ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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真説「Hello New World」

 

―――【大戦概論】社会学的考察による全世界戦争。

 

 従来の社会学的な見地から言えば、文明が一定水準の長距離移動、長距離輸送方法を確立して兵站規模が特定の値を超えた場合、世界規模での大戦争が勃発する。

 

 これには例外なく。

 

 社会的な契約として国民の全てが戦争に対しての奉仕を強要される。

 

 しかし、現実の大陸にはそのような事は起っておらず。

 

 世界的には【対帝国連合】と呼ばれる複数の南部国家及びそれに属する各宗教宗派が保持する時の宗教戦力が当時世界最大の国土を保有していた帝国に対して宣戦布告無しの侵攻を開始。

 

 これに対して祖国防衛の為の戦争準備をしていた帝国は応戦した。

 

 ただし、帝国が戦った国は1ヵ国のみであり、事実上の頂上決戦は当時の反帝国連合の数十万の軍隊ではなく。

 

 当時、世界最強と目されていた反帝国連合の中核戦力として有望視されていた傭兵国家ガラジオンの数百万の兵との間で付けられた。

 

 超規模の軍団輸送能力を使った帝国南部強襲戦。

 

 これのみで戦闘自体が終了したのである。

 

 東西南北に様々な敵を抱えていた帝国がその地から戦力を殆ど送らず引き上げた事は奇跡的な事であり、その全ての戦いの矢面に立っていたのはたった一人の少女と彼女の育てた少数精鋭戦力のみであった。

 

 これは正しく御伽噺の紙芝居が脚色や諸々の演出が入ってはいるものの、事実を捏造したのではなくて、単純に子供向けに多少フィクションを織り交ぜた程度の改変しか加えていない事を示唆する。

 

 “大戦”は世界中の国々の中でも国力上位の半数近くが参加する事で成り立つ概念だが、帝国大公の孫娘一人が四方八方で戦争回避の為に奔走していたという御伽噺は大戦争を見越した上での敵の阻止、懐柔、味方化の方策であったと推測される。

 

 政治経済軍事などの功績からこのような見地からの推察は軽視されがちであるが、姫殿下と帝国民から親しまれる人物が行った対戦争回避用の社会学的な情報に基いたプロセスは極めて重要なものだ。

 

 そもそも、現代社会学というものを創始したのは“とある高貴な方”からの研究課題をやっていた政治畑の者達だ。

 

 北部では確かな情報による諸王の説得が為された。

 

 将来的な予測に対して全ての国々の統合的な開発を確約する事で戦争が回避され、同時に各国を統合した意見を出せる共同体として整理した事で南部皇国からの侵略に対して団結した行動を取る事が可能となった。

 

 これは今風に言うならば、バラバラだった国々の合意形成を執り行うリセル・フロスティーナのような共同体の発足と各国の利害調整を北部域で行ったという事だ。

 

 それは単純な今までの戦争を仕掛けないという類の協定ではなく。

 

 もっと、他国の内情に突っ込んだ問題解決プロセスの押し売りだったと見るべきだろう。

 

 これは地方の名士に対しての利益誘導であり、僻地開発と共に意見を纏める事で巨大な元々敵わない相手に対しても意見を言えるようにした実質的な地域議会の発足である。

 

 西部では現地を元々納めていた一部の王家に合理的な経済振興策と新規産業の誘致によって国際的な流通網と商業網、工業網の下地が造られた。

 

 サプライチェーンという歴史上初めて具体的に作り出された概念が提起されるよりも前に姫殿下による流通掌握という帝国にとって最も重要な対外干渉手段の開発に成功していたという事だ。

 

 西部での戦争の回避は簡単に言えば、他国を経済圏に取り込む事で宗教的な素地を上回る影響力を確保したという点に尽きる。

 

 共に他国へ国力の源となる産業を誘致し、自身が最大の供給販売網を構築する中で商業の活性化に巻き込む形で安全保障を図ったのだ。

 

