ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第156話「心一片敬すなら」

 

―――帝都大娯楽展最終日。

 

 美しくも何処か影のある曲が響いている。

 

『私は人間が謎の微生物やウィルスや呪いで動く屍になるのが好きだ』

 

 最終日、人が疎らになった一室にそう声が響いていた。

 

 最後まで大盛況で幕を下ろそうとしている展示場には述べ400万人が来場したことがアナウンスされており、その見事なまでやり終えた会場スタッフ達は歴戦の勇士の如く。

 

 疲労困憊の様子ながらも清々しい様子でヨレヨレのシャツやら汗で落ちたメイクやらを何とか誤魔化しつつ、最後の一団を見送り終えるところであった。

 

『私は人間が臓器一つ血管一本細胞個に至るまで遺伝子改造された超生物や機械化されたサイボーグになるのが好きだ』

 

 声はスピーカーから出され、映像は映写機から白い壁に出力されている。

 

『私は人間が涙を流し、血を流し、糞尿を流し、絶望し、諦めた顔で助けすら求められない窮地に陥るのが好きだ』

 

 語られる声は静かだった。

 

『私は人間が特殊な能力に目覚め、その能力に苦悩し、最強の力を手に入れようと足掻き、人間臭く死んでいくのが好きだ』

 

 それは一人の男が語る物語だった。

 

『私は人間が未知なる超古代文明や過去の歴史文明の知られざる真実や超技術で滅び掛け、滅んでしまった世界で必死に生きる様子が好きだ』

 

 彼の前にはズラリと栄華を誇る帝国娯楽界に君臨する物語の数々がアニメや漫画や映画や様々な媒体で棚に納められている。

 

『私は好きだ。あの方が御創りになった国が、帝国が、世界が、人々が……人々が想像力の限りを尽くして物語を彩り、好きなものを好きと言って、現実に好きなものを生み出そうとする様子が、私は好きなんだ』

 

 子供のような瞳だった。

 

 もう老人の男の瞳はそれでも少年のように輝いている。

 

『少年少女がロボットに乗って戦うのが好きだ。騎士達が魔物と戦って散っていく様子が好きだ。魔王と物語の主人公達が戦う様子には心が躍る。王国の黄昏に革命を求めて戦う勇士達には敬意すら表せる』

 

 男の手は優しく題名の書かれた背表紙をなぞっていく。

 

『人々が宇宙の果てに旅をするのも好きだ。時間を超えて色々な時代でドラマを紡ぐ様子も好きだ。異世界で理不尽なものと戦うのが好きだ』

 

 彼は最後に一冊の本を手に取る。

 

『人を愛する人が好きだ。仲間と笑って遊ぶのが好きだ。酒を酌み交わし、猥雑で軽妙な会話を楽しむのも良い。下劣な話題で盛り上がるのも、女性に言うのも憚られる話でゲラゲラ笑うのも面白い』

 

 だが、老人の瞳が僅かに細まる。

 

『だが、私は人間が嫌いだ。子供を食い物にした大人達が嫌いだ。酷い目に合わせ、罪を背負わせ、人間を奴隷に落し、多くの人々を虐げ、差別し、愉しむ事を取り上げようとする何処かの誰かの様子には憤慨すら覚える』

 

 一冊の本は世界で最も売れた本として世界一の販売数を誇る。

 

『私は人間が嫌いだ。自分の事を認めてくれない人が嫌いだ。自分を蔑んだ視線で見てくる人が嫌いだ。戦争を起こす人も、起こす兵器も嫌いだ』

 

 帝国の大文豪が遺したソレの販売数だけは後にも先にも抜かれないだろう。

 

『だから、私は、自分は、最も敬愛するべき方の事が大好きで大嫌いだ。けれど、理解は出来る。多くの人々を殺して積み上げなければ、現代は無かった。私が好きな人々は生まれず。私が好きな物語は生まれず。私が好きになる沢山の娯楽は無かった』

 

 一冊の本はたった一つの事を語る為の聖典として今もどんな公的施設にもどんな家庭にも一冊は置かれていると言われている。

 

『あの方を表現するならば、巨大なバルバロスとも言えるし、あるいはそれを倒す巨大な神とも言える。だが、最も表現に困るのはあの方が人間であるという一点だ』

 

 世界は知っている。

 

『全ての人に伝えたい。人間であればこそ、全ての死んだ滅んだ諦めた人々に伝えなければならない。この世には貴方達にすらも涙する人がいる。この星の上に生きる全ての人々に伝えたい。あの方は超人で神でバルバロスで叡智持つ存在で幾多の世界をも制する真の強者だが……誰かの死に涙し、心を痛め、それを一生背負い生きようとする小さな背中の女の子なのだ』

 

 本は書いている。

 

『諸人よ。涙するは人間だ。心痛めるは人間だ。そして、人間だからこそ、私はあの方を護りたいと思うのだ。この気持ちに偽りはない』

 

 本は言っている。

 

『新しき世代の子達。君達の吸っている空気、君達を産んだ両親、君達が愉しむ娯楽、君達が願う未来、君達の歩く人生……その全て、その全てに対して私は真実を告げよう』

 

 本は知らせている。

 

『もしも、君達が感謝を覚えるならば、何処かで倒れ、傷付き、苦しみながらも歩こうとする少女がいたら、助けてやってくれ。その方は君の全て、その全てを作った人々を此処まで、未来まで連れて来た……その尊くも残酷なる御手で人を遍く導いた……人間なのだ』

 

 人々はもう気付いている。

 

 もう後ろで掛かっていた全てのBGMは何処か壮大に世界の淵を覗くが如く変化を終えていた。

 

『おお、畏れよ。星羅の彼方へ向かいし者を!!! 世は果て!! 来るは時代!! 時に情けを動かされ!! 日々は我らを蝕むものか!! なればこそ!!』

 

 男は狂人のように叫ぶ。

 

 狂人のように天を仰ぐ。

 

『君よ!! 滅ぶなかれ!! 君よ!! 死ぬなかれ!! 我らは暗黒の世に閃きとなりて過ぎ去りし、栄光を見ゆる影!!』

 

 壮大さは何処かに消え失せていく。

 

 残っているのは小さなチープなメロディライン。

 

 それは世界最高の国家という栄誉を手にした国において国歌として謳われ、全ての帝国人が音楽に触れた時、初めて聞く音色。

 

 それは何処かに去り行く旅人を謳う。

 

 謳われし者の名は幾度と無く響く。

 

『尊き方!! 麗しの君!! 世を統べしもの!! 立ち向かいて滅ぼし、育んで律し、願いを聞き届けんとする大樹よ!!』

 

 彼は狂人か。

 

『永久に歩く背中!! 我らその翼の影に浴し、戸の前より起たん汝を見送る者為り!!』

 

 それとも世界が狂気に苛まれているのか。

 

『汝に罪在り―――我ら聖女の世代為れば!! 人の子よ!! 我らは……ッ』

 

 それは分からずとも、彼ら……新たな時代に産まれた子らは知るのだ。

 

『我らは追う者!! その御印を掲げて戦列を組み、隊伍を為す熾火!!』

 

 美しい音色はいつの間にか人の声となっていた。

 

