ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第8話「悪意と善意」

 

 ロシェンジョロシェの街に彼ら三人が洗い立ての体で出ていき感じたのは滅び掛けているにしても未だ人々には活気があるという事に尽きるだろう。

 

 本来ならば、それなりに高度な科学技術を有している文明だったのは間違いなく。

 

 機械文明だった事も間違いなく。

 

 見た事も無い建設重機が壁の建造や延伸にでも行くのか車両に乗せられて行き過ぎたり、通信端末を用いて連絡を取り合う姿が少ないながらも見受けられた。

 

 それよりも驚いたのはそういった文明的な側面を持ちながらも主流の物流手段が馬車である事か。

 

 四頭立ての幌馬車や個人の宅配らしい馬に乗った行商人が数多く。

 

 文明が崩壊するようなパニックがあったと思われるのに逞しく人々は旧い時代の力も寄り合わせて都市機能を維持していたのである。

 

 崩れている建造物は多かったが、その大部分にはシートが張られたり、補強されたり、中には簡易の屋根を付けてテラス席のように設えるところまであり、大人達の大半が革製のジャケットや手袋を嵌めていた。

 

 全てがゾンビへの対抗策だと分かったが、街中でもそうだとすれば……完全にはゾンビの侵入を食い止め切れていないのかもしれず。

 

 道路のあちこちに馬糞回収用の箱と思われる代物とそれを消臭する為なのだろう白い粉が撒かれている。

 

 更に露店や商店が簡易に造られている姿は混沌としていながらも秩序だった動きを見せており、営業時間らしき看板やら区画への誘導するような標識、街のあちこちで業者毎に使うらしき掲示板のようなものも多数設置されていた。

 

 掲示板には様々な薄汚れた再生紙が張られており、後ろには雨が降った時用なのだろうすぐに展開出来そうなテントまで見える。

 

 人集りが出来ていたが、三人が少し後方から見ているとジロジロとした視線があちこちから飛んでいた。

 

「ベル。人混みの会話なども収集して使えるか?」

 

「は、はい。可能です。ただ、翻訳が偏る可能性があるので色々な人達の話す場所を回った方がいいかと」

 

「分かった……それにしてもここら辺は食料を売っているのか……子供達への配給は少ないようだが、此処の品揃えは多いように見える。経済的な仕組みが配給よりは売買の方に偏っているのかもしれんな」

 

「その……お金の事が分からない私が言うのも業腹かもしれませんが……こういう時こそ皆で助け合うべきなのでは……」

 

 少しだけ複雑にヒューリが露店を見回す。

 確かに品揃えは豊富に見えた。

 

 缶詰やパック詰めされた調理済み加工食品が主なようだったが、生鮮食品も多少は置かれており、明らかに加工食品よりも高く取引されているようだ。

 

「それで社会が上手く回ればな。まずは働ける大人優先なのは非常時ならば、理解の範疇だろう。地方諸国の争乱でもよく子供達が犠牲になっていたと聞く。七教会が勃興する数十年前も大災害後の今も混乱や争乱で最初に犠牲となるのは子供だ」

 

 ただ事実としてそう告げたフィクシーが大剣をそのままに歩き出す。

 

 三人を遠巻きにする人々の多くはその剣を下げている女傑に目を奪われ、他は普通そうな二人を然して見ていなかった。

 

「魔術が無い世界で銃が発達しているようだし、私のような大剣使いは珍しいのだろうな」

 

「フィーはその……ガリオスでも珍しい方だと思いますよ?」

 

 ヒューリが騎士団や他の場所でも国内でフィクシー以上の大きな剣を以て公務に励んでいる人間は見た事が無かったと暗に呟く。

 

 事実、大陸中央では剣が時代遅れとなりつつあり、一般の警察権力を持つ組織の多くが訓練すれば一般人にも簡単に扱える銃器を支給して使用している。

 

「あ、でも、七教会の騎士の人達は大きい剣を持ってましたよ」

 

 ベルが微妙な助け船を出す。

 

