃の知識が欲しいのか?』

 

『た、たまのツクリカタとか、ジューのし、しそーとか、タタカイカタも教えてくれたらうれしいでしゅ!!』

 

『くくく、がっはははっ!!! だよなぁ!! こんなご時世だものなぁ!! 銃規制なんぞ糞くらえだよなぁ!! 子供だって、両親が喰われてたりしたら助けたいよなぁ!! よっしゃ、いいぜ? ハンターに重火器の使い方を教えるのは都市からも依頼されてる立派な仕事だ。他の専門的な事も教えてやるよ。その珍妙な喋り方はまぁいい。本もあるだけくれてやる』

 

『あ、ありがとうなのん!?』

 

『ただし、危ないもんなんだからな? ちゃんとルールと銃を使う時の心得を忘れちゃダメだ。いいか? こいつは簡単に人の命を奪えちまうヤバい兵器なんだ。使って楽しいインスタントな花火じゃぁない? オーケー?』

 

『あ、ありがとう。ちゃんと守るのん!!』

 

 ガシッと互いの手を握り合うオッサンと少年。

 

 そうして夜になるまで色々と教えてもらった少年はその後の数日通うと約束して、フィクシーは今現在持っている重火器の弾薬を予算分で買う事にしたのだった。

 

 それから三人の諸々の準備の日々は続いた。

 ベルはガンショップ通い。

 フィクシーはガンショップで重火器の講習。

 ヒューリは必要そうなものの買い出しと運び入れ。

 

 こうして、彼らの一室は足の踏み場も無い程に物で溢れる事になった。

 

 そうして迎えた退院から5日目の夜。

 

 少年は毎夜毎夜フィクシーと共にあーでもない、こーでもないと色々と仕入れた知識とこの世界の知識の擦り合わせを行い、色々と作っていた。

 

 寝室横の使い道も無さそうだった場所は今や机が仕入れられており、その壁には業者に頼んでいた棚が並び、その中には沢山の資材が入っていた。

 

 鉄、銅、モリブデン、タングステン、他一杯の金属元素の粒紛。

 

 他にも危険物になり得る化合前の合成用の資材が山盛りである。

 

 実際、彼らがそこまでのものを揃えられる程にはハンター業で稼いでいるという事実はない。

 

 しかし、この数日、彼らのマンションから幾らかの業者に色々と品物が卸されているのは確かだった。

 

 特に食料が割安で供給され、重火器の廃パーツが仕入れられてから、それと同じものがガンショップに割安で卸されている事はまだ殆どの業者が知らない事実だろう。

 

「あ、ベルさん。そっちの作業はどうですか?」

 

「は、はい。魔導で重火器のパーツの構造は大体解析し終えました。再構築して分子組成も殆ど完全に理解しましたから、パーツ単位じゃなくて重火器単位で必要な元素さえあれば、コピー出来るところまで来てると思います」

 

 サラッととんでもない事を言った少年の顔にはゴーグルが掛けられている。

 

 そして、振り向いた少年が見たのは土弄りをした後で頬が少し土で汚れているヒューリのエプロン姿だった。

 

「そっちの育ち具合はどうですか?」

 

「あ、はい。物凄くよく育ってくれてて、数時間前に種を植えただけなのにもう実が成ってますよ。明日の朝一で業者の方が取りに来るそうなので。魔導での最後の調整だけよろしくお願いします」

 

「分かりました。フィー隊長は?」

 

「あ、はい。フィーは屋上の畑横で重火器を取り入れた戦闘訓練だそうです。私も収穫が終わったら、加わる予定ですから、終わったら見に来て下さい。あ、此処に野菜置いておきますね」

 

 ニコニコしながら、ヒューリが上機嫌に収穫したばかりのトマトを少年のテーブル横に置いてから籠に取った大量の野菜を木箱に箱詰めしに行った。

 

「……フィー隊長って凄いな。やっぱり……」

 

 少年は感心仕切だ。

 

 フィクシーが魔導を用いて行ったのは七教会が地方諸国の教化。

 

 つまり、自身の勢力圏に入るよう促す際の福祉政策などで用いるような極めて錬金術染みた魔導などを使った物資の生産術の真似であり、ベルが行っていた重火器の修復や魔導による食物の生産で資金を得るというかなりチート染みた資金獲得術だった。

 

 魔導はどのような分野にでも応用が可能な汎用式による生活の向上を手助けしてくれるツールであり、それは農業分野でも同じこと。

 

 最初の日に彼女がヒューリに業者を使って運び込ませたのは土とタネと肥料だったのだ。

 

 それをえっちらおっちら畝にしてタネを撒いて、水をやって魔導で成長促進を行えば、あら不思議。

 

 数時間で成果物が実るという魔法である。

 