 無数の声が重なっていく。

 

『無限の宙を征きて、いつか故郷を振り返るその日まで!!』

 

 一つの芸術を織り上げていく。

 

『あの笑顔へ振り返る為、走り続けるのだ!!!』

 

 老人は瞳を閉じる。

 

 その周囲には無数の技術と叡智の名が浮かび上がり、道となって敷かれ、その果てに向かう線が出来上がっていく。

 

『今日はこの辺で……いつか、またお会いしましょう。死して尚、我らは一つなのだと貴方が知る時、そこに私はいるでしょう。多くの者達と共に……』

 

 それはとある男が死ぬ直前に撮り終えていたプロパガンダだ。

 

 だが、全ては記されたものに過ぎない。

 

 これを新たな聖典だと言う者は多い。

 

 これを帝国の情報操作の為のものだと言う者は多い。

 

 しかし、それよりも更にこの本を黙って持つ者は多かった。

 

 それが男の最後の仕事。

 

 そして―――。

 

「我らに最も近い道を示す聖典、か」

 

 今、宙の海で戦う者達の使う情報書庫にはソレがある。

 

 傍らにあるものは力だ。

 

 信仰ではあっても、縋るべき対象ではない。

 

 人を思う感情こそが、全ての原動力であり、たった一人の誰かの為に戦う者達こそが彼らだった。

 

 パタンと本を閉じた彼らの一人は虚空にソレを消して、無限の闇と真空の彼方から、星々の隙間を縫うように近付く敵を観測情報越しに見て、薙ぎ払う。

 

 一辺が32万kmはあるだろう。

 

 蒼き光の柱が吹き伸びて、横に薙ぎ払う。

 

 惑星すらも砕く蒼力の刃は光線のようにも見えれば、剣の如くとも見えた。

 

 爆光の渦と海が、巻き込まれた星間物質と共に砕け散って光となった何かすらも消していく。

 

 こうして総数890万個の大小100kmから1m以下のものまで多数の岩塊のようにも思える見えざる何かは消滅し……それから少なくとも2週間以上、彼らドラクーンが囲い込む宙域に何かが現れる事は無くなったのだった。

 

 *

 

―――帝都聖教神殿。

 

 嘗て、アバンステア帝国における宗教というのは冠婚葬祭に必須だが、熱心な信仰者は左程多くない地域宗教の域を出ない組織群であった。

 

 帝国そのものが三つの民族からなる多民族国家であり、宗教的な部分を司っているのが軍事を筆頭にしていたブラスタの血脈では無かったという経緯から、王や皇帝の類は地域的な宗教を自分の下位にある王権や帝権の補助的な権威としか見なさなかった。

 

 それでもアバンステア内においては幅広く祭日を取り仕切る存在として各地には小さいながらも祠や神殿が置かれていたのである。

 

 だが、50年前の原理主義宗教の撲滅と同時に各大派閥を形成する全宗派の一斉の“掃除”が行われた事で宗教権威は失墜。

 

 同時に宗教の犯していた罪が白日の下になった事で信者の大半を失った大宗教の多くは極めて真っ当に道徳や倫理を解く以外はお祭りをシノギにして頑張って下さいと言われて前よりは困窮し、国家からの補助金という名の脅迫を受けざるを得ず。

 

 最終的には地域密着型の毒にも薬にもならない帝国式のお説教と冠婚葬祭業務に利権を持つ生活に溶け込んだメンタル・セラピスト資格必須の“仕事”になった。

 

 坊主丸儲け出来ない宗教に入りたい者は現世利益最優先系帝国民には多くなく。

 

 金も権力も無い広い土地に墓地管理、冠婚葬祭の現場で祝言や弔辞を上げるだけの彼らは今ではもはや政治団体すらも持てない土着信仰にまで落ちぶれていた。

 

 ―――良い宗教者とは政治理念を持たないものだ。

 

 というのが彼らのスローガンであり、人を救うのに神の救いではなく。

 

 帝国の役所の窓口を進めて初めて一人前な準公務員。

 

 それが彼ら聖教の神官やシスター達の実態だ。

 

 故に彼らの事を大抵の人は聖教の方、神官の方、シスターの方と呼ぶ。

 

「大司卿閣下。宙での戦闘が収まりつつあるようです」

 

「左様ですか。貴下の者達に避難所や各電子媒体での呼び掛けを始めさせて下さい」

 

「了解しました。すぐにでも」

 

 聖教の要する帝都最大の神殿は国家祭事を執り行う場合に用いられる現場であり、帝国議会もよく権威付けに使う施設だ。

 

 その三階の一室。

 

 白い石造りの簡素な一室で老女の言葉を聞いた神官達が次々にその場を後にして、彼らに求められる電子空間や年寄り層が多い避難所などの治安維持活動……人々の安堵を買う為の説教へと多くの者達が赴くやら、部下に指示出しを始めた。

 

 避難所の管理も聖教の仕事だ。

 

 莫大な利権を手放さざるを得なくなった後。

 

 人々の不安な時にこそ宗教は必要だと非常時の人々への安堵を任された彼らは話をする大義名分を得て、そういった公衆の場で働く事を義務付けられている。

 

「閣下。その……浅学な身で分からぬ事があるのですが、どうしてすぐに説教をするように指示されなかったのですか?」

 

 老シスターの横顔を見ていた歳若いシスター達の一人が訊ねる。

 

 彼女の傍には中年の者はおらず。

 

 誰も彼もが十代から二十代の女性ばかりだった。

 

 それもそのはず。

 

 殆どの中核人材達は大陸各地で今回のような事を想定して既に現場に到着して、時期を待つようにと待機状態でいるのだ。

 

「時と場合にも寄りますが、多くの人々はまだ何があったのかも分かっていません。ただ、国から避難指示は出ていなくても不安だから、指定の避難所に来ているというのが正しいのです。では、そんな避難所で必死に人々を諫める説教などを聞いたら、逆に不安となってしまうでしょう」

 

「それは戦闘が収まりつつある時でも同じなのではないでしょうか? 未だ、民間には何が起こったのかまるで分っていないはずですし」

 

「でしょうね。ですが、我らのような者の説教に耳を傾けるには空が静かになっていなければ、とてもとても……重要なのは時と場合です。どんなに素晴らしい美麗字句も我らのように聴く用意がいつでも出来る人間ばかりではない」

 

「なるほど……つまり、この場合は時が来たという事なのですね」

 

「その通り。空で何が起こっているのか知りたい者は電子空間上で情報を漁ればいい。しかし、そうではなく。心の不安の為に避難所へ来る者達には必ずしもソレは解決ではないのです」

 

「だから、戦闘が終わったという区切りで説教をし始めるわけですか」

 

「ええ。今後もこのような事は比較的多く起きるでしょう。我らは人々の生活と毎日の中に根ざして、不安を取り除くのではなく。寄り添うのが使命。それがあの方のやり方なのです」

 

「……姫殿下、ですか?」

 

「ふふ、確かに不思議よねぇ。どうして宗教を追い落とした方を我らが持ち上げるのか。多少、世間に詳しい者なら聖女殿下が宗教を傘下に収めたからだと訳知り顔で語るでしょうが、事実はそれよりも複雑なのよ」

