ごパン戦争[完結]+番外編[連載中]   作:Anacletus

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第311話「真説~水底の戦~」

 

 アイッ、ラッ、ビュー!!!

 轟音が響く。

 英語でロックな歌詞だ。

 

 だが、メタルバンドやデスバンドよりも幾分かグルービーかもしれない。

 

 必要なのはノリか。

 

 今や艦橋は海の男達がプロの仕事を音楽を耳に行う場となっていた。

 

 連絡などは全て網膜投影。

 発令されたコードは1つ。

 第一種厳戒態勢。

 戦闘の要有り、である。

 事実、衛星軌道上で大規模な熱源反応多数を確認。

 地球を覆うフィルム層に巨大な穴が開いた事を観測。

 

 その後、ステルスを用いて降下しているようであったが、光学観測までは誤魔化せず。

 

 予定落着水域は南部に集中していた。

 空からの来訪者。

 それも上から通達のあった元同国人。

 

 幾ら上層部が宇宙人を撃退せよ、なんて事を言っていたとしても、多くの司令部、司令官だって分かっていた。

 

 今から行われるのは内戦だと。

 アメリカの旗の下。

 今、二つの勢力が激突するのだ。

 相手は強固な宇宙艦。

 恐らく、もしもとなれば、ある程度の飛行も可能だろう。

 水空宇兼用の船。

 然して、地表の単邦国は水上水中の兼用艦だ。

 火力は核及び砲撃とミサイルとレーザーと荷電粒子兵装。

 撃ち合うとしても水中と水上の戦いになるだろう。

 海という盾を用いた三次元戦略。

 

 これは旧くからアメリカが委員会と戦う為に磨いて来たドクトリンだ。

 

 矛が常に先行する軍事の世界において。

 海以上の防壁は未だ存在しない。

 水中でガンガン音楽が垂れ流されているのもまた伝統だ。

 完全な水中での防音を行う装置が開発されて以降。

 彼らは死の恐怖を前にロックとパンクで抗った。

 

 それは半ば焼けっパチだった大戦中期辺りからの話だと船乗り達には伝わっている。

 

 死ぬ時は魚雷か機雷で一瞬の事なのだ。

 ダメージが入った瞬間に音楽が遮断される。

 

 逆に言えば、その音色が流れ続けている限り、彼らは勝ち続けている。

 

 生存し続けているという事に他ならない。

 

『艦長。予定海域に到着致しました』

『あちらからの通信は?』

『凡そ0010時に到着する予定だと』

『よろしい。接舷準備』

『アイサー』

 

 日本帝国連合。

 アメリカ単邦国。

 二つの共同体からなるJA。

 

 その第一艦隊は地球上へとわざわざ降りて来た元同胞との戦いを前にして南部海底に存在する幾つかの補給基地へと一列に入っていく。

 

 海底洞窟とも呼べる構造を持つ其処は大戦末期に彼らが整備し、未だに使い続けている太古の遺跡だ。

 

 あらゆる生産設備。

 製造設備が存在する。

 

 全て大戦終了の時期に出回っていた委員会の動力炉を確保したからこそ可能な芸当であったが、それにしても補給基地1つ1つが街の様相を呈しており、小規模ではあるが、人口統制を行わない形での自然繁殖を可能な区域であった。

 

 故に普通の家庭や普通の街並みというものが古式ゆかしく僅かながらも残っている。

 

 JAの軍人達の退役後の居留地としても機能しており、旧交を深める者もあるだろう。

 

 21世紀初頭の街並みを再現した半径500mの街並みの先には30隻以上の艦隊を整備補給するドックがあり、第一艦隊は最大の敵を前にして最後の休憩先に立ち寄ったのだ。

 

 艦から降りられる人間は現状では一握りだが、そこでは彼らこそが英雄だ。

 

 子供達や退役者達から敬礼される者。

 あるいは恋人や両親に会う者。

 その光景は街の一大イベントでもある。

 だが、不意に人々はまた気付くだろう。

 

 その背後から姿形も同様な衣服のみが違うナニカが数人歩いてくるのを。

 

