ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第12話「ハンターのお仕事」

 

 とりあえず、少年の悲鳴と羞恥を糧に紹介状をゲットした彼らであるが、前途は多難であった。

 

 バウンティーハンターとやらの登録は公的機関で今現在は行われており、基本的にはゾンビ討伐の実績が必要だったからだ。

 

 郊外の基地局への遠征は二週間後。

 

 それまで登録して、更に実績を積んでという流れを何とか片言で説明された三人に課されたのは2週間でゾンビ討伐130体とバウンティーハンター用に都市が用意している危険な雑用。

 

 つまり、外に出ての資源回収の仕事であった。

 資源回収と言っても食糧から金属から道具からと幅広い。

 納品さえすれば、早い者勝ちで規定の報酬が払われるらしく。

 別に仕事を最初に遣り切れば、損をするという事も無い。

 である為、彼らはザックリと最短ルートを取った。

 

 簡単に言えば、都市に来るまでに貯め込んでいた物資で丁度合致するモノを資源回収の依頼を受けて即日、納品したのである。

 

 それが最初の1日目の出来事であった。

 

 目を丸くする市役所の職員達であったが、何処からか工具類だの、缶飲料だの、缶詰だの、ガソリン(超貴重)だのを出されて即刻納品されては認めないわけにもいかなかった為、その日は窓口の人員は大いに驚く事になったのである。

 

 街で噂になっていた片言で変な言葉遣いの見目麗しい子供みたいな三人組が話題にならないわけもなく。

 

 一旦、マンションに戻って翌日に朝一番で仕事を受けに来た彼らを見て、並んでいたハンター達もジロジロと無遠慮な視線を投げ掛ける。

 

『オイ。見ろよ。アレ……あいつらジョーイをやったって奴らじゃねぇか?』

 

『あんな細いのに負けたのか? ジョーイのやつ。札付きのワルもああなっちゃ形無しだな』

 

『今も腕が痛ぇよぉって泣いてるらしいぜ』

『オイオイ。ヒーローに腕でも捻られたのかアイツwwww』

 

『し、あの嬢ちゃん坊ちゃん連中……知らん言語で話してるぞ。何処の国の奴らなんだろうなぁ』

 

『に、してもよぉ……あんなホットなのにあの衣装はねぇよなぁ。マジでギークの生き残りがアニメで教育してたって話、ホントなのかもな』

 

 ヒソヒソ話で自分達の事を話している事は彼ら三人にもさすがに解っていた。

 

「な、何か物凄く噂されてますよ」

 

 ベルがちょっとヒューリの後ろに隠れつつ、あちこちを見て落ち着きなく呟く。

 

「気にするな。何処の世界も同じだろう。違うものは珍しい。それだけだ」

 

「ベルさんが気にする必要はありません。ウチだと上り性の王族には全部、野菜が並んでると思えって教えてましたよ」

 

 生まれの違いをちょっとだけ見せられつつ、少年は半笑いになった。

 

 彼は生来の図太さとは無縁で王家の家に生まれたわけでもない気弱少年にしか過ぎなかったのである。

 

 そんな微妙に分かり合えない感性を少年が実感した早朝。

 

 都市にはまだ活気が無い。

 

 しかし、潮風が周囲に吹いたかと思えば、荒涼とした破滅の瀬戸際にある国にも朝日は昇る。

 

 オープンの看板が窓口に掲げられた。

 

 日の出と共に開いたハンター達専用の窓口には掲示板が置かれ、あちこちで如何にも荒くれそうな連中が徒党を組んで受注する案件での取り分の調整に忙しく話し込み始める。

 

 そんな中で誰とも組まずにゾンビの討伐を迷わず選んで申請した彼らにまたしても注目が集まったのは当然だろう。

 

 最大級の討伐業務だったのだ。

 それも三人のみで。

 

 さすがに無謀ですよと窓口の30代な女性職員は止めたが『コレでオネガイしゅるのん!!』と譲らないフィクシーに折れて、若者を殺してしまったという悲哀を背中に書類へハンコが押された。

 

 討伐内容は都市部の東の壁から十数km先にある小規模な地域。

 

 住宅がそれなりの数存在するとの話だが、そこに大量のゾンビが確認されているとの事。

 

 三人はさっそく預けられていたキャンピングカーを引き出し、今後は駐車するなら料金を払ってねと……割高な駐車料金を提示されつつ、ベルの運転で東の壁にある門の前まで何とか市街地を進んだ。