 

 自分の内側の困惑を言葉にされて、歳若いシスター達が思わず老女を見やる。

 

「50年前の宗教改革で宗教の負の側面を掃除し切ったあの方は幾つかの段階において宗教の世俗化と合わせて、宗教そのものの生活への組み込みを行ったの」

 

「組み込み?」

 

「神学校では習わなかったでしょう。ですが、それこそがあの方の偉大たる所以。我らがあの方を持ち上げざるを得ない真実なのよ」

 

「組み込み……」

 

「そうねぇ。宗教は特別では無くなったわ。過大に信仰するモノでも無ければ、過小に考えるべき事でもない。日常の中で道徳や倫理が教育によって達成された時、その成果を維持する為に使われた所謂第五の軍になったの」

 

「第五の軍?」

 

「この事実を知る者は帝国内でも少数でしょうね。我ら宗教者は独立軍よ。敵と戦う為でも、情報収集するわけでも、民間人の身を護るわけでもない。ドラクーンやリバイツネード、帝国正規軍、リセル・フロスティーナ加盟国による惑星防衛軍のようなものではないの」

 

「では、何を護る軍、なのですか?」

 

「人の心を護る軍隊よ。ただし、自主的な取り組みであって、その内実に予算は殆ど割かれない。【民間心理防衛プログラム】と口伝でしか伝えられないものがあるの。それこそが人の心を護りし軍勢のプロトコル……心理調査庁が世の心を操る表の機関ならば、我ら宗教は人々の心に寄り添い、隙間を埋めて、人の世を滅ぼすモノから彼らの心を護る裏の守り人よ」

 

「……我々が軍隊……心を護る……」

 

「思ってもいなかったって顔ね。ふふ、でもね。これが真実……嘗て、宗教改革において帝国が真に聖人として選んだ宗教者達は無私無縁の人を諭す専門家だったわ。そして、彼らには重大な任務が与えられた。あの方が直々に行った」

 

「任務……」

 

「人の心が荒み、病めば……それを苗床として人を滅ぼす者達が台頭し、多くが犠牲になる。バイツネードはその代表格。だから、心の強さが人々を護るのだとあの方は彼らに説かれたの」

 

「心の強さ……」

 

「その強さにはちゃんと裏付けとなる生活や日常がある。それを達成しても人の心は脆く悩みを抱かないわけじゃない。そんな人の不の感情を諫め、慰める事。強き心を抱いて生きていける社会でその心に対して真摯に向き合い、同時に守護する役目をあの方は宗教に与えた」

 

 老女は瞳を閉じれば、すぐにでも思い出せる声と姿に目を細める。

 

「非暴力や強力な兵器を持つべきじゃないと言う多くの信仰者達や平和主義者達にあの方はこう言われたわ」

 

 声が厳かに告げる。

 

「『果物を切る小さな刃でも、日常的に使う火でも、何なら手でも足でも指だって人を殺せる。でも、それを捨てろと言う人間はいない。重要なのは平和を希求する心であって、兵器や力を捨てろと言う言葉じゃない。誰もが本当に弱いからこそ、強い心を持つ人間に人殺しの道具を与える人社会を悪だと断じるならば、その罪とやらは社会全体で被るべきだ』と」

 

「姫殿下がそんな事を……」

 

「今の時代だからこそ、言えるわ。心強く在る者が多くなったからこそ、あの方は更なる力を我らにお与え下さるのだと。誰かが力を使う事を許すのだと。そして、その全ての罪を社会ではなく……ご自分が背負おうとしている」

 

「……今のドラクーンは世界を滅ぼせる兵器を持っているとは聞きます」

 

「技術が進んだから強いのではないの。人の社会が、人の心が進んだから、強さを得てよい時代なのだとあの方は言うでしょう」

 

「心無き力は無軌道な暴力と変わらないと?」

 

「ええ、昔の兵隊と比べても精神的に軟弱な世代が多いというお門違いな事を言う者は今もいるけれど、精神的な忍耐や忠誠心、狂気と心の強さは違うものなのよ?」

 

「………」

 

「平和を愛し、平和の為に命を懸ける人間が増えた。その良し悪しはともかくとして……その心の強さにこそ、あの方は力を与えるでしょう」

 

「力……」

 

「人を殺す覚悟でも、人に殺される覚悟でもなく。人に傷付けられても自制するだけの強さを、己が死んでも法と人を護らんとする強さにこそ、あの方は自らの力が相応しいと考えていた」

 

「姫殿下のお力……」

 

「例え、それが自らの終わりだとしても……力を捨て、力に勝る心を持つ者こそがあの方の真なる兵隊……我らはドラクーンと比べても遜色はない第五の軍……そう大陸を任された無力なる心の軍隊よ」

 

「心の軍隊……」

 

 シスター達の誰もが納得出来た気がした。

 

 目の前の老女は鉄の女と言われて久しい。

 

 だが、それは帝国に帰って来る前からの話だ。

 

 他国において多くの革命家を育て、新興国や南部の国々を席巻した親帝国閥の生みの親たる彼女は正しく伝説でもある。

 

 嘗て、商売女だったと公言して憚らない彼女が宗教の親玉に収まっているのはそれを多くの宗教者に請われたからなのだ。

 

 南部で部下達に今までの仕事を引き継ぎ。

 

 余生を祖国で暮らすというのは表向きの事情であり、彼女もまた聖女に救われた一人として、その聖女の理想を追う者達の一人だった。

 

 そんな彼女が帝国内で説教しかしていない、自分達のような人を諭す事しか脳の無い人間よりも、宗教を司るに相応しい、と。

 

 そう聖人染みた人々から言われたのが帰郷の始りだった。

 

 ―――世の邪悪と憎悪と醜悪を見て来た貴女にだからこそ頼める。

 

 なんて、言われて骨を埋めるつもりだった第二の故郷を離れて彼女は戻ったのだ。

 

 宗教が限りなく道徳や倫理としての日常的な常識に組み込まれていく過程で宗教者の数は現在までに嘗ての数十分の一にまで減少している。

 

 そんな昨今の事情もあって、組織体系を国ではなく宗教組織単体で維持する為に彼女は其処に招致されたのである。

 

「人の心を尊べば、これ即ち勝つる也」

 

「兵法でしょうか?」

 

「社会学者の偉い先生の受け売りね。でも、真理だわ。その人はあの方の方法論をそう解いたの」

 

「心を尊べば、全て上手く行くと……」

 

「ええ、だからこそ、我らは無力なるを以て世を平らげる」

 

「無力なるを以て……」

 

「非暴力、不服従と言うのは簡単。でも、社会はそんなに甘くない。例え、貴女の為に貴女が戦わずとも、誰かが戦ってくれる。正義や公正を以て助けてくれる。それが社会。それがあの方の理想であり、今の常識なの。だから、我らは全ての力をソレに任じて、正義でも公正でもない人の心へ遍く寄り添わねばならない。それこそが戦いであり、それこそが意義なのよ」

 

「難しい、ですね……」

 

「そうね。でも、捨てたものじゃないわ。我らの戦いには勝利が無く。また、終わりも無いのだから。こんな事をやり切るとしたら、狂人か聖人くらいでしょう」

 