 それに思わず恐ろし気な悲鳴を上げる婦人。

 咄嗟に後ろに伴侶や子供を庇う両親。

 

 しかし、それに軍人達が何かを言い掛けるより先に彼らの先頭を行く者が胸に手を当ててお辞儀した。

 

 JAとなってからの歴史において挨拶や慣習的な礼儀作法は何処も統一されている。

 

 それに呆気に取られている街の住人達だったが、小さな子供が同じように軽くお辞儀した事を見て、顔を見合わせながらも同じようにお辞儀する。

 

 軍人達が少しだけホッとした様子となり、そのナニカ達はそのまま街の奥にある司令部のある岩盤の上から下までを繋ぐビルの奥へと向かった。

 

 先程、最初にお辞儀した何かとその後ろに隠れるようにしていた顔に傷持つ少女が共に2人で更に奥へと続く通路へと入った。

 

 エレベーターによって地下へと向かう二人の後ろでは他の者が軍人達に連れられて、食堂へと去っていく。

 

 今日はもう昼食時。

 

 街の内壁はドーム状であり、空くらいは映し出せるというが、非常時には電力消費を抑える為に基本的には薄暗い夕闇か夜がデフォルトで設定されているらしい。

 

 多くの家の窓が基本的にはドームと同じ原理で造られている為、有人の室内で窓付きの場所は外を明るく出来るが、生憎と軍事施設はそれらを用いていない。

 

「うぅむ。僕は上手くやれていたかなぁ?」

 

「顔も形も同じなナニカを見せられて子供が泣かなかった方が驚きよ」

 

「彼らも生体的には我々と同じと聞いている。アップグレードされた分だけ外見も違うとなれば、大陸にもあの技術が是非導入されて欲しいな」

 

「大陸の人間の間じゃ意味ないわよ。エー君」

「意味は有るさ。主に大陸の外にいる人々と出会う時代になれば」

 

「それが来ればいいけど、今は人類全滅の方が現実。此処でどうにか流れを変えなければ、ロクでもない事になる……」

 

「シンウン。ぼかぁ信じるよ。大勢の人々を……そして、彼と彼の仲間達を……」

 

「………天海の階箸からの第一報。アレがあの男と思った理由は?」

 

「勘かな」

「エー君。一応は教授じゃなかった?」

 

「ははは♪ 教授だからこそ、今までの経験則から言って、彼くらいでなければ、あんな事はしないと思ったんだ。外れている可能性も高いが、案外こういう勘も馬鹿に出来ないぞ?」

 

「……取り敢えず、月が消失するわ。また津波に地震だわ。東部はまだまだ混乱が収束しそうもない。此処で宇宙の外から逃げ出した人類がやってきました~なんて、悪い冗談よ」

 

「だが、懸案だったサイトは無事なのだろう? 彼らの狙いが違うのならば、今はまだ単なる外からのお客さんで済ませられる」

 

「もしもとなれば、開放するわ。地球が太陽に向けて加速中なんて悪夢をどうこう出来るモノがあるとは思えないけど、宇宙人くらいはどうにかなる」

 

 彼ら二人が会話を終えて、ようやく街の中心である軍司令部の中枢へと至る。

 

 分厚い隔壁が開いた先には数人の士官達が座って待っていた。

 

「お待ちしていました。エービット教授。シンウン……どうぞお座り下さい」

 

「ありがとうございます。我々のような部外者を受け入れて頂いて」

 

「いえ、それ程までに異常事態という事ですので」

 

 2人が腰掛けるとさっそく手前の虚空に画像や映像が3D投影され始めた。

 

「さて、18時間前に宇宙からの降下部隊が大陸南部に降りたわけですが、我々JAは彼らがあの最初の大地震と津波、巨大な宇宙での耀き……超磁力線を用いた主犯だと確信しています。理由は彼らの持っているはずの技術がソレを無し得るものだと我が方の情報には残っているから、としておきましょうか」

 

 2人の前にはあの大地震と津波の前に観測された宇宙での莫大な磁力線による影響が星系に及ぼした異変が事細かに書き込まれていた。

 

