ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第148話「宙への階段」

 

「~~~♪」

 

「あの……姫殿下?」

 

「どうした? エーゼル」

 

「随分と愉しそうだなぁって……」

 

「こういうのは男の子のロマンだからな」

 

「そ、そうですか。あはは……」

 

 ルイナスの中央区画。

 

 邸宅のすぐ傍に立った面積だけで3km四方はありそうな敷地内。

 

 帝都から引っ越してきた帝国技研の一部研究者達が車両であちこちに諸々の機材を運び込んで、ドラクーンにあれこれと指示をしている最中。

 

 倉庫の中には諸々の機材がズラリと並んでいた。

 

 巨大な機体を動かす大型のハンガー積載式のトレーラーやらドラクーンの装甲をオーバーホール出来る部品鍛造、再構築用の修理用機材やら、他にも大量の小型グアグリスが水槽内でフヨフヨしていたり、ドロッとした黒い粘体……大陸に落ちて来る巨大バルバロスをサイコロステーキにして喰らい尽したヤバイ・グアグリスさんの一部がお湯の出る廃品廃液を捨てる濾過装置に続く溝からデロンと顔を出してクテッと蒼力の再現装置で生み出された温泉を満喫していたりする。

 

「それにしても姫殿下用の新技術マシマシの現時点での最終装備。まだ、創ってる途中なんですけど……」

 

「いや、これは自分用じゃない。お前ら用だ」

 

「私達用?」

 

 目の前にはバックヤードの車両点検用の整備工場みたいに大型機材をロックして移動させるクレーンや整備用床下の溝の上に複数体のドラクーン用装備が置かれていた。

 

 全て今使っている当人達から借りて来たものだ。

 

「こいつはウィシャス、こいつはフォーエ、こいつはゾムニス、こいつはラニカのだ。大抵はいつも使ってないけど、一応支給して、休日には訓練させてたヤツ」

 

「ああ、それで朝から皆さん此処に」

 

「ああ、ちょっと借りるから、しばらく予備を着ておけと言っといた。まぁ、今日中に返すから、問題無いだろ」

 

「他のは誰のでしょうか?」

 

 他にも数機のドラクーン用の装備が幾らか置かれている。

 

「全員に使って貰う用だ。面白いものを手に入れてな。明日になったら、全員にプレゼントする。期待しておいてくれ」

 

「は、はぁ……それでどうしてギザギザしたナイフで何かカリカリ装甲を削ってるんですか? というか、ソレ自体超重元素製のクリスタルの刃を数千トンくらいの衝撃で一点に撃ち込まないと1mm削るのもやっとのはずなんですけど……」

 

「ああ、所有権を主張しつつ、今観測出来る限りの色々を詰め込んでる」

 

「観測出来る限り?」

 

「気にしなくていい。しばらくしたら、こいつらが勝手に変化して元に戻る」

 

「勝手に?」

 

 頭に?マークを浮かべたエーゼルに見つめられながら、新しい玩具を使う。

 

 今、観測出来る限りの全てを用いた情報塊。

 

 エメラルド・タブレットと不破の紐の先から伝わって来る高次元からのあらゆる情報が刃を通して今はグルーオンの制御で書き込めていた。

 

「ま、ちょっと早い誕生日プレゼントだと思って受け取って欲しい。諸々……今まで出来ていなかった罪滅ぼしって事もある」

 

「その……鎧はちょっと……」

 

「大丈夫だ。問題無い」

 

 高次元に直接干渉する媒体を手に入れた事はすぐに教授達に伝えていたが、今日一日は現物を自由に出来るよう輸送は明日にしておいたのだ。

 

 後で自分が創ったものの設計図でも送って量産可能かどうかも聞いてみよう。

 

 やはり、最後に信じるべきは準備であるのだから。

 

 *

 

―――無名山最高議会議場。

 

 無名山。

 

 そう呼ばれる山間部にある要塞と都市は広大な森の最中に存在する。

 

 様々な生物とバルバロスが暮らす森は彼らに木材と生物資源によって恩恵を齎し、周辺土壌は森からの恵みを得て百万人以上の人間を養う事が出来る農耕地帯を隣接させている。

 

 そして、山の麓から続く道の先。

 

 傾斜した山肌の中に続くトンネルを抜けた先に議場はある。

 

 行政区画の殆どは刳り貫かれたアリの巣状の地下建築に集約されており、議員が用いる議場も意思決定現場兼もしもの時の予備の司令部として使われている。

 

 そんな帝国式の円形議場の中心では針の筵染みた視線に晒された漆黒の少女が縮こまっており、その傍らのスーツ姿の眼鏡な女性議員。

 

 現実改変能力者部隊【ミスカード】の隊長が必死の弁明を終えて、汗を拭っていた。

 

「つまりだ。我々は君の部下の責任を負う形で彼の聖女の事実上の宣戦布告を受けて、支援者や交渉相手の大半から姫殿下のお誘いを断るのかと暗黙の下で圧力に晒されていると?」

 

「そもそもだよ。君の部隊掌握が温かった事は大目に見るとしても、相手側の意図が意味不明だ。こんな反省文を読まされて何を思えと?」

 

 議員達の一部からの声は至極真っ当だった。

 

 だが、それに反論するよりも先に議長が手を上げてから立ち上がる。

 

「諸君。あの彼女に限って、無駄な時間など我らに取らせるはずもない。彼の聖女殿は酷く合理主義であり、同時にまた人の感情を操る手練手管と社会の掌握に関しては遥か上を行く。そして、彼女が審議しろと言った以上はそれ相応の意味があると見るべきだ」

 

「議長。ですが……」

 

「君達も読んだだろう? 反省文の内容はこうだ。部隊のみんなが過剰な期待を背負わされている。一番先に戦わされて、一番先に死ぬ事になるなら、私が最初で最後になりたかった。例え、自分が死んだとしてもきっと倒す為の方法くらいは分かるはずだ」

 

『………』

 

 殆どの議員が押し黙る。

 

「まぁ、子供に見透かされる程度の我らだ。実際、そういう進言は後を絶たなかったし、ミスカード女史の能力を当てにしていたのは実働部隊の長である私もまったく否定出来ない。だが、聞いていた通りだ。彼女の予測では現実改変能力によってドラクーンを倒すのはかなり骨が折れる」

 

 声が周囲に響く。

 

 議員の誰もが苦虫を噛み潰したかのように自分達の無力さに対して思うところがあるようだった。

 

「そして、無名山の現実改変能力者の総数が凡そ2万に対してドラクーン及びそれに匹敵するリバイツネードも含めたあちらの戦力は通常のものを合わせても1000万以上。ドラクーン1人に関わっている間にあちらの打てる手は無限大だ」

 

 議員の一部が手を上げた。

 

「議長。だからこそ、少数精鋭による国家の上層部の直撃案をプランとして練っていたのでは?」

 

「実際有効だろうな。だが、それはつまり我らが暗殺程度の手で戦争を遂行する薄汚い犯罪者の子孫という事を露わにする事になるだろうな」

 

 ざわめく議員はいない。

 

 事実、彼らはそのような事を言われる事もあれば、それを自分で卑下して自嘲する事もある。

 

「少なからず、世間一般の大陸的な常識、というヤツはコレを許容すると思うか? しかも、勝てない。相手に致命傷を与えるだけの勝利しかもぎ取れないとすれば……我らを侮る者こそあれ、畏怖する者こそあれ、支配を望む者はいると思うかね?」

 

「それは……」

 

「しかも、あの聖女殿は先手を打って来た。しかも、完璧な先手だ。我らの切り札である部隊に対して圧倒的に現実改変能力者の数を割かなければ倒せないだろう存在を見せ付け、同時に世界中へ吹聴して回った。『わたくしは無名山と善き関係を築く為、その力を試したく思います』とな……はは、まったく……死刑宣告でもされた方がマシだな……」

 

「つまり、正々堂々たる態度の相手に対して卑怯なる無名山という形になると?」

 

「大陸で我らと交渉している者達とて、その殆どは無名山が理性的で話せる相手だから商売相手にしているだけだ。だが、あの聖女殿の堂々とした清々しいまでの宣戦布告を前にして、一般人は巻き込まない。決着は戦う者だけで付けようという言葉に対して、我らが暗殺染みた事をすれば」

 

「……一気に信用を失い、信頼を失う、か」

 

「そういう事だ。議員諸君。勝者は勝った者が決める事じゃない。この状況に至っては大衆が決める事だ。そして、我らに反抗する者を消し続ければ、その反発は我らを圧し潰すだろう。それこそ現実改変が出来ると多くの人間が知れば、我らはそれだけでも人々の信用を失う」

 

「………」

 

 議員達が押し黙る。

 

「自分達は身勝手な改変で人格まで弄られていないだろうか? 我らはこの相手に対して持っている感情すら制御されたものでは、創られたものではないだろうか? そう言われた時、君達は言葉で相手に安心感を与えられるか?」

 

 議員達はそれが今まで能力者の人員達に抱いていた感想を誰かに向けられるかもしれない。

 

 それが交渉相手からの基本となった世界を想像して僅かに汗を額に浮かべる。

 

「ミスカード女史には悪いが、人間は異なるモノを畏れる。それが自分を犯し得る力ならば、尚更だ。この無名山ですらそうなのだ。それを抱き込んだ我らが社会秩序の中、単独で生きられない以上、コレは圧倒的な現実だ。それにミュニト隊員」

 

「は、はい!!」

 

「君は一度失敗している」

 

「は、はぃ……」

 

