ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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間章「真説~恒久界の御家事情~」

 

 

 世の中には早く戦争になーれという少女もいたりするが、大抵の人間は戦争なんて御免である事は言うまでもないだろう。

 

 では、戦争を望む者とはどういった輩であればいいのか?

 

 軍事兵器を扱う商人や企業かもしれないし、そもそも雇われの兵隊かもしれないし、王政結構な時代ならば、手柄を立てたい騎士か兵隊かという事もあろうし、現代でならば、国家を変える手段として政治家と軍人が望む事もあるだろう。

 

 まぁ、恒久界と呼ばれる世界においても通常の歴史的な必然と同じ道筋で戦争が起る事はザラだ。

 

 だが、同時にそうでないという場合も多い。

 特に神などが戦乱に関わっている時などは………。

 

「御破算御破算。これどうすんですかねー」

「やーもーどうにもならんでしょー」

「ウチの大将は秘密主義だから、何も教えてくれねぇ……」

 

「思想閥の連中何処行ったんだよ~~マジでさ~~あの蜥蜴共との戦いだったら、スパナ親父の独壇場だろ~よ~」

 

「つーか、一回リセット掛かりませんでした?」

 

「それな。マジそれな。でも、どうせオレらにゃ分からん。大将はリアリストだからな。オレらが反乱起こしたりする理由とかを一々見せたりせんだろ」

 

「あ~や~そ~いう事なんすかねぇ……」

「あ、いや、やっぱさ。こういうのマズイって(汗)」

「どういうのが?」

 

「ユークリッド先生に逆らったら、下手したら次の文明まで、主観時間そのままでアカウント凍結なんて事に……ガクブル((((;゚Д゚))))」

 

「かぁ~~くぁ~~ぺっぺっ!! んなの気にしてたら何も言えんし!!」

 

「うわぁ、バッチィ……死ね!!」

 

「あ、禁止ワード!! 禁止ワードですよ!! 先生に言いつけてやる!!」

 

「けッ!! 禁止ワードが怖くて委員会抜けたんじゃねぇんだよ!! 『無限の宇宙にさぁ!! 行こう!!』ってフレーズが好きだったの!!」

 

「つーかさぁ。マジで思想閥何処よ? つーか、検索掛けてもいないし、アカウント探しても無いし、コレまさか消されてる?」

 

「いや、無いでしょう。思想閥はウチらの中じゃ一番まともで論外な連中でしたし。つーか、使えなかったら、あの思考ルーチン仕様で放っておかれませんよ」

 

「ぁ゛~~~あのスリットの太ももで挟まれたいんじゃぁ~~」

 

「はは……本人が聞いたら絶対コア・カーネル撃ち抜かれますね……」

 

「蜥蜴共さぁ。今更アレ出して来たし。反則じゃない?」

 

「つーか、死人再生させて戦闘記憶だけ重ねさせて何とかって時点でお察しよ。蜥蜴共に対しては兵器以外だと恒久界の人種じゃ文化的な能力以外は全部不利だし」

 

「あのカッコ付けの射撃能力だけは貴重なんだよなぁ。つーか、星間照準武装を実際に扱ってたのってあいつだけだし。他全部死んだし……」

 

「マスティマ様も欠かせませんね。あの方の知識量と閃きはデータ化されても極めて有用でしたよ。使い古した戦術や戦略を特に新しい環境に適応させて進化させるの上手かったですよね。つーか、戦略シミュで勝てた奴いるんですか?」

 

「老害はハンターイ」

 

「我々も老害でしょうよ。9期違うだけで実際には300歳から+-500歳くらいでしたよ皆」

 

「あの老害なぁ。日本帝国連合とアメリカ単邦国相手に五百戦五百勝だっしなぁ」

 

「毎年、彼の指揮したドローン師団だけ損耗無しで型落ちになって負けるまで何年掛かるか賭けをしたのは良い思い出ですなぁ」

 

「キィィィィィイィィイイ!!? 妬ましいよぅ!? ユークリッドさんにあんなに構って貰ってて!!」

 

「どうどう。我らが御大は変なのが好きだからな。自分が変なだけあって」

 

「宇宙に行きたいなんて、あの当時言ってたのが変なのしかいなかっただけ(無慈悲)」

 

「未だにNVの投入許可降りないし、どうすっかなぁ。あんまり戦闘記憶だけ重ねさせても人格矯正が許容範囲超えちゃうんだけどなぁ」

 