 水と栄養は絶やさないように供給せねばならないのだが、それも魔術で成長速度を制御すれば、いつやればいいのかは簡単に分かるのである。

 

 自分達の好きな時間にやれるように調整し、自分達が寝ている間に実り、収穫して朝一で出荷すれば、効率よく生産する事が出来る。

 

 最初期の費用は殆ど掛からなかった。

 

 水は付近の海水を組み上げ、魔導で濾過したものをベルに運ばせて使っている為、まったく買う必要もない。

 

 ついでに純粋な混じりっけなしな塩まで業者に卸す有様だ。

 

 このような()()の横で重火器の廃パーツを買い漁り、翌日には新品のパーツが格安で出回るようになれば、これはもう完全に錬金術であろう。

 

 そして、今正にこの数日で重火器の構造や思想、材質、加工方法、銃弾の製造ノウハウまでも手に入れたなんちゃって錬金術師ベルが重火器コピー出来るよ宣言などしてしまった結果。

 

 明日からは完成品の製造番号が削られた銃が大量に都市へ出回る事になるだろう。

 

 ちなみにヒューリ印の野菜は評判がそれなりによく。

 

 マンション横の教会の孤児院では見知らぬ人からの野菜の寄付が毎日知らぬ間に行われている事で『足長な野菜オジサン』へありがとうの手紙が当人の来る時間帯に置かれる始末。

 

 ガンショップの親父もベルの熱心な学びように大喜びだし、剣しか触った事の無かったフィクシーが数日で30m先の的に拳銃もライフルも当てられるようになったのを見て、ウンウンと感慨深そうであった……そして、今日大半の準備が整った。

 

 明日から彼らはマンションに数日戻らずの遠征を計画している。

 

 それはつまり基地局の作戦前にこの数日で色々と行ってきた準備の成果が試されるという事である。

 

 教会への足長オジサン活動を続ける為、ヒューリは野菜を卸していた業者にベルが大量に使った海水から抽出した塩をt単位で持っていき。

 

 指定の期日に他の場所で作られた野菜と主食である小麦を大量に定期的に届けるよう指定。

 

 ベルはガンショップのオーナーにしばらく実戦に出て来ると明日の朝に最後のパーツと数日間試行錯誤して作っていたコピー品を完全版に再度作り直して百数十挺を纏めて納入。

 

 フィクシーはバウンティーハンターに配られる様々なデータを諸々一覧にして全員で共有したり、戦術を全員で機能させる為、戦い方の思考錯誤を繰り返し、今は前回倒した難敵に完全勝利する為、自分を研ぎ澄ませている途中。

 

 明日にはハンター用に用意されているレンタカーとやらを借りて都市の外へ再び向かう事になるだろう。

 

 ベルがコピーの最終工程を確認してから、マンションの屋上にこっそり置いてある重火器達の箱の山へと向かい、その前で魔導を展開しようと手を付く。

 

 その背後では互いに連携して見えざる難敵と実弾が入った重さの銃片手に戦うフィクシーとヒューリの姿があった。

 

 どうか上手くいきますように。

 そう祈りながら、少年は魔力を励起し、魔導方陣を展開。

 手にも握らず。

 

 直接、方陣内の物質を最適な状態へと移行させる為、魔力による場を発生させる。

 

 すると、木箱内部の数種類の重火器がフワリと箱内部で浮き上がり、所々のパーツを熱されたり、冷却されたり、中には形を僅かに変化させたり、材質の組成が直接変化したものまであった。

 

 全てを終えた後。

 

 木箱の中からアサルトライフルを取り出した少年が繁々と自分の所業を見やり、一応少し分解し、内部を確認してから元に戻し、今はこれが限界だろうと百挺以上の重火器というお宝の山に満足した様子で二人の鍛錬に加わる。

 

 前衛はフィクシー。

 中衛はヒューリ。

 後衛はベル。

 

 銃弾の弾すらも原料となる元素があれば可能という現実を以て、ベルは以後大量に仕入れた銃弾の構成元素を用いて、弾を複製し続ける供給魔となる。

 

 ヒューリとフィクシーはその銃弾をばら撒き終わった銃を捨て去り、後衛に回収されながら突破力を高めて相手を突き崩していく矛として完成する。

 

 戦いの中で摩耗した兵器は時間こそ必要だが、すぐ完品で戻ってくるのだ。

 

 更に必要に応じて重火器が供給される為、飛躍的に戦術の幅と対応出来る相手の質や量は増えていく事だろう。

 

 全員が要であり、一人欠けても成立しない戦い方だ。

 

 2人に武器を供給するのは魔導による磁力線操作による空中運搬。

 