「君の能力は類稀なるものだ。数値にして3000Hm……これは破格だ。現実を随分と捻じ曲げられる。死者の蘇生から人間の創造まで何でもだ。だが、実際にはドラクーンを消す事も出来なければ、攻撃を消滅させる事も出来なかった。攻撃が当たらないという事実までは創れても、攻撃が存在しないという状態には出来なかった」

 

「……はい」

 

「部隊が総動員されれば、防御に関しては何とかなるだろう。だが、能力が空間の距離に比例して弱まる以上、無名山全てを現実改変能力者でカバーしたとしても、食料生産用の農地は手放さなければならない」

 

 議員達も分かっていた。

 

 どんなに反則染みた手札があっても、出来る事には天井があるのだ。

 

「例え、無名山の人間の腹を空かないようにしたとしても、無名山そのものを現実改変で強化しても恐らく限界はある。そして、その限界に挑める人間が数百万単位あちらにはいる」

 

 重苦しい沈黙が議場に立ち込める。

 

「例え、禁じ手である現実改変能力者に現実改変能力者を作らせるという事をしても、我らは破滅する。理由は言わずとも分かるだろう。疑心暗鬼、差別、不安、怒り、憎しみ……これが能力者達の数の増大によって非能力者と能力者間で互いに増幅されたら、我らは崩壊まっしぐらだろうな……」

 

 議長の腰が下ろされた。

 

 片手を額に当てて、彼は困ったように溜息を吐く。

 

「我らに残された手札は2つだ。001の起動。そして、現実改変能力者及び地下施設内に存在する全ての切り札を用いて空の上の大地での死闘に勝利する事……だが」

 

 議員達の前で更なる絶望が告げられる。

 

「前者に関しても帝都にいる者から報告が入った。001起動は今まで想定していたよりもリスクが大き過ぎるというものだ。先史文明期の情報を手に入れたらしく。それには001の起動が即時我らの破滅に繋がる可能性が高いらしい」

 

「そんな馬鹿な!? 帝都に001の情報が!?」

 

「事実だ。しかも、かなり精度は高いと思われる。恐らくだが、あちらには先史文明期の情報がある程度揃っていると見るべきだ。あのバイツネードの跡地で収集された可能性も高い。もしもとなれば、001そのものが我らに牙を剥く事実をあちらが黙っているだけで我らは自滅する可能性すらあったわけだ」

 

 正に四面楚歌の状況に議員達が俯く。

 

 今まで001の起動を密かに準備し、何とか起動手前まで漕ぎ付ける事に成功していたのだ。

 

 それが一気に無に帰した瞬間であった。

 

「此処まで手札を縛られるとは思っていなかった。だが、もはや残された道が一つだと言うのならば、聖女に認めさせるしかない。O5-2よりの認可を以て、世界を滅ぼさない。他国に影響が出ない。戦場外に犠牲者が出ない。この三つの条件に限って全てのオブジェクトの使用を承認。何が何でもあの聖女殿の用意する駒を叩き潰す以外に無いだろう」

 

 ざわめきとどよめきが起きる。

 

「これの管理と使用は対処出来るミスカード部隊と隷下となる緑炎光を用いる特務部隊で連携して行う事で自軍の被害を最小限度にして運用する事にしたい。無論、君達議員が承認すればだが……これ以外の案は恐らく何を持って来ようと確率が低いというのは分かるな?」

 

 議会はそのまま進んで行く。

 

 隊員の不始末なんてものに関わっている暇はないとミスカード達はすぐに退場させられ、議論は使用するオブジェクトの選定作業へと進んで行った。

 

 議場からの帰り道。

 

 迷路のような電灯の照らす通路を歩く漆黒の少女とポニーテールの隊長は終始無言。

 

 だが、それに耐え切れなくなったようにシュンとした少女はポツリ呟く。

 

「ごめんなさい……隊長」

 

「何を誤る事があるものか。貴女の反省文を聞いていた議員達は見透かされていた事に内心、ゾッとしたでしょう。自分達の行いがどう見えていて、自分達が分かり易いくらいに能力者に憎まれるかもしれない対象だった事に衝撃を受けていただけです」

 

「………」

 

 少女が沈黙する。

 

 本来、現実改変能力者の大半は怖ろしい能力故に畏れられるものだ。

 

 だが、それでも今こうして一定以上の発言力があるのはミスカード。

 

 彼女が実績を積み上げ、組織内で地位を確保して、能力者達もまた人として生きているのだと広報しているからに他ならない。

 

「聖女とドラクーン。彼女達は強かったですか?」

 

「うん……武器も消せなかった」

 

「ヒューム値が高いのでしょうね。能力そのものは無いのだとしても、強固な現実を生み出す力が彼らにはある」

 

「ドラクーンの最上位層以外ならたぶん洗脳くらい出来ると思う。凄く時間は掛かると思うけど」

 

「止めておきましょう。そんな事をして、アレに本気となられても困ります」

 

「……隊長でも勝てない?」

 

「勝てないでしょうね。オブジェクトありならば、可能性もありますが……質と量が違い過ぎる。それに防御以外に能力を割いていると死ぬでしょう。攻撃はオブジェクトを用いてとなれば、勝敗はオブジェクト頼み……そして、わたしが知る限り、彼女を殺せるオブジェクトの大半はケテルクラスの理不尽をぶつけて世界を一緒に滅ぼす系統のものか。完全に相手を殺し得る手札のみ」

 

「……ごめんなさい。あのオブジェクト、没収されちゃって……」

 

「別に構いません。表向きは相手を絶対殺す刃で管理出来る程度の代物として登録されています。貴女が聞いた情報からしても、真実ならば勝てる要素の一つでしかない」

 

 通路の先。

 

 石造のエントランス内。

 

 人々が集まる中にも大勢から離れた数名の外套姿の男女がいる。

 

 ようやく議会の聴聞を終えた隊長と隊員を見付けた彼らが出迎えてくれる様子で笑顔なのを見て、少女は思う。

 

「……ごめんなさい」

 

「もういいから。行くわよ。ミュニト」

 

「うん」

 

 これはきっと裏切りなのだろうと。

 

 一人の少女はあの夜、一つの約束をした事を思い出す。

 

 自分の護りたいものを護る為の約束を。

 

 初めて自分を弱者にした相手からの提案。

 

 それを前にして少女は何を選ぶのかを選ばされた。

 

 聖女と少女の約束は静かに果たされていく。

 

 人知れず誰知らず粛々と。

 

 *

 

―――帝立首都大学第三講義堂。

 

「さて、君達にも為になる50年前の世界に付いての資料は行き渡っているようだな。では、一頁目から目を通してくれ。今回の歴史学のお代は書いてある通りだ」

 

 数百人の学生が並ぶ段状に無数のテーブルが列なる一室。

 

 半球状の中央にある最下段の先にある教壇には眼鏡の老人がにこやかな笑顔で黒板にチョークで文字を書き殴っていた。

 

 字が汚い事で有名な歴史学者でもある彼は正しく大学の生き字引。

 

 実は学生の頃から此処にいる数十年留年中の男だと貶される事もある名物教授。

 

 そんな彼の字はやはり汚いが、皆慣れた様子で資料を片手に見入っていた。

 

「何故、聖女は物語をつまらなくするのか、だ」

 

「せんせー。姫殿下への侮辱罪で毎年逮捕されそうって本当ですかー」

 

 ふざけた調子の女生徒にデレッとした表情を浮かべた老人が親指を立ててキラリと黄ばんだ歯を煌めかせた。

 

「勿論だとも!! 毎年毎年、不敬罪不敬罪煩いんだ。あの帝国陸軍情報部ってのは……今じゃ顔見知りでね。『またですか逮捕しますよ?』『いや~教育の為には敢て悪辣な事も言うべきところは言うべきだろうと思いまして~~表現の自由は尊重されるべきですよねぇ』なんてのが風物詩だ」

 

「あ、あはは……そ、ソーデスカ」

 

 茶化してやろうとした女生徒は引き攣った笑みで引き下がる。

 

「いや、君達には姫殿下が現れなかった『もしも』を考えて貰いたい。今、帝国は世界を席捲し、今や大陸をリセル・フロスティーナとして統治するまでになった。だが、その多くは一大スペクタクルや数多くの本来展開されるはずだったドラマ、多くの戦史を彩るはずの戦いを大幅に減らした」

 

 教授は黒板の端になにやら巨大なロール状の丸められた紙を貼り付けて、伸ばしていく。

 

 そこには横向きの阿弥陀くじのようなものが描き込まれており、事細かに生徒達が目を皿にしても微妙に見難い密度で情報と大きなトピックが書き込まれている。

 

「歴史にIFは付き物だ。分かり易く言えば、我らは常にもしもの怖ろしき怪物に淘汰される可能性を秘めており、我らが産まれてもいなければ、土の肥やしになっている可能性すらある」

 

 教授はニッコニコである。

 

「50年前。もしも姫殿下が産まれていなければ、我らはきっと敗戦国となり、数多くの国に蚕食され、別々の国に生きて、様々な主義主張に別れて相争う悪魔の鍋に放られたスープの具材のように混沌たる有様だっただろう」

 

 ズラリと並べられた歴史的な転換点トピックに長めの棒が当てられる。

 

「まず、姫殿下がいない事で最たる困難は技術力の不足だ。これは数百年から千年単位での技術の喪失を意味する。国力、軍事力、文化力、全てにおいて我々はあの方の恩恵を受けており、全ての点で君達は劣った生活をしていただろう」

 

 ピンと来ない学生に教授が棒を向けた。

 

