ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第84話「凱旋Ⅰ」

 

―――帝国に栄光あれ!!

 

―――姫殿下万歳!!

 

―――御戦勝お祝い申し上げます!!

 

―――万歳っ、万歳っ、万歳っ、青き瞳に栄光あれ!!

 

 何故か、帝都に帰還して1日後。

 

 帝国陸軍からの要請で戦勝パレードが行われていた。

 

 実際には仕事があるので断ろうと思ったのだが、今回だけは何のしがらみもなく帝国陸軍からのお休みという名の『休んでくれ!!? お願いだから!!!』的な懇願であるという不動将からの助言で受けていた。

 

 数日前から調整していたらしく。

 

 現在、帝都に出入りする各地方の人々も総出でのお祝いである。

 

 道端には多数の露店が出ており、周囲の店の多くにはトイレを無料開放していたり、お菓子を振舞ったり、と……お祭り騒ぎは後2日は続けるとの事。

 

 オープンカーならぬオープン馬車でニコリしながら手を振ったら、左右から耳が壊れそうな歓声。

 

 そして、何故か呆然とした様子の老若男女も多かった。

 

 パレードは帝都を定期巡回で一日で7本の大通りを回る事になっている。

 

 その予定を消化する為にパレード終わりの場所から普通の馬車で移動するわけだが、本日に限ってはウィシャスだけが横にいる。

 

 他は全員が仕事であった。

 

「どうして呆然とされてたか分かるか? ウィシャス」

 

「君は……はぁぁ、自覚が無いって怖いな」

 

「?」

 

 思わずよく分からないという顔になってしまう。

 

「君のご尊顔を見るなんてのは普通の貴族ですら殆ど無いんだよ。でも、今日は公式に君が人々に顔を見せた」

 

「ああ、つまり、初めて顔を見て呆然とされてたと……そんなに酷い顔だったか? 一応、目の下にクマとか出来ないように気を付けてるし、体調管理もしてるから、貴族の子女っぽい姿は保ててると思うんだが……」

 

「そういう事じゃない。はぁぁぁ……」

 

「?」

 

「君はもっと自分の容姿を自覚した方がいい。恐らくだけど、器量だけで言えば、大貴族のご令嬢の中でも最上位だ。君の雰囲気やその化粧? それもかなり独特なものの、よく似合ってる」

 

「まぁ、美少女の類だとは思うけども」

 

「その上、君の今までの沢山の伝説を知っていた人々からすれば、その当人がこんなにも可憐で神々しいとなれば、呆然ともするさ。その後、殆どの人があんまりにも君を傍で見られた事が嬉しくて泣いてたじゃないか」

 

「そういう事だったのか……なるほど」

 

「そもそも君の法衣だって、とても常人が着こなせるようなものじゃない。雰囲気だけで言えば、君は本当の物語の中のお姫様だよ」

 

「それ褒められてるのか?」

 

「残念ながら、褒める以外にないから困ってる。自分としては中身を知ってれば、かなりそういう神々しさは薄れるとは思うけども」

 

「オレが神々しい? 衣服とか容姿の力は偉大だな……その内に何か使える手札として衣装も増やすか……」

 

「そういうところがまったく君らしい。普通の子女は喜ぶところだよ。ソレ」

 

「オレが普通ならな」

 

「解ってる……ちなみに不動将閣下からは全ての通りを抜けたら凱旋式典に出るようにって言われてる。一応、東部を平定した手前。勲章くらいはやらなきゃ軍部としても恰好が付かないって事で陸軍の上層部は全員出席だって」

 

「勲章ねぇ。部屋の箪笥に入れっぱなしだな……」

 

「普通なら生涯年金くらい出すところだそうだよ」

 

「生憎と個人的には金に困ってない。他は微妙に必要な事が多過ぎて初期投資の資金が足りなくなりそうだけど」

 

「……金鉱山の開発はもう始まってるんだろう?」

 

「ああ、北部での開発事業と他事業の操業資金に殆ど回してる。東部や西部への事業資金は他の儲けが既に出てる分野のもので補填してるが、それでも一気に数百万人追加で面倒見なきゃならなくなって、殆どカツカツだな」