「それは、どういう?」

 

「世の誰かに公正や正義、暴力という力を押し付けた我らが耐えて然るべき日常というだけの事よ」

 

 その言葉に周囲の誰もが此処もまた戦場の一つなのだと覚悟を決める。

 

「戦えないでもなく。戦う力が無いでもなく。暴力では戦わない。それが我らなの。最も厳しく勝利無き戦いを永遠に続ける我ら以上の軍なんて無いわ。だから、誇りなさい」

 

 老女はそう言い立ち上がる。

 

「この世界すら自らの手で滅ぼせる人類の只中で言葉以外を持たない我ら宗教者百万の同胞が、文明を滅する悪意と憎悪を叩いて砕く。とてもちっぽけな我らの戦争を始めましょう」

 

 こうして世界各地の部下や同僚達と共に世界を護る為、老女は自分に出来る戦いを始めるのだった。

 

 *

 

―――帝都大学物理学科棟。

 

「時間の対称性。それこそが我々に無限のエネルギーを齎す機関が弄る本当の対象物だ」

 

 白衣の男が今も勉学に励む大学院生達を前にして小難しい事を言うでもなく優雅にお茶を嗜みながら、研究室内で様々な定理を書き込んだ黒板を細い木製の指示棒で叩いていた。

 

 パシパシコンコンとまるで音楽のようでもある。

 

「対称性が保存則を導くというのは知られた定理の一つであるが、人類が生み出した最強の発明である無限機関。つまり、ゼド機関を多くの者が誤解している」

 

 学生達はもう二十代だが、基本的な講義ではラフな格好に白衣を被っただけで中身は若者然としており、退屈な講義に欠伸を噛み殺す程度の理知は得ている様子であった。

 

「そもそもゼド機関を生み出したゼド教授も極短期間。帝技研にいたに過ぎない。彼は千年掛かる作業と閃きを一人でやったが、この世界でならば、いつか作れたものを作ったに過ぎない」

 

「本当ですか~~? 普通の研究者が無限機関自体作ろうとか思います?」

 

「それが研究者というものだよ。無限機関はエネルギー保存則を破り、エネルギーが増えていくシステムだが、これはつまり対称性を微細に制御して破る事で、時間の対称性が生み出す保存則を変容させるものなのだ」

 

 教授の頭は剥げ上がっている。

 

「教授。それ昨日も言ってませんでした?」

 

「ああ、言ったとも。大事な事だから二回教えたとも」

 

「では、その先を教授願えませんか?」

 

 学生達からの発言にこほんと咳払いが一つ。

 

「つまりだよ。無限機関とは対照性を破る装置なのだ。そして、それはつまるところゼド機関が用いている超重元素は対称性を破る為の鍵という事だ」

 

「教授。対称性を破れるのはいまのところダークエネルギーだけなのでは?」

 

「然り。今の次元重力論と一部で呼ばれている理論ではダークエネルギーは次元相転移現象が日常的に宇宙内部で対称性が破れている事の現れであり、次元の対称性が破れる事で膨張する宇宙内部でソレ自体も増えていく」

 

「昨日テストでやりましたよー」

 

「君達の基礎知識を確認したに過ぎん。ちなみに自発的な対称性の破れは宇宙で何度か起っているが、ゼド機関はそのような大規模マクロ構造、超巨大な宇宙規模現象を使わずに超重元素の持つ特異点効果を用いて、破っている」

 

「特異点効果。超重元素が原子1つから特異点としての性質を有する。でしたっけ?」

 

「そうだ。現代の超重科学は冶金学とも重なる。性質を調べる事で我々の現代科学の多くは進展してきた。超重元素そのものが特殊な対称性を破る性質を備えた極めて希少な代物である事は最初に教えているが、その中にも種類があるのだ」

 

「種類?」

 

「時間の対称性をどう破るかでエネルギー保存則を変容させる内容にも差が出来る。そして、時間の対称性の破り方を変質させるには各超重元素の性質を理解するのが必須だ」

 

「なるほど……」

 

「ちなみに物質が安定化する原子核魔法数が高ければ高い程に超重元素の時間の破り方の性質は派手で異質なものになっていく。勿論、時間だけではない。様々な対称性を破る事が出来る超重元素は言わば、物理法則そのものを都合良く変える万能に近い性質を持つ力でもある」

 

「お~~~」

 

「今現在、時間、空間、次元の対称性を破り、相転移させ、様々な軍事技術が成り立つようになっているが、超重元素を肉体に持つ生物。つまり、バルバロスを筆頭とした現生生物の最上位能力層であるドラクーンとリバイツネード、他の一部人類は物理法則を破れる可能性を内に秘めている」

 

「スゴイ話ですね……」

 

「姫殿下が恐らく生物としては最も上位に位置するのだろう。あの方が起こす現象は物理事象ではなく。対称性の破れを操作する精密な相転移現象制御、事実上の万能に近いと推察する友ばかりだ」

 

「姫殿下は神、なのでしょうか?」

 

「一部ではそう言われているな。実際に力無き人間からすれば、神と呼んで差し支えない能力を手にしておられるだろう。だが、姫殿下でもまだ手が届かない領域もあると推察はされている」

 

「領域?」

 

「現在、知られている超重元素の中でも原子核魔法数666がボーダーとなっており、それから更に重い元素は見付かっていない。いや、創られてもいない。超重科学を用いた外洋、沖合での生成実験でも上手く行っていない。だが、もしもボーダーを超えた超重元素が生成された場合」

 

 ゴクリと彼らが唾を呑み込む。

 

「宇宙の対称性を破れると考えられている」

 

「宇宙の対称性?」

 

「時間や空間や次元の更に上の概念として総合的に現在宇宙で獲得された対称性を……つまり、今まで小分けにされていた対称性を複数個、もしくは全て、一纏めに制御して破れる可能性がある」

 

「それって……」

 

「世界の終わりと始りを自ら生み出せる可能性。宇宙の対称性が破れてしまった場合、諸対称性群の一括編纂はつまるところ宇宙の創造を意味する」

 

「……ちなみにその対称性が持つ保存則とは何なのでしょうか?」

 

「原理保存則……だ」

 

「原理?」

 

「これはまだ一部の帝技研の学者が提唱しているものでしかないが、あらゆる定理、原理の保存則を直接弄れる可能性がある。これはもはや万能の力だろうな。そして、そこに最も近いのが……」

 

「姫殿下……」

 

「ああ、あの方は体感としてはまだ物理法則下で存在しているが、超重元素を用いた対称性の破り方を極め、ボーダーを超えた超重元素を身の内に取り込まれたならば、恐らく……宇宙の創生を可能にするのではないか。と、実しやかに語られているよ」

 

「やっぱり、姫殿下はとんでもないのですね」

 

「まぁ、今のところボーダーを超えた超重元素は生まれていないから安心したまえ。もしも、そんなものが発見され、運用されていたならば、例え宇宙の全てが敵に回っても勝てるさ。原理を弄るというのはエネルギー保存則を弄るよりも上位の優位性を持つ。例え、相手が無限の物体だったとしても、宇宙の原理一つ変わるだけでソレらは存在できなくなるのだから……」