 

 街中はもう信号など使っていないし、安全運転を心掛けた結果はトロトロとした速度しか出ない。

 

 だが、それでもまだ見切れていなかった場所を通るのは彼らにとっても新鮮で、落ちている橋を迂回して到着したのが昼頃でも誰も気にしてはいなかった。

 

 ちなみに彼ら三人にはバウンティーハンターの必須アイテムとして討伐確認用の映像レコーダーが支給されている。

 

 小型カメラとバッテリーと棒型のストレージが内蔵された代物だ。

 

 服の内部に仕込まれたソレの電源を入れて映像を録画しなければ、ハンター達の討伐はカウントされないらしい。

 

「此処か。随分と懐かしく感じるな……」

 

 フィクシーが車両の上でそう呟く。

 丸太とコンクリートの門は何処でも変わらず。

 また、先日の一件で殆どの重機が修復作業に当たっている為か。

 

 門の周囲は守備隊のみで完全武装の小銃片手なマスク姿の男達しかいなかった。

 

 ハンターの許可証を見せたベルに複雑そうな表情をした守備隊の門の開閉係は仕方なさそうに開門。

 

 そうして数日ぶりにキャンピングカーは都市から離れて動き出したのだった。

 

 車両を見送る男達の一部はポツリポツリと呟く。

 

『口減らしにならなきゃいいが……』

 

『まだ若い身空でゾンビ討伐……オレがガキの頃はゲームの中の話だったんだがなぁ……』

 

『オレらにゃ何も出来んよ。精々、ガキが逃げ帰って来たら、門を開けて、必ず招き入れてやるくらいが関の山だ』

 

『……生きて帰れよ。嬢ちゃん達……』

 

 見知らぬ者達からの声援を受けているとも知らず。

 車両は一路、仕事現場へと向かっていった。

 

 *

 

 現場に到着する少し前。

 三人は運転席付近で今後の予定を話し合っていた。

 

 内容はレコーダーにどういった戦闘内容を記録するか、という事だ。

 

「やっぱり、まだ魔力や魔術を見せるのは……マズイですよね?」

 

 ベルの言葉にフィクシーもヒューリも頷く。

 

「そうだな。我々の足場も固まっていないし、ある程度の実力を見せて信頼されていなければ、要らぬ摩擦を生むかもしれない。まずは我々は魔力で身体強化を用いた剣技を。ベルはサポート役として戦っているとアピールするのがいいはずだ」

 

「フィー。まだ、完全に腕が元通りになったわけじゃないんですから、あまり無理な事はしないで下さいね?」

 

 ヒューリが片腕を見て真剣に告げる。

 

「解っている。しばらくは利き手ではない方で振るう事としよう」

 

「そろそろ目的地みたいです」

 

 バウンティーハンターの必須アイテムとして車両に搭載しないタイプのカーナビが支給され、今現在は運転席に据え付けられている。

 

 その地図を見れば、彼らが向かう場所は一目瞭然だった。

 昼を過ぎた辺りという事で日は高い。

 

 ただ、雑草の生い茂る道端や崩れ掛けた家々や廃墟が目に見えて増えており、小規模とはいえ、住宅街がある場所は一種、異様な空間なのだな、と彼らにも再確認出来ていた。

 

「ベル。目的地から100mのところに止めてくれ。もしもの時に破壊されては困るからな。此処からは3人で行動する。我々は運悪く大型に出くわす事が多い。車両には念入りに外部から認識出来ないよう結界を張っておく。いいか?」

 

「は、はい。では、お二人ともこちらに」

「どうしたんですか? ベルさん」

 

 丁度良さそうな藪があったのでその背後に車両を止めた少年は二人をすぐ傍まで呼んでから、その両手を二人の胸元の装甲に押し当てて同時に魔導方陣を展開した。

 

「………あまり長くは持ちませんが、戦闘用というか。スポーツ用の術式を頭の片隅から引っ張り出して来たので……装甲を一部、軽くしました。効果時間は4時間程でその間は重量は殆ど感じないはずです。ただ、慣性は働きますからそこだけ年頭において貰えれば」

 

 その言葉に2人が少年も変わろうとしている事を知る。

 

 死から遠ざかる為に戦闘というものから後ろに引いていた少年はしかしそれではこれから先も生き残れないと自らの禁を破り、戦いに関連した魔導の知識を己の奥底から引っ張り出して来たのだ。