「君、左端の最上段の君」

 

「は、はい!! 教授」

 

「君はもしも帝都の近くにゴミの山が出来て悪臭を撒き散らし、毎日生野菜や肉魚が食べられず、雑穀混じりの硬いパンが主食で副菜でずっと芋喰い生活。それが定着していたら、どう思うかね?」

 

「え? そ、そんなのはさすがに遠慮したいですけど」

 

「では、中央の下段、最前列の君。君は毎日塗る化粧品が猛毒で大学に通う内に突然死する仲間が大量にいて、数多くの女性が赤子を流産し、それが日常的であり、同時にまた男が女に対して数が4分の1の世界に生きる事を良しとするかね?」

 

「え、あ、教授の妄想……ですよね?」

 

「はははは、妄想だとも。だが、姫殿下がいなければ、我らは未だそのような時代に生きている事だろうな。帝国の端に生きていてすら、今は何処にでも郵便が、生鮮食品が、あらゆる物品が届けられる。だが、嘗て、そんなのはあり得ない事だった」

 

 肩が竦められた。

 

「嘗て、女性が塗る白粉は猛毒の粉であり、それは日常的に使われ、女性の多くが大陸で突然死する事はよくある事だった。男は戦場で半分以上は死んでいた」

 

 ゴクリと彼らはツバを呑み込む。

 

「いいかね? これはたった半世紀前の話だ。未開な技術と知識しか持たない帝国は戦争に勝ち続けていたから、人的損害は大きくなかった。だが、それも結局は姫殿下の祖父である大公閣下と戦の神たる皇帝陛下の怖ろしき先見性あればこそでしかなかった」

 

 老人が胸に手を当てる。

 

「姫殿下が多岐に渡って執筆された書物。書き残された公文書。そして、歴史を動かした手紙。書簡。憲法。六法。歴史書。生活雑学。料理読本。倫理道徳関連書籍、就業規則、安全規範。あらゆるモノが帝国を進歩させた……君達は歴史の積み重ねの上に生きている。これがまずは事実だ。43頁を見たまえ」

 

 紙の上に手が静かな様子で置かれる。

 

 それは1人の少女が無し得た偉業とその功績を分類別に系統化して、関連した事物と線で繋いだ図が数ページに渡って簡易に書き込まれたものだった。

 

「いいか。もしも、姫殿下がいなければ、彼の大偉人達は歴史書の片隅に埋もれていたはずだ。ドラクーンの総大将フォーエ殿ならば、北部諸国の片田舎で見出される事もなく死んでいただろう。黒騎士ウィシャス殿ならば、英雄にはなっていたかもしれないが、戦局を変えられず、東部、北部、西部の戦いを制したとしても、南部の反帝国連合の前に膝を屈して死後、英雄と祭られただろう」

 

『―――』

 

「もしも、姫殿下が救った彼の姉妹。女性初の大碩学エーゼル博士と帝国経済の女帝イゼリア女史。そのどちらかが欠けていれば、帝国は技術で他国に追い抜かれ、莫大な戦費で苦しみ。人々は革命を起こして亡国となっていたかもしれない」

 

 学生達がまたもやゴクリと唾を呑み込む。

 

「もしも、北部諸国を姫殿下が平定していなければ、我らは北部諸国を旧南部皇国との主戦場にしており、四方を敵に囲まれていただろう。東部の国々を味方に付けられたかも怪しい。西部は泥沼の戦いとなっていてもおかしくない。南部は激戦の末に国力は衰退……一連の“姫殿下の大戦”と我が国で言われる幾多の戦いで我が国は崩壊していたはずだ」

 

 教授が懐かしそうに目を細めた。

 

「見たまえ。君達の前にあるのはあの方がいなかった世界の我らの破滅の数だ。食料不足で崩壊。人口不足で崩壊。技術不足で他国に蹂躙。連合に敗北して国土が分割。そして、それらを何とか綱渡りで耐え切っても北部でのバルバロスの侵食によって大陸規模での文明崩壊。大襲撃を受け切れずに消滅。途切れたルートは時系列。そして、帝国が滅んだ回数だ」

 

 彼らの前に広げられた無数のルートには帝国の最後が書き込まれている。

 

 それは真に迫る程緻密な文字で書き込まれている。

 

 怖ろしく現場を見て来たかのような事実にも見える具体的な記述の羅列であった。

 

「良いかね。君達は最良の時代に行き着いた。五十年。この世界は緑の空に侵され、アウトナンバーによって蹂躙された。だが、それすらもあの方の力が破滅を圧し留めていなければ、我らには一欠けらの希望すら無かったのだ」

 

 教授がドンドンドンッと五本にも及ぶ黒板に張り付けたのと同じロールを講壇の前に立て掛ける。

 

「きっと、姫殿下がいなければ、世界はもっとドラマチックだっただろう。数百年後の平和な時代には帝国ではない何処かの国で語られる程に鮮やかな滅びの歴史そのものだっただろう」

 

 教授の視線は何処を見ているのか定かではない。

 

「帝国の英雄は連合に敗北し、敵に讃えられ、帝国の姉妹は男に傅く貞淑な女性として人生を終え、何一つ帝国の生存に寄与する技術も経済力も残さず。帝都は正しく無人の滅びた史跡として……いつかの国家に歴史を語られていたのだ」

 

『―――』

 

「君達の趣味は何だ? 書籍は読むか? 娯楽は好きだろう? 漫画か? アニメか? 模型か? 電子ゲーム? ファッションか? 食道楽? 遠出しての行楽? 帝都のテーマパークでのアトラクション? 映画? ラジオ? 戦史研究? 昔ながらの卓上遊戯? 海水浴で女性の艶やかな姿でも楽しむか? それともサークル活動で様々な人々と交流でもするか? だが、な」

 

 老人の瞳は誰が見ても正気でにこやかだった。

 

「これは全て姫殿下が存在していなければ、この現代に楽しめているものは殆ど無い。古き良き時代の古物を眺めて暮らすじーさんのような若者はおらんだろう? 姫殿下の齎した現代語は帝国技研に姫殿下が連れて来た伝説の科学者。ゼド教授が用いていた独自言語。ゼド語を用いた横文字と呼ばれる文化だが、それすら無かったら、我らは今どんな古臭い喋り方をしていたものか。いや、大陸そのものがそうだっただろうな」

 

 教授が少しだけ息を整える。

 

「文化は一朝一夕で育たない。言語は一朝一夕で造れない。法律も規律も道徳も倫理も技術も物流も何もかも……積み上げる者が無ければ、決して成し得ないのだ」

 

 彼らは知る。

 

 思っていたよりも自分達は誰かの努力の上で生きているのだという事を。

 

「いいかね? 姫殿下はもはや人間では不可能な速度でそれらをこの時代として築き上げた偉人なのだ」

 

 帝国人の誰もが知っている歴史は知れば知る程におかしなものだと他国からは言われる。

 

 そして、たった一人の唯一人が無し得た奇跡としてよく話のネタにされている。

 

「それが誰に出来る? 数百年、千年、もしかしたら、それ以上の長い月日を大勢の人々が積み上げて初めて到達する世界。それをたった一人で己と信頼する誰かに積み上げさせた功績。これを以て現代なのだ。帝国なのだ。今なのだ。だから、歴史は面白い。あの方は現実にいてはならない程に異常な存在であり、同時にまた神すら慄く真なる力を秘めた狂人でもある」

 

 これは確かに帝国陸軍の情報部から目を付けられるだろうという言葉の数々に学生達は教授が名物教授と呼ばれる所以を理解した気がした。

 

「私は敬愛しているよ。心の底からあの神より畏れるべき方を……人の心で為せぬ事を為し、神すら殺すだろう力を持ち、それでもあの方は人間であろうとしていた」

 

 学生の1人が思わず。

 

「教授は姫殿下と直接お会いした事があるのですか?」

 

 そう聞いた。

 

「ああ、会った事があるとも!! あの熱かった雨の日に。戦場で帝国人を止めた者達をあの方が処罰し、血肉の泥に変えた時も見ていたとも……無限にも思える東部戦線に現れた亡霊達を炎の絶壁で焼き滅ぼし、その炎の城塞の上で戦う姿を見ていたとも。まったく、ああ、まったく、今も目に焼き付いて離れない!!」

 

 教授は血走った瞳で虚空を見上げる。

 

「あの日、あの方を見て理解したのだ。あの方の輝きはあの方が滅ぼした滅びの数だけ彩られていると!! あの方が覆した滅びは色褪せた平和へと堕落する!! あの頃のような鮮やかな死と慟哭と悲劇に溢れた世界はもう戻ってこない!! それはきっと人類にとっては誇るべき、喜ぶべき事なのだろう。だが、それは同時に多くの私のような狂人に絶望も与えたに違いない」

 

「きょ、狂人?」

 

「ははは、そう退いてくれるな♪ 簡単な事だよ」

 

 教授がにこやかに微笑む。

 

 今までの姿とどちらが彼なのか。

 

 あるいはどちらもだからこそ、全てが正反対な表情を持ち得るのか。

 

「君達が書物の中でしか知らない残虐。君達が知らない狂気と冒涜と悪徳に塗れた世界は確かに人間には優しくなかったが物語として素晴らしい程の悲喜劇だった。それを灰色にしてしまう姫殿下はそれら滅ぼした世界を糧に輝く太陽!! そう、狂気を燃やし尽した合理、理性という新たなる時代の、新たな世界の狂気の源、新世界に燦然と君臨して旧時代の影を照らす太陽なのだ!!!」