 最初から手元に強度の高い磁石を仕込んでおき、その手元に半マニュアル操作の魔導で重火器を送るのだ。

 

 虚空で手に取れば、腕が千切れぬ限りは自身の魔術による磁石への熱量供給で磁力を失わせる事無しには外れなくなる。

 

 魔導で製造した四肢周りの手袋や靴下や伸縮する布地は依然の物よりも格段に強度を増した。

 

 他にもベルが自前で用意したいものは山程あったが、数日ではそれが限界。

 

 そして、その威力を確かめる遠征を前にして一部のハンター達に都市内部で簡単に招集する為に渡されている電子端末がポロリンと音を立てた。

 

 それを見たベルが二人を止めて笑顔になる。

 

―――整備が終わりましたのでどうぞ車両を技術部まで取りに来て下されば幸いです。

 

 こうして翌日。

 業者に諸々の代金を支払い。

 

 全ての重火器と野菜が掃けた屋上には野菜の切れ端や屑が残渣として燃え散り、土だけが残された。

 

 外套の下に集弾性の高い短機関銃を二挺持ったフィクシーとヒューリ。

 

 ベルは小型の拳銃だけを武器とし、後は現地での直接支援用に投擲して使う体力回復や人体の感覚強化用の薬剤が入った棒状の手榴弾が数十本。

 

 元々大陸中央諸国の軍隊などが用いていたものを真似た偽造品だが、少年が使うだけならば問題ない精度に仕上がっている。

 

「行くぞ」

「はい。フィー隊長!!」

「ちゃんと戦えるよう頑張りますね」

 

 三人が徒歩で向かった市役所横の指定場所には夜明けの光に照らされて、整備されたキャンピングカーが鎮座していた。

 

 しかし、その姿が前とは少し違う事に彼らが驚く。

 すると、早朝出勤なのか。

 バージニア・ウェスターの姿があった。

 

『あら、来たのね。一応、都市のお決まりから始めましょうか』

 

『オキュアリ?』

 

 こほんと咳払いした女がまるでCMに出るような爽やかな笑みで手を差し出す。

 

『ようこそ。USA最後のフロンティア。光と希望を灯す都市ロスへ』

 

『フリョンニュア……』

 

『初めまして。ええと、フィエライ? いえ、フィクシーさん』

 

 フィクシーが握手した。

 

『あにゃたがバージュニュア?』

 

『そうよ。どうやらあなた達が納品した品が普通よりも大量だったせいか。ウチの者がちょろまかしたらしくてね。これはそのお詫びよ』

 

『オワヴュ?』

 

『足回りは新品。窓とタイヤは防弾。予備も一式積んでおいたわ。装甲は窓周りと運転席周りだけよ』

 

 鈍色に輝く車両は確かに装甲板らしきものが全面と側面に張られており、特に前面はラッセル車のような鋭角の二つ折りな衝角と下に相手が潜り込まないようにとの配慮か。

 

 まるでフォークのような地面に倒れた相手を掬い上げるな複数の突起が付いていた。

 

『内部は取っ換えといたわ。倉庫に眠ってた同タイプがあったから。シャワーは完備。トイレとか水回りも新品よ』

 

 殆ど車を一つ作るに等しい工程に何故それ程の事を?

 という顔になったフィクシーにバージニアが肩を竦める。

 

『ああ、後、今時ガソリンだけじゃ帰って来れなくなるかもしれないから、ハイブリット車にしておいたの。装甲積んだけど、セラミックだから軽いし、積載量も上がってるはずよ。運転席に仕様書があるから、運転する子が読んで』

 

『ナジェ?』

 

『帰って来て欲しいからよ。優秀そうな人材には特にね』

 

『……カエリュヨ……此処、コウホー』

 

『後方、ね。もし困った事があったら、またいらっしゃいな。野菜作りの名人さん』

 

『っ』

 

 そう言い置いて彼女がキーを後ろ手に投げる。

 それをキャッチしたベルがフィクシーを見た。

 

「あれは我々の正体がかなりバレているな。とりあえず、我々を逃がしたくないのだろう。これからは大陸標準言語だけで会話しよう。聴かれているだろうしな」

 

「その、乘っていきますか?」

 

「無論だ。他人の好意を無碍にしては騎士団の名折れだからな」

 

 2人が話している間にも何やら目をキラキラさせたヒューリが新しくなった車両に浮かれた様子であちこちの角度から見ていた。

 

「頼むぞ。ベル」

「任せて下さい」

「あの子との仲も応援しておこう」

「ゴホッ?!」

 

 思わず咽た少年の肩を叩きながら、彼女は向かう。

 

『お二人とも早く来て下さい。凄い綺麗になってますよ!!』

 

 己の戦うべき理由の為に……二人の部下を護り、己の役割を果たす為に……。


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