 

「感謝する」

「ベルさん。今日帰ったら背中流してあげますね」

「な、何言ってるんですか!?」

 

 思わず頬を染めた少年にヒューリが子供のするようにナデナデと頭を撫ぜる。

 

「近頃、凄い頑張ってるので。こう……何かしてあげたい気分なんです!!」

 

「い、いいですから!!? は、早く仕事に行きましょう!!」

 

 車両をそそくさと降りたベルを見た後、互い顔を見合わせた女性陣は笑みを浮かべて、そのまま車両外で結界を張った後、ベルを中央に挟む形のいつもの隊列で進み始めた。

 

 *

 

「チェァアアア!!!」

 

 利き腕を封じたフィクシーの横振りが襲い掛かって来た鈍いゾンビ達を数体両断する。

 

「フッ!!!」

 

 更にその背後から飛び出したヒューリの帯剣が残ったゾンビ達の首のみをピンポイントで切裂き、胴体とオサラバさせる。

 

 最初にゾンビの群れを発見したのは行幸だったと言えるだろう。

 住宅街の至近の開けた場所での戦闘。

 三人の目があるので何処から襲い掛かって来ても誰かが発見出来る。

 

 大雑把に群れの接触部分をフィクシーの大剣が刈り取り、それで減った敵をヒューリが一体ずつ処理していくという戦い方は魔術を全開で使わなくても十分に相手へ通用するものだった。

 

「三時と九時方向から3体ずつ!! 十二時方向から2体!! まだ来ます!!」

 

 2人に敵の位置を大雑把に教えながら、ベルは背後からの敵に気を付けつつ、カメラで二人の戦いぶりを記録していた。

 

 三人分の記録を用いるよりは1人に撮影係を任せればいいとの判断からだ。

 

 実際、小型のカメラを襟元に付けて二人の戦いぶりを撮れば、何体倒されたのかは一目瞭然。

 

 早くも三十体からなる群れを全滅させた彼らに向かってくるのは家々の影からやってくる数体ずつの小集団ばかりで問題なく対処出来ていた。

 

 傷を負うどころか。

 

 汗一つない二人の姿はまるで舞い踊っているかのようにも見える。

 

 それで数分後には外に出て来ていた見える限りの全ての敵が全滅していた。

 

 合計で50体近い。

 

 今までは死体を漁ったりはしていなかったのだが、バウンティーハンターの心得的なパンフレットを貰った為、倒したゾンビの衣服を確認していた。

 

 個人を特定出来る品を持っている場合がある為である。

 

 もし、特定出来れば、遺族がいるならば、報告出来るから可能ならば、そうするようにとの趣旨が彼らには守るべき法にも思えた。

 

 実際、ヒューリなどは可能な限りはやろうと言っていたし、ベルもそれには賛同した。

 

 殆どのバウンティーハンターはそこまでお人よしなのはあまりいないだろうと予測したフィクシーもその時は口を閉ざして同意したのである。

 

 ゾンビ達の中には若者だけではなく。

 老人も子供も混じっていた。

 

 しかし、騎士団としてそういった相手でも身を護る為に容赦はしない二人は確かに規律を叩き込まれた騎士団と言えるだろう。

 

「ヒューリ。そっちはどうだ?」

 

「はい。写真が三枚。それと財布に身分証明書みたいなものが幾つか」

 

 2人のカメラもこの時には回っているので遺留品を纏めても後で提出すれば、誰のものかは分かるだろう。

 

 ベルもまた二人と同じようにお仕事用のアイテムとして渡されたゴム手で死体を漁りながら、遺留品が無いかを確認していた。

 

 腐臭はかなりのものだが、戦闘終了後に死体に戻った人々には魔導による防臭効果が施された為、漁り終える一時間程度ならば、マスクのようなものをする必要も無かった。

 

 そうして遺品のみならず。

 

 身に着けていたジャケットやズボンなどからもスマホや貴金属類、鍵などの金属資源を回収した三人は一端、車両まで戻って、洗えるものは水で洗浄してからジッパー付きの回収用に渡された黒い革袋……もしもの時は仲間の死体を入れるものにジャラジャラと物品を入れて、再度住宅街の探索へと向かう。

 

 取り敢えず、端から攻めようという話になり、数件の家を回る事数時間。

 