 

 その完全にあちら側に行ってしまっている教授のドラマチックな両腕を上げての熱弁に学生達は正しく狂人という感想しかなかった。

 

「おっと、悪い悪い。君達にはまだ難しかったかな? 姫殿下の本質とは我らにとってはとても優しいものだ。だが、それは同時に古き世界を滅ぼし、新たな世界を創造する古の時代の生物にとっての真なる邪悪。破壊の権化とも言える。それが旧世界を滅ぼした時、産まれたのがリセル・フロスティーナであり、この時代であると私は考えている」

 

 教授が汗を拭っているとすぐ傍の扉からツカツカと外套姿の30代くらいの男女が入って来ると無言で何やらゴツイ手帳を見せて、連行していく。

 

「済まない!! だが、心配しないでくれ。この人達に連行されている時間は労働時間免除とちゃんと法律に載っているからね。では、本講義のレポート提出は次の講義で!!」

 

 ざわめく学生達の1人が名状し難い顔で連行されていった教授が去った扉を見やる。

 

「あの手帳……」

 

「何か知ってるのか?」

 

「あ、ああ、アレたぶん心理調査庁の法務執政官の手帳だ。チラッと天秤のマークが入ってた」

 

「え、それって……アレだろ? 心理的な資質の無い人材を公的部門や公的部門に影響を及ぼす組織から直接排除する権限があるって言う。普通の心理適正調査やってる国営カウンセラーの人達とは違うって言う……」

 

「ああ……あの教授、マジで狂人なんだな。思想系の執政官は確か公教育ではかなり慎重に色々やるって法学部のヤツが言ってたけど……」

 

「うわ。細か過ぎて見えないレベルで書き込まれてる……」

 

 どよめく学生達は残された教材の後片付けをしようと壇上に押し掛け、詳しく書かれた様々な文字列を、破滅の系統樹とでも言うべき情報の塊から読んでいく。

 

 そして、それを作った当人は呆れた瞳で何回目だコイツみたいな顔をした帝国の暗部とも呼ばれる心理調査のプロフェッショナル達に狂人の強行を止める目的で連行されながら、ニヤリとしたのであった。

 

「“先生”。元心理調査庁の人とはいえ、あんまり普通の学生にそういう事は教えないで下さいよ。僕らも仕事なんですから……」

 

「いや、すまんすまん。久しぶりに熱くなってしまった。はっはっはっ♪」

 

 嘗ての教え子達に連行される老人は幼いとさえいるかもしれない悪ガキの笑みを浮かべて肩を竦めるのだった。

 

 *

 

【スキル。オールド・スペルを習得しました】

 

「おお、システムメッセージさんが自動で……今までのゲームの比じゃないな。コレは……」

 

 近頃、リセル・フロスティーナの電子掲示板上では聖女の話題か。

 

 もしくはネットに接続して行うゲームの話で持ち切りになっている。

 

 ゲームの名は存在しない。

 

 タイトルロゴも無い。

 

 しかし、無料で出来るゲームであり、ネット登録者のところには住所に必要個数の専用ゲームデバイスが届く事になっている。

 

 耳元に装着する耳の輪郭を模した蒼いクリスタルのようだがフルフルしているソレ。

 

 接続器と呼ばれるものを装着して行うと電子空間上に意識が投影される、と言うのだ。

 

 だが、今の技術でも真面目に作れるものか。

 

 と、識者が首を傾げるような代物でもある。

 

 だが、ソレが帝国技研から送られてくるという事実に則り、無料のそのゲームが何らかの新技術のテストとして作られた技術実証用のプログラムだと推測されてからは無料なら幾らでもやればいいとばかりに大人から子供まであらゆる人々が暇を持て余しただけ参加し始めていた。

 

「それにしてもフィールド広過ぎじゃね?」

 

 始りの大地。

 

 そう呼ばれる地域はなだらかな平原と丘陵を誇っていて、初めに人々が到達する地域だ。

 

 だが、ゲーム内において既にその場所から広がる世界が凡そ302万km程の巨大な惑星であり、数万㎞単位の大陸が無数に存在しているとか。

 

 宇宙にまで出られるという事実を元にプレイヤーの多くが広過ぎると俗に“ワールド”と呼ばれる世界を賞賛する。

 

「つーか、その人の行動がスキルになるとか。言語での表記の自動生成とか。翻訳がやたら完璧だとか。どう考えても今の技術でもヤバイよなぁ」

 

「つーか、一部の暇人は魔法使って惑星超越旅行してるらしいけどな」

 

「何処の技術屋だよ。それにしてもどんな場所まで広がってるやら……」

 

 ワールドには魔法と呼ばれる技術体系が存在し、その種類や系統は細かく分ければ数万単位の上、ついでのように新しい魔法や技術を創始する事すら可能だった。

 

 蒼力の亜種という立ち位置で理解した人々は多い。

 

 事実、蒼力は大陸中で聖女の子供達が用いる為、災害派遣やアウトナンバーとの戦いが起きた地域では救いの象徴のようにも見られる超常的な力と見なされている。

 

 勿論、帝国技研が出す科学的な知見に基いた能力の内実は発表されているが、それを理解出来る頭脳を持った人々は大陸でも極少数だ。

 

 そんな事情からゲーム内でも魔法というのは案外あっさりと受け入れられた。

 

 そして、科学技術と物理法則がしっかり存在し、ゲーム内だと言うのにほぼシミュレーション系統のゲーム以上の生産開発を独自に行う事も出来るという事で人々の余暇の暇潰しとして今や大流行中なのである。

 

「ゲーム内時間が20倍だからなぁ……トイレ行ってる間に諸々終わってるとかザラだし」

 

「団体行動前は飲む出すは基本とか言われてっから」

 

 組織の構築。

 

 技術の開発。

 

 戦争を起こせもすれば、非道な振る舞いをする事も出来る。

 

 また、それに対しての対応を行えば、賞賛され、また多くのスキルやアイテムも手に入る。

 

「あらゆるイベントが自動化されてるらしいけど、エヌピーシーとか殆ど人間と変わらん思考回路で接してくれるからなぁ」

 

「つーか、悪役すら色々やって終わったら、礼儀正しく頭を下げてくれるゲームですよ。ワールドは……」

 

 人間と違って最初からゲーム内に用意されているNPCの殆どが良いヤツという事でも人々には認知されており、彼らによってゲーム内でのイベントが熾ると劇中芝居のように良いプレーが虚空に映像を映し出すウィンドウ上で全世界公開され、ドラマチックな様子が放映されて反響があると放映された人物達に大きな資金やアイテムが与えられる事もある。

 

「18禁のところは個人に確認取るらしいしな!!」

 

「それで稼ごうってのがまずスゲーよ。つーか、18歳以上で同意さえあれば、そういう系統のスキルからゲームから行為から、諸々が現実と同じとかさぁ」

 

「はっはっはっ♪ 男でも女でもキャラを作れるからなぁ……この間、いいなと思ってたヤツがネカマのジジイだった時の絶望をお前も味わうがいい!!」

 

「お、おれはアレだ!? そういうのよりもオリジナル・モードの開放が先だから」

 

「あらゆる自身の設定を改造出来るアレか? でも、かなりやり込まないと無理なんだろ?」

 

 現在、名も無きワールドと俗称されるゲーム内には3つのモードが存在する。

 

 一つがデバック・モード。

 

 一つがオリジナル・モード。

 

 一つが標準モード。

 

 その中でもオリジナル・モードは極めて現実に近しい上で自己をカスタマイズ出来る究極のやり込み要素として一部の廃人御用達の代物となっていた。

 

「つーか、現実の科学技術やあらゆる知識に詳しくないと弄っても意味が分からんレベルだ。遺伝子から物理法則から超重元素の取扱いの基本知識から……作る人種やオリジナル種族の作製には膨大な関門がある。まず遺伝子、人体、蛋白質のあらゆる知識を修めなきゃならん。必須科目が膨大過ぎる。何だよ……医大に10年通えってのかよって愚痴る連中が多いからな。エヌピーシーに講義受けてる奴らなんかもう完全に医者か研究者みたいになってるし」

 

「そうだなぁ。それ専用のイベントがそれなりにやられてるからな。レアイベは一部の優秀なプレイヤー評価されてないと出て来ないらしいが、ゲームなのにゲーム内要素を掘り下げると壁がなぁ。本人の資質によって滅茶苦茶左右されるのはアレだよな……」

 

「そもそも世界で初めて〇〇したヤツ、とかが保有制限スキル。所謂“初めて系”を持ってるからな……同じスキルでも派生と亜種で数百種類はあるって言われてるし、それを習得出来ない場合も多い」

 

 男達が溜息を吐く。

 

「……はぁ、やる事多過ぎ……一体、帝国技研は何でこんなゲーム作ったんだろうなぁ」

 

「今、使ってるデバイスを解析してるリアル科学者連中の見解だとクッソ高いはずの超重元素製のクリスタルが素材で超精密特殊加工された代物だ。無制限配布されてる時点でロクな事じゃないって話だぞ」

 

「何かダメなんか?」

 

「今までだと今使ってるデバイス一個が10億じゃ利かない額するらしい。よしんば作れたとしても、帝国技研程の精度が出せるはずもなく……」

 

「じゅ……マジかよ……そんなクソ高いもんだったのか」

 

「弄ろうとするとクリスタルが崩壊するから他の用途にも使えん。ただ、コイツを使えば、既存のあらゆる映像や音声をコレ一つで脳内投影出来るし、ついでに複雑なオペレートが必要な動作もスキル動作の補助が現実で再現可能になるんじゃないかって言われてる」

