ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第5話「突撃!! 隣の異世界人」

 

 次の日の朝。

 三人が討論の結果として決めたのは北西への進出であった。

 理由は3つ。

 

 人がいる、もしくはいた場所ならば、情報が更に手に入る可能性が高い。

 

 また、大型の幹線道路でならば、一直線で向かう事が出来た事も大きい。

 

 そして、何よりも自分達以外のあの事件での生存者がこの世界に辿り着いていたとしたら、まずは生存の為に物資が多数残っていると推測される都市圏を目指すはずだ、というのが彼らの一致した推測であった。

 

 幸いにして車両の速度はそれなりに出る為、道が寸断されていない限り、途中で妨害さえなければ、一日で付く計算だった事もある。

 

 液体燃料(ガソリン)はまだ十分に残っており、南部まで再び往復する事も可能だったこともあった。

 

 こうして彼らは北西部への道を進む事としたのである。

 

 運転はベルに教えられた為、三人が何とか走らせる程度は出来るようになった。

 

 複雑なテクニックが必要とされなければ、誰でも運転出来る。

 

 そうであるなら、途中で休憩を挟む必要もなく。

 

 運転手を後退して進み続ける事が可能な為、決して分の悪い賭けでは無かった。

 

 大都市圏は海沿いの都市。

 

 運転しながら前夜から続けて解析した結果として幾らか言語を照らし合わせる表が出来た為、それを読み込み、発音を覚えながらの移動となった。

 

 一人は見張り、一人は運転、一人は勉強という事である。

 

 見張りは何か途中で寄れそうな店や民家があれば、周囲のアンデッド。

 

 ゾンビの数と照合して、その周囲にどれだけの数がいれば、諦めるかを決めておく。

 

 また、途中で液体燃料のある街にあったのと同じタイプの施設があれば、そこを重点的に探索する事も決められた。

 

 結果として昼間までに15体程のゾンビを駆逐し、民家とスタンドに其々1件ずつ入る事になった。

 

 民家の方は車両の保全の為に一人戦力となる人間を残しておき、もう一人とベルが共にタッグを組んで探索する方式が取られた。

 

 最初の民家に突入したのはベルとフィクシー。

 

 内部には運悪く数人の屍が屯しており、走ってこそいなかったが、不意打ち気味に進路に立ちはだかった。

 

 しかし、魔術による光刃を用いて相手を両断しながら進む事数分で内部を制圧し、前夜に手に入れていたものとは違って、大都市圏の方を映し出した地図を発見。

 

 更に二階の奥で干乾びていた住人の為に軽く祈ってから、銃器が入っていると思われる中型の金庫をソードで破壊し、内部にある酒瓶と弾薬を数箱……残念ながら、手に入れていたショット・ガンや拳銃には合わないものを手に入れた。

 

 スタンドでもフィクシーと共にベルは探索を行ったが、今度の場所ではタンクが空だった為、残った建物内で飲料水の缶を販売している機械を破壊。

 

 内部から十数本を確保。

 

 こうして昼時になる頃にはそれなりに貯め込んだ食料の缶詰とその世界の飲料で食事となった。

 

 休憩所としたのは内部が完全に破壊され尽した前夜に泊まったのと同じタイプの店舗前だ。

 

 結界を敷いてから、三人で最初に行ったのはまず今まで所構わず手に入れて来た物品の本格的な選別と仕訳であった。

 

 一応、缶詰などの中身は食べた事があれば、それが何であるかは何となく分かっていた為、翻訳された語彙と中身の一致を行った。

 

 結果として、同タイプの缶詰や飲料の中身を把握する為、彼らはまだ知らぬ語彙の未知の味を求めて初めての試食へと挑む事となっていた。

 

 左右の座席をフィクシーとヒューリに固められたベルが三本の枝を握り込んで前に突き出す。

 

「これだ!!」

「こっちです!!」

 

 2人が引いた枝で敗者と勝者が分かれた。

 

 フィクシーの方には色が付いており、優先的に3つずつの缶詰と缶飲料の中から好きなものを選ぶ事が出来る。

 

 勝者の特権とばかりに一番大人しいラベリングや字体だろうものを選んだフィクシーはいつもの真面目そうな顔ではあったが、何処か嬉しそうな雰囲気。

 

 そして、残ったものを枝を二本にして再びどちらが先に選ぶかの勝負となった。

 

「ま、負けませんよ。ベルさん」

「ぅ、変なのに当たりませんように……」

 

 当たり引いたのはヒューリだった。

 

「勝ちました!! 私はこのあからさまに果実の絵が描いてある安全な飲料と豚の絵が描いてある缶詰です!!」

 

 残された缶詰には文字だけが書かれている。

 そして、飲料は妙に毒々しい色合いのペイントが施されていた。

 