 

 院生達の間には言葉も無かった。

 

「まぁ、我らの帝技研はそれに飽き足らず。本部庁舎で何やら更に高度な研究を行っているらしいがな。ははは」

 

「更にって……もうお腹一杯なんですが?」

 

「昔の同期の話だと宇宙の外を直接観測、接触、行き帰りまで視野に入れているとか何とか」

 

「宇宙の外?」

 

「空間、次元、時間、全ては宇宙内部のものに過ぎない。だが、我々の宇宙の外。事実上の无の領域にまで足を踏み入れているそうだぞ?」

 

「……宇宙を創れるよりスゴイ事でも起こるんです?」

 

「それはあの現場にいる連中にしか分からん。ただ……深淵を覗く技術がもしも開発されたならば……」

 

「ならば?」

 

「人類は神をも超えて、宇宙すら超越する何かと出会う事すら可能かもしれない。あるいはそれそのものになるのかもな」

 

 ニヤリと教授が笑う。

 

「あははは……教授が話しておられた冗談みたいな猫の最終課題みたいに無理難題ってヤツでは?」

 

 院生達が苦笑する。

 

「君達、猫を馬鹿にしてはいかん。猫を崇めよ。先日も最後に宇宙での決戦で猫が活躍していただろう?」

 

「?」

 

 院生達が首を傾げる。

 

「そんな場面ありましたか?」

 

 その言葉に教授が何かに気付いた様子で肩を竦める。

 

「―――ふふ、案外……猫の方が人類よりも賢しいのかもな」

 

 全世界中継で流れた猫パンチを覚えている存在は生憎と戦場にいた者達と直接観測した事のある者ばかり……映像データにも残らぬ事象は何らかの作用。

 

 そんな事実のみが実しやかに大陸では真実となっていた。

 

 *

 

―――大陸南部オールトゥ共和国。

 

 もしも、世界が帝国に事実上の統一を受けなければ、もっと人間は愚かな生き物として相争っていたであろうというのは現代人の共通認識だ。

 

 それは同時に社会秩序や社会的な道徳倫理水準の欠如を意味する。

 

 この数十年でアウトナンバーという外圧があったとはいえ。

 

 それでも多くの国家で犯罪率が低下し、組織犯罪が根絶に近い状況で撲滅され、同時に能力主義や成果主義の導入と同時に有能な人材を徹底的に倫理道徳化、教化政策を行った。

 

 リセル・フロスティーナ加盟国には嘗ての常識の多くが存在しない。

 

 奴隷、門地による差別、寡頭制による搾取、資本主義による巨大な経済格差。

 

 思想的な寡頭制の上層部によるナチュラルな差別意識にまでも手が延ばされた結果は根本的に社会を限界まで変質させた。

 

 国家主義的な側面における規律や規制が徹底されると同時に表現の自由は強固に保障されているが、個人に対しては基本的に一定以上の過剰な裕福さが排除された。

 

 高水準の累進課税を行う税制や危険思想化する原理主義排除の政治制度が導入された事で様々な分野でも一強の個人、政党というのは極めて出難い構造だ。

 

 結果として、均質化された上での高水準な文化や生活、経済基盤を得た一般人の多くは心理的な側面、国に寄与する事で得られる資金以外の面での権利という形で様々な規律や法律を受け入れる事になった。

 

 それは一般人のみならず。

 

 犯罪者や元受刑者も同様である。

 

 人間の心理を限界まで利用する人格矯正システムが心理調査庁という帝国式の社会心理監督業務が社会そのものに組み込まれたリセル・フロスティーナ加盟国において犯罪者というのは心理的な動機以外では左程の罪を犯さない。

 

 言うなれば、嘗ては金の為に人殺しをする連中が沢山いたわけだが、今ならば怨恨以外で人殺しをする者は極めて稀という事だ。

 

 これは経済的に安定した国家ほどに顕著であり、低開発国や後進国の多くでも貧困の最低保証と国民的な生産性を教育で底上げする政策が常に何よりも優先して行われている為、知的水準が低い者程に国家の影響を受け易く。

 

 同時に善良さだけは経済的な裕福さを持つ者にも負けていないという現状がある。

 

「この国にもようやく新式の工場群が誘致されました。今後は所得水準の向上と共に各地の製造業は教化政策と事業所の進展を以て、各地域の雇用を―――」

 

「元受刑者の皆さん。此処に来られた事を恥じだとは思わないで下さい。いと尊き方は仰られました。人の人生に高低はあっても、貴賤は無いと。此処に集う者が自らの人生をより良く生きようとするならば、それに差し伸べられる手は決して厳しいだけではないのです」

 

「今日は多くの方々が集う式典です。あちこちで催しや趣味になるだろう多くの娯楽セミナーも行われておりますので奮ってご参加下さい」

 

「務める時には挨拶を忘れず。働く場所と働かせて下さる方々への敬意を忘れず。頭を下げる事を忘れてはいけません。必要な時、必要な作法を。それこそが帝国式なのです。良いところだけをツマミ食いするような方はいませんよね?」

 

「本式典は帝国のとある財団より支援を受けており、皆さんのような方々の為に尊き方はいつも多くの手を差し伸べているのです」

 

 アウトナンバーや時間障壁の影響によって貿易が極めてし難かった点から各国は地域単位から全ての製造業、製造分野における企業や国営産業を持っており、資源的な部分では農業分野、工業分野において技術だけは何処でも同水準なものが存在するよう整備された。

 

 これで何処が壊滅しても、壊滅した場所に依存した経済や軍事や政治を行わずに済むという話であり、その例外は正しく盟主アバンステア帝国のみだ。

 

 こういった事情から各地域における製造業の大半は地域色を出した商品の開発に熱心であり、輸出は振るわなくても完結した経済圏を確立。

 

 何処が生き延びても人類復興が可能なように図られた。

 

 結果として完全雇用に近い水準で雇用が創出されており、経営は働き方や各種の企業内システムの合理化で果されるが、人件費を筆頭にした職種の非合理化が同時に進められるという二律背反な社会が形成されている。

 

 一般論的には会社や企業は基本的に経営面の改善の為に人員整理をしない。

 

 が、常に業務に就く人員のスキルアップや教育、倫理道徳教育に付いて年間売り上げの数%を当てるというのが常識だ。

 

 無論、企業が行う事に対して底辺だろうが無能だろうが自らを雇う者に対し、労働者側にも企業と同じように様々なものが求められる。

 

 金も能力も資質も無い人々に求められるのは倫理や道徳の順守を行う意思であり、彼らは彼らで企業とはまた違った苦労はするのだ。

 

 犯罪や内部での様々な規律違反、コンプライアンス違反には極めて厳しいが、元受刑者などには単純作業の雇用を宛がうのもそんな企業群である。

 

 しっかりとした内部規則は国家側からの要請によって必ず設けられている。

 

 企業は社会福祉と治安維持名目で無能な人々をより良く働かせる事に苦心せねばならなくなったのであり、その苦労こそが社会を安定化させていると言える。

 

 どんな社会にも無能な人間はいる。

 

 どんな世界にも有能になれない者はいる。

 