 

「つまり、帝国の次世代技術、戦闘技術の実証実験?」

 

「その可能性が高いようだ。今、知識以外は現実に持ち出せないし、現実とゲーム内でリンクするのは意識だけだが……通貨を筆頭にして情報などが現実の要素とリンク出来るようになれば、生活環境は一変。ついでに肉体を内部のシステムで動かしたり出来るようにもなる、かもしれん。まぁ、そうなったら“やべー事になる”のは間違いないだろうがな……」

 

「う~~ん。ホント、帝国技研は悪の大帝国の秘密研究所だなぁ……」

 

「ははは、今更だろ。ドラクーンとリバイツネード連中の装備なんざ通常兵器の数十世代先の威力と精度があるらしいし、中身をリバースエンジニアリングしても、帝国で教育を受けてない技術者にはまるで何がどうなってんのか理解不能レベルの超高度技術が使われてるんだから」

 

「ま、まぁ……今の民間研究者が理解出来るのは30年前以上の軍事技術で精一杯らしいから。オレも大学出てるけど、アレは理解が追い付かん。軍事技術って言っても限度があるだろ」

 

「お? お前はそっち系なのか? オレもなんだがな。ちなみに大学だ」

 

「マジか? オレは高専」

 

「ふむ。じゃあお前に『リアルタイム標的分子生成用多重原子フィルタリング被膜における超重元素D-312系統触媒へのプラチナ合金の利用方法』とか言っても分かんないか……」

 

「なるほど分からん!!」

 

「ちなみにオレも半分くらい分からん。言ってる事とやってる事の大体は分かるけど、それがどうしてそうなるのかが分からん。ちなみにこれ単なる水の濾過装置に付けるフィルター関連の話なんだぜ?」

 

「え?」

 

「簡単に言うとだな。あらゆる水分子をどんな状況からでも液体状の物質から濾過してくれる魔法のフィルター君を作る為に帝国がやってた重要な兵器製造要素研究の枝葉にあるもんだ」

 

「兵器研究? 水の濾過装置のフィルターの話、なんだよな?」

 

「ああ、分かり易く言うとだ。水素原子だけを化合物内から濾過する時に他の分子を除去するのが面倒臭いから水分子のみを化合物の中からターゲッティングしてピンポイントで抽出する方法を考えた方が無難だって言う逆転の発想で生まれたシステムがあってな。そいつに搭載されるフィルターに使われる触媒である超重元素にプラチナを使って効率を高め、水の生成する量を増やしますって事な」

 

「はぇ~~~もう付いてけない世界だわ」

 

「ちなみに兵器にどうして濾過装置が必要かって? はは、帝国お得意のドラクーン用のハイフォーマット・アームズ内の生命体から輩出される各種の老廃物を自己完結して処理、再使用する為だ」

 

「ドラクーンの鎧に使うのかよ!?」

 

「ちなみにコレ民生品になったらクッソヤバイからな。今はグアグリスで水濾過してるけど、グアグリスが連れてけないような極限環境だと溶岩、つまりマグマや岩石、ガスとかから水を生成出来る、らしい」

 

「―――何かもう何でもアリだな」

 

「ちなみにコレに必要な知識だけで7つの学問の博士号がいる。オレは一つが限界だった」

 

「帝国の科学者は化け物か?」

 

「あっちだとな。帝国技研の研究者ってのは一つの学問を突き抜けた本当の天才か。幾つも学問を掛け持ちする天才じゃないけど、本当の超秀才か。世紀の大発明をやってのけるマッドしかいないぞ」

 

「ちなみに何でそんなに詳しいんだ?」

 

「帝国技研本部の採用試験は倍率7倍だが、その七倍に落ちる連中は大陸の最上位知識層0.1%の狭き門に入れた連中。だが、凡人は主要研究以外の地方の関連研究所群に行く。そっちは70倍だが、そこにも落ちるヤツがいるという事だ」

 

「ああ、帝技研の受験者だったのか……」

 

「ちなみにそれなりな工学部の大学院で研究者してた博士号取得済みの人間から一言あるとすれば、70倍のところでも連中バケモンだわ」

 

「具体的には?」

 

「採用試験の内容がさ。お題である素材で何か適当に面白いもん作って来い、なんだよ」

 

「は? 何ソレアバウト?」

 

「これがヤバくてなぁ。違法な事しなきゃ何造ってもいいと言われて作って来たもんをズラッと並べられるんだが……入れた連中のがかなりとち狂ってる」

 

「具体的には?」

 

「指輪とか槍とかヤスリとか」

 

「?」

 

「放射性廃棄物を合法的にせしめたヤツが超重元素と混合して放射線が出ない宝石みたいな輝きの人口的なクリスタル作って来て、そいつを宝飾品にしてみました。とか」

 

「うわぁ……」

 

「明らか木製なのに超重元素製の合金の壁に傷を付ける槍とか」

 

「どうやったら出来るんだよ。ソレ……」

 

「木材の表面を単分子化するコーティング剤作ったんだと」

 

「何かヤバイのは解った」

 

「ヤスリはアレだな。何でも削れる水ヤスリだな」

 

「は? 何ソレ?」

 

「本人曰く水ヤスリだって言い張ってたぞ。高圧水流のカッターみたいなのがあるんだが、そいつを改造して水素原子を含ませて脆化させる水素脆化ヤスリを開発して来て、それで一時間掛かって超重元素合金を1mm削ったら、合格だった」

 

「何かもうよく分からんのだが……」

 

「こういう連中が地道に努力した結果として目も当てられない狂気のエンジニアリング力を要するのが帝国技研なのさ。そりゃ、宇宙に100km級の人工物くらい出来るわな。その内、惑星まで造りかねんと思うのは考え過ぎにも思えない……」

 

 2人の男が巨大な大陸にある小さな街の路上で空を見上げる。

 

「魔法かぁ。現実の方がよっぽどヤバイよなぁ」

 

「ああ、違いない」

 

 彼らが見上げる空には月がある。

 

 その上にはヘンタイな技術力とスキルを以て宇宙に飛び出したプレイヤー達の街が薄く微かに地形として見えている。

 

 巨大なクレーターの最中にある其処が銀の輝きを発している様子はまったく進歩というのが現実でもゲームでも関係なく人類にとって普遍な真理である事を教えてくれていたのだった。

 

 *

 

「は~い。列はこちらですよ~~帝国移民局のフロアはこちらになります~~」

 

 聖女、移民を募る……の報は世界を瞬時に百周した。

 

 ついでに言えば、人類存続と宇宙開発時代に先駆けた都市ルイナスへの技能職での応募は即日、5万人態勢の帝国移民局を筆頭とした行政によって振り分けられた。

 

 命の保証をある程度しか出来ない夢と希望と浪漫と聖女が住まう都市。

 

 これが謳い文句である。

 

 主義主張宗教の原理主義を都市に持ち込まない事。

 

 世界最先端の技術と理論が集い、あらゆる危険と隣り合わせながらも、その最先端の恩恵を受けられる。

 

 これを承知で来るならば、何人も聖女と共に過ごす事を許される。

 

 との話は大陸では話題の一つであり、毎日2万人近い移住希望者が様々なテストを受けて資質毎に割り振られた職業適性を渡されて、ルイナスのあちこちで自由に居住を開始していた。

 

 住居は無料。

 

 ただし、相続は家系が続いている限りは行えるが、家系の相続者が実居住する場合に限る。

 

 この条件で入って来た殆どの人々は都市のあちこちに開設された建設途中の外延部から住み始めていて、日に日に広くなる都市の最中に満ちていっていた。

 

 現代の立身出世が可能とあれば、若い人材には新天地。

 

 これを前にして各地の大企業から中小企業まで続々支店を進出し始めており、都市外縁部の生活インフラは次々に稼働。

 

 たった一週間で外縁部の都市は賑やかさを増しており、帝国語が公用語となった都市の内部には人がいない地域を探す方が難しいという状況に陥っている。

 

 大陸の人口はこの50年で爆発的に増えた。

 

 が、それを養い続けられるだけのインフラが置かれており、都市計画に際してアウトナンバーの襲撃が加味される事で適正な都市の居住人口が下がっていた。

 

 このような状況から都市よりあぶれた人口は大抵が大陸中央部に位置する国際商業路近辺の自治州に向かう事が多かった。

 

 しかし、今はその殆どが行先をルイナスに変えており、『しばらくはその傾向が続くだろう!!』と、経済評論家を初めとした多くの識者は都市の人口増加を類推している。

 

「どうだ? ジーク。街の様子は?」

 

「良さそう。少なくとも悪い感じはしないわ」

 

「そうか。各種のテコ入れも終わったし、新しい生活様式と諸々の訓練も始まったし、しばらくは宇宙移民用の第一世代の育成に集中出来そうだな」

 

 都市の中央に聳えるハチの巣状のプレートが段上に列なり、下層部が聳える塔のように見える一角は聖女の居城なんて言われているが、実際には巨大な区画が連結されれば、地下に殆どが埋没する事が決まっている区画だ。

 

 まだ、外縁部からは見えないが、大穴が塞がって来れば、多くの人間が中心領域にある区画に立ち入る事が出来るようになるだろう。

 

 全高数百mという巨大な大穴の最中に造られる都市の9割は地下都市として運用される。

 

 多くの区画が自己完結した一枚のプレートの上に居住区画、生産区画のような区分であらゆる部門の要素を詰め込まれた独立稼働可能な非効率性を持っているが、それも結局は今後の宇宙開発時に大都市圏と呼べるだろうルイナスが宇宙に上がる事を示している。