「JAが我々にコンタクトを取って来たという事は我々の力が必要だという事と理解しているが、そもそも何故、我々なのかを知りたい。貴方達は大陸において影のフィクサーとして影響力を行使しては来たが、だからと言って大陸で大規模な戦力を行使出来るような環境には無いとこちらは考えていたのだが……」

 

「よく観察していらっしゃる。ええ、我が国は今現在においても大陸で大規模な軍事力を行使出来る状況ではありません。補給基地の幾つかはかなりの被害を受けており、その救援もありますし、本国もまた艦船の補修と軍備の最終的な整備に追われています」

 

「我々の力を借りたいとの申し出ですが、具体的には我々に何をさせたいのか。それをお伺いしたい」

 

「貴方達は“彼”の関係者だ。そして、我々の事も知っている。現実的に何処の国の管理下にもなく。純粋に多くの人々と祖国の為に陰ながら働く。そのような組織だと理解しています。それが海賊業だった事は些細な問題でしかありません。他のプリカッサー達の組織は何処も彼処も大勢が現状の回復と今回やらかした人々やこれからやらかしそうな人々への対処で手一杯。そんな中でポ連を使っていた鳴かぬ鳩会が動き出した。それも本拠地が活発化している……“彼女”の率いる組織と何度か接触し、関係を持とうとしましたが、あちらはまるでこちらの要請を無視。そして、今は宇宙から降下してきたアメリカの部隊と共に南部と大陸中央の中間点で何かをしている」

 

「何か?」

 

「天海の階箸が行う情報処理の通信を我々は何とか観測する事には成功しているのですが、その観測データから言って……南部の地点に向けて莫大な情報が流れ込んでいる。こちら側の監視網はあちらに全て封殺され、あらゆる観測機器がジャミングされている現状、現地に向かうしかありませんが、ポ連兵が何重にも一帯に陣を敷き、大戦末期に使われていたあらゆる地対空迎撃用兵器群が陣地に鉄壁の護りを与えている」

 

 映し出された画像の中には粗末とも言える軍服と装備に身を固めるポ連兵の陣地に巨大な砲塔やミサイルの発射用と思われる複数の車両が確認出来る。

 

 そればかりか。

 

 そういった陣地が何重にも続いている様子であり、これはさすがに突破不可能と思うのも無理からぬ話だろう。

 

「核砲弾とか色々あるでしょう。貴方達も」

 

 シンウンがそう言うと彼らの一人は首を横に振った。

 

「残念ながら、砲弾を打ち落とすシステムが存在します」

「どうにもならないと?」

 

 エービットの言葉に頷きが返る。

 

「我々の今現在保有する武装では話にもなりません。貴方達が保有するサイトに保管されているモノ以外は……」

 

「其処を突破して何が在るかもわからないのに世界を滅ぼすかもしれないものを使えって……そういう事?」

 

 シンウンに彼らが頷く。

 

「宙からの降下部隊は我らJAが対処に当たります」

「陣地の先で何をしているのか予想は付いているの?」

 

「恐らくは熱源反応から考えて、岩盤以下のマントルまでの掘削をしているか。もしくは……委員会が使っていた動力源を稼働させているか、そのどちらもか、と」

 

「動力源……大戦末期の委員会が使ってたって言うと。素粒子融合炉だったかしら?」

 

「ええ、空飛ぶ麺類教団に接収されたものは全てではありません。もし稼働させていた場合、オーバーロード時はこの星が消し飛ぶ事になるでしょう」

 

「過去の遺産が今の現在の我々を脅かす……か」

 

 エービットが目の前に出て来た動力炉の不完全な資料に目を細めた。

 

 それが一般的に使えたならば、それこそ一機で地球上の全ての電力を賄う事が出来るだろう。

 

 余りある出力を用いれば、様々な機械を永続的に動かし、生産力は恐らく今の数百倍以上とすら出来るかもしれない。

 

「我々が協力した場合の見返りはあるのだろうか?」

 

 その言葉を待っていたかのように資料が1つ開示された。

 

「前払いで我が方の“神の屍”の改造技術を機材込みで提供致します。また、陣地の突破が叶ったならば、我々が現在使用している動力源の設計図も」

 