 

「それを個人資産で面倒見てるってのがもうアレなんだけど……」

 

 北部や西部の国庫からも支援して貰っているが、それでも足りないのは間違いないのだ。

 

「ふむ……勲章はさすがに売れないか。いっそ、オレの日常生活品でもオークションで売ってみるか? 有名人のそういうのは案外高く売れるって言うし」

 

「ゴッホ?! 止めてくれ!? 無駄に金を出しそうな貴族が大量に破産する姿は見たくない!?」

 

「いや、値段次第だろ? う~~ん? じゃあ、ウチの縫製部門の品を、リージに下着でも売って貰うか? 帝国の姫殿下も使ってる一品とか言って輸出したら、結構儲かりそうなんだけどな」

 

「ゲッホ?! 君は本当に女の子なのかい!?」

 

「性別は女性だが?」

 

「はぁぁ、こう帝国貴族の子女っていう自分の中の理想像が崩れてる気がする……」

 

「取り敢えず、姫殿下印で日常品や衣類は売ってみる事にしよう。他国にも輸出を拡大してみて、資金が確保出来れば良し。確保出来なくても足掛かりに出来る拠点整備の一貫としてやらせてみるか……」

 

「同じことをしたら、貴族の親は大体泣くか、娘を殺して自分も死にそうだってことだけ覚えておいてくれるかな?」

 

「頭の片隅に置いておこう」

 

 こうしてパレードが終わった後。

 

 帝都内の帝国議会前の庭園に設けられた式典会場に向かう。

 

 すると、帝国貴族の錚々たる面子が集まっており、誰も彼もこちらが馬車から出て来ると最敬礼で出迎えてくれていた。

 

 軍人連中は既に着席している将官と上位の下士官達が儀仗兵を指揮する立場となり、今か今かと道を開けて待っている。

 

 最前列の貴賓席よりも先。

 

 壇上の椅子に座っているのは帝国陸軍の最上位層にして最優層の上澄みである大将から少将までの20人ばかり。

 

 彼ら一人が動かす軍団だけで数十万の軍が動くという事実を考えれば、帝国陸軍そのものが壇上にあると言っても過言ではないだろう。

 

 式典の内容は頭に入っているので壇上の裏手の控室で待つ事にする。

 

 その合間にも仕事で手紙をサラサラ書いていたら、もうすぐ時間だと侍女達からの声が聞こえたので立ち上がる。

 

「?」

 

 僅かな違和感。

 

 一室から帝国議会全域に対して意識下での未来予測と過去予測を開始する。

 

 瞬間的に描き上がった脳裏の帝国議会図面内部に明らかに不審物が一つ。

 

 咄嗟に窓を開けて、そのまま跳躍。

 

 脳裏の能力による警告を無視してソレに対して直線で突撃する。

 

(原始的な時限信管? この音、特殊な砂か……)

 

 情報確度が上がった途端、その不審物の内部構造が脳裏で自身の知識から勝手に描き上がる。

 

(爆弾でも毒でもない? だが、この配置から感じられる悪意……)

 

 議会前の会場を突っ切り、人々が騒めき出すよりも先に左側の議会事務を行う政務官達が務める庁舎に窓を割って突入。

 

 左側の窓から三番目の机の上に置かれた木箱を前にして即時利き手を伸ばしてグアグリスの触手で周囲を包囲しつつ、周囲のものを抉り取って数百枚同時に木箱を包む鱗製の膜を連鎖展開。

 

 もう片方の手で通路側の壁を突き破り、地面内部急いで掘削。

 

 ドリル状になった鱗の塊で掘り返した。

 

 木箱が収まる穴にソレを狂いなく衝撃も与えずにぶん投げて、内部に入り込んで落着するより先に周囲の土を崩して密封した瞬間―――。

 

 何かが箱から漏れ出した。

 

「?!!」

 

 途端だった。

 

 地下25m地点から引き上げようとしたグアグリスの触手のあちこちが猛烈な速度で枯れたように脱水され。

 

 即座に切断し、新しい触手で土を山盛りにして封じ込める。

 