 

 要は攻撃で他の区画が滅んでも1区画残っていれば人類は滅んでないと言い張れる。

 

「アルジャナ」

 

「は、はい!!」

 

「月への遠征隊の準備が終わったら、お前にして貰いたい事がある」

 

「な、何なりと!!」

 

 聖女の居城。

 

 今も機械と人が立ち働く地域の端。

 

 プレートから見渡す限りの大穴を眺める少女に言われて、背後の青年が畏まる。

 

「お前にオレの留守の間、ウィシャスの代りに留守を任せたい」

 

「は、はひ?!! へ、あ、そ、その、ど、どどどういう事でありましょうか!? じ、自分は未だ若輩ですし!? 此処はもっと相応しい方がいるのでは?!」

 

「勿論だ。お前よりも相応しい奴らは大勢いる。だが、それは都市を護る事に関してだけだ。この新しい邸宅とそこに住むあいつらを護る事に関してじゃない」

 

「ッ―――」

 

「此処を護るという事は都市を護るという事だ。オレがいない間、この都市の機能中枢と機密が置かれた邸宅は信頼出来る人間に任せたい」

 

「か、畏まりました!! お、畏れ多い事ですが、姫殿下のお頼みとあらば必ず!!」

 

「此処にはもしもの時の為の殆どの仕掛けを置いてある。此処が落ちない限りはどんな相手が来ても都市が崩壊する事は無い。勿論、政治だの経済だのをお前にさせるわけじゃない。そっちはそっち専門で詰めてくれる人材を手配してる」

 

「遂に……行かれるのですね」

 

「ああ、無名山側から日時の同意が来た。1か月後にはまず空の上で宴会だ。その後は無名山地下に向かう。そして、それが終わったら、この星の中心領域への探索に出る。全部終わらせてから月に向かう予定だが、宇宙開発用の諸々の技術の詰めはエーゼルと教授達が主導で戦力も整えてくれてる。此処はその技術を生かした宇宙開発の要だ……未来を託す場所はお前に任せた」

 

「了解、致しました」

 

 青年が感無量な様子で畏まり、頭を垂れる。

 

「取り敢えず、宇宙開発関連の資料には全部一通り目を通しておいてくれ。全て覚える必要は無いが、全体像を知っている人間は増やしておきたい。部屋に機密資料も全て運ばせておいた。仕事に掛かってくれ」

 

「は!!」

 

 アルジャナ・バンデシス。

 

 嘗て一人の聖女が政治を行うと覚悟を決めた時、その切っ掛けとなった男の孫は自らの力の限りを尽くすべく。

 

 背後の区画の奥にある邸宅へとリーフボードで去っていく。

 

「……それで何しているの? 此処から人払いまでして」

 

「危機の感知能力は高いつもりだ。だが、同時にそれが面倒事になる事もある」

 

「面倒事?」

 

「オレがいない間だけ必ず何処かの間隙で襲撃が発生する。四つの力もしくは無名山側からのイレギュラーだ」

 

「……何か頼みでも?」

 

「此処が襲われた場合。お前にあいつらの行き先に関しては全権を託す。他の事に関しては他の連中が其々担当するが、舵取りはお前次第だ。ジーク……」

 

 五十年前から変らぬケモミミの彼女がジト目になる。

 

「さっき、此処を護り切れって言ってたのに?」

 

「事前準備の一貫だ。確率の話はしないでおくが、あいつも含めて全員死なせるな。それと出来る限りはやっていくが、高確率で都市が護り切れない場合には都市自体を緊急で稼働させろ」

 

「稼働? それって例の……」

 

「ああ、最初に説明しておいた機能だ」

 

「大変な事になるのは確定って事か……」

 

「現在、都市の各積層フロア毎に議会を置かせて、1階層100m毎に7名の代表者、全6階層合わせて42名で都市中央大議会として発足した。これに1人お前を加えて43名が都市の運営決定権保有者だ。この事は連中にも伝えてある」

 

「呆れた。人が知らない内に……そもそもまだ例の機能は殆ど造れてないって話じゃなかった?」

 

「思っていたより歴史の流れが速い。恐らく襲撃時には6割強まで都市自体の機能は埋まってるはずだ。人口自体も思ってたより多い」

 

「……代表者でも何でもなく。都市中枢部の管理者って事でいいのね?」

 

「そうだ。お前のとこの主に話は通してある」

 

「……はぁぁ、了解しました。姫殿下」

 

 ジークが肩を竦めた。

 

「頼む……」

 

「まるでこれから死にに行くヤツみたいね」

 

「悪いが絶対は何事にもない。だからこその頼みだ」

 

「お代はくれるのかしら? 聖女様」

 

「考えておこう。クッキー一枚でいいか?」

 

「そこはせめて勤続年数に比例して欲しいわね」

 

「解った……」

 

 軽口を叩き合った2人の間に苦笑が零れる。

 

 そして、聖女と呼ばれ続ける存在は此処から先の歴史に喧嘩を売るだけの力が必要かと己の力を開放する。

 

「?」

 

 両手がパンと胸の前で合わせられ、何かに祈るかのように目を閉じた白い少女の周囲が騒めいていく。

 

 何もない空間に張り詰めた緊張感に息を呑んだジークが目を見張る。

 

「この姿ともお別れだ。此処から先はいつでも全力が出せるようにしとかないと会話で時間を稼ぐのも憚られる事態ばっかだろうからな」

 

 蒼力とも緑炎光。

 

 そして、黒い光のようなものが少女の体に纏わり付いたかと思うと。

 

 少女の体がまるで上から剥がれるかのようにペリペリと音を立てて衣服も肌も捲れ上がっていく。

 

「?!!」

 

 そして、スルンッとまるで脱皮でもするかのように罅割れた背中から抜け出したソレが脚を一歩前に踏み出した時、破られた殻のような少女の一部だったものが瞬時に煌めきと化して蒼力に取り込まれ、足元から渦を巻いて肉体へと巻き付いて行く。

 

 白い肌、白い髪、それを彩る肌の上のラインは嘗ての罅割れた侵食痕が遂に一体化したかのように肉体内部に組み込まれ、脚先から体を覆い尽す幾何学の象形と化し、それに付随する黄金と蒼のラインが肉体の局部や肌を飾るように浮き上がり、飾っていく。

 

 乳房は金と黒、臀部は蒼と黒、腹部から胸部は三色が象り、目元から側頭部へとルージュのような嫋なラインが牽かれて化粧のように施される。

 

 だが、少女は今やそう呼べぬ程に大人びた体付きになっていた。

 

 だが、大人とも少女とも言えぬだろう花開く寸前の蕾を思わせる体付きは16、17くらいだろう。

 

 臀部も胸元も控えめとも慎ましやかとも言えぬ年頃のよう。

 

 そして、最後には侵食痕と呼ばれていた全てのラインがゆっくりと白い肌へと同化して消えていく。

 

「質量の完全充填を確認。これでしばらくやろう」

 

 足元から自分だったモノを蒼力で編み上げて、いつもの軍装を纏い。

 

 最後に虚空で編み上げられたツバ無しの帽子を虚空で掴んで被る相手にジークが口をパクパクさせていた。

 

「あ、う、ぬ」

 

「実は体の作り替えは予定してたんだけどな。今まで自分の肉体に補填する質量をずっと作ってて、さっき完成したから年齢上げてみた。骨格やら諸々全部に今までの侵食痕を取り込んだから色々とアレだが、こっちの方が防御力高いんだ」

 

 不破の紐が付いた片腕に嵌めるリングとエメラルドタブレットを床から拾って付け直した相手。

 

 どう見ても聖女(10代後半バージョン)を前にしてもう何から突っ込んでいいのか分からなくなったジークは最後にガクリと肩を落とした。

 

「さ、帰るぞ」

 

 こうして聖女の新たなる旅路は始まるのだった。

 

『わ、我らの可愛い小さな姫殿下がぁあああああああああ!!?』

 

『ひ、姫殿下が大きくぅううう!? びぇぇえええぇぇぇえ!?』

 

『ご主人様。ごはんー』

 

『ひぅ!? シュ、シュシュシュ、シュウが大きくなっちゃった!? せ、せっかく着せ替え用の服を一杯作ってたのに!?』

 

『何でやねん!? いきなり、成長して帰って来るとかあり得へん!?』

 

『おねーちゃん。今までで一番関西弁っぽいよ』

 

『姫殿下も遂にゴニョゴニョをお使いする年齢に!? こ、ここ、これは一大事です!? 今すぐに全軍に姫殿下用のゴニョゴニョをいつでも戦場で使えるよう装具に入れるべきとお伝えしなければー!!?』

 

 メイド達も含めていつもの面々が目を白黒させながら、暴走するのを何とか止めつつ、白い聖女様は溜息がちに事態を収拾する。

 

 そんなに小さいのが良かったのかと呆れながら、着せ替え人形化を避けられた事にホッとして、とにかくまず生暖かい瞳で帝国用に50年前作った雑穀式赤飯を炊こうとするメイド達を宥めるのは……少なからず……バルバロスと戦うよりも重労働だった事を当人以外誰も知らない。

 

 *

 

―――リセル・フロスティーナ定例議会。

 

「バイツネードの排除により、大陸の安定度は上がりました。ですが、未だ四つの力を筆頭とした文明初期化プロセスのツールたる神の遺産達の存在は確認されており、各地で活性化報告が相次いでいます。具体的には強力なアウトナンバーとも違う新規発見のバルバロスの出現や各地の先史文明遺跡の破壊が謎の見えざる力で行われるなどです」