「設計図か……我々に造れ……いや、造れるのか。あのプラントさえあれば」

 

 彼らが母艦であるシンウン。

 

 その製造プラントは浮上したとはいえ、大陸東部に未だ残っている。

 

 海域からの大津波によって一帯が浸水被害を受けたとはいえ、元々から陸地の浮上は未だ続いており、やがて津波が治まれば、水も掃けるだろう。

 

「あの規模の施設は幾らもありますが、あの施設の高度な設備と自動改修、自動修復装置までは存在していません。今では失われた技術も多く。現物で残っているのはこちらからしてみれば、羨ましい限りですよ」

 

 士官の一人が言うと資料にJA側の今現在の主力生産設備などの情報が出た。

 

「……分かった。引き受けよう。ちなみに戦力による護衛などは頼めるのかな?」

 

「一個戦隊の陸上戦力。護衛艦を3隻。我が方の補給基地での万全な補給をお約束しましょう」

 

「いいの? エー君」

 

「どうせ、この一件が上手く行かなければ、この世界は滅ぶだろう。彼が遺した幾つかのシナリオに沿うならば、だがね」

 

 シンウンが僅かに考え込んでから頷く。

 

「……分かった。サイトは全てが人類の永続の為にこそ財団が遺して来たもの。必要なオブジェクトのみに限って開放させてもらいます」

 

 その言葉にJA側の士官達も何処かホッとした様子だった。

 

 黒人も白人も黄色人種も一緒くたで女性も男性も入り混じる彼らの階級は佐官級も複数人いる。

 

 それを見れば、今回の一件にどれだけJAが本気か理解するのは容易い。

 

「では―――」

 

 協議の詰めを行おうとした時。

 周囲を揺れが襲った。

 それも自身というのは不規則に。

 

 次の瞬間には周囲の灯りが全て赤くなり、アラートが成り始める。

 

―――外縁部の防衛機構に損傷、損害設備3、発射音を探知……魚雷32発、迎撃が開始されました。迎撃が開始されました。市街地の民間人はシェルターへの避難を開始して下さい。これは演習ではありません。これは演習ではありません。

 

 動揺も一瞬の事。

 士官達とエービットが立ち上がる。

 

「ふむ。尾行されていたかな?」

 

 そのエービットの言葉に緩々とシンウンが横に首を振った。

 

「それなら入港した瞬間を狙うはず。恐らく当たりを付けた場所に撃ち込んでるだけ。もう迎撃してるみたいだから、やり過ごそうとしても遅いけど」

 

「皆さん。これから第一艦隊が迎撃に出ます。直衛として後から合流地点に4隻向かわせますので、そのままサイトに向かって下さい。我々は迎え撃った後、シェルターからの脱出した民間人の輸送任務に就きます。ご武運を」

 

 一人の士官を残して全員が出ていく。

 

 遺った相手に先導されながらエービット達が市街地に出た時にはもう避難民がタワーの奥へと車両で抜けていく最中だった。

 

 その間にも断続的な音が響いており、内壁が僅かに埃を落し始めていた。

 

「乘って下さい!!」

 

 屋根の無い軍用車に跨った三人が避難民達が向かうのとは逆にドックへの一本道へと向かうも、途中でドック付近の内壁に罅が入ったかと思えば、一部が決壊し、大量の海水が流入し始めた。

 

 直前でドック入り口にドリフト気味に付けた彼らが慌てて濁流に呑まれるより先に入口に入った瞬間、ガンゴンガシャリとシャッターと隔壁が降り。

 

 内部で主導操作していた兵士の一人が敬礼する。

 

「12番に案内してやってくれ」

「アイサー!!」

「小官はこれから迎撃に向かいます。ご武運を」

 

 2人に敬礼して去っていく背中は海の男か。

 彼らもまたMPらしき一般兵の誘導に従って駆け出す。

 その合間にも多数の振動が連続してドックにも響いていた。

 

 彼らの船が係留され、半分水に浸っていたドック内で次々に桟橋が解放される。

 