「では、神にお祈りを捧げてから食事にしましょう」

 

 信者らしいヒューリを横目に2人も一応は待つことにする。

 

 そして、缶詰の蓋が開けられた。

 

 すると途端に車両内部に美味しそうな匂いなどが立ち込める。

 

「ああ、これは豆だったか」

 

 フィクシーが家屋から拝借してきて洗ったスプーンで缶詰の内部のコロコロした緑色のものを突く。

 

「こっちはお肉です。ふふ……」

「あ、この缶詰は……魚、かな?」

 

 スプーンで一口食べた三人が三者三様に味は悪くないという顔をする。

 

「ヒューリ」

「……そうですね」

「?」

 

 フィクシーの言葉にヒューリが頷いた。

 何が何やら分からないベルが首を傾げる。

 

「我々は良いのか悪いのか。三人だ……だから、こういう事も出来る。だろう?」

 

 フィクシーがスプーンで豆をそっと三等分にして他の缶詰の中に入れた。

 

 それを見て、ヒューリも同じようにする。

 

 それにああと分かった様子になり、ベルもまた同じように魚を分けた。

 

「三人である事。これは我々の利点だ。だから、それを最大限に生かして生き抜かねばならない。そして、こうして三人だからこそ分かち合う事も出来る。騎士団全員が来ていたら、大変な事になっていたな」

 

 肩を竦めて冗談を言う隊長に部下というには仲間と感じている二人が笑いながら同意した。

 

「では、頂こう。ちなみに飲料はダメだ。口を付けるものだからな。衛生的な観点からもお勧め出来ん。何があっても自分で飲み切るように」

 

「は、はい」

「分かりました。フィー」

 

 カシュンとプルタブを開けた三人が一口その飲料を口に含む。

 

「……(アルコール)だな。苦く微妙に甘いが冷えている方がいいな、恐らく……この温度だと微妙だ」

 

「あ、こっちは果汁《ジュース》でした。これは……美味しいですよ♪」

 

「ぼ、僕のは……ぅ……」

「どうした?」

 

 ベルが口元を抑えたのを見て、僅か真剣にフィクシーが顔を覗き込む。

 

「こ、これ何て言っていいか……凄い味としか表現出来ません。甘いですけど、この甘さと味は……後で一気飲みします」

 

 ドクペだった。

 

「外れか」

「ベルさん。後でお水でお口を(すす)ぎますか?」

「い、いえ、大丈夫ですから」

 

 そんなこんなで明暗が分かれた昼時。

 

 缶詰や飲料缶に書かれていた語句を白紙に描いて車両内部にメモのようにして貼り付け、再びの移動となった。

 

 幸運だったのかどうか。

 

 道路には時折、ゾンビが屯している事もあったが、多くは車両に気付いて動き出す頃には全てが置き去りとなっており、その後の数時間の間。

 

 主だって壁となる敵もなく。

 道路も寸断されているような事は無かった。

 

 途中でそれなりに大きな街の中や近くを通る時もあったが、やはり街中だとゾンビが多く。

 

 車両を護りながら探索するのでは時間が掛かってしまう上、大きければ大きいほどに数の多いゾンビの制圧にも時間が掛かる為、最低限のガソリンスタンドでの燃料の吸い出しのみに焦点が絞られ、それ以外はそのまま放置で先へ進む事となった。

 

 そうして夕暮れ時。

 

 山間部の合間を通る道を抜けた彼らが丘の上から見たのは海辺に広がる大都市圏。

 

 川を隔てて掛かった橋が崩れていたり、巨大な高層建築が半ばから崩れていたり、焼野原になった住宅街や港も丘の上からは視認出来た。

 

 だが、何よりも驚いたのはその最中を彼らと同じように車両が行き交う姿が僅かながらも確認され、破壊された家屋のあちこちに何か黒光りするパネルようなものが設置されている事か。

 

 人がいる。

 

 それを示すかのように都市圏の出入り口付近には木製らしい丸太の壁が建てられており、建築途中なのか。

 

 コンクリートの壁があちこちで中の鉄筋を晒して、その周囲には複数の工事関係者用と思われる簡易の建造物が建っていた。

 

「人がいるッ。人がいるぞッ。まだ、滅んでいなかったのだなッ」

 

 少しだけ感極まった様子でフィクシーが車両の屋根の上。

 

 僅かな出っ張りに脚を掛けて拳を握る。

 

「この世界の人々でしょうか。もし僕らと同じ世界の人々がいたとしたら、情報が集まってるかもしれませんね」

 

「ベルさん。私達の決断は間違っていなかったですよね」

 

「はい!! お二人のおかげで何とか生存の目途は立ちました!! 此処からは他の人達の探索も!!」

 

 三人が喜び勇んで車両に乗ったまま検問所らしき場所に進んでいく。

 