 だが、それでもその木箱の中身の効果は劇的だった。

 

 穴の周囲が瞬時にカサ付いて樹木が枯れるどころか。

 

 砂のように水分の枯渇で崩れていく。

 

 腰から出していた触手で周辺にいた人員はとにかく逃げろと侵食で命令していた為、走り去っていく途中。

 

 自分も巻き込まれる前にと背後に伸ばした触手で体を高速で巻き戻しながら、その効果範囲から数十m跳び下がる。

 

 その先は壇上だった。

 

 周囲は静まり返っていた。

 

「何をしているのです!! 攻撃です!! 早くこの場から退避をッ!!?」

 

 そう壇上言った途端、複数の前方に伸ばしていた細い触手が脱水されて干乾び。

 

 建物の傍に植えてある樹木が瞬間的に枯れるのを誰もが目にしただろう。

 

「早くッッ!!!」

 

『!!?』

 

 そこでようやく軍人も政治家も次々にその場から駆け出した。

 

『植物が枯れたぞ!! 何の攻撃だ!?』

 

『一か所に集まるな!! 複数の入り口からとにかく逆側に逃げろぉおおお!!』

 

 効果範囲の拡大がピタリと止まったのは壇上から更に背後に触手で逃げた瞬間。

 

 だが、その樹木が瞬時に燃え上がったかと思うと他の建物内部や他のところでも火の手が上がり始めた。

 

 脱水の影響なのは目に見えている。

 

 湿度0%の影響で僅かな熱でもあらゆるものが燃え易くなっているのだ。

 

『しょ、消火隊を急げぇええええええええ!!』

 

 すぐに軍の部隊がやって来て、消火用の自転車式の動力を確保するポンプで次々に周辺の水源から組み上げた水を建物に細いホースで掛けていく。

 

 あまりにもまどろっこしいのでグアグリスで水源に直接接続して水を吸い上げつつ、今まで使った触手分の水分を補給しながら、消火活動に当たった。

 

 それから20分後。

 

 触手を建物の上空に伸ばして上からシャワーのように水を放出し続けてようやく火の手が治まった頃。

 

 それでも未だ燻ぶる建物が水浸しどころか湿度が微妙に足りない様子で乾いて行く様子に埋めた何かが恐ろしく危険な代物だった事を確信する。

 

「各隊!! 水源を死守して下さい。わたくしが原因の収束に動きます。この効果がもしも帝都に広がれば、帝都が大火に呑まれて消えるでしょう。どのような人間も水源に近付けてはなりません!!」

 

 消化隊の背後に付いて来た部隊がすぐにこちらの声に対応したのを確認して、触手を背後に伸ばしつつ、効果範囲に触手から先に突入させる。

 

 途端、水分が触手から失われていくのが解った。

 

 ポンプで送り込んだ水を触手で消費しながらゆっくりと原因を探り始める。

 

 どうやら本日は長い夜になりそうだった。

 

 *

 

 結局、事態の収拾が付くまでに朝となった。

 

 大量の水を補給しながら埋めた何かを干乾びそうな触手で触診し、何がどういう構造なのかを把握するまで3時間弱。

 

 それから原因となった木箱の中身を研究所から持って来させた超重元素製の箱に納めるまで4時間。

 

 周囲の影響を極力抑えながらの掘り出しや帝都郊外の第二実験場まで運ぶのに8時間と時間が掛かりまくった。

 

 輸送ルート上の人々に燃え易いものを持って非難させたりするのに時間が掛かったせいで一息吐く頃には夜が明けていたのである。

 

「姫殿下。恐らく、この超重元素かと」

 

 研究者達を動員して原因究明に当たらせ、超重元素の類が問題を起こしているに違いないだろうと研究中の代物の中から該当しそうなものをすぐに割り出した。

 

「超重元素004番……水を大量に吸い込める能力、か」

 

「はい。多種類の金属との混合状態で発見されたので、そこまでの吸水力があるとは思わず。精錬済みになるとああいった性質になるのではないかと。しかし、オカシな事がありまして」

 

「おかしな事?」

 

「水気を吸うのですが、重くなりません」

 