 現在の大陸西部の工業力の始りであり、これはどう見ても西部を工業化し、その資本の将来的な取り込みを画策。

 

 場合によっては国家の国力的な連結を企図したものである。

 

 その趨勢は現実を見る限り、完全なる成功を収めたと言える。

 

 西部は同時に政教分離を推し進める土台として社会実験の面を備えていたとも見るべきだろう。

 

 その後の原理主義廃絶運動と政治改革、国家革命の流れにこの地域での知見が生かされていた事は間違いない。

 

 最後に東部での永遠に続くと思われていた数十年にも及ぶ大森林での戦争。

 

 これにおいては戦争終結の為に9割以上滅ぼした諸氏族との停戦合意を取り付けた。

 

 普通ならば、安全保障の観点からも全滅させて然るべき軍事的な理由があったはずだが、姫殿下の御来訪後の進展を見れば、それを望まれていなかった事は言うまでもないだろう。

 

 そして、この合意形成プロセスは現代でも通じる。

 

 近年発見された当時の帝国陸軍に所属した元軍属であった方の手記では姫殿下は三氏族の領域を回り、彼らに食糧支援や衛生支援を行ったと記載がある。

 

 同時に三氏族が感情的に戦いを挑む自滅を選ばないよう互いに協力させた上で最後の戦闘を行わせ、戦闘地域を指定し、後方地域は焼かない旨の合意を取り、更には東部で無法を働いた軍人の処分までも行った。

 

 帝国陸軍の悪辣さは正しく世に謳われる程に畏れられたものだったが、此処で露わにされたのは軍事行動にも道徳や理性、正義の概念が導入されたという事だ。

 

 同時にそれは姫殿下が明確に規律と合理性、軍の教化の為に内部粛清を行ったという点においてまったく重要な転換点であった。

 

 この内部統制は犯罪者及び軍の規律を乱して敵に無用な残虐性を以て戦った外交的には“害悪”としか言えないだろう者達の処断を明確に行った点で他国からの評価対象であり、帝国内の反聖女閥と呼ばれるような旧来の価値観を有する者達にとっては剣を首に当てられたに等しい自制効果を齎した。

 

 これは正規軍の質の向上と共に軍事分野の革命であり、国内の反乱分子への『穏便な衰滅を選ばぬならば、こうなる』という見せしめでもあったのである。

 

 最初から元々、略奪が当たり前だった世界に突如として帝国は略奪を殆どしない軍隊として一部かなり驚かれていたところだったのだ。

 

 それが今度は戦争に新しいルールを持ち込んだという点で現代軍事分野の合理的な支柱を打ち立てたと言える。

 

 戦争の合理化、倫理化、道徳化は同時に帝国式の一部であり、これに恐れ戦いた諸外国があまりにも“非常識な善良性”や“容赦のない命を奪わぬ戦闘”の効力を知るのは後の事である。

 

 南部の反帝国連合国家への直接の首都強襲。

 

 巨大な航空母艦を用いた威圧と同時に当時の十世代以上先を行く戦闘システムと兵隊を前にして各国が降伏したのはこれらの軍の新指針による行動の結果があまりにも異質に映っていたからとも言える。

 

 各国が事実上の属国化にしては温い占領政策や独立回復政策において“自国が既に文化的に滅ぼされている”という事実を知るのは後々の話であり、当時の指導者層の質が帝国と諸外国で隔絶していたという現実はその真意を把握し難く……しかし、肌身で感じられる極大の差だったのである。

 

「……何だ? どうしてオレは此処で本を―――」

 

 無名山における大使の任を今も受ける男は一冊の本を閉じて、思わず周囲を見回していた。

 

「此処は……まさか、あの時の……」

 

 彼は巨大な帝都にある図書館の只中にいた。

 

 しかし、誰も周囲にはいない。

 

「お久しぶりですね。大使殿」

 

「あの時の秘書か……」

 

「はい。我々ですよ」

 