「あぁ、イライラするゥ!? 使いっパシリがいないってストレス溜まるのね!?」

 

「そのルーチン入れてるの君だけだけどね」

 

「つーか。ユークリッドさんはまた側近連中だけ連れて何処かへお出かけか」

 

「研究忙しいからねぇ。あの人」

「基本放任主義だし」

 

「側近連中がみんな普通の委員会らしい連中ってのがまた狂人臭を醸し出すのですよねぇ」

 

「デミスの野郎なんか、ホント何考えてるのか分からんな」

「実は全員―――だったりしてねぇ」

「あはは、(ヾノ・∀・`)ナイナイ」

 

「つーかさぁ。あの新しく出来た黒い支柱。誰造ったんだっけ?」

 

「え? 確か―――だったでしょ。確か太陽光の無限吸収可能な素材って触れ込みだったはず」

 

「それよりもだよ。月亀のあの衣装どうにかならんのか? さすがにHENAIが入り過ぎだろ」

 

「まぁ、縄で全裸か半裸を縛りますしおすし」

「上品な方は上は丸出しで下は隠してるよ」

「下隠してないと下品なんでしたっけ?」

 

「まぁ、でも、捕まる程じゃないし。城下町だと他の国の連中が下品な美女に前屈みだったりするし。キャハハ♪」

 

「まぁ、昔っからですからねぇ。誰が設定したかは()()()

 

「つーかよぉ。魔王のシステム関連て誰だったっけ? 前から思ってたんだが、面倒事やらせるのにお人形使う必要ねぇだろ。オレら神様がいるっつーのによ」

 

「神様用の思考ルーチン入れてるから、皆一律に感情出ないけどね」

 

「って言うかぁ!! あの蛸の―――ってさぁ。私らの制御受け付けないんだよねぇ。邪神連中じゃあるまいし、何のオブジェクトなんだろうねぇ」

 

「神様のおぶじぇくとでぇ~すってか♪」

「なら、神様らしく人間様を救って欲しいもんだわ」

「違いない」

「そう言えば、最初の魔王は―――でしたね」

 

「ええ、彼は逸材でしたよ。()()()()()()()にしては良い働きしてましたしね。あの蛸の―――とも懇意でしたよ」

 

「そういや今の魔王って―――だよな?」

 

「ええ、そうですよ。ハーレム系魔王様やってるらしいですけど、今頃は魔王軍で蜥蜴相手に切った張ったの最中でしょうね」

 

「久しぶりに―――してやるか」

「あ、早く()()()()()()

「そうですね。仕事しましょう。仕事」

「ああ、仕事ですね」

「はい。仕事ですよ」

「ええ、仕事ですとも」

「そうそう。仕事しないと」

「じゃあ、みぃんな解散ね」

『はぁ~い♪』

 

 三々五々に神格達が電子空間上から散っていく。

 

 その背後にずっと座っていた蛸な触手と邪悪な顔と冒涜的な図体を持つ邪神は相変わらず、完全に自立自損防止用のプログラムで制御されている人工の神モドキ達をチラリと見てから、ノッシノッシと歩き出す。

 

 電子の海という表現は単純な電子回路のネットワークが主流の時代的にはかなり不適当な表現だった、というのはインテリな彼にしてみれば、当たり前だ。

 

 電子空間。

 

 そう、そう呼ばれるものは量子コンピューター間の場を通したネットワークの始まり当たりからようやく出て来た。

 

 ソレは簡単に言えば、世界の記述だ。

 場から情報を取出し、入力し、保存する。

 この三つは神に至る道の1つと言える。

 

 宇宙の根幹原理に触れるものなのだから、当たり前と言えば、当たり前だろう。

 

 少年を時折見ていた彼にしてみれば、謎空間で幼女と戯れていた彼は立派な()()()の一人と言える。

 

 チラリと今度は神達には見えない領域《レイヤー》に視線をやった彼はそこで紅い蜥蜴の青年がゼェゼェしながら、喘いでいるのに目を細めた。

 

『……ごほ……初期干渉者(ファースト・コンタクター)……本当の神格のおでましか……』

 

 ロート・フランコ。

 唯一神に今代において挑まされた蜥蜴達の最高傑作。

 

 盗み出された委員会の遺伝コードを用いて製造された彼は正しく麒麟国の期待の星なわけだが、やはりというか。

 

 残念ながら、神になる資格は無いようだった。

 