「いえ、七教会の騎師(きし)の方々なんかは別格で、武装は遠近に使える特別製の銃剣が支給されているんです。普通の長剣に見えますが、殆ど破壊不能の構造材質で我々が使うような一般的な代物とはまったくの別物だったりするんですよ」

 

 ヒューリが信者といよりはマニアというべきだろう知識を披露してニコニコする。

 

「あ、そ、そうなんですか?」

 

「はい!! 特に近年は大災害のせいで出動し続ける騎師の方々には高格外套(ソーマ・パクシルム・ベルーター)の着用が義務付けられましたから。一個人で一地方都市を制圧し続けられる対魔王汎用兵装……高位魔族とすら渡り合えるアレがあればこそ、大陸は何とか持っていると言っても過言では―――」

 

「ヒューリ」

 

 フィクシーが仕方なさそうに苦笑顔で諫めた。

 

「ぁ、す、すす、すみません。つい……」

 

 ヲタク話全開だった己を恥じて、シュンと元お姫様が小さくなる。

 

「とにかく、我々にはそんな装備も無ければ、彼ら程に強い超越者としての力も無い。()()()()とて聖女様方を最上位として見れば、我々一般は最底辺だろう。だからこそ、工夫と機転でどうにかせねば」

 

「そ、そうですよね!!」

 

 ヒューリが己は騎士であるとの自覚の下、拳を握って戦いますよとアピールする。

 

「そう言えば、ベル。君も術師である以上は超常の力を持っているだろうが、どういうものなのか教えてもらってなかったな」

 

「あ、その……」

 

 大陸において多くの知的生命には数%程の人口に魔術とはまた違った法則によって発動する様々な現象を引き起こせる力がある。

 

 魔術師などはそういった超越的な力を術に応用して力を高めるのが魔術の勃興期からの主流であり、大陸に住まう人類の術師は多かれ少なかれ、己の血統に溶け込んだ力に自覚があるものだ。

 

 弱いものならば、隠したりする事もあるが、強いものならば、戦闘から生活から一部の限定的な状況では絶大な力を発揮する。

 

 故に大魔術師の称号を持つフィクシーもまたソレは持っており、それを同業者に訊ねるのは魔術師同士の世間話に過ぎない。

 

「ちなみに私は敵と認識した相手との距離がどんな状況でも分かる。効果範囲は精々が100m圏内で遠距離から攻撃してくる相手には無力かもしれんが」

 

「わ、私はちょっとだけ魔力無しで他の人を治癒出来ます。い、一応、家族にも喜ばれてました。世が世なら聖女様だとか持て囃されてたんですけど、七聖女様達を見てたら、自分が如何に小っぽけか分かってしまって」

 

 自分の力自慢というよりは話のネタにバラしたヒューリが『ベルさんは?』という何の悪気も無い顔で訊ねて来る。

 

「ぼ、僕はその……」

 

 答えに窮した少年がその口を開こうとした時だった。

 

『オイ。ねーちゃん!! てめぇらが南部から来たって言うギーク崩れか?』

 

「ぬ?」

 

 ヒューリとベルを背後にフィクシーがその声のした方を振り向く。

 

 すると、今までこちらを見ていた人々の多くが更に三人を遠巻きにし始めた。

 

 通りの先から大声で声を掛けて来たのは革ジャンにタンクトップとジーパン。

 

 そして、指にゴテゴテとリングを付け、鼻や耳や口にピアス。

 

 首にジャラジャラとネックレスを掛けたパンクルックの男であった。

 

 その背後にはニット帽を被ったパーカー姿の男や同じような姿の男達が総勢で十人程おり、如何にも『オレ達は荒くれです!!』と主張している。

 

「こういう手合いは何処の世界の何処の国でも一律なのか? 同じようなのはガリオスにもいるが……ふむ、反七教会の闘士程でも無いか。気迫が足りんな」

 

 冷静に相手を評価したフィクシーの言葉が分からず。

 

 背が190はあるだろうリーダーの男が目を細めてフィクシーの前に立つ。

 