 

 議会のあちこちのディスプレイにその画像や映像が映し出される。

 

「これを帝国技研では四つの力がバイツネードの当主を用いて行っていた文明制御を自分達で直接行い始めたからであると結論付けており、これらの力の排除の為の戦力増強は急速に進んでいます」

 

 ドラクーンの最新の姿が周囲に表される。

 

「ドラクーンの現段階での最終兵装であるジ・アルティメットは現在ルイナスに初号機を導入後、改良を加えながら急ピッチで大陸各地に散っている再編成済みの最上位ナンバーに割り振られ、6号機までを実装しております。先日もお話した通り、コレ一機の能力は惑星一つを破壊するのに何ら支障無い力を手に入れており、全力稼働すれば、恐らくは四つの力の小型端末や敵対化する新規バルバロスにも対抗可能。蒼力のように自在に生成される殆どの敵に対して有効打を与えられるでしょう」

 

 次々に今まで確認されてきた敵の推定される戦力規模の中で大陸に投入され得る個体が大きく映し出される。

 

「先史文明期の情報までも総合すると敵主力と目される【超越惑星級】と呼称する敵の大規模個体そのものは最後に出て来るとしても、それまでに影響力……つまり、神の力による惑星上での敵の能力による戦力製造は無限に可能。これを止めなければ、文明の崩壊は必至……」

 

 先史文明期の様々な発掘資料が解読情報付きで議員達に開示される。

 

「無限の戦力を限定するには惑星圏からの完全な影響力の排除が必要であり、これに対して今人類が持ち得る手札は惑星内の時空間の完全制御、敵の戦力製造を惑星内で行わせない為の特殊な場を用いた制御機器の開発が必須です。これは既に箱庭計画の防衛圏構想で用意されていた惑星防御用のゼド機関を改良する事で可能であると帝国技研から結論が出されました」

 

 理論の内実が分からないとしても多くの議員達が実験結果の情報を確認して、無限の戦力と戦わなくて良い事に正直ホッとした様子となる。

 

「仮に恒星間防御障壁と呼ばれる見えざる障壁を大気圏を伴う形で完全に展開した場合、四つの力は惑星外に存在する巨大な超重元素製のクリスタルで構築された駆動体の派遣を行うと予測されており、こちらの障壁展開そのものにも干渉してくるでしょう。つまり―――」

 

 複数のディスプレイに三段階の計画が映し出される。

 

「神との決戦計画には4フェイズ必要となります。惑星上の全指定位置へとゼド機関を埋め込んで作動させる障壁作動フェイズ、障壁作動後の敵主力と目される物体の出方を見つつ、防衛を行う星間防御陣地を構える陣地構築フェイズ、この星系より全ての四つの力の影響力を排除する敵戦力との決戦フェイズ。これが終わり、全ての惑星を姫殿下と帝国技研の力によって人類の制御下に置いて拠点化し、宇宙開発を進め、神との交渉及び殲滅を目的にして文明圏を星系外へと広げる星間文明構築フェイズ」

 

 何もかも夢物語のように議員達には聞こえる事ばかりだった。

 

 だが、そうではない事を彼らの手元にある資料は如実に示している。

 

「これらの状況を発生させて完結するまでに要する時間は3年から無期限であり、最初期の四つの力の星系からの排除まで時間が差し迫っています。四つの力の活動の活発化は我らの文明の初期化が迫っている事を伝えており、この3年が最も重要な時代の始り、もしくは終わりへの入り口。此処を乗り切る為に今、リセル・フロスティーナは総力を結集し、ドラクーンを主軸として宇宙開発時代へと突入しなければなりません。故に此処から先は……」

 

 議員達の前に歩いて来る老人を誰もが見る。

 

 悪魔卿。

 

 そう嘗て呼ばれた男は今に見ても尚怖ろしき権力を有する大陸最大の政治閥の長であった。

 

「此処からは私が説明しよう。諸君」

 

 会議場中央まで歩き。

 

 その内部に立った老人。

 

 その眼光が目の前に向けられる。

 

「あの方が我らの行く手の壁を御自身の手で打ち崩そうとしている事は諸君も聞き及んでいるだろう。故にこちらはこちらであの方の手の向かぬ方をカバーせねばならない」

 

 全てのディスプレイに巨大な星系の全図が示される。

 

「我らの惑星。本星の他、12の惑星とそれに付き従う衛星によって形成される星系であるが、凡そ火星域に存在する四つの力の一端のみで惑星数十個分の質量。となれば、我らも巨大質量の獲得を為し得ねば、恐らく競り負ける」

 

 現在の本星の質量概算が表示される。

 

「金星、水星、火星の順に並ぶ本星より内側の軌道を描く惑星群の取り込みをあの方が行い切ったとしても、恐らく敵質量の数割しかない。また、あの巨大な代物が四つの力の1つであるならば、あの規模のものが数百、数千、数万体、周辺宙域に待機、存在したとしてもおかしくない」

 

 嫌な事を平然と言ってのける老人の言葉に漠然とした不安を言い当てられたような気分で誰もが固唾を呑んで見守る。

 

「まぁ、馬鹿馬鹿しい質量相手に戦って勝てるわけもない。だが、それを相手にせねばならない以上、対抗策が必要だ。現在、ゼド機関を用いた質量生成技術の開発が終了したと知らせを受けた。現段階での最新技術を用いたゼド機関Ver5.2から先のアップデートは6.0を予定している。そして、6.0に標準搭載する質量の無限生成機能を用いた星系内の防衛圏構想だが、守護衛星計画というのを独自に立ち上げさせて貰った」

 

 老人が指を弾く。

 

 誰彼もが目を見張る。

 

 計画の全容が虚空に映し出されたからだ。

 

「試験は既に衛星軌道上にて終わっている。最上位ナンバー以下の最優層の中でも蒼力に優れた者を選抜済みだ。各衛星の軌道は距離的に凡そ100万km単位。星系内の惑星密度を増やす事で本星の盾とする」

 

 本星と恒星の周囲に次々に巨大な星々が産まれて連なっていく。

 

「相手の質量が通常居住可能惑星の数十倍である以上は我らはその10倍は盾が欲しい。つまり、こうだ」

 

 老人が指を弾くと本星を取り囲んで同期しながら移動する巨大な星々が次々に星図の中に盾のように整列していく。

 

「守護衛星に搭載するのは兵器ではない。侵食を懸念する場合には簡易の基地機能以外は置かないのが良いだろう。要は盾としての性能に極振りする。そして、相手の攻撃を受ける事を前提として質量のみで攻撃を行う」

 

 多くの者達が目にしたのは惑星の数十倍の質量を持った人型の竜のようなチープな模型が惑星規模のソレを攻撃して、追突されて押し返されるという図だった。

 

「姫殿下が記された時空間操作技術によって時間変動を一部使用可能になった為、生成の時間そのものはある。これを用いた防御用衛星の一斉開発では約12万kmの岩石や金属の衛星を約3週間で生み出す事が可能だ」

 

 あまりの驚きに彼らが目を見張る。

 

「惑星開発。今はこれが精一杯だが、何れは居住用惑星の生成も恐らくは可能になるだろう。だが、それまでに人類を生き延びさせる為の計画として、各国家にはこれらを用いた惑星からの脱出計画も同時に立てて頂きたい。これは銀河系全体にネットワークを広げるのとは別の予備、補完プランの一つだ」

 

 星系脱出計画の概要がディスプレイに示される。

 

「自国民そのものの一部を何があるか分からない宇宙に送りたくないという感情にはこの際、目を瞑って頂きたい。実際、失敗する確率は非常に高いが、無謀な脱出でも可能性は常に担保せねばならない」

 

 男は非情とも冷徹とも取れる瞳を議員達に向ける。

 

「国家代表者諸君。君達の国を聖女に全て委ねる事を私は良しとしない。何故ならば、あの方もまた全能や万能ではない。何事も準備はしておくものだ。そして、わざわざ危険な方に賭ける事はまったく合理的ではないが、その合理性を投げ捨ててもあらゆる可能性は模索されるべきだ。それが種の存続という生命としての使命の為であるならば、尚更だろう」

 

 男の視線が議員達に突き刺さる。

 

「後日、生体保存環境を人工再現し、超長期航海に耐えられる汎用艦船と守護衛星の生成プロセスを合わせ、特別艦を用意する。この計画の実行と同時に宇宙に先遣隊として死出の旅路へ帝国は一部国民を送り出す事を決定している。これは途中で全滅する覚悟を持った人々を宇宙に送り込むという事に外ならない」

 

 誰もが沈黙せざるを得なかった。

 

「人数は300人。彼らの遺伝子とあらゆるデータはもう保存済みだ。だが、それでも我が国にとっては貴重な人材の一部……彼らは死んで無駄にならず、生きて帝国を宙に広げる事を使命とした」

 

 国家元首たる者達が僅かに俯く。

 

「人類の保存は至上命題である。だからこそ、出来る限りの備えと準備を持たせて、敢て世界の外へと挑まねば、恐らく我ら人に活路は無い」

 

 老人の声には重みがあった。

 

 当たり前だ。

 

 リセル・フロスティーナの代表者として一度は選定されながらも固辞した男は世界を背負って立てる器であり、この50年の大陸を導いた正真正銘の政治家としての英雄なのだ。

 

