ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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間章「真説~鳴かぬもの~」

 

 

 もしも、哀しい事があったら、人は世界に何を願うだろう。

 渇いた風の先に見えるのが荒涼とした日々ならば。

 人間は言う程に強く成れるだろうか。

 擦れ違い。

 探し惑う。

 それが人の性ならば、恋も風と同じ。

 流れ過ぎ去りゆくものに過ぎないのかもしれない。

 始めて生まれた感情は何処へ行ったのか。

 起ち尽くして会えるまで手を伸ばせば、届くだろうか。

 融けていく時代。

 終わりが来る日。

 遥かな旅路は終末の先で无へと消えていく。

 

「―――告げる。彼を私の下に……」

 

 人形が幾多。

 伽藍堂に立ち尽くす。

 仮面は個性を消すべき者達へ与えた力。

 巨大な天涯の下。

 多くが闇に消えていく

 残ったのは一人。

 髪の長い老女。

 

「バーバヤーガ」

「此処にございます。お嬢様」

 

「機能の7割を開放。彼を必ず連れて来なさい。首から上が残っていれば構いません。あらゆる手段を許可します」

 

「……お嬢様」

「何ですか?」

「もうお止めになりませんか?」

「それは抗命ですか?」

 

「この数万年、お顔から笑みが消えてございます。あれらもまたお嬢様が求めて来た者では……」

 

「いいえ、アレはあの個体は特別なの……月に到達する程の叡智、確かめる為に撃ち込ませたアレも防ぎ切ってみせた……そして、何よりもこの宇宙の終わりにようやく間に合った……全ての時間を繋ぐ最後の鍵……至高天へのアクセスを可能とする個体はこの星には今まで一体たりとも生まれて来なかった。けれども、それが可能になった個体は最終的に全ての人格の器と成り得る」

 

「全ての人格?」

 

「深雲、メンブレンファイル、世界の初期化を司るオブジェクト……全て単なるシステムにしか過ぎない。そのシステムを動かしているのは何だと思う? プログラム? 古のブラックボックス? いいえ、それもまた添え物にしか過ぎない。システムの根幹は全てが繋がった日からたった一つの意志にこそある。そして、電子名簿の序列第一位に刻まれた者。それこそが全てを司る権利を有した……彼はどのような世界、どのような時代、どのような宇宙であろうともシステムが存在しなければ生まれ得ず、システムが存在している限りは不滅……肉体の死は単なる個体としての記憶の終了しか意味しない」

 

「………そういう事でございますか」

 

「分かったのならお行きなさい。偽物なんかじゃない。彼を蘇らせるのよ」

 

「了解致しました。あの男の監視は如何致しましょう?」

 

「捨て置きなさい。権力欲に取り憑かれる程度の男……組織と成果を私から取り上げれば、己が上に立てるなんて考えている時点で芽は無い。この星がそんなにも欲しければ、共に滅亡すればいい」

 

 伽藍堂に畏まった姿が滲んで消えていく。

 指を弾けば、世界に新たな光が生まれる。

 それは世界を繋ぐ糸と糸が紡ぐ綾端取り。

 大宇は全て繋がりて、次の終わりと始まりへと向かう。

 やがて来る日。

 その先へ。

 

「もう少し……後もう少し……ギュレン・ユークリッド……お前に彼を渡しはしない……例え宇宙が滅びても―――その牢獄で朽ち果てるがいい。あの芋虫や蜥蜴と共に……」

 

 約束したのだから。

 それはきっとちっぽけな約束だろう。

 だが、全てを犠牲にしても果たすべき約束だ。

 


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