『言葉が不自由ってのは本当らしいな。南部はなぁ、まだお宝が眠ってるメッカなんだよ。悪りぃが、他の連中に取られる前に情報が必要でな。何なら寝台の上でオレが言葉を教えてやってもいいぜ。ねーちゃん。がはははは』

 

 言語が分からなくても自分が侮辱されているかどうかくらいは相手の表情を見れば、分かるのが人間だ。

 

 それも分かり易いくらいに荒くれが下卑た笑みを浮かべていれば、それこそ何を言われたのかは一目瞭然であった。

 

 ヒューリが大の男を前にして震えるベルを背後に庇う。

 

『おうおう。カワイイねぇ。弟を庇う姉妹なんてまったくオレ達が悪人みたいじゃねぇか。オレは単に仕事の話を持ち掛けてるだけだぜ? なぁ?』

 

 周囲を威圧した男の瞳に他の多くの者達が視線を逸らした。

 

 中にはさすがに自警団などに連絡する者もあったが、男達が行動を起こす方が早いのは自明だ。

 

『ポリ公が来る前に終わらせてもらうぜ』

 

 男がフィクシーに指を伸ばす。

 

『くくく、怖くて逃げられもしねぇか。オイ、お前ら!! とっととズラからるぞ!!』

 

『おう!!』

 

 男達が荒くれの割りには統率が取れた様子で一斉三人を取り囲む。

 

「ヒューリ。お前はベルを護れ。ちょっとこいつらにお仕置きしてやる」

 

「い、いいのですか? フィー」

 

「構わん。この調子なら、現地民にも疎まれているだろう。少し恐怖を与えてやろう。この者達が現地の人間に与えて来ただろう何十分の一かの代物を……」

 

 ヒューリが顔を青褪めさせた。

 フィクシーは騎士団内でも有名人だ。

 そして、そんな有名人には逸話が付き物だ。

 

 彼女が楽しそうに会話をする姿など前のヒューリには想像が付かなかったが、今なら大魔術師と呼ばれる存在だとて、怒りもすれば、機嫌を損ねる事もあるのだと分かる。

 

『付いて来いよ』

 

 襟首が掴まれそうになった瞬間。

 フィクシーの指が男の手首を掴んだ。

 

 あの大剣を高速で振り回してもすっぽ抜けない程の握力がある指が、である。

 

『ぎ、ぎぃあおあおおおあおあ!!?』

 

 その絶叫に今まで囲んでいた男達の方が驚く。

 

『ど、どうしたんだ!? ジョーイ!?』

『く、ジョーイに何しやがる!!?』

 

 自分より背丈の大きな相手の腕にミチミチと指を食い込ませながら、フィクシーが周囲の男達に眼光を向ける。

 

 そのあまりにも冷たく虫けらとすら思っていなさそうな酷薄な色に男達の背筋が凍った。

 

 如何に荒くれと言えど、死線を超えて戦う騎士の殺気といつでも縊り殺せる故に絶対者だけが持つ傲慢な生殺与奪権たる瞳の色には震え上がる以外に無かった。

 

『ぎぃぃああ゛あ゛あああ゛ぁああぁああ!!!?』

 

 更に絶叫が高まる。

 普通に腕を掴んだだけではそうはなるまい。

 恐らくは魔術を仕込んだ指で神経に干渉しているのだ。

 

 そして、片腕でペイッとジョーイと仲間に呼ばれていたピアスのリーダーが2m程吹っ飛んで地面に転がる。

 

 腕はまだ繋がっているようだが、その顔は白目を剥いており、ビクビクとエビのように全身を震わせ、口から泡を吹いていた。

 

『こ、こいつぃ!? 余所者の癖に!? や、やっちまえ!!』

 

 チンピラの常套句みたいな言葉を吐いた男達が腰からバタフライナイフやらサバイバルナイフやら拳銃を取り出そうとしたが、その腕も途中で止まる。

 

 ジャリュンッという鞘と刃が擦れる音。

 

 今の今まで単なるお飾りのこけおどしだと思っていた巨大な大剣が、片腕でゆっくりと背後から引き抜かれ始め、腕が頭の頂点部分に差し掛かった辺りでフィクシーが男達を見つめていたからだ。

 

 やるか?