「オレの意識が確かなら、先程まで無名山の都市に帰っていたはずなんだがな」

 

 彼の記憶にはぼったくり価格の店でいつもの少年少女と飲食していた記憶がある。

 

「時間が来まして……大陸を……いえ、この星を救う為、貴方に力を貸して欲しく思い呼ばせて頂きました」

 

「成程。この図書館自体が何らかのオブジェクトなのか。しかも、一度入った人間に対して働き掛ける力がある。違うか?」

 

「御想像の通りですよ。さすがDの一族に列なるわけでもないのに議長閣下の腹心となるだけの実力者、と言っておきましょう」

 

「世辞を言っている暇があるのか? こちらは無名山の防衛に出たいところなのだがな……」

 

「ええ、それなら心配ありません。そちらはもう鎮圧されました。問題は此処からです」

 

「此処から?」

 

「はい。先程、サイトに強襲を仕掛け、必要な偽装001を全て奪取した所なのですが、それらを使ったら、さっそくこの星が滅びる現状が分かりまして」

 

「―――襲ったのか!? クソ!? 偽装001だと!? 収容違反どころの騒ぎでは!?」

 

「落ち着いて下さい。姫殿下の手前、人死には出しておりませんし、我らエラーコードは人類を護る為に行動しています」

 

「……人の本拠地を襲っておいて、どの口が」

 

「この口です。実際、姫殿下のお力ならば、退けられる脅威ですが、問題は山積みな上に死傷者が惑星人口の6割に達する可能性があります」

 

「ッ」

 

 男が思わず観測出来ない秘書という概念を前にしているような相手の言葉に固まるしか無かった。

 

「貴様らが言う程の……六割だと?」

 

「はい。このままでは滅ばずともあの方が泣いてしまいそうですね。なので、此処は恩を売りませんか?」

 

「……つまり、協力すれば、聖女に恩を売れると?」

 

「ちなみにお邪魔した時にO5の命令とやらで議長閣下は最後の抵抗で聖女殿下に対して能力を限界まで削って生身に対して弾幕を張っていました。勿論、全ていなされて今後の戦争の最前線で使われるのを覚悟しろと言われていましたね」

 

 苦虫を噛み潰したような顔で男が息を吐く。

 

「挽回するにはどうすればいい?」

 

「話が早くて助かります。貴方には偽装001の一つで世界を繋げて欲しいのです」

 

「世界を繋げる、だと?」

 

「はい。これをどうぞ」

 

 男の前に小さな蒼い四角錐状の蒼いクリスタル状のピラミッド型物体が虚空から滲むように降りて来る。

 

「何だ? これは一体……」

 

「001の一つです。収容不能な点ではケテル・クラスですが」

 

「―――収容不能だと? 待て!? 偽装001は全て収容可能だったはずだ!? ユークリッドやセーフではないのか!?」

 

「ああ、知らなかったのですか。あのサイトの001の大半は時空間的に収容しても意味が無い。事実上は何処に置かれていようとセーフには出来ない代物ばかりなのですよ」

 

「ッ、どうしてそんな事をお前らが知っている!?」

 

「知っているのではなくて、我々がその類だったのです」

 

「……つまり、我々よりも前にあの場所にいたと?」

 

「はい。貴方達が産まれるずっとずっとずっと前……この星がバルバロスの惑星だった頃からですかね」

 

「ッ、貴様ら、“繰り返し前”の生き残りか!?」

 

「そういう事です。ですから、我らは四つの力が産まれる前からあのサイトにいた手前、神と呼ばれる者達が来た当時の事すらも知っている、と言う事ですね」

 

「………まさか、そんな事が……確かに知識では知っていた。だが、その時のサイトは……」

 

「ええ、だから、我らはエラーコードなのですよ。さて、昔話はお終いにして、そのオブジェクトの使い方を教えましょう」

 

「どうすればいいと?」

 

「簡単です。特定するのに貴方が必要なのです。貴方の魂の形が……」

 