 宵闇が向かってくる頃には幾つかの小銃やショットガン、その弾薬、回収依頼があった革製品や少量の缶詰。

 

 他にも家々のタンクなどに入っていた軽油や中身の入ったガソリンタンク。

 

 電子部品取り用の大型ディスプレイやパソコン。

 工具類に衣料品まで大量に仕入れる事が出来ていた。

 

「大量だな。車両に入り切らないか……ベル!! 今日は切り上げる。屋根には我々二人が載っていく」

 

「分かりました。安全運転を心掛けます」

「そうしてくれ」

 

 車両を偽装する結界を解除。

 

 そのまま元来た道を戻り始めた三人は屋根の見張りを増やしつつ、戻る事となったが、道中……陽光がプッツリと途絶えた辺りからヘッドライトを付けたベルは走行中に窓を開けて異変が無いかを耳で確認していた。

 

(これなら無事に都市まで辿り着けそうかな……汗も掻いたし、帰ったら身を清め……ぁ……ぅぅ……信仰してないけど、い、祈ろう)

 

 少年がヒューリの言っていた事を思い出して顔を朱くした時だった。

 

 僅かな違和感にベルの手がハンドルを切って急停車する。

 

「どうしたッ、ベル!!」

「ベルさん!!」

 

「い、違和感がッ、前方から何か!! 死が近付いて―――何か危ないものが!!」

 

「何だと!? !! ヒューリ!! 前方警戒!! 降りるぞ!!」

「は、はい!!」

 

 2人が咄嗟に車両の上から降りた。

 

 ベルもまた僅かに車両を後退させてから違和感があった方。

 

 死の気配が強くなった方角にライトを向ける。

 

 すると、闇の中に映し出された道路の先に何かが立っていた。

 

 それが少なくとも人間ではないというのはその大きさからして推し量れるだろう。

 

 遠間にしても普通の人間にしては大きく見えるのだ。

 

 ズシャッ、ズシャッ、と。

 ゆっくりながらも何かを引きずるような音も聞こえて来る。

 

「何だ? 奴は……ゾンビ、なのか?」

 

 そして、彼らが十数m先のソレを視認した。

 凡そ2m程の背丈。

 

 そして、鋲で留められた革製の衣服が筋肉によって破けるようにして内部から膨れ上がり、乳白色の内臓のような色をした肌。

 

 テラテラと滲む腐汁でライトの最中も光るソレは瞳に相当するのだろう部分を緑色に変色させていた。

 

 口元は乱杭歯になっており、人間とは似つかない蟲のような代物となっている。

 

 髪はなく変質した肌はぬめり気を帯びており、その指や首には筋肉に食い込むリングやネックレスが一つの生命のように埋もれている。

 

「この異様な成り……ただのゾンビではないな。ベル!! 君の知識にはああいうアンデッドの事は無いか!!」

 

「わ、分かりません!! こんなの見た事も……で、でも、普通じゃないです!! だって、あのゾンビ!! “死の量”が違うッ」

 

「死の量?」

 

「僕の瞳には死が定量化出来る仕掛けが入ってるんですッ。今までのゾンビは自分の死と殺して来た人の死が張り付いていた。でも、そうだとしても、大型化でもあんな量にはならなかった……す、数百人以上は……」

 

「殺したのか。それ程の人数を……ッ」

 

 思わずフィクシーが剣を両手で握る。

 

「ヒューリ!! 後方から魔術で援護!! ベル!! 車両から出るなよ!! 魔導で全方位を照らしてくれ!!」

 

「ほ、他のゾンビにも襲われるかもしれませんよ!!」

「解っている!! だが、強敵が見えない方がマズイ!!」

「わ、分かりました。全周を照らします!!」

 

 ベルが両手を車両の窓に付けて魔導方陣を展開。

 

 それと同時に外側のフレームが全方位にライトのように輝き始めた。

 

「素早く片付けるか。逃げる算段をしなければな」

 

「魔術方陣を展開。拘束2種、連弾2種、防御1種、属性は炎、氷、雷を……」

 

 ヒューリが地面に手を付いて車両の周囲に半径4mの方陣を展開する。

 

 それが空中にも分裂するように固定化されていき約5層。

 もしもの時の為に備えるには十分な量に違いなかった。

 

「行くぞ。先手は取らせん!!」

 

 フィクシーが魔力と魔術を全開。

 