 やるのか?

 構わないが、抜いたのはそちらが先だぞ?

 

 という無言の圧力を前に脚を震わせた男達が最終的にはピュルルルという甲高い笛の音で我に返って、リーダーを担いで逃げ出していった。

 

 フィクシーがすぐに剣を鞘に戻す。

 

「さて、面倒事となる前に消えよう」

 

 フィクシーが後ろであまりの事に固まっていたヒューリとベルに合図して、そこらの路地裏へと速足に向かう。

 

 それに付いていく二人は心底に思った。

 この人を怒らせるのは絶対に止めよう、と。

 

 *

 

 さっそく揉め事を起してしまった三人であったが、だからと言って今現在の情報を収集するという目的を忘れたわけでもなく。

 

 場所を移して最初からまた始める事とした。

 今度、訊ねたのは湊だ。

 

 湊周囲には海辺に真新しい壁らしきものが複数枚設置されており、まるでミルフィーユのように折り重ねられていた。

 

 壁と言っても津波を防ぐような代物ではない。

 

 精々が1m50cm程度の代物で明らかに人間サイズの物体が移動し難いように海側に配置されている。

 

 恐らくはゾンビが海側から浅瀬を通って辿り着いた事があったりした為だろうと見当は付いたが、それにしても船は殆ど見えなかった。

 

 見える者は大抵が大きなタンカークラスのものばかりで埠頭は人気があまり無く。

 

 数人の水夫らしき人々がタンカー近くにある店舗先のテントが張られた下で何やら飲み物を頼むやら食事をするやらと長閑な光景が広がっている。

 

「やはり、海の生物もゾンビになっているのかもしれん」

 

「散策してみましょう。声を掛けたりしなくても近くを通り過ぎれば、収集は出来るので」

 

 ベルの言葉にフィクシーが頷いて三人で歩き出す。

 

 最初こそかなり奇異の目で見られていたが、海の男達は数も少なく。

 

 先程の通りのようなあからさまな視線を投げる者は殆どいなかった。

 

 海沿いには壁が広がっているが、それでも潮風は穏やかで心地良いものには違いなく。

 

 廃墟が多い事も手伝って休む場所には事欠かなかった。

 しばらく歩いた後。

 

 水夫達から少し離れた廃墟の階段に腰掛けた三人が今まで飲んで来た中でまともだった飲料の缶をベルの外套の裏から引っ張り出し、ベル本人は気を利かせて水夫達には見えぬよう魔導で適温まで缶を冷やした。

 

 一時のティーブレイク。

 

 カシュンと開けた缶内部から広がった芳香に乾杯した三人がその甘目の飲料を飲みながら、休んでいると。

 

 水夫達の一人が彼らの傍にやってくる。

 

 先程までの事もあるので僅かに身構えた三人であったが、その白人らしい水夫は日に焼けた顔で気の良い笑みを浮かべた。

 

『やぁ、サヴァイヴァードウシしょくん。こんなゴジセイだ。生憎とヒモノしかないんだが、イッショにかじってイカナイカ』

 

 ゆっくりとだが、先程の荒くれ達とは違って、しっかりとした発音だった為、ベルにもそれが善意のお誘いだと分かった。

 

 フィクシーに顔を向ければ、彼女も雰囲気から何を言われたのかは分かったらしく頷いた為、ベルが答える。

 

『ありがとうなのん!! ぼくちゃんは感動でムネがファックしちゃうのん!! 心からそのおさしょいをうけるんじゃよ!!』

 

 一瞬、変な顔をしていた水夫だが、このご時世に真面目に子供を教育する親の少なさに内心でこいつの親を殴りてぇという感想を抱きつつ、気の良い笑みでこっちこっちと手で招きながら戻っていく。

 

 そして、三人がペコリと礼儀正しくお辞儀してテントの下に入って来ると気の良い笑みで手など振ったりする。

 