「魂の、形?」

 

「現実描の事は知っていますか?」

 

「あ、ああ、現実改変能力者の能力を封じる目的で施設に設置する事が多いからな……」

 

「そのオブジェクトは簡単に言うとHm値を限界値を突破して下げる事が可能なオブジェクトです」

 

「な―――?!!」

 

 男の手が思わず震える。

 

「御存じの通り、多くの物体や空間のHm値は均一で平均的には1でなければ、大半色々と面倒なのですが、ソレはいわゆる“本当の神”が造った宇宙改変系のオブジェクトで、その1や0を下回る下限で世界を変質させられるのです」

 

「Hmをマイナスにする? 神が造っただと?」

 

「ええ、今この状況を生み出している神に為り切れない彼らとは違う。本当の意味でこの宇宙を創造した誰かですよ」

 

「………そんなものがあってたまるか」

 

 男が苦いを通り越して畏れの表情を押し殺し、汗を浮かべてオブジェクトを見る。

 

「本来、四次元、三次元上の時空間内の制約に捕らわれない性質があるオブジェクトです。そうですね。簡単に言えば、本の中身である我らを本の書き手が修正する時に使う万能の杖みたいなものなのですが……」

 

「そんなものがあるなら、どうして我らはこんな状況になっている?」

 

「使えればですよ。使えれば」

 

「使えないのならば、オレが使う意味は?」

 

「そう結論を急がず。端的に言えば、ですね。これは本来の使い方ではないのですが、万能の筆の先っちょが丁度此処にある。という事だとお考えを」

 

「使えないのは筆の持ち手がこの世界に存在しないからだと?」

 

「ええ、ですが、インクは別です」

 

「インク……」

 

「コレは言わば、宇宙の根幹を描き出すオブジェクト。線、輪郭の創造ですよ。要は次元創生とでも言うべき能力。インクを滲ませるだけなら複雑な操作は要らないのです」

 

「……滲ませるとは?」

 

「世界を繋げる行為です。漫画は知っていますか? あのコマ割りという概念で次々に描写を繋げて見ますよね?」

 

「あ、ああ、アレか」

 

 男は少年少女が暇潰しに良く読むようになった本を思い浮かべる。

 

「神が生み出した宇宙は一冊の本だとすれば、我々の宇宙はあの1コマの枠内。枠内の一コマから線を引いて別のコマに通路を繋げれば、陸続きになりますが、我々には線が書けない。故に別の方法を用いて別の宇宙に繋げます」

 

「……この星を別の空間と繋げるのか?」

 

「系列世界と呼ばれる概念の内部だけですが、繋げられます。そして、この筆先には現在インクが付いていない」

 

「インク……」

 

「魂の形。世界を形作るのは世界と同じもので造られた輪郭を持つ存在。つまり、同じモノで造られているならば、代用は可能」

 

「ッ……人間を材料にするのか!?」

 

「正確にはこのペン先に適合したインクが必要です」

 

「はは、此処で死ねと?」

 

「いいえ、このオブジェクトはHm値を限界を突破して下げると言いましたよね?」

 

「ああ、それが?」

 

「Hm値が0になったら0以下にならないのがこの世界の常識ですよね?」

 

「何でもアリになったら、それ以上は無いだろう」

 

「ですが、仮に0が无ではなく。漫画の下地の原稿に何も無い白紙状態なら? そして、白紙にはインクが載っていない為に存在の膜とでも言うべきものが無く、破り易いという特徴がある」

 

「……何だ? 輪郭が無い。筆先。魂の輪郭……インクが付いていないなら、筆先は“突き破る”とでも?」

 

 パチパチと秘書……Sと名乗った女が拍手する。

 

「新しい世界、存在の輪郭を描き出すならば、インクは大量に必要でしょう。筆先がインクを滲ませていないならば、突き抜けた筆は世界を、頁を破壊するかもしれない。けれど、少しだけインクを滲ませて、少しだけ……ほんの少しだけ穴を開けるだけならばどうでしょうか?」