 後方がすぐそこならば、構わないと今の今までセーブして使ってきた力を解き放った。

 

 剣が音速を超えて投げ放たれ、相手の胸部を穿つ、かに見えたが……それが斬り落としたのは左腕の肘から先だけだった。

 

「速い!?」

 

 剣を指先から出した魔力の糸で引き止め、自らの引き寄せながら、右に回避した巨体が高速で突っ込んで来るのに咄嗟、糸を横に振り回せば、剣が斬撃染みて巨体を脇から狙う。

 

 だが、相手は跳躍。

 そのままフィクシー目掛けて猛襲した。

 ガキャァアアンと半透明の方陣の一枚が罅割れる。

 

「防御方陣が一撃で割れる威力ですか?! フィー!!? 直撃は絶対に避けて下さい!!」

 

「解っている!!」

 

 手に戻った剣を両手で掴み、虚空で結界の残骸を物理的に蹴り付けて後方に下がった相手へ真正面から斬り掛かるフィクシーが、背中に翼の如く積層魔力を固定化。

 

 半透明の翼が翅を散らせるようにして、その魔力を莫大な運動エネルギーに転換―――一気に加速する。

 

 今度はさすがに避け切れなかったか。

 ゾンビが腕の爪先で受けた。

 

 ガオオオオオン。

 

 まるで金属と金属を打ち合わせたかのような衝撃が周囲に散る。

 

「鋼鉄以上の硬度だと?! アンデッドの防御力ではないぞ!?」

 

 もし、片腕が落ちていなければ、反撃を受けているところだと渋い顔をしたフィクシーが相手の腕を押して、後ろへと勢いを殺しながら下がる。

 

 同時に展開されていた方陣の1つからジャラッと鎖のような音と共に魔力の転化光で構成された鎖そのものが無数に飛び出した。

 

 未だ、斬撃の衝撃で僅か動きの鈍っていた相手が回避しようと跳び下がるより先に鎖がその全身を絡め取る。

 

「全弾斉射!!」

 

 魔力を用いて熱量、運動エネルギー、電気の三種に転換された人の拳大の光弾や炎弾、衝撃弾が数十発。

 

 次々に鎖を引き千切ろうと体を捻り、実際には方陣の一部を破損させ始めていた巨体にぶち当たる。

 

「トドメだ!!」

 

 翅を全て運動エネルギーへと転化して背後を爆発的な光で埋め尽くしたフィクシーが一太刀。

 

 大上段からの真っ向勝負に出た。

 相手の腕は鎖で拘束済み。

 

 更に連弾された弾幕で身動きは取れず、あちこちが崩れ掛けている。

 

 切っ先は腕が間に合うより先に相手の頭部と脊椎を両断した。

 

「爆破ァッ!!」

 

 既に剣へ込められていた魔術方陣7つが輝くと同時に敵断面が起爆して、猛烈な衝撃に全身が弾け飛んだ。

 

 その音は正しく巨大な爆弾が連鎖したかの如き音量であり、思わずベルが耳を塞いだ。

 

「……跡形もないか。強敵、だったな……ぅ……」

 

 僅かに片膝を付いたフィクシーが利き手を掴む。

 

「フィー!?」

「フィー隊長!!?」

 

 駆け寄って来たヒューリがその利き手に手を副えて、己の超常の力である軽度の治癒を施していく。

 

「また、無理しましたね!? 一から治療ですよ!?」

 

「フッ、怒られてしまったな。だが、休んでいる暇はないぞ。ベル!! 灯りを消して即座に移動だ!! もう数百m先に群れが何隊か見えている!!」

 

「わ、分かりました!! お二人とも早く乗って下さい!!」

「私も上でいい。そこで治療してもらおう。発進だ!!」

 

 ヒューリがフィクシーの利き手を労わりながら、跳躍して車両の屋根に乗り、そこで寝かせたまま魔術方陣を腕に展開させつつ、治癒を開始する。

 

 ベルがギアを切り替え、猛烈な速度でその場から道路の先。

 数km先のゴール。

 門へと急いだ。

 

 その日の夜、門番達は帰って来た三人組を見て安堵すると同時に先程の大規模な爆音は何だったのかと問い掛けようとしたが、騒然としている彼らの護る門目掛けて多数のゾンビが襲来。

 

 結局のところ、全て翌日に説明するようにと言われ、フィクシーはバウンティーハンター用の病院へと担ぎ込まれたのだった。


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