 人間として最低限度の存在として後天的な教育で出来る限りは保障するという帝国式のスタンスは何よりも中流層より下の低所得層に最も恩恵がある。

 

 彼らにとって帝国式、帝国とは正しく自分達の庇護者そのものなのだ。

 

 だからこそ、事実上帝国に養われているに等しいリセル・フロスティーナ加盟国での親帝国閥は絶対的な数を確保するに至っている。

 

「当地の企業が開発した宙間利用生活規格がルイナスの汎用住宅に採用され、今後は更に宇宙にまで当地が造った製品が出回る事になるでしょう。我々は今後も―――」

 

「技術的な進展の多くは元受刑者の方や低所得層と言われる方々を雇用している企業のイノベーションの力であり、今後も多くの方々の手で新しいものを生み出し、共に進んで―――」

 

「我らは世の為に。例え、貴方が知らずとも貴方の為に働く方々がいるのです。それを忘れず。同時にまた自分達も誰かの為に働くのならば、きっとあの方の御心に叶うでしょう」

 

 有能な人間程にこの底辺層への差別意識が強いものだが、実際には差別よりも単純に能力が足りないという事実として理解される事が現代では大多数であり、そこに自身の優位性を感じるのは卑しい事であると彼らには説かれる。

 

 本当の有能というのは帝国式を標榜する国家においては仕事が出来るヤツの事ではない。

 

 誰にも出来ない事をする奴の事なのだ。

 

 その点で研究者や科学者のようなスキルを持つ者達の多くが尊崇の念を集めるのだが、そういう連中に限って、多くが人格破綻者なので“優秀な無能”である事を自覚せよというのが高学歴高所得層の専らの標語である。

 

「いやぁ、それにしてもルイナスには随分と各国から移民が行ってしまいましたなぁ」

 

「聖女のいる都市。というのは伊達や酔狂ではありませんしな」

 

「……ルイナスは最終的にはこの星を離れて宇宙に飛び立つとの話。噂では済まないのでしょうな……我が社の宇宙開発事業の合弁先から必要な要件を聞いたら、これが……」

 

「ウチの研究所もですよ。色々と仕事を受けて提供技術に付いて各地の他社と共同で開発しているのですが、本星から月面までの宙域に一時的に移動する可能性があるとか言われまして……あっちこっちの研究開発現場が帝技研の出した仕様と降ろした技術を元にして諸々やっているそうです」

 

「空が赤くなり、世界は滅ぶかと思えば、やはりそんな事もなく……」

 

「我らの出番は正しく最前線で戦う者達の為のものなのでしょうな」

 

「「………」」

 

 大陸南部の国々の夕暮れ時。

 

 世界の空を染め上げた光の乱舞は落ち着いたが、報道では次々に宇宙での異変を取り上げており、帝国からの正式な発表と記者会見が夜には予定されていた。

 

 何が報道されたとしても、彼らの胸にある不安は消えないだろう。

 

 だが、同時に多くの人々が共有する認識として、今も世界を護ろうと戦う者達がいる。

 

 その事だけで彼らは落ち着いて自らの戦い。

 

 自らの仕事へと邁進する。

 

 それが帝国式であり、聖女の世代と呼ばれる50代以下の人々の日常であった。

 

 *

 

―――ルイナス中央区画。

 

「何か来てるぞ?」

 

「アレですか。空の連中が逃した残り滓というのは……」

 

 ルイナスの中央域に存在する聖女の館の周辺には今正に次々敵が押し寄せ始めている。

 

 黒い幽霊の巨人。

 

 そう形容するべきだろうソレに対してガードとして残されていたドラクーンの多くが既存の武装で攻撃を開始して数分。

 

 しかし、攻撃が効いている様子はあるのだが、極めて反応は鈍かった。

 

「あ、アレだとダメだと思う」

 

 デュガとノイテのメイド業な2人が軽装を纏って、空間を弄る爆縮兵器を装備済みで館の上に陣取っていた。

 

 他の戦えない面々は屋内退避中である。

 

 そんなそれなりに強そうな2人が下の窓から這い出してひょっこりと屋根の反対側から顔を出した朱理に何しに来たんだろうと首を傾げる。

 

「危ないですよ?」

 

 ノイテの言葉に両手の拳が握られる。

 

「こ、ここはシュウの家だもん。私も戦う!!」

 

「いえ、戦闘のプロに任せておいた方が……」

 

 グッと闘志を燃やす黒髪ロングな美少女よりは美女風味な朱理に溜息が吐かれる。

 

「でも、アレじゃダメなんだ」

 

「ダメって何がだ?」

 

 デュガ首を傾げる。

 

 夕暮れ時の幽霊の巨人達は超重元素製の銃弾やら剣やら砲弾やらを雨霰と受けて、半壊しながらも次々に物量で攻め寄せて来ている。

 

「うん。アレ、認識で成立する系統の敵だと思う」

 

「認識?」

 

「一種の情報災害とか。認識汚染で量子的に成立する生物にしか影響しない系統の敵だから」

 

「あ、え、そーなのか?」

 

「うん。シュウが色々想定してて、色々教えてくれた」

 

「へ、へぇ……(どうして、こっちには教えてないんだろうなー)」

 

 デュガがブツブツと呟く。

 

「倒せるのですか? まさか」

 

「えっと、危ない時はちゃんと戦っていいって言ってたから。シュウが……」

 

「う~~絶対、こっちにはそんな事言わない癖にぃ……」

 

「ちょっと試したい事があるから、少しだけドラクーンの人に数歩下がって貰っていい?」

 

「……分かりました。あの聖女様が言うなら戦えるのでしょう。どうぞ」

 

 ノイテが肩を竦めて、耳元から伸びるヘッドセットの無線機のマイクに何やら呟く。

 

「十秒後に実行するそうです」

 

「あ、ありがとう。ノイテさん」

 

「いえ、それでどうするのですか?」

 

「あ、うん。蒼力使ってみる」

 

 朱理がおもむろに片手を正面に伸ばして中指と親指でパチンと指を弾いた。

 

【【――――――!!!!!】】

 

 瞬間、音と光が全て現場で戦っていた者達の間から消えた。

 

 猛烈な白い発光が黒い幽霊を覆い尽して、数秒で跡形も無く消し去る。

 

「よ、よし!!」

 

 指差し確認して相手が消えたのを確かめた朱理が片手で小さくガッツポーズする。

 

「「………」」

 

 横のメイド達はさすがに唖然とするしかなかった。

 

 無論、戦っていたドラクーン達も唖然としていた。

 

 だが、すぐに切り替えた様子で周囲の警戒を密にしながら、相手の残渣が残っていないかを調べ始める。

 

「一体、何をしたのですか?」

 

「あ、うん。敵の認識や諸々の精神状況に相手が左右されるから、集中力の高いドラクーンとかだと逆に倒し難いかなって、認識の一次的な忘我状態で集中を切って、相手を認識出来なくした後、絶対倒せるってみんなに思わせただけ」

 

「だけ、ですか?」

 

「うん♪」

 

 笑顔で頷く元教祖様である。

 

「敵はそれで倒せると」

 

「きっと、認識させる仕掛けみたいなのが降って来た隕石の粉末にあるんだと思う。でも、それも全部蒸発させたから大丈夫……たぶんだけど」

 