 扉だけは鋼鉄製の其処で上から声が掛かった。

 

『止まれ!! お前らは何処の者だ!!』

 

 まだ詳しくは分からない現地語。

 

 しかし、もしもの時の為に率先して色々と必要だろう言語を翻訳していたベルが車両から降りて、小銃で武装したと思われる相手に向けて両手を上げて、叫ぶ。

 

「タスケテ!! ぼくちゃんはビッチなにゃんこを二人ツレタ、アワレなサーカスなの!!」

 

『はぁ?! 隊長!! こいつら外人ですかね? どうしますか?』

 

 上から声を掛けて来た男が驚いて素っ頓狂な声を上げた後、壁の後ろにいる上司に意見を求める。

 

『言語が不自由なのだろう。あれからもう十五年……監視カメラの映像から見える歳からいって満足な教育も受けられていない生存者の身内がいてもおかしくはなかろうよ』

 

『それに奇妙な恰好してますよ。いや、甲冑みたいにも見えるな……どっかのアニメかよ。何処のグループだ? 北からの南下組は今年で数件ありましたが……』

 

「タスケテ!! ぼくちゃんは生ごみ以下の生命体だけど、二人はチョウ使えるベリーベリーフ○ックなぶっトンダ、モノスゴイ良いモノを持ったフタリなの!!」

 

 続けて叫ぶ子供の必死な声にさすがに応対していた男も何やらゲッソリした顔になった。

 

『こいつらの親、殴りてぇ……』

 

 その何とも言えない全うな怒りの矛先は無いだろうと後ろにいた人物が大きな溜息を吐く。

 

『我慢しろ。まずは連行して規定通り、牢屋で数日過ごして貰おう。その間に聴取して、あの車両の中身も検分だ。武装は解除させるな。抵抗されても面倒だからな。見たところ……んぅ……まぁ、本当にアニメのファンサブな連中が残っていたのかもしれんな。あんなバカデカい剣背負って……糞、ジャップのアニメ汚染はやはりこんな時代だと深刻だな……』

 

『連中、英国と一緒に勝ち組ですからね……今も難民は受け入れない癖に放送の受信だけは自由だって垂れ流してやがるし……』

 

『とにかくだ。あの勘違いした教育と脳の足りん子供を助けてやれ。米国陸軍は決して自国民を見捨てない』

 

『アイサー』

 

 そんな遣り取りがあったとは思わず。

 壁の上から声が掛かる。

 

『オマエら、ウケイレ~~~夜過ごすバショアンナイスルが~~~だ!!』

 

「つ、通じましたよ!! フィー隊長!! ヒューリさん!!」

 

「初めての異世界人とのファーストコンタクトだ。ベル……お前の通訳に全てが掛かっている!! 相手の機嫌を損ねぬよう通訳は正確に頼むぞ!!」

 

「あ、はい!!」

 

「後、しばらくは魔術の事は教えるな。未知の技術だ。こちらも出し惜しみしなければならん」

 

「分かりました。それにしてもこの本、凄い正確な翻訳になってるのかな。ちゃんと僕達みたいな異邦人にも分かり易いって書いてあるし」

 

 ベルが取り出したのはアメリカのスラングを集めたというハウトゥー本だった。

 

 題名は『異世界人でも分かるアメリカンジョーク&スラング集【大人向け】』というものであった。

 

「ベル。受け入れに対する感謝の意を伝えてくれ」

「分かりました」

 

 ベルが真摯な顔で扉が開いていくのも構わず叫ぶ。

 

『ぼくちん達みたいなゴミクズを助けてくれる偉大なる固くて長い人々に栄光在れ!! にゃんこ二人とイッショにあなた達にゴホウシします!!!』

 

 その目をキラキラさせた見目がそれなりによろしいショタ(異世界産)の宣言に内部で待っていた数人の完全武装の男達が滅茶苦茶顔を引き攣らせていた。

 

 倫理コード違反。

 性犯罪は追放処分だ。

 

 ついでに恐ろしくアメリカは今現在人口減少しているが、そうだとしてもやっぱり産めよ増やせよな政策なんてされていない。

 

 ついでにフェミニストと女性団体は世界が滅び掛けているこのご時世にも不滅の象徴のように今も健在であった。

 

 総論。

 

 今、人類と別世界の人類の始めてのファースト・コンタクトは女性団体と米軍内のフェミニストな女性士官達によって保護される事が決定した。

 

 その声を聴いていた壁の守備隊の隊長はかなり後に一部内容を聞いていた女性隊員からの告発で軍事法廷に召喚される事となる。

 

―――まさか、彼らに君は恥ずべき事をしていないだろうね? と。

 

 そんな異世界人と異世界人の始めての接触に彼らが気付くのはまだまだ先の話に違いなかった。


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