 それと同時にドックの一部に亀裂が入った。

 

 攻撃を受けた部位が水圧で次々に水圧カッターのように大量の水を迸らせる。

 

 今正に艦に乗り込もうとしていた一部の船員達が載った桟橋が押し流され、悲鳴と断末魔が響く。

 

 潰された同僚に一瞬だけ目をやった者達もいるが、次は我が身だと乗り込みは迅速に行われた。

 

 だが、流入して来た海水に桟橋の一部を直撃された刹那。

 部品が外れ、拉げた通路が僅かに脱落。

 

 シンウンが弾みで落ちそうになったのをエービットが引き上げ、そのまま担いで何とか斜めに崩れ落ちていく桟橋から船員達が何人か外に出て手とロープを伸ばす入口の下へと激突する。

 

 辛うじてロープを掴んだ手が引き上げられ、すぐに彼ら全員が入口から内部の通路へと転げるようにして入った。

 

 彼らがゼエゼエしている合間にも艦が次々に係留アームが外されるのに伴い。

 

 入って来た海水に乘って潜行し始める。

 

「はぁはぁはぁ……エー君。いつの間にそんな海の男になったの?」

「はは、数年前からだよ。知らなかったかな?」

 

 軽口を叩いた男が人生で一番肝を冷やしたと言いたげに安堵の息を吐いた後、未だ海水に塗れたシンウンを引っ張り起し、船員達に配置に付くように言って艦橋へと急いだ。

 

 ブリッジの扉が開けば、もう総員がオペレートを開始しており、出入り口まで30mと迫っている。

 

「出入り口まで距離26m。船長!! どうしますか?」

 

「見張られている可能性がある。音響魚雷装填3、発信5秒後から連続14秒、其々に三方向に48ノットで射出。ソナーはその間だけ切っておけ。米軍にも連絡」

 

 命令が復唱され、魚雷が即座に発射される。

 

 火薬の詰まっていないソレが射出され、高速で推進したかと思えば、ばらけて出鱈目な方向に逃げ出していく。

 

 ソナーなどで聞いている人間がいれば、一瞬で耳がぶっ壊れるだろう大音響。

 

 14秒が過ぎた刹那。

 エービットが全速前進を告げる。

 

 一斉に飛び出したシンウンが海底から抜けた時、三方向に向かった魚雷が全て何かに砕かれて爆音を響かせながら破砕された。

 

「全エンジンカット。このまま海流に乗って逃げるぞ。バブルの放出は?」

 

「放出量問題有りません」

 

「相手のピンガーが2度放たれるまでこのままだ。全艦、無音態勢」

 

「エー君。いつから船長になったの?」

「生憎と数年前からだ」

「ふふ……前はナヨナヨしたオジさんだったのに」

 

「君のおかげで今ではこうしてちょっとは筋肉と度胸が付いたオジさんになったがね」

 

「……あの子にも見せてあげたかったわ」

 

「今は内陸で親父と一緒だ。彼女の憎悪が和らいでいてくれる事を願うばかりだな」

 

「難しいとは思うけれど、ベラリオーネも気に掛けてる。家族の時間が少しでもあの子にとって安らぎであれば、そうなるかもしれないわね」

 

「それにしても沿岸部はまた壊滅。この一件が終わったら、本格的に祖国の復興計画を一から作成しなければ……まだまだ死ねないな」

 

「いっその事、あの話受けたら?」

「ぼかぁ為政者なんて柄じゃないさ」

 

「海賊が王になる……別に男の浪漫を追い求めても誰も文句なんか言わないわよ?」

 

「なら、まずは生き残り、仕事を終わらせる事にしよう」

「ええ」

 

 彼らが海底を後にしても、その背後では爆音が延々と響いていた。

 どちらがどちらの撃破した音なのか。

 

 それが分からない以上、出来る事など祈ることしかない事を誰もが知っている。

 

 だからこそ、彼ら海賊の仕事は迅速を極める事になるだろう。

 目標は南部のポ連陣地。

 

 その場所へと使われるオブジェクトが眠るサイトへと船は細心の注意を払いながら進み始めたのだった。


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