「さすが正妻だな……今度教えてもらお」

 

「せ、せせ、セイサイ!?」

 

 ボソリとデュガが呟き。

 

 思わず赤くなった朱理が小さくなる。

 

「まぁ、何はともかく。取り合えずはこれでいいでしょう。屋内の警備を倍に増やします。後は次の敵が来たらという事で」

 

 イソイソと攻撃用の重力兵器をペンダントに収納した2人が朱理を伴って館の内部に戻っていく。

 

 そして、そんな少女達を見送ったドラクーン達は『さすが、姫殿下の婚約者』という感想を持つに至るのだった。

 

 それはそうだろう。

 

 中央区画に攻め寄せて来ていた400体近い10m級の敵が全て跡形も無く消し飛んだのだ。

 

 区画内から見えていない部分にまで及ぶ超広範囲10km四方の領域内部に存在した全存在が瞬時に消し飛ぶとしたら、その攻撃方法はもはや戦略級の兵器に匹敵する。

 

『隊長。解析した先程の攻撃ですが、白い炎には実体と物理的な裏付けがありませんでした』

 

『姫殿下が仰られていた通りか。宇宙の外からの干渉。本来、物理的な領域に関しては我らの十八番であるべきだが、救われた形だ。情けない……ミームだったか。姫殿下があの者達を傘下に加えたならば、そちらの情報と対処法を学ばせて貰おう』

 

『第三の脳と同じく。優秀である事が必ずしも幸いではないというのならば、我らのような認識能力の高い存在には中々にマズイですね』

 

『隕石群の各地での微粒子取得に抜かりはない。仕組みを帝技研が解き明かすまでは絶対殺せる確信だけで戦うとしよう……』

 

『これが万単位来ていたら、さすがに覚悟は決めざるを得なかったという点において同意します』

 

『ルイナスの警戒を最大でしばらくは過ごす事になりそうだ……』

 

 黒い虚空を警戒して見回る騎士達はイソイソと現場検証の為のデータを大量に撮った後、他の区画や区域内部に先程自分達を困らせていた敵が湧いていないか。

 

 あるいはソレを生み出す微粒子が少しでも残存していないか。

 

 確認の為に動き出したのだった。

 

 *

 

―――帝都歴史資料館。

 

「諸君。さて、我らが帝都で最も歴史ヲタクで何よりも歴史が好きで好奇心に突き動かされ、フィールドワークまでして後の世に歴史の面白さを語ろうとする諸君」

 

 巨大な絵画が飾られた一室。

 

 天井は低く。

 

 一切の照明が無い薄暗さの中。

 

 洗面ガラス張りで鑑賞者のいる場所よりも余程に広く天井も高い白い部屋は燦燦と白い灯りに照らされており、その壁には一枚の歴史が鎮座していた。

 

「この傑作を鑑賞するに当たって、君達に調べさせた事がどのように関連付けられているものか。まずは聞こうか」

 

 鑑賞室の前で白髪の老人が片手に杖を持って歳若い学生達を前にしてニヤリとする。

 

「は、はい。本作品は北部諸国での演説の光景であり、作者はリーラン・ガランズ。北部で戦乱が起きていた頃に20代だった現北部絵画の大家です」

 

「姫殿下と数十人の諸王達を描いたこの傑作は当人が当時の王達に1人1人写実的な絵を残したいと願い出て許可され、13年の月日を掛けて全諸王の人物画を描いた後に10年の月日を掛けて完成させたものであり、当時開かれた晩餐会の様子を描いたものだと言われています」

 

「この絵画の最大の見せ場は皿の上に並べられた数々の高度な料理と諸王の驚きの表情。そして、姫殿下の背後に立つ2人の侍従……ノイテ筆頭侍従長とデュガシェス姫が持つ地図を巻いた大きな筒状の紙にあり、この後に姫殿下の北部諸王を説き伏せた“未来の地図”の説話が語られるという事を示唆しています」

 

 生徒達の真っ当な様子に老人がよろしいと頷く。

 

「さて、君達に収集して貰った情報はそれだけではない。当時、姫殿下が演説に関しての様々な技術や知識を用いており、それらが帝国内で多くの方が利用した手法に取り入れられていたというのも先日の講義を受けた君達なら知っての通りだ」

 

「それが今回のフィールドワークで情報を集めたのとどんな関係が?」

 

「では、まだ御存命の諸王に対する書面での回答はどうだっただろうか? 姫殿下はどんな演説をしたと彼らは言っていたかな?」

 

「え……それは素晴らしい演説だったと。中には殆どの状況を認めて頂けた方もおりましたので、かなり詳しく報告出来ると思います」

 

「ふむ。では、その報告に君は姫殿下の演説において技術や知識が使われていたかどうか。確認してみたまえ」

 

「え? あ、は、はい……ええと……」

 

 学生達が持ち込んでいた書面回答を何度か読み直した。

 

「おかしい。一番詳しく書かれているものにも殆ど演説におけるテクニックが見当たらない?」

 

「ふむ。では、どうしてだと思うね?」

 

「どうして?」

 

「当時、姫殿下は多くの演説が上手かった王達よりも更に深い民衆に対する演説の知識や技術を持っていたはずなのだ。だが、諸王に対して、そういった内容を補強するような小手先の事はしていない。相手の思考を鈍らせたり、分かり易い言葉を繰り返し使ったりとかな」

 

「教授は何かを知っておいでなのですか?」

 

「君達は知識や技術ある者がそれが必要な場面でそういったモノを使わないというのはどんな状況だと思う?」

 

「それは……使えない。もしくは使いたくない。でしょうか?」

 

「正解だ。そして、当時の北部平定は帝国の実利の一端であり、失敗出来るものでは無かった」

 

「本来なら使わないわけがない?」

 

「ならば、答えは簡単だ。使いたくなかったのだよ」

 

「……どうして、でしょうか」

 

「単純だ。あのお方は誠実であろうと為されたのさ」

 

「誠実?」

 

「要は小手先の技術や知識で自分を補強しなかった。ありのままを見せて、ありのままの現実を受け入れるよう諸王に誠意を以て接したのだ」

 

「誠意を以て……」

 

 老人が微笑む。

 

「当時、我が父は言っていた。あのお方に頭を下げられた料理人は後にも先にも自分達だけだと思っていたと。でも、実際には多くの者達があの方が下げる頭を前にして驚き。同時にまたその瞳にある誠実さを前にして背筋を伸ばしたと」

 

「そう言えば、教授の御父上は料理人でしたか。え? もしかして、この絵画の?」

 

「ああ、そうだ。晩餐会で見た事も聞いた事もない料理を必死に作ったそうだ。当時、最先端の衛生管理知識と技術、最高のレシピを与えられた自分はそれに付いて行くのがやっとだったと。死ぬ間際まで誇っていたっけな」

 

「それは……何とも驚くべき出来事だったでしょうね」

 

「ああ、あの方は必要な知識や技術を必要な人間に渡し、同時に誠実にその使い方に付いて検討する御心を示した。この絵画を描いた大家に聞いた事もある。どうして演説中の姿を描かなかったのか、と」