「あの脳の部位を形成する遺伝コードの一部ってさ。元々、僕のものなんだよね」

 

『ナ、ニ?』

 

「量子転写技術が進展した時、唯一神ギュレン・ユークリッド……今はそう名乗る彼にあげたんだ。親友の遺伝コードを弄って僕のを足した()()()をね」

 

『―――まさか、量子転写領域へのアクセス原理は―――』

 

「僕の能力の1つさ。この宇宙じゃ、僕はお客様だから、殆ど力とかないけど」

 

『……ふ、ふふ、ははははは……()()()の能力をこの場で自由に使用出来れば、あの男を消せるかと思っていたが……そうか……あの男が未だに正式な肉体を持たないのは―――』

 

「彼は知ってたのさ。この遺伝コードを本当に使い切る事が出来るのは、用いる事が出来るのは、一人だけだって」

 

『時間が前後している……いや、そうか……時空間の連なりはお前達には――ゴッボッ?!?』

 

 ビチャビチャと吐血した蜥蜴の青年の背中を全裸の幼女が後ろから摩る。

 

「僕はいつでも友達だったさ。彼とはね。何せ彼は初めてこの宇宙の終わりを観測した終焉観測者(ラスト・オブザーバー)だ……そして、二番目の観測者があの男だった」

 

『……現実改変能力を持つオブジェクトには例外なく干渉者と観測者の影があった……こいつもその1つ……どうしてあの高々コピーの傍にコレと同じ姿があるかと思えば……ふ、くくく……逆だったのか……』

 

「そう、彼の傍にいるから、君の傍にもいた。因果律的に正しいのはそっちだ。それが彼に関わって、彼を利用しようとした者の末路……『財団が困らないようになれば』……君には最初からそういう道しか待って無い。残念だけど」

 

『……ふ、無様だな……』

 

「此処はこの宇宙における一丁目一番地。そして、彼が最後の彼である事も疑いない。けれど、()()()()()において観測者になった彼は望んだ……だから、此処は()()なんだ。この宇宙には1つだけ真実ではない出来事が混じってるけれど、それはこの宇宙の誰にも観測出来ない嘘に過ぎない」

 

『この身は道化か……』

 

「蜥蜴はこの星においては主役じゃない。僕の友達にも君と同じような種族を持ってる人がいるけど、()()()()その人種も人に化けて暮らしてるって言ってたよ」

 

『何を間違えた……何を……あの男の力だと言うなら、何を……』

 

「彼は安易に大きな力は使わなかった。それこそ大げさな力で宇宙を積み木崩しにだって出来るのに……秩序と繁栄を……ただ、誰かの為に己の我儘と嘯いた……」

 

『それは傲慢だろう……はぁ……はぁ……』

 

「ああ、だからだよ。最後まで宇宙を救えなかったから、彼は傲慢にも()()を始めたんだ……この宇宙にゲームのリセットを掛けたがる連中は幾らでもいる。だけど、ゲームが終わってから始めようとした者は一人もいなかった……」

 

『……そう……か……』

 

「僕らの階梯へ久しぶりに上がれる男だ……神に成れる者はこの世に幾らでもいる。だけど、僕らと同じ……()()()()()()()()()は多くの宇宙において存在しない……月面下の唯一神と名乗るあの男もいつかは僕らの階梯に辿り着く可能性を秘めている。だから、この宇宙における特異点は2つだけ。3つめは用意されてないんだよ……」

 

『……()()()はオレにとっての……』

 

「気付くのが遅過ぎたね。その子は財団が特異点への干渉に使えるはずだった子を模して作成した代物だ……その力は特異点になる為のものじゃなく、本来は―――」

 

 蛸の邪神が不意に顔を上げた。

 

 世界にゴウンと巨大な鐘が打ち鳴らされたような音色が響く。

 

「ああ、どうやら時間切れだ……その子は回収させてもらう。彼らとの最後の契約だ。宇宙の創生と終焉、観測者を観測する為の器……現実改変は常に起こっている……この宇宙が望む均衡と再生を司る二つの特異点……彼らを導く為に……」

 

『鶏が先か卵が先か……か……』

 

「ほんの些細な事さ。彼がもしも、あの家で眠らなかったら、彼がもしも原発へのテロで肉体を汚染されなかったら、彼の両親がもしも研究者じゃなかったら、彼がもしもあの娘達に出会わなければ……そういう小さな積み重ねに過ぎない」

