ごパン戦争[完結]+番外編[連載中] 作:Anacletus
人類最速で日本からニューヨークのマンハッタンに移動してしまったファースト・クリエイターズのフニャムさんが自分達の行動より先に片が付いてしまった悪霊達の件に目を丸くするでもなく。
淡々と相手の位置情報を追跡したのは傍から見れば、完全に怒っているように見えた事だろう。
ニューヨーク一高いビルの縁に腰掛けた黒い姿の少年はいつかの東京で世界を見ていた時と同じように後ろ姿を晒していた。
「お早いお付きだな」
「……言い訳は?」
「えぇっと……ちょっと、あいつらの未来にちょっかい出しに行ってた」
「あいつら? まさか、あの未来組の?」
「うん。まぁ」
横に座り込んで顔を覗き込んだ少年が肩を竦めるのを見て彼女は溜息を吐く。
「どうやって行ったのよ。そもそも別世界に意識は飛んでたでしょ」
「いや、オレ以外の確定者が同時に時間移動してる状態ならオレが確定してない時間でも其処はあいつらの未来のままなんだよ。で、オレの躰が勝手にあっちへ連れてかれて、そこで意識が戻ったわけだ」
「一体、誰がそんな事したって言うの?」
「神様気取りの予言機械に色々と仕事を頼まれてたんだ」
「……それで数か月も行方不明だったと?」
「本当は事件直後に戻る予定だったんだが、ほとぼりが冷めるまで待った方がいいかなぁと」
「ほとぼりって何?」
「国語の辞書でも引くか?」
「―――後悔してるの?」
「何をだ?」
「また、そうやって誤魔化して!!」
「そんな怒るなって。フニャムさんは猫耳属性のニャー語尾が似合う笑顔な美少女だろ?」
「……後悔、してない?」
ウルッとした少女に慌てて少年は首を振る。
「してないしてない。誓って!!」
「じゃあ、どうして帰って来なかったのよ?」
「色々と準備してた……その上で聞くぞ? お前、この世界を捨てられるか?」
「ッ」
「これはすぐに答えなくていい。まだ、数日はこの時間にいるからな」
「……帰るのね」
「ああ」
「お嫁さん達が大事だものね」
「ああ」
「あの二人は連れていくの?」
「今、情報を送った。自分が死んでたり、二人になる世界に行くか。それともこの世界に残るか。自由にするだろうさ」
「……まだ、いるのよね?」
「ああ、家族に会わなきゃならないし、やる事もある」
「分かった……じゃあ、その時になったら言うわ」
「了解した。じゃあ、オレ達の戦争も終わった事だし、後は人類に任せて、こっちは世界の真実とやらへ会いに行こうか」
「世界の真実?」
「知らなくてもいい事ってやつだ」
「……一人で行く気じゃなかったの?」
「それでも良かったが、お前に出来るだけ考える材料を与える必要があると思ったんだ。自分で真実を見てから決めるといい」
「……分かった。付いてく、でいいのよね?」
「オレもそうじゃないと困る。というか、今の状況だとお前の空間転移でしか簡単に行けない場所だからな」
「何処に行くの?」
「中心だ」
「中心?」
「ああ、この世界の中心……オレが合理的に予測した結果。そこに全ての真実がある……別に知らなくてもいい人類の秘密ってやつがな」
「それって何処よ? 世界の中心って具体的じゃないわ……」
「オレ達がいる惑星の名は?」
「地球……」
「じゃあ、決まったな。行くところは中心だと言ったろ? 座標はオレがナビゲートする。今から国営放送のアニマル番組も真っ青なCG無しの地球旅行と洒落込もう」
「ッ」
少女の驚きに片を竦めながら、少年はチョイチョイとビルの下を指差す。
転移座標。
地球中心部。
惑星の核内部に飛び込む完全無欠の自殺行為を示唆されて、彼女はやはりもう笑うしかないという顔で呆れるしかなかった。