 

「何と!?」

 

「彼は静かにこう言ったよ。あの日、従軍していた自分が見たのは演説で人々の心を変える英雄ではなく。一通の手紙を渡して、王に命乞いをする少女でもなく。真っすぐに微笑み掛ける幼さなど微塵も感じさせない静かな瞳の淑女だったと」

 

「それは……ヴァドカ軍を引き返させた“折り返しの手紙”の説話……つまり、この絵画を描いた大家の方は元軍人だったのですか?」

 

「そうだ。もしも、あの時に軍が引き返していなければ、自分は間違いなく真っ先に死んでいた。だから、これはあの日の出来事を忘れぬように描いた人生の覚書で、少しばかりの聖女殿下への恩返しなのだと言っていたな」

 

「確かに連作で一連の絵画を描いていますが、そんな事情があったのか」

 

「彼は自分の死後はこの事は何かに書いて残してくれてもいいと言っていてね。先日、ご自宅で家族に看取られたそうだ」

 

 老人が明るい場所に飾られた絵画を見やる。

 

「どうして、この絵画がこんなにも明るい場所に置かれているか。分かるか?」

 

「え? どうしてでしょうか? 保存の観点から言えば、もっと照明は暗くした方が良いと思いますが……」

 

「彼の遺言だそうだ。自分の絵が残るならば、それが模写でも画像データでも構わない。ただ、人々の傍にいつかの誰かが努力した結果が誰の目にも明らかであるように照らしておいて欲しいと……彼は我らと同じ歴史を前にして語り継ぐ事の重要性を絵で表現したのだよ」

 

『―――』

 

 若者達の多くが再び絵画を前にして僅かに瞠目していた。

 

「この絵画は大陸全土の美術館に多数所蔵された最も複製された絵となった。同時にその料金は無料だ。そして、どんな歴史の教科書にも載る。彼は自分の感じた美しいものを永遠に残して置けるなら、まったく金なんて要らないという芸術家の鑑みたいな男だった、という事だ」

 

「まさか、そんな理由で良く見る事になっていたとは……」

 

「君達もよく料理番組の背景やCMで絵画がネタにされて間違い探しや絵画が動いたり、別の誰かに差し代ったり、みたいなのは知っているだろう? これも全て描いた当人が美術や芸術等と気取らずに大勢が見て共有して欲しいと願った結果なのだ」

 

「教授……今回の講義はつまり……」

 

「諸君。歴史とは勝者が紡ぐ物だ。だが、君達はその原則の逸脱を今も見ている」

 

『―――ッ』

 

「そうだ諸君。これは敗者の書いた歴史。そして、数多くの敗者が書いた歴史が世界を今形作り、多くの人間がそれを知っている。正しく今まで姫殿下に批判的な状況で歴史は語られても来た。特に敗戦国ではな」

 

 老人はステッキをコツリと床に一打する。

 

「歴史は勝者が紡ぐ物。そして、帝国は敗者の歴史を良しとした。その何と慈悲深く。同時に深淵なる叡智である事か」

 

 彼はこれこそが歴史だと言わんばかりに絵画を見やる。

 

「あのお方は勝者の歴史程に空しいものはなく。同時にまた敗者が語るからこそ、歴史には重みが増すのだと知っていたのだ」

 

「重み、ですか?」

 

「左様。帝国はどんな歴史の教科書にも必ず事実を記載するように働き掛けた。いいか? 諸君? 事実だ。真実ではない。事実なのだ。そして、それだけしかしなかった。けれども、見てみたまえ……我ら帝国の繁栄ぶりを……それを見る多くの国々の視線を……」

 

 一室のあちこちには他にも多くの来館者がいた。

 

 教授達のいる周辺は特別講義をしているからと封鎖の看板が下がっているが、それでも多くの人々が帝国外からの観光客である事は見るまでも無く服装や人種で丸分かりだ。

 

 帝国は大陸中から移民難民奴隷を受け入れたが、帝国人と帝国外の人間を見分けるのは左程に難しくない。

 

 帝国人の教育は徹底してあらゆる面において模範や規範を叩き込む事から始まる。

 

 食事の作法、文字の読み方、芸術の鑑賞の仕方まで小さな頃からどうすればいいのかだけは正しい作法が解かれる。

 

 それを実践するかどうかはともかく。

 

 まずは基本、基準となるものを最初に教えるのだ。

 

 だが、教育熱心という言葉に当て嵌まらないのは帝国人にとって、それが当たり前だからだ。

 

 多くの子供達が言われている事だ。

 

 何かに相対する時は敬意を持って敬う事。

 

 同時にしっかりと相手を観察する事。

 

 子供の頃から『相手に害されない限りは敬意を持ちなさい』『相手をよく見て考えなさい』と言われて、そんな癖の付いた子供達の多くが冷静さというものを身に付けていく。

 

「事実は何よりも重い。歴史とは事実の積み重ねになった。歴史が真実ではなく。事実の積み重ねになった時、ようやく現代は現代となった」

 

 老人の言う事は最もであった。

 

 どんなに悲惨で陰惨で惨めで他国に憎まれる歴史だろうと事実は事実として記述される歴史の“事実性の保証”という概念があってようやく人々は過去に何があったのかを知る事が出来る。

 

 帝国が始めた統計によれば、この50年で人類がようやくまともになってきた事は丸分かりであり、どんな国の歴史書にも自分達の痛くて隠したい歴史がしっかり載るのだから、隠す事には意味が無くなってしまった。

 

 これを以て歴史は帝国に資すると多くの学者は言う。

 

 帝国が大陸の歴史となった日。

 

 それは同時に帝国の興亡は決して後世の者達に隠し立て出来ない轍となった事を意味する。

 

「諸君。君達の頭の余白に書き加えておきたまえ。歴史が敗者によって描かれた時、それが事実のみによって畏敬を有する時、我らは必ずこう言えるのだ」

 

 老人は意気軒高にひよっこ達に微笑む。

 

「我らは帝国!! 他者を尊べば、これ即ち勝つる也、とな」

 

 若者達は思う。

 

 歴史の大家と呼ばれる老人は正しく聖女フリークな狂人かもしれないが、やっぱり“普通の事”を言うだけの御老人に過ぎないのだろうと。

 

 こうして誰もが違和感を持つ事も無く。

 

 “普通の歴史”は語られ続けていく。

 

 その常識こそが何よりも異様であり、多くの過ぎ去りし者達が驚くだろう精神性。

 

 善良に過ぎる程の異常。

 

 嘗て、異常だったはずのものは常識たる普通に摩り替り、これを疑問に思わない帝国人という新世代層の完成を以て、多くの国外の人間は彼ら帝国人をこう語る。

 

―――やっぱり、帝国人は帝国人なんだよな。

 

 分かり合えるし、善良だし、猥談も出来るし、冗談も面白いし、単純に美男美女だったりするし、品行方正だし、ついでに言えば、何処までも何か人間とは思えないくらいに優秀だし、いつも誰かを気に掛けるお人好しだし……なのに何処か自分達とはまるで常識が違う生物。

 

 だから、ネットではよくこう揶揄されるのだ。

 

 帝国人=不治の病の罹患者=聖女病、と。


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