 そうして三人の前にはどうやら炙ったばかりらしい湯気を上げる干物が出て来た。

 

「ひぅ!?」

 

 しかし、ヒューリが顔を引き攣らせ、思わず声を押し殺し、ベルもさすがに脂汗を浮かべる。

 

 その光景に同じ干物を齧る男達がしょうがないと肩を竦めた。

 

 何故ならば、その姿は……彼らが川で遭遇した人食いアンデッド魚に似ていたのである。

 

 乱杭歯は取り除かれているようだが、その歪な頭部の原型は残っている。

 

『あぁ、初めてカイ? 大丈夫、セイフコウニンで危ない菌やウイルスはミツカッテないよ。一時的にあのバイオハザードでヘンイした後に元にモドラナクなっただけだってハナシだ』

 

『こここ、これ、タベラレるのかにゃ?』

『気味悪がってタベナイ人はオオイけどね』

 

 思わず震えつつ訊ねたベルに男達がナイスガイな白い歯を煌かせ、ガッチリと自分達の歯で魚を噛み切り、モグモグゴックンと嚥下してみせる。

 

 それにゴクリとどちらの意味でも唾を呑み込んだベルがカプリと同じように齧り付いた……後、首を傾げ、横の二人に告げる。

 

「普通に美味しいです」

「美味しいのか……」

「だ、大丈夫ですか? 本当に?」

 

「は、はい。見えないように魔導で成分の分析もしましたけど、毒も菌もウィルスの類も発見出来ず。蛋白質の組成も普通の白身魚みたいです」

 

「ならば、頂こう」

「わ、私も……」

 

 こうして三人が魚を齧り、イケる。

 

 いや、美味いと笑顔になったのを見て、若年層の健康を気遣うくらいには善良な男達はウンウンと栄養補給する若者(異世界産)を温かい瞳で見るのだった。

 

 そのお礼にとフィクシーがベルに途中で見付けた缶詰を人数分だけ出させ、水夫達に差し出すと。

 

 水夫達はどうやらこんな子供が気を遣うなと嬉し涙半分、その缶詰を半分だけ貰って、後は一緒に食べようと開け出した。

 

 それから片言ながらも変な言葉遣いの弟とそれを気遣うアニメ被れらしい姉達と水夫の宴は続き。

 

 昼過ぎには食事も終わる事となった。

 

 三人は礼を言って立ち上がろうとしたのだが、水夫達の一部はその手に幾らかの干物……決して安価ではないはずのソレと小さなパンフレットらしき紙束を三人に渡してから、恐縮しながら手を振って歩いていく背中を見送った。

 

『良かったんですか? アレ、この場所の子供達への分もありましたよ?』

 

『何、オレ達が少し我慢すりゃいい話だ。久しぶりに魚じゃない缶詰だしな』

 

『はは、違ぇねぇ。ですが、あのパンフレット……無駄になるかもしれませんよ?』

 

『別にいいさ。最安全国への移民が必ずしも幸せとは限らんだろ。それに審査も厳しい……姉弟で合格しなきゃあの子達は残るだろうよ』

 

『ですかねぇ。それにしてもあんな時代錯誤な鎧着てなきゃ舐められるなんて……此処の国もかなりマズイですね……』

 

『我々の仕事は政治じゃない。必要な物資を必要な人々に届けるだけだ』

 

『今年だけでもう2つの安全国の都市が壊滅しました……移民制限も厳しくなる一方……正に世紀末ですね……15年前のあの日より前には思いもしなかった……』

 

『仕事をしよう。それが生き残った海の者として我々が出来る最後の事だ』

 

『はい……』

 

 海の男達は巨大なタンカーを見上げる。

 それだけが今は各航路を繋ぐ海の移動手段だ。

 

 狂暴化した海洋生物達から身を護りながら、漁もして、食料も造ってというのはもはや常人には不可能な程の難事となっている。

 

 小さな背中達が次世代として巣立ちつつあることを彼らは膨大な負債を拵えた世代として悪く思いつつも、今出来る事をする為、タンカーへと歩き出すのだった。


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