 

『くくくくくくくくく……』

 

「この子のオリジナルは好きに生きて死ぬ事が出来た。だから、財団はこの子を発生させざるを得なかった。いや、発生させなければならなかった。それが運命である以上、避けられない出来事だっただろう。何んせ、財団は“困らなくなった”んだから。そして、今また彼の傍にはこの子達がいる」

 

『はははは……ははははははは―――』

 

「“財団が困らなくなった結果”として、この子達は彼の運命に組み込まれ……君はその遺伝コードのおかげで恩恵に預かった」

 

『祈れとでも言うのか。大いなる神よ』

 

「見ているといい。君にはその資格がある。立派に条件を満たしている以上はシステムの庇護圏内だ。“神の瞳”は全てを観測する……」

 

 今までロート・フランコの背を摩っていた少女はゆっくりとその姿を薄れさせていく。

 

 それと同時にまた蜥蜴の革命者も自らのマスクが落ちるのを感じた。

 

「あの芋虫君と同じだ。君もまた彼ではないが、彼に肉薄する。だが、魔法使いの使い方を誤った……此処は人類種側の少数を残して大人しく滅亡しておくといい。いつか何処かでまた再生される事もあるだろう」

 

 人種の違いはあれど。

 それでも人の顔に近しい。

 男の顔は何処か月面下の魔王に似ていた。

 

『我々の肉体はどうなる……』

 

「人類が戦うべき、真に必要とする敵となる。それだけだよ……リバイバル・ハザードは至高天のエラーが原因だ。でも、それがもし“求められていた仕様”とするなら、エラーとは言えないと思わないかな?」

 

『ッ―――そうか、我々《オブジェクト》とは―――』

 

「人類には共通の目的が必要なんだよ。それが敵か。世界を滅ぼすモノの管理か。そんなのは些細な違いにしか過ぎない」

 

『我々もまたあの蘇りモドキ達と一緒……だった……のだ……な………』

 

「至高天は深雲によってあらゆる宇宙と時間に繋がっている。無限にも思える数だけど、宇宙と同程度の実数と実態を持った有限のネットワークに過ぎない……」

 

『踊らされた人形に今更、何を語る……』

 

「言っただろう? 求められた仕様なんだ。でも、それを求めた人間なんていない。合理的な理由が統合されてルールに書き込まれたら、偶々そうなっただけさ。あの唯一神は何も具体的な中身なんて見なくても理解していたよ。人知が及ばないところに蔓延る因果は結局、()()()()()()なんだと」

 

『―――クソったれ……オレが抵抗しようとしていたのは……くく、くくく……』

 

「主人公になれなかった男の子……ロート・フランコ……もう眠るといい」

 

『……こい……つを……』

 

「二つの特異点を観測する二つの器……この子もまた君と同じ影……それがあの子の片方の身体と1つになるだけだ。だから、心配しなくてもいいよ……オヤスミ」

 

『………………』

 

「―――フランコ……」

 

「さぁ、始めるといい。君の戦いを……それは君自身の選択だ」

 

 2人の姿が消えた後。

 

 薄暗く星が瞬くかのような広い広い世界の中心で邪神はチラリと空を見上げた。

 

 まるで観測者達を観測するかのように。

 

「あ、また肉体が!? ど、どどど、どうしよう!? また、淫猥な儀式が!? ぅぅ、僕の触手ってそんな風に使う用じゃないから!? 早く帰らないと僕の貞操がピンチだよ!?」

 

 邪神が一点して自分の貞操を気にしてか、一気に姿が闇の奥へフェードアウトしていく。

 

 残った空間には誰も―――いや、一人いた。

 2人の会話を聞いてしまったのは桃色髪の少女だ。

 

 今現在1000人以上に分裂している彼女ガルン・アニスにも人前に出たくない人格というものが存在している。

 

 それは言わば、“日陰者ガルン”と言える。

 

 同志達が少年の為に現実でえっちらおっちら働いている間も深層意識部で異常が無いかと見て回る役目を負った彼女であるが、何か凄いモノを見てしまった影響か。

 

 プルプル、訳が分からない情報を見付けて、頭から湯気を上げていた。

 

 しかし、そうしてもいられない。

 彼女の情報はガルン・アニス本体に反映されるのだ。

 

 なので、彼女は消えていった蜥蜴の王と横の少女の冥福を祈りつつ。

 

 すぐ意識の奥底へと融けていった。


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