「……水素そのものを何かしらのエネルギーや事象にして放出しているか。もしくは水素のみを吸収して空間を越えて貯蔵する性質があるか、だな」

 

「それは一体どういう……」

 

「簡単だ。箱の中身があらゆる生命の源である水を無尽蔵に吸収する。もしくは吸収した水を何らかの別の重量にならない形で変換し、他の事象、現象として消費している可能性がある」

 

「そんな事が……」

 

 白衣達が実験場の仮設テント内でざわめく。

 

 丁度宝箱くらいの大きさの超重元素製の箱である。

 

 地中に降ろして地下で木箱の中身を入れて輸送して現在は地表に燃えない金属製のポールと屋根を載せて石と乾いた砂で壁を作った簡易の保管場所に置かれている。

 

 その半径300mは自分達以外立ち入り禁止にして、何とか一息吐いていた。

 

「とにかく。これから―――」

 

【酷いなぁ】

 

「ッ」

 

 全員を後ろに下がらせて即時、臨戦態勢。

 

 そもそも持って来て貰っていたドラクーンの鎧を急遽、東部でのように魔改造しているものを身に着けている。

 

 いつ敵が襲って来ていても良いように帝都内と帝国内に厳戒態勢を既に竜郵便で送付済みだ。

 

 各地に張り付けている人材がもう動き出している為、完全に此処で全滅するという事は無いだろう……恐らく。

 

 相手の声はそういうのを思わせるくらいには何処か仄暗く。

 

 ズリュリと超重元素で出来た箱の内部から水らしきものが溢れ出していた。

 

 水の圧力で超重元素を添加した合金を曲げたとすれば、それだけで相手は凶悪な脅威そのものだ。

 

「どちら様だ?」

 

【ははは、手紙は届いてたかい?】

 

「……暗殺部隊を送って来た時のか?」

 

【そうそう。それだよ。そーれ♪】

 

 何処か子供っぽい声。

 

 しかし、その裏側には悪意と邪悪が透けて見える。

 

【まさか、本家人員まで駆り出して敗北。如何に戦闘型では無かったといえ、彼女の能力は人心掌握に限っては完全無欠の切り札だったんだけどなぁ……】

 

「時間が足りなかったな。それとも使い潰す人員すら満足に捻出出来なくなったのか? 普通、情報部門の統括者を送って来ないだろ」

 

【ああ、それは勘違いなんだ。彼女は確かに統括者ではあるけど、最終的な解決手段じゃない】

 

「なるほど? つまり、お前もしくはその下がその最終的な解決手段筆頭って事か」

 

【ふふ、物分かりの良いお姫様だ。僕の好きなタイプだね】

 

「ッ―――」

 

【あははは、驚いてる驚いてる♪ 何で原初の大陸の単語を知ってるんだって顔が目に浮かぶようだよ。ああ、でも、やっぱりかぁ……】

 

 子供のような声がクツクツと嗤う。

 

【君はやはりあの世界からの来訪者だったわけだ。そりゃぁ、ウチの人員が手も足も出ずに敗北するわけだ。それどころか北部と東部で壊れ掛けとはいえ、『黒き裁定者』までも倒すはずだ……】

 

「黒き裁定者? アレの事まで知ってるのか。つまり、お前らはあちらの事を知っている連中って事か。それにしてもあのオジサマは知らない。情報統括者もそういう情報とは無縁……て事はお前は一番上もしくはその近縁か?」

 

 箱を捻じ曲げて巨大な水の塊の触手のようなものが這い出てくる。

 

 それは一つ目を象ったものに複数の触手が生えたような恰好をしたバルバロスらしい何かだった。

 

【初めまして。バイツネード本家当主。カルネアード・バイツネードだ】

 

「フィティシラ。フィティシラ・アルローゼンだ」

 

 周囲の研究者達は既にハンドサインで一目散に逃げ出している。

 

 それどころか軍の部隊もこちらの指示で不本意そうながらも、歯を食い縛って半径2km圏内から残った人員を誘導して後退中であった。

 