「集う者あらば、同じく人類の為に死に、また同時に人類最後の300人として生き残る覚悟を持った者を集めて欲しい。人類の次善策として宇宙に挑む者を求む」

 

 あまりの内容に誰もが凍り付いたように動けない。

 

「これを以て1年後までに本星の全方位に人類保存の為に向かう船を200隻まで用意する。そこには居住可能惑星の創生システムと恒星間航行可能な【惑星牽引級】艦船の母体となる船体構造の設計図も入っているだろう。全ての国家は自らの血統を遺すべく努力を……これにて話はお終いだ。諸君らの懸命なる決断を期待する……」

 

 誰もが一言も発せなかった。

 

 惑星を曳く船。

 

 そんなものまでも用意する事になるとすれば、もはやそれは人類の脱出に等しい。

 

 そうしてしまったら、まるでもう戻れぬのは明白。

 

 現生人類を見捨てて逃げ延びても生き残るとは正しく地獄を征くのと同義なのだ。

 

「なぁに対した事ではないさ。このアウトナンバーすら滅ぼしたご時世に君達が頭を下げて、人類と祖国の為に死んでくれ。もしくはそれらを見殺しにしても生きてくれ。人生を諦めてくれ。と……軍人以外にお願いするだけの仕事だとも……私はそうした」

 

 老人が緩やかに笑みを浮かべて議場から去っていく。

 

 その背中に誰もが腹を括らざるを得ない様子で瞳を閉じて汗を浮かべた額も拭わず葛藤する。

 

 あの老人が言うならば、それは単なる事実なのだ。

 

 そして、ソレが何よりも難しい事であると誰もが知っていた。

 

 会議が終わった後。

 

 議場を後にする国家元首達とその周囲の外交官僚達の多くの瞳に厳しくも覚悟を決めた輝きが宿っている事を議場の事務仕事をしている者達は横目にしつつ、仕事へ掛かる。

 

 大陸の運命を決する決断は為され、雲間に差す光は大きな波乱を呼ぶように広がりつつあった。

 

 *

 

「これが標準時間を生み出すシステムですか」

 

「ああ、そう言えば、現物を見るのは初めてだったな。君は……」

 

 本日に限って時間が取れた事で帝国の研究所に戻る事になっていた。

 

 それは幾つかの懸案を解決する為だったが、それを共に解決する人物達が集まっていたからでもある。

 

 元天雨機関の教授陣。

 

 彼らは現在、何をどうすればいいのかと言うレベルで忙しい研究開発をこちらが導入したエメラルド・タブレットを用いたAI制御の超高速エミュレータで試験し続けているらしく。

 

 仮想現実内であらゆる数百万種類にも及ぶ実験結果のデータを受け取って、それを現実で応用するという毎日を送っているとの事。

 

「ゼド教授。これはエーゼルに渡したのと同じ?」

 

「ああ、例の砂時計。ノクターンだったか。アレの解析結果で出たデータが一部流用されている。時空間の制御というよりは次元の外側から時間軸に対してアプローチする代物だな」

 

 帝国技研。

 

 この研究所の最重要研究区画内部。

 

 緑炎光を機械的に再現する事に成功し、制御を可能とした事で更に進んだ時空間関連の技術は何よりもまず時間の同期を各地と取る為の絶対的な標準時間を導入する事に使われた。

 

 その成果は今も技研の地下の一室で稼働し続けている。

 

「次元の……つまり、高次元や低次元の側から?」

 

「ああ、そういう事だ。君も知る通り、今の理論的には時空間が時空間の外からの干渉でかなりの影響を受けている事が確認された。次元関連事象は時空内部の事象を一部超越する」

 

 そ巨大なゼド機関の柱時計。

 

 そのように見える砂時計らしきもの。

 

 それが白く他に何も無い一室の中央に鎮座している。

 

「我々が現在までに確認してきた高次元や低次元は通常空間内に織り込まれているわけだが、時空間内部から先の世界に超越する次元も存在する。ソレは君も良く知るところだろう」

 

「ええ、両腕の連中はそっちの存在なので」

 

「つまりだ。従来の科学的な知見では時間の逆行やタイムマシンなんてものは開発出来ないし、大抵の時空間内部の系において時間は不可逆であるが……」

 

「一部は可能、ですか?」

 

「タイムマシンというよりは時空間の進み方にケチを付ける装置だな。極度に遅くする。極度に早くする。そういう使い方をしている君の行為自体を真似られる」

 

「成程……疑似的な次元観測。正確には別次元から時空間内部を観測する装置って事ですか……」

 

「その通りだ。まぁ、詳しい情報は省くが、今のところはコイツでピントを合わせる作業をしている」

 

「自己の座標を別次元から観測する為のシステム……標準がこの帝都としても、現実に時空間変動の内部を現在の座標から疑似観測して、観測者効果で変動を低減……もしかして、未来を覗けますか?」

 

 ゼド教授の肩が竦められる。

 

「難しくは無いが確定事象ではない。量子的な繋がりを保持するので精一杯だな。今のところは精々が精度9割の未来予測……要は君が用いる予測演算の脳内の内部処理を1行だけ機械でやっているようなものだ」

 

「あくまで近似値を見る事しか出来ない?」

 

「その通りだ。結果として今研究している時空間関連の技術は君の生態の後追い染みていると言っていい」

 

「究極に到達する物は能力も技術も同じと」

 

「その通りだよ。究極は技術でも能力でも同じ系を観測する宇宙内部では似通ってくるという事だ。君の魔法と我々の科学に究極的な部分で違いは無いという事でもある」

 

「魔法と言うには何も出来ませんけどね」

 

「そう卑下したものでも無いだろう。結局は宇宙開発、マクロ事象に用いる技術の開発時も君の性能に似通るものが出来てしまうと我らとしては嘆くばかりなのだ。君が通り過ぎた道を後発で歩く我らは正しく出来て当然だな」

 

「それは済みません……」

 

 研究者としては研究の甲斐が無いだろう。

 

「例の刃のおかげで高次元そのものへの干渉の定理は確認した。観測結果から諸々の干渉する為のエンジニアリングの理屈も彼女と豊富で多様な超重元素によって開発出来た。君が婚約者、仲間達に送ったアレのデータも見せて貰ったが、先取された気分だ」

 

「それはまたすみません……」

 

「謝る事かね? 参考にして利用もさせて貰ったし、時間が無い中では御の字だったと言っていい」

 

 ゼド教授が横から小型端末を見せてくれる。

 

 スクロールされたのは高次元への干渉技術によって派生した技術の総覧。

 

 それは殆ど、現在の帝国が抱える計画の全てに流用されるだろう事が分かる。

 

「ちなみにコイツの事を現在は仮称で【クロノダイブ・システム】と呼んでいる。いいだろう?」

 

「中二病は永遠ですね」

 

「無論だ。ちなみに由来は次元穿孔観測時の副次的な効果で知的生命である使用者には目標地点以外にも自身の関連座標の時間が見える事からだ」

 

「過去の観測と未来の予測ですか。確定した過去に対しての観測精度は?」

 

「量子的な暗号鍵を解くのと左程変わらん。所詮は疑似観測。光学観測出来ない他の次元の系を現実から諸々の観測用システムで処理、データで再構築。量子コンピューター上の予測演算で再現したものに過ぎない。近似値を似せられるだけのデータさえあれば、過去と未来を区別する程、精度の違いもない」

 

「……これを自分が使った場合、どうなります?」

 

「お勧めしないな。殆どの理論は完成したが、未知数が1割。次元観測者として量子的に分解された世界を外界から疑似的とはいえ覗き見るわけだから、それがシステム内のものであっても……君のような存在が観測した場合、ソレ自体が世界にどんな干渉を及ぼせるものか。気軽に試してみたいものではない」

 

 それはそうだろう。

 

 事実、世界が変化するのだ。

 

 時空間変動を低減しているわけだから、現実の時空間に干渉している。

 

 である以上、これはコンピューター内部の変化のみで片付く問題ではない。

 

 実際に現実へと変容を齎す量子的な効果を孕む機械なのだ。

 

「……一度だけ確認したい時間軸があるんです」

 

「解っている……我らの転移に関してだな?」

 

「はい。別宇宙もしくは別次元を越えて、過去の座標を観測すると言っても、ニィトの過去ならデータとしては……」

 

「可能だ。元の世界に戻れるかを予想する為にソレ自体は考えていた。だが、この惑星に殆ど腰を据えて生きていくと君なら言うかと思っていたが?」

 

「それとは別にブラックホール機関のオーバーロードがどうして起こったのか。そして、ソレ自体が何処からの干渉だったのかが気になります」

 

「―――1週間くれ。全員でプログラムに必要な安全策を考える。君がソレを自分で書いてインストールした後、覗くのなら許可しよう。ただし、君に何かあっても困る。現実時間で機械的な処理も考えると閾値は10秒……それ以上だと観測情報の爆発でシステム側が指数関数的に増える情報量を強制シャットダウンする。観測システム内の増加情報量にもよるが脳内のクロックを加速して隅々まで覗けるかね?」

 

「問題無く」

 

「解った。諸々が片付いたら君にあの日、何があったのかを見て貰おう。開発当事者として自分でも気に為っていたからな」

 

 ゼド教授が頷く。

 

 こうしてようやくこの世界と自分達の世界の始り。

 

 その根幹へと手を伸ばせる事が決まった。

 

 マガツ教授他全員が集まってあーでもないこーでもないと安全確保用のプログラムの仕様をネット会議で詰め始めるのを見て、お辞儀をしながら現場を後にする。

 

 やるべき事はまだまだ残っていた。


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