 

 男はしばらく沈黙していた。

 

「死なないと?」

 

「ええ、試した事はありません。ですが、時間を掛けてゆっくりと進めれば、3ヵ月後に開通します。それもきっとかなりの確率で人間が存在する星がある」

 

「はは……はぁぁ、なるほど? お前らがオレを騙していなければな」

 

「御安心を。インクになれる存在はHm値が高ければ、代用が聞きます。でも、インクにも濃い薄い描き難い書き易いというのがある。貴方は0の虚空に、白紙に滲み難い性質がある」

 

「僅かだけ使えばいいと?」

 

「我らエラーコード的には2902兆分の1の確率でしか存在しない波形というだけで十分にオブジェクトのお仲間だと思いますよ?」

 

 心底嫌そうな顔の男が溜息を吐く。

 

「この歳で収容される身分にはなりたくないな」

 

「大丈夫。我々の計算では3ヵ月で繋げても貴方の残りの寿命を40年は保障します」

 

「それが嘘でない保障もないが……」

 

「でも、やるしかないでしょう?」

 

「具体的にはどうなる?」

 

「この宇宙と最も近似する系列宇宙内に存在するもう一人の貴方が存在し得る世界と繋がります。繋がる範囲の誤差は……凡そ1星系分。この世界の神と名乗る彼らからは逃れられませんが、大分時間稼ぎにはなるでしょう」

 

「この事を聖女は?」

 

「後で事後報告します。最終的に重要なのは同じ状態の別の宇宙で時間稼ぎする事なので」

 

「ちなみに他の宇宙にある同じような星と繋がると具体的にどうなる?」

 

「星系そのものが“滲み”によって融合します」

 

「は?」

 

 思わず、男からはそんな声が出た。

 

「ああ、大丈夫です。他の001を使って整合性が取れるように色々と改竄します。地球型惑星のはずですから、大陸が一つ増えるくらいの誤差で済みますよ」

 

 男がもはや呆れた様子で諦めた顔になる。

 

「世界に大陸がポンと一つ増えたら大事だろうよ……」

 

「まぁ、その世界の人類と戦争になったり、あるいは殺し合いになっても、宇宙規模の何かと殴り合いをするよりはマシと考えて下さい。それに今のこの大陸の文明レベルならば、早々他の星の人類系生物と殴り合って負ける事も無いでしょう」

 

「はは、聖女様々という事か……」

 

「ええ、此処まで発展した時代は初めてです。我々が言うのだから間違いありませんよ。人類が何回繰り返しても突破出来なかった四つの力と対抗する程の……それ程の文明をあなた達大陸の人間は、リセル・フロスティーナは築き上げたのです」

 

「フン。外の事を持ち出されてもな」

 

「貴方達も含めて、ですよ?」

 

「………その世界の人間が滅びていたら?」

 

「滅ぼした相手と殴り合って勝てば解決ですね。どんな技術能力を持つ敵だろうとも超銀河団数百個規模のアレと戦うよりはマシです。宇宙を数万回滅ぼして再生出来る化け物とちっぽけな星のちっぽけな生物が持つ超技術や超能力、どっちが戦ってマシかは……ご自分で判断されると良いでしょう」

 

「やり方を教えろ……」

 

「胸に角錐の先端を押し込んで同化させます。その後、静止状態で3ヵ月間、そのまま眠って下さい。起きたら、こう言いましょう」

 

―――ハローニューワールド、と。

 

 男はおもむろに時間が無い世界の事を思い。

 

 不審げにSを見ながらも静かに息を吐いて、その角錐を自らの胸に目掛けて下を掴んで押し込んだのだった。

 

 その時、彼は見た。

 

 世界の終焉を。

 

 新たな叡智を。

 

 多くの人々が屍に呑み込まれていく悪夢を。

 

 そして、新たな世界に産まれた光を。

 

 世界が滲む。

 

 突き破られるまで後―――。


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