【ふふ、まさか、この時代に裁定者を破壊する程のイレギュラーが産まれるなんて、何だか本当に時代の潮目みたいじゃないか。ああ、あの緋皇帝や森の王の時代にもこんなにワクワクした事はない】

 

「随分と長生きなんだな。バイツネードの首魁ってのは」

 

【それはそうさ。君達の単語で言うところの不老不死に近い存在だからね】

 

「不老不死を自称しないだけ手強そうだな」

 

【僕らを君が敵にするならそうなるだろうね】

 

「だが、お前らは竜の国に敗北した。それとも本家が残ってりゃ何ら問題無いって感じか?」

 

【ご明察。分家や本家の下っ端なんて本家の人員一人分の価値も無いよ】

 

「傲慢だな。今までお前らの家を大きくしてきたのはそういう使い捨てられた連中だろうに」

 

【くくく、何ともはや。あの噂の大公竜姫が人道主義者顔負けじゃないか。ああ、君はそういう方面なのか。悪いが、この大陸において揺るがぬ事実さ。実際、僕らさえ生き残れば、人類の何割が死滅しようと問題無い】

 

 化け物が近寄って来る。

 

 その瞳はギョロリとしており、その瞳の中心核には鉱物の純度が高そうな結晶があった。

 

「フン。で? 今日は時候の挨拶も無しに随分と騒がせてくれたな。せっかくの式典が台無しだ」

 

【あはははははは!!! 心にもない事を……君みたいなのはそんなのどうでもいいって感じじゃないのかい?】

 

 見透かされているというよりは同族に近いものを感じた。

 

【まぁ、いい。全ては些細な事さ。君のおかげで南部皇国はボロボロだ。北部連中は竜の国とつるんでるせいで手出しも出来ないし、今や滅びゆく祖国も常人には地獄……いや、実に戦争日和だ】

 

 その声が何処か愉悦を帯びる。

 

「安心しろ。今この時を以て、お前はオレの殲滅するべき敵になった。何をせずともそちらの家にお邪魔するさ」

 

【ふふふふ♪ いいねぇ。まさか、まさかの展開だ。月が砕かれる前に君を手に入れられれば、僕らバイツネードの悲願も成就するかもしれない】

 

「………バイツネード。お前らは一体、何の為に活動してるんだ?」

 

【カルネと呼んでくれ。同族よ……君にはその資格がある】

 

「嫌な話だ……」

 

【そう言うなよ。まだ何も知らないのだろう君にこの大陸の秘密を教えてあげるよ?】

 

「秘密? オレの脳裏で予測されてる程度の事なら別に聞かずともいいぞ」

 

【でも、事実は知りたいだろう? なぁに簡単な事さ。嘗て、神話があった。そして、神話というのは大概が事実だって事さ♪】

 

「事実、ね……」

 

【僕らは人類を存続させる為にこの大陸の創成期から暗躍して来た。そして、今や真実を知る者は我らの他には原初の大陸から迷い込む異邦人。そして、彼らの似姿だけなのさ】

 

「似姿?」

 

【君の体質の事もこちらには想像が着いている。だから、敢て言おう。君を我らバイツネードの本拠地。本家『大伽藍(だいがらん)』に招待しよう】

 

「ほう? 南部の名高いお茶や食事を楽しみにしておこう」

 

【ああ、君達の大陸。いや、国では持て成しは重要なファクターなんだってね。聞いてるよ。今、丁度この大陸には似姿が数人いるみたいだし、彼らも連れ立って来るといい。話合いでも殺し合いでも君相手なら、僕も本気が出せそうだ。愉しみにしているよ……フィティシラ・アルローゼン。では、また】

 

 目玉と触手の化け物がザアアッと水に戻っていき。

 

 何か黒ずんだ目玉の結晶体が罅割れた。

 

 その中心に近寄り、いつもの腕でそれを拾い上げて砕く。

 

 途端、その結晶が腕に吸い込まれ、ザアザアと要らないものを吐き出すように掌から酸化したような状態の結晶の粉が僅かに零れる。

 

「カルネアード・バイツネード。本家のラスボスか……」

 

 銃で警戒度合いを引き下げて、現場を後にする。

 

 もう水気は吸われていなかった。


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